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新たなる旅立ち ②

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夜の山道を走り、俺は懐かしい我が家に向かう。俺がここに来た時と同じように黒塗りのハイヤーに乗って。

全行程たった10日間なのに早く自分の家に帰りたくてたまらなかった。
正確に言うなら、早くみんなに会いたいという気持ちが、俺をじりじりと焦らせている。
この時間なら、ヴァンパイアポリスにみんないるはずだ。
ハイヤーは法廷速度を守ってのんびり走っているのが、もどかしい、、、。

山道を抜けると、郊外型のショッピングモールの灯りが見え始める。時間は20時、、、。
昼の時間帯ほどの混雑はないが駐車場には買い物に来た人の姿が見える。

ハイヤーは、俺も迎えに来た時より時間をかけて俺を懐かしい恵和荘まで運んだ。
俺は急いで、部屋に戻る。まずはハビブさん一家に定義山名物油揚げを持ってご挨拶に、、。あれ?珍しくハビブさんの家の明かりが消えている。
仕方なく俺は合鍵で家に入った。

とりあえず。部屋の中に持って行ったバッグを部屋に投げ、お土産の油揚げを冷蔵庫に入れる。
政宗守を押し入れにしまって。俺は部屋を飛び出した。
向かう先は、もちろんヴァンパイアポリス!

べスパを引っ張り出し、ヴァンパイアポリスへ急ぐ。
たった10日間なのに、懐かしい。駐輪場にバイクを止め正面玄関から中にはいる。

「あら。本田さん。お久しぶりです。」
受付の若い婦警さんが、俺に声を掛けて来た。

「お久しぶりです。明日から復帰しますので、またよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね。今日はどちらに?」

「明日から復帰するので、今日はご挨拶に、、、。」

「あら、それは残念ね。今日は全員出払ってるわよ。」

「ええええええ、マジっすか。ああ、それじゃ半沢主任にご挨拶だけしてきますよ。」
受付の彼女が、困ったような笑顔で半沢主任も不在だと告げた。
誰もいないヴァンパイアポリスに用はなかった。仕方なくアパートに戻ることも考えたが、俺の頭の中は「誰かに会いたい!」でいっぱいになっている。


俺は刑部家に向かった。高梨さんの淹れた美味しいコーヒーでも飲みながらアヤメの帰宅を待てばいい。
俺は刑部家に向かった。インターフォンを押す。応答がない、、、。
俺は何度もインターフォンのボタンを押した。ボタンを何度押しても応答がない。

こんな事って、、、。

あそこなら誰かいるはずだ、、、。俺はベスパを刑部家の駐輪場に置いて歩いてあそこに向かう。

いない、、、。そんな、、、。スマ眷の明かりが消えている。こんなことは今まで一度もなかった。
なんで今日なんだよ、、、。

ハビブさん家族。ヴァンパイアポリスの仲間、高梨さん。スマ眷のみんな、、、。

世界の中で独りぼっちになった気分、、。

ここでアパートに帰る気にはなれなかった。でも、行くあてはもうない、、、。
人気のないゴールデン商店街をふらふらと歩く、TIMEでコーヒでも飲んで帰るか、、、。
TIMEに入り「濃い」コーヒーを頼む。周りの席はサラリーマンやカップルの楽しい会話が溢れていた。ここにいても仕方ないか、、、。俺は急いでコーヒーを飲み干した。いつもは美味しいコーヒなのに、今日は苦い味しかしない。TIMEを出て家路を急ぐ。

ゴールデン商店街を出て道路を歩いていると、道の先に真っ白い大きな犬が現れた。
「犬?こんなところに?飼い主はどうしたんだろう。」
白い犬は、俺をじっと見ている。
きれいな犬だし、どこかの飼い犬だろう。道路をうろついていたら車に轢かれるかもしれない。
保健所に通報されるかも、、、。
俺は白い犬が気になって近づいて行った。

白い犬は、やっぱり飼い犬らしい。俺に頭を撫でられても、吠えたり威嚇したりしなかった。
首輪がない。
「お前どこかの飼い犬だよな、こんなに、おりこうさんだもんな。女の子だね、可愛らしい顔してるるよな、お前。」

白い犬は、ひょいと頭を上げるとスタスタと歩きだす。
5・6歩進んだところで犬がこっちを振り返る。俺が犬について行くとまた歩きはじめる。犬は俺がついてきているのを確認しながら進んでいる。俺をどこかに連れて行こうとしてるのか?
どうせ暇だし、ついて行ってみるか。俺は犬の案内で夜道を進む。

白い犬に連れられてたどり着いた先は、刑部家だった、、、。

「えっ?なんで?」

さっき、あれほど押してもダメだったインターフォンのボタンを押す。
白い犬は俺の足元に良い子で座っている。

「はい。どちら様ですか?」

高梨さんだ!!!
「あ、俺です。一宇です。」

「今開けますから、お入りください。応接間でお待ちしてますよ。」
涙が出るほど嬉しかった。

俺は門のオートロックが開くのを待って急いで中に入る。白い犬も俺と一緒に中に入って来た。
まぁ、仕方ないか、、、。高梨さんに事情を説明すれば問題ないだろう。

応接室って言ってたな、俺は廊下を抜けて応接室にいそぐ。

応接室のドアを開ける、、、。あれ真っ暗?食堂の間違いだったかな??

「せーのっ。」

「一宇。お帰りーーーっ!」

(!!!!!!!)
応接室の電気がつく、中には今日俺が会いに行ってフラれた人たち全ての顔があった!

ハビブ一家、ヴァンパイアポリスの面々、スマ眷のみんな、、、。敦やキヨさんも遊びに来てくれたらしい。
そして、もちろんアヤメの顔も、、、。

俺は嬉しくて泣きそうだった。でも、俺に飛びついてきた類の涙とケンタロウのヨダレで俺はすぐにぐちゃぐちゃにされる。

「ただいま。」
俺はやっとのことでそれだけ言ったが、胸がいっぱいで後が続かなかった。

「お前もグルだったんだな。」
俺は白い犬の頭を撫でる。
「その子は、ハルカちゃんですよ。彼女も一宇君にお礼がいいたい言ってたんですけど、残念ながら今日は満月ですから。」

宗助所長が近寄ってきてそう言った。
「ありがとな。ハルカちゃん。」

「今日の会は、アヤメの案で開催されたんですよ。一宇の事だから早くみんなに会いたいだろうって言ってね。自分も早く一宇君に会いたかったでしょうに、、、。さっき一宇君がここに来たときはみんな焦りましたよ。」

「俺、スマ眷にも行ったんですよ。スマ眷ってお休みがあったんだってがっかりしました。」

「いいえ、スマ眷はヴァンパイアと眷属を繋ぐために年中無休ですよ。今日は守人様のご帰還ですから特別です。」
彼は小声でそう言った。当然、彼には賢人衆から連絡が来ていたようだ。

宴は深夜遅くまで続いた。高梨さんは人間のゲストの為に料理の腕を思う存分振るっていた。
お客が一人また一人帰って行く。彼らとの新しい日常が明日からまた始まる。

俺は高梨さんを手伝ってかたずけを済ませる。アヤメも洗い物をしている。

片付けが済むと高梨さんは早々に食堂を後にした。
アヤメと二人食堂に残った俺は何から話したらいいのか、、胸と頭がいっぱいで考えがまとまらない。

「お帰り、一宇。」

「ただいま、アヤメ。」

夜明けまではまだ時間がある。俺はアヤメに守人試験のこと、あっちで知り合った人たちの事を最初から話し始めた。



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