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1巻

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  プロローグ


 なんだこれ……
 俺は自分の視界に映るものに、違和感を覚えた。
 確かに、それは自分の手なのだろう……
 開こうと思えば……まぁ、かなり億劫おっくうではあったが開くことが出来、にぎろうと思えば力を抜いただけで勝手に握られる。
 俺の思いのままに動く、間違いなく自分の手だ。
 しかし……今見ているその手は、俺の記憶の中にあるものよりもずっとプニプニしていた……
 俺の手は、確かに肉こそ付いて丸々としていたが、こんなプニプニした手では断じてない……
 これじゃあまるで、赤ん坊の手のようじゃないか……
 しかも、異様に視界がぼやけて見える。
 手元ならギリなんとか見えるが、すこし遠くなるだけでぼやぼやだ。
 PCパソコン作業が多くなる所為せいで目は良い方とはいえないが、ここまで悪くなった覚えはない。
 体も思うように動かすことが出来ない……
 運動不足なのは認めるが、まるでなまりかたまりを体中にくくり付けられた気分だ……

『あら? ロディ、起きてしまったのね……』

 なんだ?
 近くから若い女の声が聞こえたかと思ったら、俺の視点が急上昇を始めた。 
 と、突然視界いっぱいに女の顔が現れた。
 おいおい……
 これでも俺の身長は一八〇センチメートル以上あるんだぞ?
 しかも、ここのところの不摂生ふせっせいたたって中年太りとのダブルパンチで腹周りはヤバァイことに……
 完全メタボ街道に突入中の俺は、先日体重が晴れて一四〇キログラムの大台に乗ったばかりだ。
 そんな俺をこの金髪女は軽々と持ち上げて見せたのだ。
 この女、身長何メートルあるんだよ? 
 って……金髪? パツキン? ガイジンか? いや、いくら外人がデカイといってもコレはないだろう。
 視界がぼやけてはっきりとは見えないが、確かにそこにいるのは金髪の女だ……
 少なくとも、日本人じゃない。さっき女が発していた言葉(?)らしきものも日本語じゃなかったのは間違いない。
 英語、フランス語、中国語……どれとも違う……
 海外出張の多い俺が言うのだから、間違いない。いて、ニュアンス的に近いものがあるとすれば……ドイツ語だろうか?
 ドイツには行ったことないけどなっ! なんとなくだ……
 それにしても、この状況はなんだ? もしかして……これはアレか?
 目の前の巨人・女は宇宙人で、俺はUFOか何かにアブダクションされて、キャトルミューティレーションされようとしているのか?
 この先、血液とか全部抜かれて、目玉とか性器とかえぐり取られて牧場に捨てられるのか?
 そう考えたら、なんだか急に悲しくなってきた。泣きそうだな……と、思った時には涙が溢れていた。

「うぎゃー! うぎゃー! うぎゃー!」

『あらあら。どうしたのロディ? お腹が空いたのかしら? それともオシメ?』

 巨人・女はさっきから何か言っているようだが、さっぱり分からん!
 日本語を話せ! 日本語を!
 あっ……UFOがもう既に宇宙空間まで移動しているとすると、日本語を話さなきゃいけない筋はないのか……困った。
 ……さっきからなんだか、感情と思考がちぐはぐで変な気分だ。
 本来なら、こんな訳の分からない状況、もっと慌てるものなのだろうが、思考はやけにクールなままだ。
 恐怖心だってない……反面、少しでも〝悲しい〟と思ったら涙が溢れてきた……
 今の自分には、〝感情〟と〝感情をコントロールする術〟というものがうまく機能していないように思えた。
 そういう薬でも、この巨人に飲まされたのかもしれないな……
 まぁ、恐怖心がないのはいいことだ。
 穏やかな気持ちのまま死ぬことが出来る……って、それは流石さすがに嫌だな……どういう理由にしたって死にたくはない。

『あら? もう泣き止んだわ。ただのおむずかしら? は~い、よしよし、良い子ですね~』

 巨人・女はまたぞろ何やら言っていたが、俺にその言葉の意味が分かることもなく、巨人・女は俺を軽々と抱えたまま、軽く上下に揺すり出した。
 これじゃまるで赤ん坊をあやしているようじゃないか……四〇代に片足突っ込んでるおっさんとっ捕まえて赤ちゃんプレイとな?
 宇宙人の考えることはよく分からんな……ちなみにだが、俺にそんな趣味はない。ホントだぞ? 
 …………
 …………
 本当はちょっと、興味はある……でも、ちょっとだけだからなっ! コレはホントだからなっ!
 って、俺は一体誰に言い訳しているんだ? まぁ、いいか……
 とにかく、何で俺はこんな状況になっているのか考えようじゃないか。
 思い出せぇ~……思い出せぇ~……俺っ! 俺はこんなことになる前は何をしていた?
 えっと……確か……
 そうだ……俺は会社にいたはずだ……会社の自分のデスクに座っていた……はずだ。
 あっ、なんだか色々思い出してきたぞ! あの夜、俺は確か…… 


 だぁ~!
 クライアントってのは、なんでこういつも無理ばっかりを言うのか……
 俺はキーボードに走らせていた指を止めて、デスクの上の時計を見た……午前一時少し過ぎ。
 しかし、帰れる予定なし。終電逃がして電車なし。
 社泊三日目が決定だ……いや、〝眠れる〟ならまだいい方か……
 この業界に入った時、先輩たちから〝この世界は理不尽しかない〟とは言われていたが、まったくもってその通りだ。
 ウチみたいな弱小企業だとクライアントの言うことは絶対だ。納品した機械に不具合が出たからと、調整のために海外へ飛ばされることだって少なくないのだ。
 だからといって、孫受けを馬車馬の如く働かせていい理由にはならんだろ!
 特に今回のことはウチにはまったく非がないはずなのに、全ての割をウチが……というか、俺が喰っている。
 誰かのミスで本来あるべき連絡がなかった所為で、今俺がこんな目に遭っていると思うと、その見知らぬ誰かに苛立ちを通り過ぎて殺意さえ湧いてくる。
 俺は世間一般にSE、システムエンジニアと呼ばれる職にいている。機械を動かすためのシステムを構築したり、スマホのアプリのプログラムを組んだりするあれだ。
 俺が主に手がけているのは、工業用の機械のプログラムだ。
 正確には、生産工場で動いているような大型の産業機械の動作を制御するプログラムを作っている。
 ブラックだブラックだと思っているにもかかわらず、入社してはや十数年……
 現に今も、昨日言われて明日が期日の案件にこうしてサービス残業をフルに駆使して取り掛かっている訳だが……終わりが見えない。
 俺は一度体をほぐすように大きく伸びをした。かすむ目をこすり、目頭めがしらを軽く揉む。
 PC作業は腰と目にクルからな……
 いくら我が社がブラックだとは言っても、この会社の勤務状況は特に異常だった。
 全員、一人で抱えられる案件の数を軽く超えていたのだ。お陰で俺は、休日を会社で働くことですごし、溜まっていた有給を会社で働くことで消化した。
 最後にまともな休日を過したのは何年前だったか……
 そんな感慨にふけるのは、この会社で俺だけではない筈だ。そのうち、死人が出るぞ? と、冗談でなく思う。
 眠気覚ましに、コーヒーでも飲むか。
 そう思い、椅子から立ち上がった時……
 クラッ――
 一瞬、世界がゆがんで見えた。
 運動不足に不摂生、偏食・外食と体に良いことは何もしてなかったからな……
 しかも年も年だ。いつまでも、若い頃のような無理は利かない。
 最近は中年太りの所為か、腹が異様にぽっこりしてきたし……
 そういえば、この間の健康診断で体重を落とせと医師に言われたんだった。でないと、いつ体調不良を起こして倒れても知らんぞ、と脅されたことを思い出す。
 しかし……
  流石にまずいな……と、そんなことを考えていたら、何故か視界に床が見えた。
 しかも、ほおが非常に痛い……
  眩暈めまいの時に倒れて強打したらしい。しかも、一瞬だが意識も失っていたようだ。
 自分が倒れたことに気づいていないのが、その証明と言えた。
 本格的にまずいな……
 そんなことを考えながら体を起こそうとするが、手足が思うように動かなかった……
 それだけじゃない。
 急に息苦しさと、胸を締め付けるような痛みが襲ってきたのだ。
 どうなってんだよ!?
 俺はなかばパニックにおちいっていた。もがき、何度も立ち上がろうとするが、自分の体ではないかの如く思うように動かず、何度も転んだ。
 必死に助けを呼ぼうと声を出そうとするが、ヒューヒューと空気が抜けるような異様な音がするだけ。
 更にまずいことに、今は社内に誰もいない。俺一人だけだ。
 そりゃそうだ。こんな時間まで会社にいるような奴はそうはいない。最後まで残っていた同僚だって、日付が変わる前には帰った。
 誰かが来るとすれば、それは出社時間の八時付近……今から約七時間後だ……
 もう、助からないだろうな……というのは、なんとなく分かった。
 俺は、息苦しさと心臓を鷲掴わしづかみにされたような痛みの中、次第に動けなくなり、呼吸も出来なくなっていった……そして、静かに意識をなくし……二度と目覚めることはなかった。
 ただ……
 黒く塗りつぶされていく意識の中で、何か小さく光る星……の、ようなものを見た気がした……
  
 享年三八歳。独身。
 死因・過労と不摂生による急性心不全。
 こうして、俺の中途半端な人生は幕を閉じたのだった。
 そう……俺はこの時、確かに死んだ……はずだった……




  一話 転生ライフ始めました


「ロディ! ご飯の準備が出来たから起きてきなさぁ~い!」
「分かってる! すぐ行くからっ!」

 俺は手早く朝の準備を終えると、自分の部屋を出てダイニングへと向かった。

「かーさん、とーさん、おはよ」
「ああ」
「はい、おはよう」
「レティにアーリーもおはよ」
「「はよ~」」

 俺は、まず親父とお袋に朝の挨拶あいさつをして、食卓に座っていた二歳年下のかわいい双子の妹たちの頭をでながら、所定の位置へと腰を下ろした。

「今日は、朝からずいぶんと豪華だね」

 この日の朝食は、少し大きめの小麦のパン――いつもは大体ライ麦なんだけど――と、野菜の種類の多いサラダ、それに目玉焼きとソーセージというラインナップだった。
 日本なら大して珍しくもない組み合わせだが、ここアストリアス王国の、それも辺境に位置しているスレーベン領の更に端っこにある、我らがラッセ村ではそうはいかない。
 小麦は我が村の主力商品であり、売ることはあっても自分たちで食べることはまずないのだ。かく言う我が家だって小麦農家だが、自分たちで作った小麦は全て売っていた。
 卵だって貴重品だし、ソーセージなんて妹たちがヨダレをダラダラ流しながら〝待て〟を喰らった犬みたいにじっと凝視しているところから、その希少さをうかがい知ることが出来る。

「ロディ? もしかして貴方、今日が何の日か忘れているんじゃないでしょうね?」
「何か特別な日だったっけ?」

 キッチンから、ヤムという牛にチョー似てる生き物のミルクの入ったつぼを持って来たお袋が、呆れた顔で俺のことを見た。

「呆れた……今日は貴方が〝聖王教せいおうきょう学校〟に通い始める日でしょ? 自分のことなんだから、ちゃんと覚えておかなくちゃダメよ?」

 お袋は、手にした壺から木製のコップにミルクを移して、皆に配る。配り終えたところで、俺に〝メッ!〟とおしかりの視線を向けた。

「別に忘れてた訳じゃないけど……たかだか学校に行くようになるってだけでしょ? そんなに特別なことなの?」

 そう、今日は所謂いわゆる〝入学式〟なのだ。
 数えで七歳を迎えた村の子どもは、皆聖王教学校へと通うようになる。
 別に義務ではないが、教会がボランティア的に無償で子どもたちの面倒を見てくれるというので、普通、余程の理由がない限り皆通っている。
 この聖王教学校は、日本的に言えば学校というより寺子屋に近い代物だろう。
 村に一つしかない教会で、神父様とシスターが子どもたちに読み・書き・ソロバン――はこの世界にはないから算術と言おう――と聖教学、そして〝魔法〟を教えているのだ。そこへ、今日から俺は通い始めることになっていた。
 そう! 魔法だ! 魔法なのであるっ!
 あのファンタジーの代名詞〝魔法〟がこの世界には実在しているのだっ!
 お袋も親父も、ライターとかマッチ感覚で火の魔法をよく使っている。しかし子どもは、危ないから、という理由で、聖王教学校に通うまでは使用はおろか教わることすら禁じられていた。
 正直、俺は学校などに通う必要はまったくないのだが、この〝魔法〟の授業にだけは密かに心を躍らせていたりする。

「ロディフィス、人は生きていく上で多くの〝とうげ〟を越えていかねばならない。七年というのはその一つ目の〝峠〟だ。今でこそ少なくなったが、昔は子どもが七歳を迎える前に亡くなっていたことが多かった。今だってゼロではないだろ……だが、お前はその七年を生きた。生きてくれた……お前は一つの〝峠〟を越えたんだ。まずは、それを祝おうじゃないか?」
「とーさん……」

 思いがけない親父の言葉が、じんと胸にみる。
 日本では当たり前だったことが、ここではとても特別であることも多い。食事の内容だって、日本ならコンビニに行って簡単に揃えられる物でも、ここではそうはいかない。
 病気や怪我にしたってそうだ。ちょっと、病院へ……なんて簡単に行ける訳じゃない。
 そういうのを知った上で親父の言葉を聞くと、何とも感慨深いものがあった。年柄にもなく、目頭が熱くなっちまうぜ……まぁ、今は七歳なんだがな。

「もう……そんな難しい話を朝からしないのっ! とにかくお祝いよ!」

 そう言って、お袋がテーブルの上を軽く見渡した。

「これで、足りないものはないわね? さぁ、皆お祈りをしましょう……」

 お袋が自分の席に座ると、手を組んでそっと目を閉じる。
 それにならうように、皆も手を組んで目を閉じる。
 えたケモノのような目でソーセージを見てた妹たちですら、その小さな手を組んで目を閉じていた。そして、俺も……

「今日のかては、とうとき命をもって紡がれたものなればその命、我が心、我が血肉となりてまた命とならん。糧となりし者に感謝と安寧あんねいを、そして糧を得し者に祝福を……」
「「「「感謝と安寧と祝福を……」」」」
「さぁ、頂きましょう」

 そんな父親の祈りの言葉が終わり、一拍置いてからお袋がそう切り出すと、妹二人がすごい勢いでソーセージをむさぼり始めた。
 一人に二本用意されていたソーセージだったが、妹たちはペロッと完食してしまい、物欲しげな目で俺の皿の上に載ったソーセージを、文字通り指をくわえて凝視する。
 まったく、我が妹ながら意地汚いものだ。そこがかわいくもあるのだが……
 俺は苦笑を浮かべると、自分の分のソーセージの一つを半分に切り分けた。そして妹たちの皿の上へと移すために半分にしたソーセージにフォークを突き立てる。
 かわいい妹のためなら、半分ずつなんてケチなことをせずに、一本丸々あげろよ! という意見もあるだろうが、俺だって久々の肉類なのだ。一つくらいは食べたい。
 と、いう訳でまずは半分をレティの皿に置き、そして次にアーリーの皿に移そうとした時……

「あー」

 アーリーは親鳥からエサをもらうひな鳥よろしく、大口を開けてガン待ちしていた。レティに行った俺の行動から、次は自分の番だと推測したのだろう。なんてさとい子だ。


 そして、そのまま〝食べさせろ!〟という意思表示。
 我が妹ながら、なんとモノグサなことか……だが、そこがまたカワイイ。
 かわいいことは正義なので仕方がない。許そう。だからって別に、俺はシスコンじゃないぞ?
 実際、前世でも妹はいたが、ここまでの愛情はまったくといっていい程なかった。
 正直、ウザいと思うことの方が多かったくらいだ。
 これはあれだな……俺にしてみたら父と娘くらいの歳の差――これはまぁ、精神的な意味で――がある訳だから、父親としての感情に近いのかもしれない。
 まぁ、前世では娘どころか結婚すらしていなかったけどさ……
 俺は、しぶしぶといったていを装って、フォークに刺さったソーセージをそのままアーリーの口の中に運んであげた。

「むぐむぐむぐ……」
「コラッ! アーリー! 自分で食べなさいっ!」
「おいひぃー……」

 お袋が、そんなモノグサなアーリーを叱り付けるが、本人はそんなのどこ吹く風とおいしそうにソーセージをもぐもぐしていた。
 と、ふと視界の端でレティが何かしらゴソゴソしているのに気がついた。どうやら、自分に取り分けられたソーセージを俺の皿の上にこっそり戻しているようだった。
 そして、何食わぬ顔でアーリーのように大口を開けてガン待ち……
 つまりは、同じことをしろ! ということらしい。カワイイなぁもぉっ!!
 ふむ、確かに姉妹で扱いを変えてしまうのは教育上よろしくないだろう。
 姉妹なら平等に扱わなければならない。些細ささいな違いが、姉妹の中に変な軋轢あつれきを作ってしまい、姉妹仲が悪くなってしまう恐れだって十分にあるのだ!
 と、自分に言い訳の完全理論武装を施して、俺はアーリー同様レティの大きな口にソーセージを運び入れた。
 レティは満面の笑みを浮かべてもぐもぐもぐ。
 ……ただ、食べさせてあげるのが楽しいだけなんだけどね。

「もぅ、レティまで……」

 お袋が呆れたようにため息を吐いた。
 お袋の教育方針は〝自分のことは自分でする〟なのだが、カワイイ生き物には勝てなかったよ……ゴメンよ、ママン。

「……良かったの?」
「何が?」

 気づけば、お袋が俺のことを見ていた。それも、とても優しげな目で、だ。何を言いたいかは分かっていたが、ここはあえて気づかないフリだ。

「ふふっ」
「……」

 お袋はそんな俺に優しく笑い、親父は俺の頭をワシャワシャと撫でた。
 そんなことをされると……少し、照れるぜ。
 ……七年だ。
 正確には、六年と半年なのだが、あの夜からそれだけの時間が経った……俺が死んだあの夜から、そして、俺がこの世界に生まれてから。
 それだけの時間があれば、自分を取り巻く環境を理解するのには十分だった。
 自分の名前がロディフィス・マクガレオスであるということ。
 小麦農家を営む父・ロランド・マクガレオスと、母・プレシア・マクガレオスとの間に生まれた第一子であるということ。
 そして今年四歳になるかわいい双子の妹たちもいて、一家五人、片田舎の農村で貧しくもつつましく平穏に暮らしていた。
 そう。俺は、どうやら〝転生〟というものをしてしまったらしいのだ。
 漫画や小説なんかじゃ割りとポピュラーなネタだが、実際に自分がなってみると何とも奇妙な感覚だ。
 俺がこうして、パニくることもなく現状を素直に受け入れることが出来たのは、ひとえに前世でこういった事態を想定して、ラノベを読み漁っていたお陰に他ならない。
 ……ごめんなさい。嘘です。発狂しそうなくらいパニくりました。
 だって、死んだ自覚があるんだよ? なのに目覚めたら、ギトギト中年ブクブクボディがスベスベつやつやぷにぷにボディだよ?
 そりゃ、パニックにもなるってもんだよ。
 そんなこんなで、俺の一番古い記憶――今の人生の方だが――の中にある、あのでっかい巨人・女は変体趣味の宇宙人ではなく、お袋だったというオチだ。
 あの赤ちゃんプレイはプレイではなく、俺がモノホンの赤ん坊だっただけの話だ。
 当時、何も分からなかったにもかかわらず、一切の恐怖心を感じなかったのは、目の前の人物――つまり母親のことだな――が自分に危害を加えないことを、本能的に感じていたからなのかもしれない。
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