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人食い花に転生しました ~復讐~~その人を食べる日まで~

捕獲領域外

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《シーフ》は(捕獲領域)からどんどん離れて行きます。

 死ぬわけではないようなので安心しましたが、すべてのスキルが使用不可になってしまいました。

 綺麗な石造りの家が立ち並ぶ小道を《シーフ》はさっそうと走り抜けます。人間にしては、移動速度が速いです。やはり、《シーフ》だからでしょうか……。

 一応マップだけは使えるみたいなので、自分の居場所を常に確認します。《シーフ》は北へと進み、坂を上ったところで横道に入りました。

 そこには家がありました。小さなレンガ造りの家です。《シーフ》は小さな階段を上り、扉の前に立ちました。

 ここが、彼女の家ですか……。

 家が視界に入った瞬間、私の思考に記憶のノイズのようなものが流れ込んできました。


 ────ザッザーッ……。

「今日はここで野宿?」

「そうだ。お前は馬車で休んでていいぞ。荷物に気を付けろよ」

「はーい」

 小さい人間の体の私は返事をしました。周囲には平原が見えます。私たちは岩場に陣取ってキャンプをしています。

 他に何台かの馬車があり、近くにもテントを張っている人たちの姿もありました。

 そういえば、私が人間で小さい頃は…………行商人の娘だった気がしました。

「もっと近くで取引ができるといいのにな」

「そうですねえ。お金はその分もらえますけど、時間がもったいないですしねぇ」

 男の人と女の人がいます。どこか、懐かしい感じがします。もしかして、この二人は……。

 ────ザザッ……。

 ノイズが入ります。そして場面が変わりました。

 私がよく知っている場所…………絶対に忘れてはいけない場所……。

 ディーバ帝国、国王の玉座です。

「なぜ、レイヤ王子が……」

《レイヤ・キンバル》第一王子が刺されている場面です…………血を流し、剣を持ってうつ伏せに倒れていました。そして、国王の首が飛びます。

 私は、目をふさぎました。

「そこの二人も殺せ!」

 一人の男が声を上げました。

「「「ハッ!」」」

 城の衛兵たちが二人の男女に切りかかります。

「オードリー! うわああぁぁ!」

「いやああぁぁ!」

 二人は衛兵に切られ、声を上げて倒れました。先程のキャンプの記憶で見た、私の両親らしき人間です。

「そうだ、いいことを思いついた。お前、魔女になれ! そうだ! お前が魔女だ! ハハハハハハ!」

 その短く立った金色の髪の男は、不敵な笑みを浮かべながら私の首をつかみました。

 そうです、この男が……恨みを晴らすべき相手……第二王子《カイン・キンバル》!

 ────ザザザーッ……。


 ノイズが止まりました。また、記憶の断片でしょうか……。家を見て連想された家族の記憶だったのでしょうか……。

 私は旅の行商人の父と母を持つ娘……それにヒモを付けられて出てきた記憶が玉座の忌まわしい記憶……。

 《カイン》は、私の食べるはずだった両親まで殺していた……これは、私の怒の炎に油を注ぐような記憶です。

 でも、なぜこれを思い出した時だけ人間的な感情になるのでしょうか……それに、この記憶の断片のようなものはいったい…………ただ、忘れていただけなのか、それとも…………。


《シーフ》が家の扉を開けました。

「「おねえちゃん、おかえりー」」

 男の子と女の子のがお出迎えです。兄弟でしょうか……。

「リック、植木鉢とっておいで。アーヤはテーブル拭いて」

「「はーい」」

 よく訓練されている子供たちです。それに、とてもおいしそうです。でも、この姿では食べることはできません……悔しいです。

 リックが植木鉢を運んできました。ケイトはその植木鉢に土を入れ、私を袋から出して植え付けます。人間にしては気が利くようです。

 その後、鉢植えにされた私は日の当たる窓際に置かれました。

「じゃあリック、これに水を少し上げといて。私は酒とつまみ買ってくるから」

「いってらっしゃーい」

 ケイトは家から出ていきました。

「ふーっ……いったいった。ケイ姉何かいいことあったのかな」

「ちゃんと言われた通りに水やらなきゃ、また怒られるよ」

「面倒くさいっしー。なんかあの花気持ち悪いっしー」

 前言撤回します。やはり、ゴミはゴミです。

「よっし、これを食べさせてみよう」

 リックは、何か黒いものを持ってきました。

「リック~。それ《ゴッキー》だよ……あとでちゃんと手、洗わなきゃだめだよ」

 その黒いものは……虫でした…………。

 人間は……ゴミ以下の存在ということを再度、私は認識しました。植物になれてよかったと思っています。でも、今だけは、この、食虫植物のような食肉植物になっていることを悔やみます……。

 ああ、神よ……虫のいない世界をお造り下さい……。
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