種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

獣と鎧

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――放浪島の地上の王者「白狼」は、元々この世界に存在しない種である。「白狼種」の誕生は遥か昔、初めて「勇者召喚」された時代にまで遡り、召喚の際に1人の勇者が引き連れてきた一匹の狼が先祖と言われている。


1人の勇者が連れ込んだ狼の種は「ニホンオオカミ」明治時代の早期に絶滅したはずの種だが、当時に召喚された現実世界の時代では普通に生息していたらしく、勇者と共に召喚された。


召喚直後はニホンオオカミはこの世界に存在しない生物のため、飼い主である勇者の手で世話をすることを決める。召喚された際に狼ではあるが、勇者同様に「加護」を受けていたため、より身体は大きく成長し、逞しく育ち、その強さは此方の世界の魔獣の比ではなく、後に「神獣」と崇め奉られるほどに大きな存在へと変化した。

巨狼と化した狼は自然と勇者たちの元を離れ、自分の力のみで世界を歩き渡り、安住の地を求める。その旅は決して楽な物ではなく、巨狼を狙って無数の人間や魔物たちが襲い掛かる。だが、それでも世界最強の狼はそれらを蹴散らし、やがてある「島」に辿り着き、一年中が雪に覆われた山岳に辿り着く。


――長い時が経ち、神獣と謳われようが生物として生まれた以上、寿命に逆らえずに狼は子供を残して天寿を全うする。だが、その強大な力は子孫に受け継がれる。


「神獣」の血を引き継ぐ子孫はある島の主として君臨し続け、後に「魔王」が侵攻の際に島の存在を恐れ、島全体を強大な力で浮上させ、地上から引き離した。それこそがこの「放浪島」であり、地上の王として君臨していた「白狼」は神獣の血を受け継ぐ狼だった。

だが、世代を重ねるごとに「白狼種」はその力を削いでいき、先祖である「ニホンオオカミ」と比べたら随分と能力が低下している。実際、レノが倒した白狼は島の地上では最強ではあっても、地下迷宮の中では生き残れない。


――だが、白狼に流れている血は間違いなく神獣の力を受け継いでおり、それを身体中に浴びたレノの肉体には異変が起きていた。


白狼との戦闘ではレノ自身も身体全身に怪我を負い、当然、頭から振りかぶった白狼の身体から放出された血液も傷口を通して彼の血管に流し込まれた。

全ての白狼族の狼には膨大な魔力を体内の「血液」に蓄積し、仮にその血液を血管に流し込まれた者は六大種族の何者であろうと「魔力暴走」を引き起こし、本来なら身体の内側から発熱して焼け死んでしまう。

だが、全ての種族の中でも異端な存在である「ハーフエルフ」は最も魔力量が多い生物でもある。レノの体内に入り込んだ「白狼」の血液も、当然ながらに少量とは言え膨大な魔力を有しているが、幸いにもレノが蓄積できる魔力の「器」は白狼の血液でさえも受け入れる。そして幸運だったことにアイリィに刻まれた「紋様」は魔力暴走を抑える機能が取り組まれており、それが運よく白狼の血を抑えていた。



――本来ならば刑罰として刻まれた「反魔紋」の「雷流」を利用し、「雷属性」を習得したレノの身体には普通のハーフエルフではありな影異変が起きていた。それは「外部から受け取る魔力を自分の力に替える」という「変換能力」であり、何時の間にかレノの身体の構造が変化していた。



先日の地下闘技場で「紫電」を使用した時から予兆はあった。あの技はゴウ自身のオリジナルの魔法であり、レノは一度その身に受けただけで魔法の原理を理解し、反魔紋の「雷」を作り替えて紫電を生み出した。

そして、神獣と謳われた「白狼族」の血液を体内に流し込まれたレノの身体には白狼が所持していた荒々しい「暴風」の魔力が宿され、楔の役割を行っていた左腕の紋様が切り離された事により、その力が暴走しようとしていた。




「――ぐ、があっ……!!」
「レノ……さん?」


左肩を抑えながら、肌に血が滲むほどに強く爪を喰いこませ、徐々に外見が変化していく。体内に入り込んだ「白狼」の血が暴走を行い、髪の毛の色が銀髪へと変化を始める。まるでソフィアの「強化術」と酷似しているが、男の姿を保ったまま、さらには全身から青白い魔力を生み出す。それは傍に居るアイリィでさえも異変を感じ、気付けば後退る。


「まさか……これは白狼種の!?」
「ぐぎぃっ……がぁああああああっ!!」


ドゴォオオオッ!!


レノが咆哮を上げた瞬間、周囲に激しい風が放たれ、アイリィは堪らずに吹き飛ばされる。最早、それは「嵐」などという生易しい表現ではなく、正に「暴風」と呼ぶべき力だった。


『シネッ……シネシネシネシネェッ……!!』


バチィッ……!!バチィィイイイッ……!!


その一方で、陥没した地面の泥水から甲冑の騎士は地上に完全に這い上がり、右手に「カラドボルグ」を握りしめ、刀身から電流を迸らせる。レノやアイリィの「雷」と違い、カラドボルグから放たれるのは金色の色をしていた。

どちらも完全に理性を失っているのか、甲冑の騎士は殺気に満ちらせながら、跪くレノに向けて歩み寄る。


『……レノォオオオオオオッ……!!』


腹の底から響く言葉に周囲の地面が揺れ、最早、それは死人というよりは魔物に近い姿だ。だが、あちらが魔物ならば今のレノは「魔獣」そのものだ。


「……ウオォオオオオオッ……!!」


狼のような咆哮を上げ、レノは右腕を掲げ、


ジャララララッ……


右腕に纏わりついた「銀の鎖」を引き揚げ、地面に突き刺さった「聖爪(ネイルリング)」を回収すると、レノは焼失した左腕に向け、


ボウッ……!!


亡くなった肘の先の傷口から、風の魔力が放出され、まるで腕のような形に変化させる。それだけではなく、地面に落ちていた銀の鎖が反応し、魔力で形成された「腕」に絡みつく。


ジャララララッ!!


ガキィンッ!!


「あれは……?」


アイリィは地面に倒れながらも、目の前の光景に目を見開く。レノの左腕の肘から先に形成された魔力に絡みついた「鎖の腕」その鎖の先端部には「聖爪」がまるで本物の狼の爪のように装備されている。

一体何が起きているのかは不明だが、1つだけ言える事は両者ともに、目の前に立つ「敵」に対し、圧倒的な殺意を抱いていた。


『グギガァアアアアアアアッ!!』
「グァアアアアアアアッ!!」


白き獣と漆黒の鎧きしは、お互いの存在を消すために動き出す――
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