種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

反魔紋の解除

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――本来、反魔紋は森人族に代々伝わる生涯に渡って魔法発動を封印させるための「怨痕」であり、同時に「ハーフエルフ」であるレノが子供を為さないように抑制する役割を勤めている。この反魔紋を解除できるのは術式を施した張本人、つまりエルフの集落の「族長」しか出来ない。

だが、この「反魔紋」その物を破壊する事は不可能ではない。刻まれた魔方陣そのものを書き換える事は不可能だが、外部から魔力を送り込んで無理やり決裂させる事も出来る。例えるならばタイヤに大量の空気を送り込み、無理やり破裂させるような物に近い。

アイリィの残された魔力でそれが可能なのか、答えは不可能だ。だが、彼女が腰に差している「カラドボルグ」の魔力を使えば可能性はある。


「……賭けですね」


ジャキッ……


彼女は鞘に納められた聖剣を反魔紋に押し当て、ダークエルフは興味深そうに観察する。邪魔をする気は本当にないのか、それともレノに何か「期待」でもしているのか、少なくとも動く様子はない。

アイリィはやっとの事で取り戻した「カラドボルグ」を握りしめ、柄の部分に刻まれた紋様を押し当て、次の瞬間に凄まじい発光が放たれる。


バチィイイイイッ!!


「くっ……このっ!」


レノの反魔紋が反発するように黒い電流を放電し、カラドボルグを握りしめるアイリィに流し込まれる。それは彼が普段使用している「雷」とは比べ物にならないほどの電圧だが、彼女は少し眉を顰める程度だ。

カラドボルグを押し当て、全身に黒い電流を流しこまれながらも、アイリィは詠唱を始める。そして、徐々にだが聖剣に異変が生じ始め、最初は面白そうに見ていたダークエルフも不思議そうに顔色を変える。


「お前……何のつもりだ?」
「黙っててくださいよ……こっちは集中してるんですから!」


バチィイイイッ!!


アイリィはカラドボルグを抑えつけながら、少しずつ反魔紋に変化が生じてきているのを確認する。魔方陣の紋様が薄れて行き、悲鳴を上げているように黒い電流が一層激しく放たれていく。既に彼女の両手は火傷を通り越して黒焦げと化し、それでも無理やり聖剣を抑えつけながら、最後の準備を始める。


「さあっ……上手くいってくださいよ……!!」
「うっ……」


気絶しているレノが呻き声を上げる。自分の背中に刻み込まれた長年苦しめた反魔紋が消えかけているのだ、意識が途絶えていても身体の方が反応するのは当然だろう。

あと少しで反魔紋は完全に消滅するだろうが、それだけではアイリィの機は収まらない。彼がここまで生きてこれたのはこの反魔紋の力を利用していた節も多々ある。



――ならば「反魔紋」の代わりとなる「力」を与えなければならない。紋様は無くなったとしても、アイリィとレノの契約自体は途絶えた訳ではないのだから。



「……取って置きのプレゼントですよ……!!」


バチィイイイイイイイイイッ!!


カラドボルグの全身から金色の光が放たれ、消えかけた「反魔紋」に向けて放たれる。金色の雷光は反魔紋かた放たれる黒の雷を抑えつけ、魔方陣が変形されていく。

反魔紋を取り囲む円の部分が最初に金色に発光し、徐々に円の中の紋様が一度完全に消え去り、全く新しい紋様と不可解な文字が刻み込まれる。この魔方陣はアイリィのオリジナルの魔法陣であり、本来なら存在しないはずの陣だ。嘗て、アイリィが自分自身に刻み込んだ物でもある。


「お前……何を考えている」
「復讐、ですよ」


何時の間にか魔方陣の傍まで移動していたダークエルフが問いただすと、彼女は疲れ切った様子で一言だけ告げると、カラドボルグを持ち上げる。レノの背中の「反魔紋」は遂に完全に消え去り、新しく浮き上がった魔方陣も徐々に薄まると、完全に背中の中に溶け込んでいく。


「……終わったのか?」
「はい、終わりましたよ」
「そうか……なら、覚悟は出来ているな?」
「はいはい……ほら」


アイリィは六芒星の魔方陣から出ると、輝きを失った「カラドボルグ」をダークエルフに差し出し、彼女はそれをじっと見つめ、


「……必要ない」
「はい?」
「今回の目的は……この地下だ」
「……正気ですか貴女」


彼女が語る「地下」とは、この地下迷宮の最下層の事を指しているのだろう。あそこには全盛期のアイリィでさえ手が出せない生物が住んで居り、いくら最強の聖痕を宿しているダークエルフと言えど、ただでは済まないだろうが、



「そこに隠されているんだろう?あの槍は」
「ええ、そうですね……最強の魔槍(ゲイ・ボルグ)は」



最初から彼女の目的は「カラドボルグ」ではなく、この地下迷宮に秘匿されている「魔槍」だった。


――現実世界でも有名なケルト神話に登場する英雄クー・フーリンが使用する「ゲイ・ボルグ」この槍に関しては様々な説はあるが、一撃で致命傷を与える最強の武器と知られている。


この世界の「ゲイ・ボルグ」は実は出自自体が誰1人として知られておらず、何時の間にかこの世界に存在したという。歴史上に何人もの人間が使用したと言われているが、一度魔槍を手にしたものは碌な末路ではない。

まだ放浪島が「海上王国」と呼ばれていた時代、ゲイ・ボルグは魔王の手に渡り、その後は彼女の武器として扱われるが、彼女の死後に魔槍がどうなったのかは誰も知らないはずだが、魔槍を直接盗み出した張本人である「アイリィ」はこの地下迷宮の最下層に封印されている事を知っている。

そして、昔にダークエルフに魔槍の存在を教えたのもアイリィ本人であり、あの時の自分の迂闊さを恨む。だが、今更後悔しても遅く、ダークエルフは長刀を握りしめて見下ろし、


「さて……話しはここまでだ」
「……あ~……やっぱり殺すつもりですか?」
「そういう約束だからな」


ダークエルフは掌をアイリィに向け、彼女は「カラドボルグ」を見やり、ダークエルフがこれを必要としないと言った以上、


「とりゃっ」
「ぐふっ……」


倒れ込んだレノの上に「カラドボルグ」を放り投げ、ダークエルフは呆れた様にそれを見終えると、彼女に視線を戻す。


「お前……何をしている」
「別に良いじゃないですか~……必要ないでしょあれは~?」
「……最後の最期まで、お前という奴が良く分からん」
「私を理解してくれる相手なんて、お姉さま以外にいませんよ」


今から殺される人間とは思えぬ発言をし、ダークエルフはそんな彼女の態度に呆れた風に笑みを浮かべ、


「――焔」



――ドゴォオオォオオオオオオオッ!!



掌から火球が形成されると、すぐに火球が暴発し、凄まじい爆炎がアイリィの身体を覆う。悲鳴を上げる暇も、痛みも感じる暇も無く、アイリィの身体は消し炭と化し、爆炎の煙と共に完全に消え去った――
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