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過去

ウソ重ね

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「…お前、お腹…どうしたんだ?えっと…なにか詰めてるのか?」
 こんなバカでも一流企業に勤めてるんだよなぁ…なんてしみじみ思う。
「詰めてるってか、…あ、報告する必要ないかと思ったんだけどさ。俺、いま妊娠してるんだ」
「…………ごめん、聞き間違いか?妊娠してるって聞こえたような…」
「聞き間違いじゃないね」
「…意味が分からない」
「どうして?」
「そんなの聞いてない」
 明らかに動揺している修也が面白くなる。
「報告する義務なんてないだろ?もう別れてるんだし」
「っ……いや、でも…」
「それより、荷物は?これだけ?他に俺のモノ残ってない?」
「…残ってない、けど…」
「…そう。ありがと」
 荷物を持ち上げようとすると、急に修也が立ち上がった。
「荷物、運ぶ」
「いいよ別に」
「いいって…俺、運ぶし」
「要らない」
「聞きたいことがあるんだ!」
「ここで聞けばいいだろ」
 あぁ、と付け加える。
「その人に聞かれたらマズイ話?」
 隣で空気になっている女に視線を向ける。
「…そう、じゃ…ないけど…」
「…まぁ、せっかくだし…運んでもらおうかな」
「あ、じゃあ車で…」
「いや、下までで」
「え?」
 一応、張り切っている恭平に華を持たせるのもいいだろう。
「…子供の父親、いっしょに来てくれてるから」
「え、…………えー…と…」
「俺の今の交際相手ね」
「……そ、う…か、そうだよな、…俺の子供なワケ、ないか…」
 まるで自分が被害者のような面をする。
「…そうだね、修也の子供なんてゴメンだし!」
 ゴメン、だけど。だけど、この子は産むって決めたから。
「………えっと…とりあえず、…着替えて来る」
 そう言って脱衣所に消えていった修也の後ろ姿は、予想していたものと大分異なった。
 予想では、俺が後腐れないと喜んでいるハズだったのだが。少しは好きでいてもらえたのだろうか。

「…あのさ」
 エレベーターを待っている途中、修也が声をかけてくる。
「ん?」
「…お前、妊娠しにくい体質って言われてなかったっけ」
「あぁ…うん、そうだね」
「…やっぱそれ、詰めてるだけじゃ…」
 あまりにもうるさいので、ベロンと服を捲って見せてやる。
「っ……」
「モノ詰める意味なんかないでしょ」
「…お前、ウソついてたのかよ。体質がどうのとか、…」
「俺は別に、妊娠できないとは言ってないよ。今のカレとは相性いいからかな?付き合ってすぐに出来ちゃった」
 嘘の作り話。けれど俺はこれで自分を守る。
「…お腹の大きさ、リサと同じくらいじゃん」
 リサ、というのはさっきの女の名前だったか。
「そりゃ…修也と別れて結構すぐに出来ちゃったからねー」
「…そんな早くに新しい男、捕まえたのかよ」
「告白してくれたの。…悪い?ていうか俺が誰と付き合おうが、関係ないだろ」
「あのな、俺ら…」
「付き合ってたけどね、今はもう何もない」
「……誰だよ、相手の男」
「誰って……あ、修也も会ったことあるんじゃない?」
「は?」
「フツーの大学生だよ」
「……そんなヤツ、俺よりも経済力も低いだろうし」
「大学生だからね。就職したら結婚しようって言ってるんだ」
「そんなの言ってるだけだろ」
 どうしてだろう。
 こんなに、嫌味を言われている気がするのは。
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