行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ

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行ってみたいな異世界へ

20 告白

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いつものように朝食を食べてお弁当を作ってテイクアウト。丸くて大きな茶色いパン。パン・ド・カンパーニュ‥‥だっけ?

これをスライスしてスモークサーモンとクリームチーズと野菜をはさむ。パストラミをたっぷりはさむのも好き。その場でゆで卵をつぶしてマヨネーズっぽい調味料で和えて卵フィリングを作りカリカリベーコンと一緒にはさんでみる。

作ってたら知らない人が欲しがったので1つ譲る。他のも中身の説明をしたら真似してた。
バイキングの脇で勝手に調理(?)するのって良いのかな?はさむだけならまだしも、卵フィリング作りはグレーゾーンか?

ミモザサラダもマヨネーズらしき調味料もあるのに卵フィリングがない不思議。


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グラウィスさんの分のお弁当も作って見送りに行く。
ほとんどの荷物が積み終わっていた。軽トラより少し大きいくらいの荷馬車なのに引いている馬は道産子1頭。本当に力持ちなんだ。

「仕事頑張って下さいね。」
「早く新しい恋人見つけろよ。」
「体に気をつけてください。」

口々にそう言って送り出す。見送りは他にも何人か来ていた。

あ、体型が変わった事を理由に、フラれたんだっけ?

体型の事もだけど、故郷へ帰って店を出す話が急に決まって、その事を恋人に伝えてプロポーズしたらフラれたそうだ。その恋人は王都にいたかったらしい。相談もなしに決めちゃったのも悪かった、と悲しそうなグラウィスさん。恋愛経験のない俺でもケンカになりそうだと思う。

お弁当を渡して鍵を受け取り他の見送りの人に軽く挨拶して別れる。今度は俺達の引っ越しだ。

俺なんか来たばかりだし、2人も仮住まいで大した荷物もないけど、鍋、釜、七輪が嵩張るのでリヤカーを借りる。1度で引っ越し完了だ。



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「引っ越し早々で悪いが聞いて欲しい話がある。」

それぞれの寝室を決める時になってストゥさんが真剣な顔で言った。
何の話だろう?

ティスさんがお茶を淹れてくれるのを待って口を開いた。

「恋人になって欲しい。」

え?このタイミングで言う!?
断ったら一緒に住み辛くなるじゃないか。と考えてたらティスさんが口を挟んだ。

「断れば住み辛くなる今言うのは卑怯じゃないですか?」

そうそう。代弁してくれてありがとうございます。

「そこは本当にスマン!
だが‥‥今朝のタケルを見て、もう我慢の限界なんだ。すぐに返事が欲しい訳じゃなくて、オレを恋人にする事が嫌かどうか考えて欲しいんだ。」

「それなら私も同じ気持ちです。
お願いします!恋人にして下さい。」

2人がかりで畳み掛けて来たー!
嫌かどうかって聞き方、ずるい。
これだけ一緒にいて優しくされて触られても全然嫌じゃなくて。

「い‥‥嫌じゃないです。嫌な訳ないです。でもその‥‥流されてる自覚があるので、こんな気持ちで良いの?これは恋人に対する気持ちなの?って‥‥」

言葉尻が小さくなって行く。うつむいて黙り込んでしまう俺にティスさんが言う。

「嫌じゃないなら好きになってもらう努力をしても良いですよね?頑張りますよ!」

「それで心が決まったら教えてくれ。俺とでもティスとでも2人ともとでも!
‥‥他のやつの所へ出て行くのでも。」

最後の言葉に胸が締め付けられる。

が気になる言葉が。2人とも、とでも?

「言ってなかったか?男同士では子供が出来ないから多重婚は本人同士が納得すれば認められる。だから俺とティスとタケルの3人でも結婚できる。」

まだ恋人でさえないのに結婚て!
でも‥‥そう言う文化だと言われれば理解はできる。俺は真剣に考えます、としか返事ができなかった。

「じゃ、ティスと同じ条件にしてもらえるか?」

え?どう言う事?

「それなら私だって!まだタケルと口づけしてないんですよ!!」

あぁ、えっと‥‥ つまり朝、俺がしていた「お手伝い」をして欲しいと。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥、


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。


「ぇえええええっ!?みっ、見てたんですか!?いつから!!」

「2回目の喘ぎ声から。」

イッた所じゃないか!!なんでそんな!?

「何するか分かってたしティスが調子に乗ってやり過ぎるかもしれないと思って。」

ばかぁぁぁぁぁ!!俺にそういう羞恥プレイの趣味はない!

「手伝い、イヤでしたか?」

ティスさんが幻のケモ耳伏せてしょんぼり聞いてくる。

「自分から言い出した事だし嫌じゃなかったです!‥‥けど‥‥、‥‥でも、想像以上に恥ずかしくて‥‥」

思い出しても涙目です。手伝っているはずだけど人の自慰を見ている様で居たたまれなくて‥‥

「すまん。急かさないと言いながら無理を言った。許してくれ。」
「私もタケルがそんなに困っていたのに気付かず、途中で止められなくてすみません。」

俺の隣に座り頭を抱き寄せて撫でながら謝るストゥさん。反対側に座って俺を奪い取るように引き寄せてティスさんも謝る。いや、あの状態で止めるのは男には無理だって分かってますから。

「振り回してしまうようで申し訳ないんですが、俺の気持ちが決まるまで待ってもらえますか?」

そうお願いしたら2人とも良い笑顔で頷いてくれた。

寝室は大きい部屋が俺になった。2人が泊りに来るからだって‥‥。


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引っ越して来てから5日が過ぎた。そう、恋人になるかどうか真剣に考える、と言った日から。元々優しく世話を焼いてもらっていたし頭撫でてもらったり3人でお風呂に入ったり一緒のベッドで寝たりとスキンシップもじゅうぶんだったので何が変わるんだろう?と思っていた自分はバカだった。

いや、もう!毎日が!!甘い!でろっでろに甘い!!
毎日毎日おはようからお休みまで、口にこそしないけど、それ以外の場所にはキスの雨を降らせ、撫で、抱きしめて着がえも食事も手伝いたがって介護か!!
いや、料理は俺がしてるけど。土鍋で炊くご飯だけは出来るようになってもらおうと仕込み中です。

どうしよう‥‥幸せです。

うぅ‥‥一人っ子で両親共働きでじーばー育ちで。年上に甘やかされるの大好きなんだよぉぉぉぉ!!

もう愛とか恋とかどうでも良くなって来た。浮気しなければ不実じゃない!って言う論理は成立しますか?ダメ?

こんな感じで脳内ぐるぐるしていたら4月になっていた。
精霊樹ケラススの花が咲いたのでお花見だって。この3日間は緊急の依頼以外はお休みしてみんなで出かける。たくさんの屋台も出て完全にお祭りだ。お花見スポットはいくつかあるんだけどウェーヌ様から俺宛に招待状が届いた。入らずの森の精霊樹を見に来ませんか?って。

お祭りの屋台は絶対行きたいけど、入らずの森の精霊樹なんて!聞いただけで憧れる。でも禁足地なのに行っていいの?

「王族の方々が同行いたしますので危険はありません。」

ペルさんが答える。あれ?神聖な場所だから立ち入り禁止なんじゃないの?危険だから立ち入り禁止になってるの?

入らずの森の奥には神聖な朱雀に守られた炎の泉と言う、泉なのか火口なのか分からない場所がある。そこは朱雀の住処なんだけど高価な魔石や宝石や希少鉱物がごろごろしている。それを狙って入り込む不届き者が後を絶たず怒った朱雀が国中を暴れ回ったので禁足地にしたそうだ。

それから歴代の王は全員、朱雀と契約している。他の人は通行証として朱雀の羽根を持っていればOK。

3日間のうちの2日目なので、3人一緒ならお伺いしますと返事をした。


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花見1日目。

王都の南の大きな川沿いを数えきれない程の桜が彩っている。まだ7分咲き程度の桜並木に向かうようにたくさんの屋台が並ぶ。
日本の祭と同じように食べ物、飲み物、お菓子にくじ引き、つかみ取り。

綿アメはないけど飴細工が鳥や馬、花をあっという間に形作る。五平餅かと思ったら甘い味噌を塗ったパンだったり焼きそばではなくパスタだったり。桜餅と甘酒も売っている。

くじ引きの景品は家電の様な魔道具だった。つかみ取りは子供向けはお菓子、大人向けは‥‥動いてる!生き物!?

毒のない蛇を入れた箱に魔石が入っていてそれを拾うのが大人向けのつかみ取りだって。大人向けは罰ゲーム的なノリでやる物だからあれで良いんだって‥‥。

お好み焼きもたこ焼きもないのがちょっと残念だ。思い出したら食べたくなった。たこ焼きは無理だけどお好み焼きなら自分でも作れるな。

ここでは敷物など使わず、根元近くに腰を下ろす。少し花が少ないせいで人が少ない木を選んだらストゥさんが心配してた。

真上が満開じゃなくても周りがきれいだから、と買って来た五平餅ならぬ五平パンと焼き鳥と桜餅と甘酒を頬張る。ティスさんがペペロンチーノを買ってタケルの作ったやつの方が美味しいって言ってくれて嬉しい。

食べていると俺達の魔力を吸って頭上の桜がぼんやりと光り始め花が次々開いて行く。開くたびにポン!と可愛い音がして甘い香りが漂う。地球の桜は花から香りはしないけど、こっちの桜は良い香りがする。それに釣られるように両隣の木も光って開花する。ここの3本だけ満開になった。

他より開花が遅れている木はたくさんの魔力を欲しがるからストゥさんは心配していたようだ。でも俺の魔力は開花にじゅうぶんな量あったみたい。

胸もお腹もいっぱいになって満ち足りた気持ちで家に帰る。

幸せな気持ちで2人に甘えてたら酔ってるのかと疑われた。
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