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第七章
じーちゃんとドラゴンと 11 ドラゴンの守護
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「この壊れた扉はわしが直してやる」
「ありがとうございます。カエレス様、抜け殻はどうなりましたか?」
「ああ、イフリートと、サイラスとかいう奴が来て、倉庫に運ばせておったぞ。馬も奴らに任せてきたわ。何せ持ってきた当の本人が消えてしまったからな」
「『二人きりだ』とたきつけたのは誰だ・・・」
「何か言ったか?」
「いいえ、あの抜け殻ですが、鱗がナイフでは歯が立たないんです。裁断する時はどうすればいいですか?」
「これをやる」
鋏を三丁、目打ち三本、鑢 (やすり) を三本、針を三本、糸一巻きを目の前に出した。
「この道具で鱗も切れるし、縫えるし、穴も開けられるし、糸も丈夫にできている。ただ、管理には気をつけろ。敵の手に渡ったら簡単に穴を開けられるし、せっかく作った防具の意味がなくなるぞ」
「分かりました。ありがとうございます」
「お礼は美しい娘からの頬への感謝のキスでいいぞ」
カイトが顔をしかめて、リリアーナが頬を赤らめた。リリアーナがカエレスに近付こうとするのを、カイトが引き戻して自分の腕の中に囲うと口を開いた。
「フェダーになら」
「何だ、やきもち焼きめ。頬へのキスくらいで」
「父さん、母さんに言うよ」
「フェダーでよろしい」
フェダーは二度助けてもらった事もあり、完全にカイトの味方だ。リリアーナがフェダーの頬にキスをすると、嬉しそうな、くすぐったそうな顔をした。
「じゃあ、そろそろ帰るか。周りもうるさくなってきたからな」
「カイト、僕、時々遊びに来てもいい?」
「いつでもおいで」
「わしもくるぞ」
「いえ、もうフェダーだけで」
「お前わしを神と思っていないな。まあ、いいわ。そういう所も含めて気に入った。あちらを向け、いいものをやろう」
カエレスはカイトの後ろに立つと首の後ろ、襟足の辺りに指先で何か書いている。
「さあ、これでよし、と。3日もすれば消えるから。後は必要な時に浮き出るけど気にするな」
「は・・・い・・・?」
カイトは首の後ろに手を回して、その部分をさすった。
「呪文もいくつか教えておくから」
カイトの前でいきなり唱え始めた。
「ちょっ、せめて書かせて下さい! いきなりそんなに覚えられません」
「なあに、大丈夫だ」
カエレスはニンマリとした。
足音がして、人が大挙して押し寄せてきた。後ろから国王のヴィルヘルムが進み出てきて跪く。周りの者達も跪いた。カイトもリリアーナもそれに従う。
「カエレス様」
「久しぶりだなヴィルヘルム。悪いがもう失礼するぞ。用事も済んだ事だし。まあ、またすぐに寄せてもらうつもりだ」
リリアーナは(お父様まで跪いて、知ってはいたけどやはり神様なのだわ)と思っていた。カイトは(ヴィルヘルム国王陛下ともお知り合いなのか・・・そしてまた来るのか・・・)と思っていた。
カエレスとフェダーはバルコニーに出ると、ボンッと煙と共にドラゴンに姿を変えた。周りから驚愕の声が上がる。
そして「ああ、カイトにドラゴンの守護を与えておいたから」と言い置くと、翼を広げ飛び去った。
一瞬の後に驚きの声が上がる。
まず、イフリートとサイラスがカイトの側にくると、身体を丹念に調べ始めた。
「多分これだと」
カイトが首の後ろを指差すと、二人して覗き込んだ。イフリートが声に出した。
「これか・・・文字がいくつか重なり合っているように見えるな。」
「これは是非模写させてほしい」
サイラスも興味津々だ。
ヴィルヘルムと、アレクセイと、ルドルフも覗き込んでいる。
「あの、もういいですか・・・?」
カイトは襟足を皆から覗き込まれていて何だか落ち着かない状態である。
サイラスが質問した。
「呪文を教えてもらわなかったか!?」
「教えてもらいましたが・・・ちゃんと覚えてるかどうか・・・」
「外に行くぞ!!」
皆でカイトを掴んで移動し始めた。
「え!? ちょっと待って! リリアーナ様!」
「カイト!!」
リリアーナとちゃんと話し合いたいのに、カイトの叫び虚しく外に連れて行かれてしまった。
後にはリリアーナと、フランチェスカと、騎士二人が残っていた。騎士達はルドルフの部屋を警護していてカイトに伸(の)された先程の二人である。フランチェスカが声を掛けた。
「あなた達、大丈夫だった?」
「ええ、カイトはちゃんと加減していたし、特に身体に支障はないです。リリアーナ様、どうなさいますか?女性騎士を呼んで参りましょうか?」
「いいえ、フランチェスカもいるし、大丈夫よ。貴方達がこのまま警護をしてくれるかしら? カイトの様子を見に行きたいの」
二人の騎士も見に行きたかったので、笑顔で賛同してついてきた。裏庭に向かって人が流れていたのでそちらに向かう。リリアーナを見ると、皆が道を開けてくれた。ヴィルヘルムのいる所まで来ると、前方にカイトが立っているのが見えた。両脇にイフリートとサイラスがいる。
「呪文、覚えてないんですけど」
「全然か?」
「あ? 頭にいくつか浮かんできました。その中からあまり威力が無さそうな奴を」
カイトが呪文を唱え始めると、雲一つない青空だったのにいきなり厚い雲が集まってきた。そして右手が上がり始める。
「何で右手を上げるんだ?」
イフリートが質問した。呪文の合間にカイトが答える。
「分かりません・・・勝手に・・・上がるん・・・です」
雲の上で雷が鳴り始める。それは段々激しくなり、カイトの真上の雲が渦を巻き始めた。
「これ、やばくない?」
サイラスが呟いた。
「カイト! やめろ!!」
イフリートが口を押さえようとして、サイラスは手を下げさせようとした。そしてカイトがポツリと言った。
「呪文・・・自分の意志で止められました」
見る見る雲は散っていき、元の雲一つない青空に戻った。
「ありがとうございます。カエレス様、抜け殻はどうなりましたか?」
「ああ、イフリートと、サイラスとかいう奴が来て、倉庫に運ばせておったぞ。馬も奴らに任せてきたわ。何せ持ってきた当の本人が消えてしまったからな」
「『二人きりだ』とたきつけたのは誰だ・・・」
「何か言ったか?」
「いいえ、あの抜け殻ですが、鱗がナイフでは歯が立たないんです。裁断する時はどうすればいいですか?」
「これをやる」
鋏を三丁、目打ち三本、鑢 (やすり) を三本、針を三本、糸一巻きを目の前に出した。
「この道具で鱗も切れるし、縫えるし、穴も開けられるし、糸も丈夫にできている。ただ、管理には気をつけろ。敵の手に渡ったら簡単に穴を開けられるし、せっかく作った防具の意味がなくなるぞ」
「分かりました。ありがとうございます」
「お礼は美しい娘からの頬への感謝のキスでいいぞ」
カイトが顔をしかめて、リリアーナが頬を赤らめた。リリアーナがカエレスに近付こうとするのを、カイトが引き戻して自分の腕の中に囲うと口を開いた。
「フェダーになら」
「何だ、やきもち焼きめ。頬へのキスくらいで」
「父さん、母さんに言うよ」
「フェダーでよろしい」
フェダーは二度助けてもらった事もあり、完全にカイトの味方だ。リリアーナがフェダーの頬にキスをすると、嬉しそうな、くすぐったそうな顔をした。
「じゃあ、そろそろ帰るか。周りもうるさくなってきたからな」
「カイト、僕、時々遊びに来てもいい?」
「いつでもおいで」
「わしもくるぞ」
「いえ、もうフェダーだけで」
「お前わしを神と思っていないな。まあ、いいわ。そういう所も含めて気に入った。あちらを向け、いいものをやろう」
カエレスはカイトの後ろに立つと首の後ろ、襟足の辺りに指先で何か書いている。
「さあ、これでよし、と。3日もすれば消えるから。後は必要な時に浮き出るけど気にするな」
「は・・・い・・・?」
カイトは首の後ろに手を回して、その部分をさすった。
「呪文もいくつか教えておくから」
カイトの前でいきなり唱え始めた。
「ちょっ、せめて書かせて下さい! いきなりそんなに覚えられません」
「なあに、大丈夫だ」
カエレスはニンマリとした。
足音がして、人が大挙して押し寄せてきた。後ろから国王のヴィルヘルムが進み出てきて跪く。周りの者達も跪いた。カイトもリリアーナもそれに従う。
「カエレス様」
「久しぶりだなヴィルヘルム。悪いがもう失礼するぞ。用事も済んだ事だし。まあ、またすぐに寄せてもらうつもりだ」
リリアーナは(お父様まで跪いて、知ってはいたけどやはり神様なのだわ)と思っていた。カイトは(ヴィルヘルム国王陛下ともお知り合いなのか・・・そしてまた来るのか・・・)と思っていた。
カエレスとフェダーはバルコニーに出ると、ボンッと煙と共にドラゴンに姿を変えた。周りから驚愕の声が上がる。
そして「ああ、カイトにドラゴンの守護を与えておいたから」と言い置くと、翼を広げ飛び去った。
一瞬の後に驚きの声が上がる。
まず、イフリートとサイラスがカイトの側にくると、身体を丹念に調べ始めた。
「多分これだと」
カイトが首の後ろを指差すと、二人して覗き込んだ。イフリートが声に出した。
「これか・・・文字がいくつか重なり合っているように見えるな。」
「これは是非模写させてほしい」
サイラスも興味津々だ。
ヴィルヘルムと、アレクセイと、ルドルフも覗き込んでいる。
「あの、もういいですか・・・?」
カイトは襟足を皆から覗き込まれていて何だか落ち着かない状態である。
サイラスが質問した。
「呪文を教えてもらわなかったか!?」
「教えてもらいましたが・・・ちゃんと覚えてるかどうか・・・」
「外に行くぞ!!」
皆でカイトを掴んで移動し始めた。
「え!? ちょっと待って! リリアーナ様!」
「カイト!!」
リリアーナとちゃんと話し合いたいのに、カイトの叫び虚しく外に連れて行かれてしまった。
後にはリリアーナと、フランチェスカと、騎士二人が残っていた。騎士達はルドルフの部屋を警護していてカイトに伸(の)された先程の二人である。フランチェスカが声を掛けた。
「あなた達、大丈夫だった?」
「ええ、カイトはちゃんと加減していたし、特に身体に支障はないです。リリアーナ様、どうなさいますか?女性騎士を呼んで参りましょうか?」
「いいえ、フランチェスカもいるし、大丈夫よ。貴方達がこのまま警護をしてくれるかしら? カイトの様子を見に行きたいの」
二人の騎士も見に行きたかったので、笑顔で賛同してついてきた。裏庭に向かって人が流れていたのでそちらに向かう。リリアーナを見ると、皆が道を開けてくれた。ヴィルヘルムのいる所まで来ると、前方にカイトが立っているのが見えた。両脇にイフリートとサイラスがいる。
「呪文、覚えてないんですけど」
「全然か?」
「あ? 頭にいくつか浮かんできました。その中からあまり威力が無さそうな奴を」
カイトが呪文を唱え始めると、雲一つない青空だったのにいきなり厚い雲が集まってきた。そして右手が上がり始める。
「何で右手を上げるんだ?」
イフリートが質問した。呪文の合間にカイトが答える。
「分かりません・・・勝手に・・・上がるん・・・です」
雲の上で雷が鳴り始める。それは段々激しくなり、カイトの真上の雲が渦を巻き始めた。
「これ、やばくない?」
サイラスが呟いた。
「カイト! やめろ!!」
イフリートが口を押さえようとして、サイラスは手を下げさせようとした。そしてカイトがポツリと言った。
「呪文・・・自分の意志で止められました」
見る見る雲は散っていき、元の雲一つない青空に戻った。
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