黒の転生騎士

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第七章

じーちゃんとドラゴンと 12  何で帰って来てしまったの?

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またえらいものに守護されたな」
「自分でも驚いています」
 カイトが振り返ると、リリアーナと目が合った。帰って来て、きちんと話すつもりだったのに、まだ最初に怒鳴っただけだ。カイトはイフリートに向き直った。

「イフリート団長。残りの休暇を全部とは言いませんが何日か取らせてもらえませんか?」
「ああ、いいぞ。ドラゴンの抜け殻も大量に持ち帰ってきてお手柄だった。一週間位休むといい」
「ありがとうございます。あと、お願いがあるのですが・・・」
 カイトが小声で話すと、イフリートは了承してくれた。

その後はリリアーナに向かって真っ直ぐに進み、まずヴィルヘルムとアレクセイに胸に手を当て礼をした。そしてリリアーナに向き直る。
「リリアーナ様、婚約者として部屋までエスコートさせて頂けますか?」
「ええ・・・喜んで」
 カイトが右肘を差し出すと、頬を染めてその手に左手を添えた。
 絵になる二人に溜息が洩れる。

「注目される事は慣れてるけど、これだけ視線が集中すると、さすがに緊張するわ・・・」
 リリアーナが益々紅くなった。
「ドラゴン騒ぎで城の者達が殆どここに集まっていますから」
 ドラゴンの守護をリリアーナの婚約者が受けた事で、益々好奇心が増しているのだろう。

 人が少なくなった所で、リリアーナを横抱きにした。
「カイト、私自分で歩けるわ」
 リリアーナが恥かしそうにしている。
「私が走るより早くですか? 早く部屋に帰って、今回の事を話し合いたいのです。フランチェスカが来る前に」
 カイトが走り始めると、リリアーナは納得して押し黙った。それにしても何て早いのだろう・・・。 
 
 リリアーナの部屋に入ると、カイトはリリアーナを横に抱いたままくちづけた。やがて顔を離すと扉に鍵をかけ、リリアーナをソファまで運んで下ろす。その横に自分も腰掛けると、暫くリリアーナを見つめていたが、程なくすると口を開いた。

「リリアーナ様、私を想って向こうの世界に戻そうとして下さったのは分かります。しかし・・・」
「さっきは敬語じゃなかったのに」
 カイトは一瞬戸惑いの表情を浮かべた。
「カイトは私の騎士だけど二人きりの時は敬語じゃないほうが嬉しい。婚約者・・・恋人だから・・・」
 恥じらいながらも告げるリリアーナの片手を取ると、その指先にくちづけた。海を想わせる碧い瞳に視線を合わせ、ひと時の間そうしていた。

「唇にキスしたいけど止まらなくなる・・・話をしなくてはいけないのに」

 カイトは切り替えるように距離を置いて座ると、リリアーナに向き直った。

「リリアーナ、俺の為を想って向こうの世界に戻そうとしてくれたのは分かる。しかし、あの青の平原で意見を少しも聞いてくれなかったのは何故なんだ? それにルドルフ様にまた頼み・・・ひょっとして俺は君にとって、もう必要のない人間なのか?」

 落ち着いてくると疑問が浮かんだ。自分はリリアーナを諦めるつもりはなかった。無意識下で多少の迷いはあったかもしれないが、諦めるという選択肢はなかった。リリアーナがカイトの事を想って行動したにしても、自分がリリアーナを想う気持ちを無視して、簡単に諦める方向に飛びついたようにも思えた。

「違う!! 必要としていないなんて、そんな事はない・・・! カエレス様に話を聞いた時に信じたくなくて、ただの夢だと思おうとした。でも夢ではない事は分かっていた・・・カイトがこの世界にいない事が肌で、感覚で分かったから」

 リリアーナはカイトから視線を外した。
「その感覚は私を引き裂いて、心に穴が空いたように・・・空虚で、カイトのいない世界に一人で生きていく事を考えただけで、死んでしまいたくなった。でも、カイトが苦しんだのも知っていたから・・・。今でもそうなのでしょう? だってまだ、自分を追い込んでいるように見えるもの」

「――それは違う。俺が自分を追い込んでいるように見えるのは、婚約者として、君に相応しい相手でありたいからだ。その為の努力は惜しんでいない」

 リリアーナの顔に驚きの表情が浮かんだ。
「そうだったの・・・私が一言聞けばよかったのね」
「いや、俺も敢えて話さなかったから」

「私、まだ貴方がそうなのだと思って、向こうの世界に帰るのがカイトにとって一番だと考えたの。帰れば前にも言ったようにここでの記憶がなくなるし。もう苦しんでほしくなかった。私の気持ちには蓋をして、貴方を異界に留まらせる事だけを考えたわ。そうでないと哀しみと胸の痛みで、おかしくなってしまいそうだったから・・・」
「リリアーナ・・・」
「でも、思い出してほしかったし、最後に会いたかった。思い出さないでそのまま帰ってこなかったら・・・その事は辛すぎて考える事さえできなかった。だから私の気持ちをカエレス様に送ってもらったし、意識の中で貴方と会ったの。貴方が帰ると言ってくれて嬉しかった。あの時死んでもいいとさえ思った」

 リリアーナはカイトの頬に手を添えた。
「帰ってきてくれたのはとても嬉しい・・・でも、何で帰って来てしまったの? 胸が引き千切れる思いで決心したのに・・・幸せになってほしかった」
 カイトは頬に当てられたリリアーナの手にくちづけた。
「俺の幸せはここにあるのに?」
「私を愛してくれている・・・?」
「狂しくなるほどに」

 カイトはリリアーナを抱き寄せると、深くくちづけた。そして抱き締め、豊かな髪の中に顔を埋(うず)めた。
「青い平原で君の口からルドルフとの婚姻を聞いた時からもう気が気ではなかった。あと3日向こうにいなくてはいけなかったし・・・」
「そういえば、4日じゃなかったの?」
「カエレス様が嘘を教えたんだ。今となっては感謝している。あの3日間、向こうでの時間を悔いの無いものにしようと思っているのに、頭に浮かぶのは君の事ばかりで本当に困った」

 指先でリリアーナの髪の毛を肩の後ろに流すと、白くて滑らかな首筋にくちづける。リリアーナが小さく震えた。
「時間があると、嫌なことばかりが頭に浮かぶ。間に合わなくて、婚姻の誓約書を交わしてしまった時の事とか。その時は無効宣告を考えていたが、突っ走る君の事だ。事に及ぼうとするのではないかと気が気ではなかった」
 リリアーナが紅くなる。
「そこまでの度胸は私にはないわ。キスもできなかったし・・・」

 カイトはリリアーナの顎を捉えると、ゆっくりと顔を近づけ唇が触れる寸前で囁いた。
「もう二度と他の人で試さないでくれ」
 そしてリリアーナが答える前にその唇を塞いでしまった。カイトの想いが籠もったキスにリリアーナは圧倒される。キスが終わっても暫くはカイトの胸に寄り掛かり浅く息をし、身動きできない程であった。

 カイトの胸にもたれたままではあるが、少し落ち着いたリリアーナの左手を取ると、薬指にあの指輪を嵌めた。
「君が・・・覚悟をして置いていった指輪だ」
 頭のてっぺんにキスを落とす。リリアーナは嬉しそうに夕焼けに染まりつつある部屋の中で、左手をほんの少し上げて見入っている。ルビーが夕焼けの中できらめいた。リリアーナがふと気付く。
「何でフランチェスカは来ないのかしら? 随分時間が経つのに」
「ああ、それは――」

 その頃、イフリートとサイラスとスティーブはフランチェスカを引き止めていた。
先程カイトがイフリートにお願いしていたのはフランチェスカの足止めだ。最初イフリートが引き止めていたが、ギブアップして、今はサイラスだ。

「フランチェスカ、君だって二人には上手くいってほしいだろう? もう少し二人きりの時間を過ごさせてやってくれないか?」 
「でも、今日カイトはリリアーナ様を怒鳴りつけたんですよ! いつもと様子が何だか違って・・・やっぱり、もうこれ以上待てない!」

 走り出そうとするフランチェスカを見て、イフリートが命令する。
「スティーブ次はお前だ」
「団長~、俺は今日、殆ど一人で神様の相手をして、目の前で人間に変身するのを見せられて、肉体的にも精神的にもへとへとです」
 泣き言を言いながらも団長の命令には逆らえない。羽交い絞めにしようとして、ビンタを食らった。 


#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。 
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