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第七章
じーちゃんとドラゴンと 10 怒鳴ってしまいました
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ドラゴンが飛び立つと、視界が開けて風を受けた。
「うわ、気持ちがいいな!」
馬や抜け殻を入れた透明の珠もピッタリと付いて来ている。
「あっという間に着くぞ。着いたらどこに下ろす?」
「井戸のある中庭です。建物で囲まれているので、姿を外から隠してくれます。あそこなら人も少ないと思うし、広さもある。ただ、建物の中にいる者達には窓から覗いたらすぐに分かってしまいますが」
「了解した」
少ないといってもやはり人目には付く。着地しようとすると、あれよあれよと城の者達が集まってきた。
カイトがドラゴンの背から下りるのを皆で呆然として見ている。スティーブが近付いてきて恐る恐る声を掛けた。
「カイト、これは一体・・・」
「スティーブ! 丁度良かった。リリアーナ様はどこだ!?」
思わず両手でスティーブの襟首を掴む。
「い、今だったら多分ルドルフ様と」
「ルドルフが来てるのか!?」
「お前、呼び捨てはまずいぞ。大体お前に謝りに・・・」
ドラゴンが口を挟んだ。
「四階の、一番いい部屋にいるぞ。リリアーナと二人きりでな」
それを聞くなりカイトは顔色を変え、飛ぶように走り去った。後にはドラゴン親子と馬と抜け殻が残った。
やはり異界は身体が軽い。いつもは気にして落とすスピードをそのままに、全速力で駆け抜けると、あっという間に四階の部屋に着いた。貴賓客用の客室の前には護衛とフランチェスカが立っている。
「カイト ――! まだ一ヶ月経っていないのに、何故ここに・・・? それより、大変なの! リリアーナ様がいきなり貴方との婚約を破棄して、ルドルフ様と結婚すると言い出して」
「リリアーナ様はこの中か? 何で付き添いの君が同行しない?」
「誤解されても構わないからって、返ってそのほうが好都合だと言って」
カイトの顔が険しくなった。中に入ろうとすると、護衛についていた先輩騎士達が行く手を阻む。
「カイト、リリアーナ様に誰も通さないように言い付かっているんだ」
「先輩方、すいません」
カイトが構えると、先輩騎士達は覚悟を決め、半ばやけくそでかかってきた。申し訳ない思いで瞬殺すると、扉の取っ手に手を掛けた。
「開かない」
虚しくガチャガチャと音がするだけである。
「中から鍵を掛けてるみたいよって、カイト! 壊す気!?」
言ってる側から思いっ切り、蹴り開けた。中に入るとリリアーナにキスしようとしていたルドルフと目が合う。深く考える前に身体が動く。ルドルフに上段回し蹴りを食らわそうとした時にリリアーナの声が耳に入った。
「カイト! 違うの! ルドルフ様は私が他の男性とキスできない事を教えてくれたの!」
ピタッと寸前で足が止まった。ルドルフがその場にへたへたと座り込む。
カイトは視界の端に映った婚姻誓約書を手に取るとびりびりに破り捨てた。
「婚約は!?」
「ま、まだそのまま・・・取り敢えず誓約書を交わして、その情報をカエレス様に送ってもらおうと思ってたから・・・」
「一体何をしているんだ!!」
リリアーナがびくっとした。
「人の幸せを勝手に決めるな! 勝手に判断するんじゃない!」
「だって、だって・・・あちらにいれば、カイトは苦しまずに済むし、幸せになれると思ったから・・・」
涙ぐんでいるリリアーナを抱き寄せると、カイトは深い溜息をついた。
「怒鳴りつけて悪かった・・・君の事になると、冷静ではいられなくて。それにしても俺は金輪際、長期休暇を取らないからな。もう二度と目を離さないようにする。一体この可愛い頭で何を考えているのか・・・」
「カイト・・・」
「ん?」
「帰ってきてくれて・・・嬉しい・・・」
「うん」
カイトはリリアーナの頬にそっと触れると、そのまま手を滑らせて華奢な顎を捉えた。涙で濡れた碧い瞳を暫くは見つめていたが、ゆっくりと顔を近づけて静かに唇を重ねる。リリアーナは躊躇(ためら)いがちにそれに答え、カイトの広い背中に手を回してしがみ付いた。いつまでも終わらないくちづけに、ルドルフが声を上げた。
「あの、ここ僕の部屋なんだけど、できれば他でやってくれないかな」
カイトがやっと顔を上げた。
「あ、ルドルフ様・・・すいません。先程は失礼いたしました」
「遅いよ! ・・・まあ、君には前回迷惑をかけたし、僕は君に謝りに来た訳だし・・・差し引きゼロで手を打つよ」
身長が高く長い黒髪を持つ30代に見える男性が入ってきた。
「お前はやっぱり成長しとらんな」
「カエレス様ですか・・・?」
「おうよ、あのままの格好だと目立つからな」
リリアーナが急いで膝と腰を折り、深々と頭を下げた。
「ああ、畏 (かしこ) まるな。わしはフランクな神様をモットーとしておる」
「神様・・・?」
ルドルフが絶句している。
「カイトー!」
「フェダーか・・・? 人間の格好だと、翔そのものだな」
あちらの翔よりは幼いが、年齢が違うだけだとすぐに分かる。
「へへ・・・」
「まあ、可愛い!」
リリアーナに抱っこされて嬉しそうだ。
「うわ、気持ちがいいな!」
馬や抜け殻を入れた透明の珠もピッタリと付いて来ている。
「あっという間に着くぞ。着いたらどこに下ろす?」
「井戸のある中庭です。建物で囲まれているので、姿を外から隠してくれます。あそこなら人も少ないと思うし、広さもある。ただ、建物の中にいる者達には窓から覗いたらすぐに分かってしまいますが」
「了解した」
少ないといってもやはり人目には付く。着地しようとすると、あれよあれよと城の者達が集まってきた。
カイトがドラゴンの背から下りるのを皆で呆然として見ている。スティーブが近付いてきて恐る恐る声を掛けた。
「カイト、これは一体・・・」
「スティーブ! 丁度良かった。リリアーナ様はどこだ!?」
思わず両手でスティーブの襟首を掴む。
「い、今だったら多分ルドルフ様と」
「ルドルフが来てるのか!?」
「お前、呼び捨てはまずいぞ。大体お前に謝りに・・・」
ドラゴンが口を挟んだ。
「四階の、一番いい部屋にいるぞ。リリアーナと二人きりでな」
それを聞くなりカイトは顔色を変え、飛ぶように走り去った。後にはドラゴン親子と馬と抜け殻が残った。
やはり異界は身体が軽い。いつもは気にして落とすスピードをそのままに、全速力で駆け抜けると、あっという間に四階の部屋に着いた。貴賓客用の客室の前には護衛とフランチェスカが立っている。
「カイト ――! まだ一ヶ月経っていないのに、何故ここに・・・? それより、大変なの! リリアーナ様がいきなり貴方との婚約を破棄して、ルドルフ様と結婚すると言い出して」
「リリアーナ様はこの中か? 何で付き添いの君が同行しない?」
「誤解されても構わないからって、返ってそのほうが好都合だと言って」
カイトの顔が険しくなった。中に入ろうとすると、護衛についていた先輩騎士達が行く手を阻む。
「カイト、リリアーナ様に誰も通さないように言い付かっているんだ」
「先輩方、すいません」
カイトが構えると、先輩騎士達は覚悟を決め、半ばやけくそでかかってきた。申し訳ない思いで瞬殺すると、扉の取っ手に手を掛けた。
「開かない」
虚しくガチャガチャと音がするだけである。
「中から鍵を掛けてるみたいよって、カイト! 壊す気!?」
言ってる側から思いっ切り、蹴り開けた。中に入るとリリアーナにキスしようとしていたルドルフと目が合う。深く考える前に身体が動く。ルドルフに上段回し蹴りを食らわそうとした時にリリアーナの声が耳に入った。
「カイト! 違うの! ルドルフ様は私が他の男性とキスできない事を教えてくれたの!」
ピタッと寸前で足が止まった。ルドルフがその場にへたへたと座り込む。
カイトは視界の端に映った婚姻誓約書を手に取るとびりびりに破り捨てた。
「婚約は!?」
「ま、まだそのまま・・・取り敢えず誓約書を交わして、その情報をカエレス様に送ってもらおうと思ってたから・・・」
「一体何をしているんだ!!」
リリアーナがびくっとした。
「人の幸せを勝手に決めるな! 勝手に判断するんじゃない!」
「だって、だって・・・あちらにいれば、カイトは苦しまずに済むし、幸せになれると思ったから・・・」
涙ぐんでいるリリアーナを抱き寄せると、カイトは深い溜息をついた。
「怒鳴りつけて悪かった・・・君の事になると、冷静ではいられなくて。それにしても俺は金輪際、長期休暇を取らないからな。もう二度と目を離さないようにする。一体この可愛い頭で何を考えているのか・・・」
「カイト・・・」
「ん?」
「帰ってきてくれて・・・嬉しい・・・」
「うん」
カイトはリリアーナの頬にそっと触れると、そのまま手を滑らせて華奢な顎を捉えた。涙で濡れた碧い瞳を暫くは見つめていたが、ゆっくりと顔を近づけて静かに唇を重ねる。リリアーナは躊躇(ためら)いがちにそれに答え、カイトの広い背中に手を回してしがみ付いた。いつまでも終わらないくちづけに、ルドルフが声を上げた。
「あの、ここ僕の部屋なんだけど、できれば他でやってくれないかな」
カイトがやっと顔を上げた。
「あ、ルドルフ様・・・すいません。先程は失礼いたしました」
「遅いよ! ・・・まあ、君には前回迷惑をかけたし、僕は君に謝りに来た訳だし・・・差し引きゼロで手を打つよ」
身長が高く長い黒髪を持つ30代に見える男性が入ってきた。
「お前はやっぱり成長しとらんな」
「カエレス様ですか・・・?」
「おうよ、あのままの格好だと目立つからな」
リリアーナが急いで膝と腰を折り、深々と頭を下げた。
「ああ、畏 (かしこ) まるな。わしはフランクな神様をモットーとしておる」
「神様・・・?」
ルドルフが絶句している。
「カイトー!」
「フェダーか・・・? 人間の格好だと、翔そのものだな」
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「へへ・・・」
「まあ、可愛い!」
リリアーナに抱っこされて嬉しそうだ。
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