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二人の修行 ①

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俺たちは、戦力としての常盤さんを失い。白神は右腕のトキオを文字通り失った。

俺たちが常盤さんを失った痛手は大きい。でも白神にとってトキオがどれほどの存在だったかは知ることは出来ない。この先、事を起こすにあたって白神が新たな人物を使うのか、それとも自分自身が動くのか、それは誰にもわからない。
でも、白神の計画が最終段階に入ったことは間違いないだろう。

司さんと話し合いが終わった後、ゆずが男部屋にやって来て、「お館様。食堂にお越しください。」
そう言ってさっさと部屋を出て行く。

俺が食堂に向かうと、食堂には、ここにいる人の他に、高木班長と山田さんも来ていた。
みんなが食堂で芋に鍋を囲んでいる。昨日はあの騒ぎで芋煮会がお開きになったのだと俺はその時知った。

「俺たちもこっちに戻ることになったよ。」
隣に座った高木班長が俺にそう言う。

みんなに鍋が提供された。
「カレーとお鍋は二日目が美味しいんだよ!」
ゆずがそんなことを言い出す。」

俺たちは、また一致団結して事にあたることになった。来年も再来年もこのメンバーで仕事ができたら良いと心から思った。

俺に、鍋のお替りを持ってきたゆずの槍が俺の肩にあたる。
あの日から、肌身離さず槍を身に着けていると杉山さんが言った。

「え?風呂の時もですか?」

「もちろん、お風呂場にも持ってきてます。まぁ、ゆずちゃんの気持ちもわからなくはないのですが、、、。」
と杉山さんは言った。

これは、困った問題かもしれない。ゆずが24時間槍に気を配って生活していたらきっとゆずは疲れてしまうだろう。俺は何とか手を考えなければいけないと思った。

食事の後、ゆずを呼び出すと、ゆずは背中に槍を持って現れた。 

「ゆず。あれからお前ずーっと小十郎を持ち歩いてるよな。」

「もちろんですよ。お館様。この小十郎は、ゆずが白神家当主として、お館様から拝領した大事な刀でございますから。当然です。」

「でも、四六時中持ち歩いたら疲れないか?」

「今回、ゆずが小十郎を持ち歩いていれば、サキおねえちゃんが悪いことをして捕まることもありませんでした、、、。」
ゆずは常盤さんが白神に利用され逮捕されたことに責任を感じているらしい。

「ゆずの気持ちはよく解るよ。もし、盗まれたのが政宗守だったら、俺もゆずと同じように政宗守を持ち歩いたかもしれないよ。でも、それ持ち歩いてると疲れないか?」

「疲れません!」

「それを持ち歩いて、まだ二日だろ?この先何年もこの戦いが続いたら何年も持ち歩くのか?」

「何年も続くのですか?」

「もし続いたらって話だよ。その前にやつを捕まえるつもりだけどさ。」

「それなら、健吾を捕まえるまで小十郎を持ち歩くことにします。」
話が見事ふりだしに戻った、、、。
俺はゆずの隣で無い知恵を絞り続けた。

「こんなところで、二人っきりで何の相談ですか?」
そう言って宗助所長が入って来る。

俺は、ゆずが小十郎を持ち歩いている事や、俺自身も政宗守の保管や所持について不安があることを相談してみる。

「なるほどねぇ。確かに、江戸時代じゃないですから。ああいったシロモノの所持や保管には気を使いますよね~。うかつに仙台市内で持ち歩いたら銃刀法違反で逮捕されちゃいますよねぇ。はははは、、は、は。」
俺とゆずの冷たい視線を感じて宗助所長の笑いが止まる。

「俺たちは真剣にお話してるんですよ!」

「ごめん、ごめん。方法は二つあります。」

「え?二つもあるんですか?」

「一つは、大きなぬいぐるみを買ってきて、中に刀を仕舞えるようにカスタマイズする。見た目にもかわいいし、使わない時もモフモフしてるから癒されるでしょ。」

「宗助所長!」
「宗助殿!」

俺とゆずが同時に突っこむ。

「いやいや、真面目な話こっちの方がお手軽な方法だから先にお話ししたんですよ。」

「じゃ、お手軽じゃない方を教えてください。」

「お手軽じゃない方は、残念ながらアタシは教えることができないんですよ。その技術を持ってるのは、平助の方なんです。」

「平助さんですか?」

「そうです。」

「でも、いつ戦いが起こるかわからない今の状況だと、必要かもしれませんね。わかりました、アタシから平助に話しておきますよ。先日、安芸姉ちゃんから「よろしく」って言われて平助もご機嫌でしたから、教えてくれるでしょう。明日日が暮れたら二人とも寺の本堂に動きやすい恰好で来てください。」

「わかりました。」

「ただし、平助の教え方はちょっとばっかりスパルタですから、二人とも覚悟しておいてくださいよ。」

宗助所長の一言に俺とゆずは身の引き締まる思いがした。


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