眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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二人の修行 ②

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翌日、俺は日が沈むとTシャツにジャージと言う姿で寺の本堂に向かった。
廊下の途中でゆずが合流する。ゆずは通っている小学校の体操着を着てきたようだ。
本堂に入ると、まだ平助さんは来ていない。

俺たちは、平助さんの到着を待った。
5分ほど後に平助さんが現れる。

「もう来てたんですか。二人とも感心、感心。」
平助さんも、いつものスーツ姿ではなくジャージを着ている。でも、スマ眷にいる時の宗助所長のジャージ姿とはまるで違う、、、。ジャージ姿もなんてスタイリッシュ。この姿を日本中の平助ファンのマダムにもお見せしたいくらいだ。

「それじゃ、座って下さい。これから君たちに教える技の説明をします。これから君たちが習得するのは、この次元ではない次元に空間を作り、物を自由に出し入れするという技です。宗助から、君たちが妖魔刀の保管や所持に苦心していると聞きました。確かに、この技は君たちには必要かもしれませんね。」

「もしかすると、ゆずさんは楽にこの技を習得できるかもしれません。この技にとって邪魔なのは雑念です!集中力が高くて雑念の少ない子供の方が技の習得は簡単かもしれません。」

平助さんが俺を見る。
「一方、一宇君は宗助タイプですからね。難しいでしょう。この技を私と宗助は同時に先代の秦家当主から学んだのですが、宗助にとっては頭の中を真っ白にするということが難しかったようです。一宇君は、雑念を払い無心になる。この事に心を砕いて頑張ってください。」

「はい、、、。頑張ります。」

「宗助から、二人に伝言があります。「習得できなかった時のために、モフモフを準備しておく。」だそうです。モフモフがなんだか判りませんが、二人とも頑張って習得しましょう。」

モフモフ、、、。それだけは避けたい。

「それでは、寺の周囲を走ってきていただきましょうか。ゆずは3周。一宇君は10周です。はい、さっさと行って走る!」

俺たちは急いで本堂を出て寺の周囲を走り出す。先に3周走り終えたゆずが本堂に戻る。俺も急いで残り7周を走り終え本堂に戻った。ゆずは座禅を組んで技の習得に入っているようだ。俺もゆずの隣に腰を下ろそうとする。

「君はまだですよ。一宇君。まだまだ体力が残っているようですから、そこで腕立て伏せを50回してください。」

「う、腕立て50回、、、はい。頑張ります。」

腕立て50回なんて、人生で一度もしたことはない。

「1,2,2、、3,4、、5,6、、、。」
マジできつい。

「12、、、、13,14、、、15、、、。35、、、、36,37.。。42、、28、、、29、、50!終わったぁ。」

「一宇君お静かに。一宇君は、少し休んで待っててください。」

俺は寝転がったまま、ゆずを眺める。ゆずが小十郎を手に取る。

「箱が見えるでしょ、ゆず。その中に今手に取った小十郎を入れてみてください。」

ゆずが小十郎を手に持ち前に差し出すしぐさをする。

消えた!

小十郎が先の方から消えていく、最後にはゆずの手首まで消えてなくなった。

「いいですよ。ゆず。怖がらないで手を放して、そこから引き抜いて。」

言われた通りゆずが手を引き出す。ゆずの手だけが見えない箱から出てくる。

「できました!平助先生。」

「喜ぶのは、まだ早いですよ、ゆず。入れたものを取り出せなければ意味はありませんよ。その入れ物はゆずだけの入れ物です。慣れてくれば、小十郎の槍だけではなく、色々入れておけるようになります。」

ゆずの手の先がまた消える、そしてゆずの手と一緒に槍がスルスルと現れる。
手品でも見ているようだ。あっという間に槍を握ったゆずの手が現れた。

「ゆず、合格です。一度出来ればあとは問題ないでしょう。驚きましたよ。こんなに早くできるなんて。後は、小十郎をそこに保管しておけば安心でしょう。」

「ありがとうございます。平助先生。」

「ゆずは、もう行っていいですよ。さて、次は君ですね一宇君。ここに座禅を組んで座って下さい。」

俺は言われた通りに平助さんの前で座禅を組む。

「何も考えないでください。頭の中は真っ白ですよ。」

何も考えない、、。真っ白、、、。考えない、、、。

「やっぱり、、、、。そうなると思いましたよ。宗助と同じです。今、何も考えないって思ったでしょ。」

バレてる、、、。

「ちょっと待っててください。」
そう言って立ち上がった平助さんが、本堂の仏像の前に置いてあった、お輪(おりん)を持って戻って来た。一宇君は瞑想をしたことがありますか?」

「迷走?今、迷走してますけど、、。」

「その迷走ではありませんよ。もういいです、、、。瞑想の状態というのが異次元の扉を開く状態によく似ています。瞑想については後で辞書でも引いて調べておくように。やり方だけ説明しますよ、今から私がこのお鈴を鳴らしますから。君はその鐘の音だけに集中してください。そして、鐘の音が消えた瞬間に心が落ち着いてきます。そうしたら心の中に政宗守が入るサイズの箱をイメージしてください。一宇君の場合、一度に全部は無理でしょう。とりあえずここまでやってみましょう。目を閉じて。」

ちーーーーーーーーーーーーん。

消えたな、、、、。政宗守の入る大きさの箱、、、。あれ、これくらいだっけ??

「ダメ!音が消えたとか、箱の大きさとかを考えちゃ駄目なんですよ!」

「すいません。つい、、、。」

「いいんですよ。宗助と一緒に修行した経験がありますから、一宇君が簡単にマスターできないことは織り込み済みです。ふふふふ。君のような生徒と巡り合えて、私は嬉しいです。すぐに超えられない山というのはクライマーを魅了するものなんですよ。」

平助さん、、。ちょっと怖い。この人、宗助さんとは違う意味で曲者なのかもしれない。

「申し訳ないけど、今日はこれから日本政府とネット会談があってね。明日も同じ時間に訓練しましょう。時間の節約のために、私が来る前に本堂の周囲を15周。腕立て50回。スクワット50回をやっておいてください。」

げげっ、増えてる。

「はい。わかりました、、、。」

「後で瞑想に良い音楽を部下に届けさせましょう。」

「ありがとうございます。」

「他にも良い方法があったら、どんどん取り入れていきますよ。」
平助さんの目がきらりと光った、、、ような気がする。

「お忙しいのに、すみません。」

「いいんですよ。」
宗助所長が本堂を出た後、入れ替わりでゆずが入って来る。ゆずは俺たちのやり取りを見ていたようだ。

「お館様。明日はきっと出来ます!エイ、エイ、オー!」
と俺を励ましてくれた。

このままできなかったら、モフモフ作戦、、、、。ダメダメ。ぬいぐるみを背負って街を闊歩するなんて俺にはできない!できたとしても、それはそれで怪しいだろ!

「ゆず。俺、がんばるよ!」

「そうですよ。もしできないとモフモフですよ!お館様!」

ゆずが俺の傷口をビリビリと破いて広げる、、、、。
明日は、20周走って、腕立てとスクワットを100回やって平助さんを待とう!そう俺は心に決めた。
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