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やっと6歳

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 22日間の馬車の旅は、概ね順調でした。私は半分抜け出して、いませんでしたから、不在の間の事はセバス族兄妹に聞きましたよ。
 父は予想通り王都付近まで騎乗していましたし、魔物が近づいてきても察知したオニキスかモリオンが、砂漠に強制転移させてしまいましたので、安全でした。戦うのは時間の無駄なので、却下です。父が本数を気にしながら酔い止めを飲むので、早く移動から解放してあげたくて。
 約1名「活躍の場が・・・」とかぼやいていましたけど、無視しました。

 王都へ入る前に、父は馬車に乗り込みました。
 カーライル特製の酔い止めを一気にあおります。すでに顔が青いのはなぜでしょうか。心配しなくても効くから大丈夫ですよ。

「カーラ。父の力が及ばず、お前を盾にするようなことになって、すまない」

 旅の間、父が何か言いたげにしていましたが、これでしたか。
 侯爵とはいえ、上には逆らえませんからね。それに今回のパーティーは王太子に近い年齢の5歳以上12歳未満の貴族の子供たちを招集するという、ある種の踏み絵の様相を呈していますし。拒否すれば王家に逆らう意思ありとされてしまうかもしれません。仕方がないでしょう。

「いいえ、お父様。私は気にしていません。それに私が戦争の抑止力になるというのなら、本望です」

 父の目が見開かれます。
 あ、しまった。カーラはまだ召集の詳しい理由を知らないはずでした。必殺、笑って誤魔化すを発動します。もう6歳なので、効果は薄いでしょうけど。
 父は苦虫をかみつぶしたような顔をしましたが、何も言いませんでした。

 なんとなく気まずいまま、王都にあるテトラディル侯爵邸に着きました。
 そこからパーティまでの約1月、目まぐるしく忙しい日が続きました。抜け出したり、ドレスの試着をしたり、抜け出したり、作法の勉強をしたり、抜け出したり、今回参加する貴族たちの名前と関係を覚えたり、抜け出したり、マンゴー食べたり・・・。
 自分で自分の首を絞めているともいうかもしれないです。

 父はというと、まだカーラを盾にするのをためらっているようで、あちらこちらに出かけては肩を落として帰ってきました。
 夜の女神の例からすると、その周囲の人間に手を出さなければ安全です。
 もしもガンガーラが暗殺を企むにしても、周囲の人間に手を出すよりカーラ本人を狙うでしょう。発動させなければいいわけですから。周囲の人間を狙ったとしても、報復がその場で発動するとも限りませんからね。
 つまり危険を伴うのはカーラとその周囲の人間で、さらに国境のテトラディル領に帰らせれば巻き添えもない。
 ガンガーラも結果が不確かな危険物に、触れてはこないだろうという考えですかね。
 使うのも持っているのも気を遣う危険物って、私は核兵器か。

 父の努力も空しく、ついにパーティー当日はやってきました。
 用意されたドレスは薄紅色。精神年齢34歳の私には抵抗があるのですが、仕方がありません。
 鏡の中のカーラは、生花を編み込まれてハーフアップにされ、ややきつく見える目元を和らげるように薄くメイクされ、ドレスと同じ薄紅色の口紅をひかれています。
 自分フィルターを通しても、かわいい。チェリが横で満足そうにうなずいています。

『美しいよ、カーラ』

 オニキスがほうっとため息をつきました。と、何かの気配を感じたのか、扉へ視線を向けます。ノックしてから入ってきたのは、父でした。

「準備はできたか?」
「はい、お父様」

 いざ、出陣です! 私はまだ婚約者がいませんので、父がエスコート役です。
 今回のパーティー参加対象の子供たちは約30人。その半数程度がすでに婚約しています。カーラの婚約はいつ決まるのでしょうか。

 父はなるべく遅く会場入りしたいようで、ぎりぎり間に合うかなという時間に王城に着きました。
 どこまで夜の女神の話が浸透しているかはわかりませんが、父の反応からして、ほぼすべての貴族が知っていると読んで間違いないでしょう。
 化け物扱いは地味に傷つくんですよね。下手をすると消されると思っているでしょうから、面と向かって何か言われたり、されたりすることはないでしょうけど。

 父にエスコートされて、会場に足を踏み入れました。
 さすが王城。入ってすぐ目に入る豪奢なシャンデリアが、大理石の床を照らしています。まだ昼下がりなのですから、もう少し光源を落としてもいいと思うのですが。
 輝くシャンデリアに目を細めると、会場がしんと静まり返りました。痛いほどの視線を感じます。オニキスが不快げにふんすと鼻を鳴らしました。

『呼びつけておいて、この態度。気に入らんな』

 まあまあ。相手はまだ子供ですから。大人も交じってますけど、気にしたら負けです。
 父は明らかに作り笑顔という感じで、辺りをけん制しています。目が怖いですよ!

「ご列席の皆さま、ご静粛に!」

 いやいや、もう静かだから。とは、誰も突っ込みません。
 凍り付いた場が、一気に解け、皆が壇上の扉に注目しました。計ったようなタイミングですね。実際、計ったのでしょうけど。

「ハインツ・リヒト・モノクロード国王陛下、ヒースクリフ・ヴォール・モノクロード殿下、フランツ・モノクロード殿下、ヘンリー・モノクロード殿下のご入場です!」

 王族の方々が、壇上にそろいました。さあ、パーティーの始まりですよ。
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