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第一章
☆3
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ティアは塔に戻ると男を自分のベットに寝かせた。目を閉ざしているが男は美しい、綺麗だとティアは見惚れた。食事を持ってくるメンデは例えるなら小川のせせらぎ。一方、この男は春の優しい闇夜のようだ。宝物を見つけたようなうきうきとした気持ちになる。男の傷口は癒えたがだいぶ男は血を失っている。安静にしている必要がある。そして、栄養がある食べ物も。ティアは置きっぱなしにしていたパンを取りに行く。ぽつぽつ、と雨が降り始めていた。風が荒れてティアが顔を隠していた布を拐っていった。慌てて手を伸ばすが間に合わず虚空を掴んだ。
「しょうがない、まだ、おきない」
あれだけ血を失ったのだ。普通の人間ならば数日間は目を覚まさないであろう。布を追いかけるのは諦めることにした。後で変わりに顔を隠すものを探さないと。そう、思い気を取り直した。ティアは塔の中に戻ると清潔な台の上に食べ物を置いた。自分のならどこに置いても構わないが、これは男が食べるものになった。大切にしなければならない。
「……っ、…」
低い呻き声が聞こえた。微かな声もティアにはすぐ近くに聞こえる。視力もよく、薄暗い塔の中でもはっきり物がよく見える。
男は眉間に皺を寄せ苦しそうに顔を歪めている。
思わずティアは頑張って、大丈夫だよと励ましたくなりベットの側に駆け寄って男の手を握った。
「セシル?…っ、化け物め!」
手を握られると男はぴくりと瞼を小刻みに震わせゆっくりと目を開いた。ぼんやりとした顔をしていたが、視点が定まりティアの顔を捉えた。白い毛並みにはべっとりと赤い血が付着していた。
人間ではない、獣の顔。男は驚いて手を振り払った。
「俺を喰らう気だな、卑しい化け物め、俺が退治してやる!」
憎しみで爛々と輝く蒼い瞳。男の怒鳴り声。怖かった。セシル、と呼んだその声はとても優しかったのに。化け物のティアには誰もそんな暖かな声で名前を呼んでくれないのだ、と悲しくなった。
「…っ、ティア、にんげん、たべないよお!みんなと、おなじ、ものをたべる、パンとかおにぎりとか、……こわ、くないよ」
ティアは大きな琥珀色の瞳からぽろぽろ、と大粒の涙を流した。胸が張り裂けそうになって、苦しい。男の言葉が深く突き刺さり傷付いた。
まさか、化け物が泣くとは思わず男は慌てた。
そして気がつく。自分の身体はどこも噛まれたような痛みや傷口はなくむしろ、治癒していることに。
「しょうがない、まだ、おきない」
あれだけ血を失ったのだ。普通の人間ならば数日間は目を覚まさないであろう。布を追いかけるのは諦めることにした。後で変わりに顔を隠すものを探さないと。そう、思い気を取り直した。ティアは塔の中に戻ると清潔な台の上に食べ物を置いた。自分のならどこに置いても構わないが、これは男が食べるものになった。大切にしなければならない。
「……っ、…」
低い呻き声が聞こえた。微かな声もティアにはすぐ近くに聞こえる。視力もよく、薄暗い塔の中でもはっきり物がよく見える。
男は眉間に皺を寄せ苦しそうに顔を歪めている。
思わずティアは頑張って、大丈夫だよと励ましたくなりベットの側に駆け寄って男の手を握った。
「セシル?…っ、化け物め!」
手を握られると男はぴくりと瞼を小刻みに震わせゆっくりと目を開いた。ぼんやりとした顔をしていたが、視点が定まりティアの顔を捉えた。白い毛並みにはべっとりと赤い血が付着していた。
人間ではない、獣の顔。男は驚いて手を振り払った。
「俺を喰らう気だな、卑しい化け物め、俺が退治してやる!」
憎しみで爛々と輝く蒼い瞳。男の怒鳴り声。怖かった。セシル、と呼んだその声はとても優しかったのに。化け物のティアには誰もそんな暖かな声で名前を呼んでくれないのだ、と悲しくなった。
「…っ、ティア、にんげん、たべないよお!みんなと、おなじ、ものをたべる、パンとかおにぎりとか、……こわ、くないよ」
ティアは大きな琥珀色の瞳からぽろぽろ、と大粒の涙を流した。胸が張り裂けそうになって、苦しい。男の言葉が深く突き刺さり傷付いた。
まさか、化け物が泣くとは思わず男は慌てた。
そして気がつく。自分の身体はどこも噛まれたような痛みや傷口はなくむしろ、治癒していることに。
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