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テンペスト騎士団編
ゴンゾウとの組手
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「……気付いた?」
「……迷宮に居たときから、違和感はあった」
ゴンゾウに視線を向けられ、レノは素直に頷く。左腕を失って以来、今までずっと右腕でのみで魔法を発現させてきた。それには理由があり、今のレノは左腕から魔法は発現できないのだ。
黒衣の左腕を確認し、包帯を解けば風の魔力が吹き荒れる。この左腕には常に「腕」の形をした風の魔力が形成しているため、以前のように風属性や雷属性の魔法は発現できない。
この世界の魔法とは杖や魔石の媒介無しに生み出す場合、必ずと言っていいほどに掌から放出しなければならない。肉体強化(アクセル)や部分強化(撃雷・雷槍)とは違い、魔法を発動させて外部に放つためには必ず両腕のどちらかの掌を使用しなければならない。
一流の魔術師ならば自分の周囲に魔球(魔力で形成された球体)を生成し、相手に撃ち放つ事も可能だろうが、独学で魔法を行使していたレノにはそのような芸当は不可能。それに右腕にはアイリィから刻まれた「紋様」があり、右手で魔法を発現させれば同時に紋様で魔力は強化する事も可能なので、どうしても右手を使用しなければ魔法は発現できなかった。。
「……左腕、どうした」
「油断してやられた」
「そうか……」
左腕を奪ったのは「甲冑の騎士」の攻撃だが、あの時のレノは完全に油断していた。その事が彼に隙を生み、泥沼の中に眠っていた甲冑の騎士の反撃に反応が出来なかった。あの時、一瞬でも泥沼の中に沈んだ甲冑の騎士に視線を反らさなければ左腕は無事だっただろう。だが、その一瞬の油断が左腕を永遠に失わせたのだ。
試しに聖導教会で治療は出来ないかを尋ねてみたが、彼らの話では例え最高位の魔導士である「聖天魔導士」だろうと、最高権力者である「巫女姫」であろうと彼の腕を再生する事は出来ないという。盗賊王であるホノカが治めている交易都市ならば優れた義手があるかも知れないが、黒衣がある以上は今の所は訪れる必要はない。
「まあ……失ったけど収納には便利かな」
「……痛くない、のか?」
「最初の頃は喪失感の方が酷かったかな……今はそんなに」
「腕が無い魔術師は、珍しい」
「だろうね……」
基本的に魔術師は後方支援を行うため、肉体を損傷する事は少ない。戦争に置いても彼らは五体満足で生き残るが、殺されるかの二択である。身体の一部だけを損傷して戦を生き残る魔術師は少ない。
肉体を損傷しても生み出す肉体の魔力容量は変わらず、魔法を発動させる分には問題は無いが、レノの場合は常に黒衣で左腕を形成するために魔力を放出している事になる。寝ている時や休憩している時は魔力は遮断しているが、普段からレノは左腕を形成するために魔力を放出し続ける事ができるのはハーフエルフである彼だからこその芸当であり、普通の人間には真似は出来ない。
「さて……ゴンちゃん」
「うん?」
棍棒を肩に担ぎ、再び素振りを始めようとした彼に視線を向け、
「――少し組手でもやろうか?」
数分後、レノは棍棒を構えたまま5メートルの距離を保つゴンゾウを前にしており、自身は左腕の黒衣から銀の鎖を出現させ、鎖で左腕に巻き付けて鎖の腕に変化させる。鎖で左腕を覆っている間は打撃も有効であり、鎖に魔力を流し込む事で「撃雷」や「雷撃」も発現出来る。
この組手では聖爪は封印し、単純な打撃だけで彼に挑むことを決める。その代わりと言っては何だが、ゴンゾウも棍棒を右腕だけで取り扱う事を約束した。
「……レノォッ!!」
「っ!!」
ドオオンッ!!
先に動き出したのはゴンゾウであり、巨体でありながら俊敏な動きで向かってくる。咄嗟にレノは瞬脚を行い、嵐の魔力を足元に放出させて後退を行おうとした時、
「ふんっ!!」
「何……!?」
ガキィイイインッ!!
一瞬、ゴンゾウが加速したと思うとレノが下がる前に棍棒を振り落としてくる。避けるのは不可能であり、瞬時にレノは「肉体強化(アクセル)」を行うと同時に鎖を巻き付けた左腕で受け止めた。
ギィイインッ……!!
「ぬぐっ……!?」
「ぐぅっ……!!」
今度はゴンゾウが驚く番であり、正面から受け止めたレノは左腕を盾に棍棒を正面から受け止め、そのまま鍔迫り合いとなる。普通の人間と比べ、戦闘種族と名高いダークエルフの血を継いでいるため、腕力も桁違いに高い。
鎖で棍棒を抑えつけ、両腕で耐え凌ぐ。肉体強化で身体能力を上昇させているが、やはり巨人族であるゴンゾウの方が上手であり、
「ふんっ!!」
「うあっ……!?」
ドスンッ!!
上から押し潰されそうになり、レノは片膝を着く。このままでは力ずくでやられてしまうが、レノは棍棒を抑える右腕をゴンゾウに構え、
「吹き飛べ!!」
「ぬあっ!?」
ボフゥッ!!
掌から「嵐属性」の竜巻を形成し、そのまま棍棒を弾き飛ばす。ゴンゾウは大きく体勢を崩すが、決して棍棒を手放さない。だが、その隙を逃さずに今度はレノが動き出し、右手に魔力を流し込むと、
「はぁああああっ!!」
ギュルルルッ……!!
足の裏から、足首、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕、拳の順で身体を回転、及び加速させ、勢いを乗せた右拳をゴンゾウの下腹部(体格的に顔面や胸元は狙えない)に放つ。彼は咄嗟に左腕で防御しようと前に出すが、
ズドォオオオオンッ!!
「ぐはっ……!?」
「らあっ!!」
左腕に直撃したレノの拳はそのままゴンゾウの巨体を浮かび上がらせ、吹き飛ばした。
「……迷宮に居たときから、違和感はあった」
ゴンゾウに視線を向けられ、レノは素直に頷く。左腕を失って以来、今までずっと右腕でのみで魔法を発現させてきた。それには理由があり、今のレノは左腕から魔法は発現できないのだ。
黒衣の左腕を確認し、包帯を解けば風の魔力が吹き荒れる。この左腕には常に「腕」の形をした風の魔力が形成しているため、以前のように風属性や雷属性の魔法は発現できない。
この世界の魔法とは杖や魔石の媒介無しに生み出す場合、必ずと言っていいほどに掌から放出しなければならない。肉体強化(アクセル)や部分強化(撃雷・雷槍)とは違い、魔法を発動させて外部に放つためには必ず両腕のどちらかの掌を使用しなければならない。
一流の魔術師ならば自分の周囲に魔球(魔力で形成された球体)を生成し、相手に撃ち放つ事も可能だろうが、独学で魔法を行使していたレノにはそのような芸当は不可能。それに右腕にはアイリィから刻まれた「紋様」があり、右手で魔法を発現させれば同時に紋様で魔力は強化する事も可能なので、どうしても右手を使用しなければ魔法は発現できなかった。。
「……左腕、どうした」
「油断してやられた」
「そうか……」
左腕を奪ったのは「甲冑の騎士」の攻撃だが、あの時のレノは完全に油断していた。その事が彼に隙を生み、泥沼の中に眠っていた甲冑の騎士の反撃に反応が出来なかった。あの時、一瞬でも泥沼の中に沈んだ甲冑の騎士に視線を反らさなければ左腕は無事だっただろう。だが、その一瞬の油断が左腕を永遠に失わせたのだ。
試しに聖導教会で治療は出来ないかを尋ねてみたが、彼らの話では例え最高位の魔導士である「聖天魔導士」だろうと、最高権力者である「巫女姫」であろうと彼の腕を再生する事は出来ないという。盗賊王であるホノカが治めている交易都市ならば優れた義手があるかも知れないが、黒衣がある以上は今の所は訪れる必要はない。
「まあ……失ったけど収納には便利かな」
「……痛くない、のか?」
「最初の頃は喪失感の方が酷かったかな……今はそんなに」
「腕が無い魔術師は、珍しい」
「だろうね……」
基本的に魔術師は後方支援を行うため、肉体を損傷する事は少ない。戦争に置いても彼らは五体満足で生き残るが、殺されるかの二択である。身体の一部だけを損傷して戦を生き残る魔術師は少ない。
肉体を損傷しても生み出す肉体の魔力容量は変わらず、魔法を発動させる分には問題は無いが、レノの場合は常に黒衣で左腕を形成するために魔力を放出している事になる。寝ている時や休憩している時は魔力は遮断しているが、普段からレノは左腕を形成するために魔力を放出し続ける事ができるのはハーフエルフである彼だからこその芸当であり、普通の人間には真似は出来ない。
「さて……ゴンちゃん」
「うん?」
棍棒を肩に担ぎ、再び素振りを始めようとした彼に視線を向け、
「――少し組手でもやろうか?」
数分後、レノは棍棒を構えたまま5メートルの距離を保つゴンゾウを前にしており、自身は左腕の黒衣から銀の鎖を出現させ、鎖で左腕に巻き付けて鎖の腕に変化させる。鎖で左腕を覆っている間は打撃も有効であり、鎖に魔力を流し込む事で「撃雷」や「雷撃」も発現出来る。
この組手では聖爪は封印し、単純な打撃だけで彼に挑むことを決める。その代わりと言っては何だが、ゴンゾウも棍棒を右腕だけで取り扱う事を約束した。
「……レノォッ!!」
「っ!!」
ドオオンッ!!
先に動き出したのはゴンゾウであり、巨体でありながら俊敏な動きで向かってくる。咄嗟にレノは瞬脚を行い、嵐の魔力を足元に放出させて後退を行おうとした時、
「ふんっ!!」
「何……!?」
ガキィイイインッ!!
一瞬、ゴンゾウが加速したと思うとレノが下がる前に棍棒を振り落としてくる。避けるのは不可能であり、瞬時にレノは「肉体強化(アクセル)」を行うと同時に鎖を巻き付けた左腕で受け止めた。
ギィイインッ……!!
「ぬぐっ……!?」
「ぐぅっ……!!」
今度はゴンゾウが驚く番であり、正面から受け止めたレノは左腕を盾に棍棒を正面から受け止め、そのまま鍔迫り合いとなる。普通の人間と比べ、戦闘種族と名高いダークエルフの血を継いでいるため、腕力も桁違いに高い。
鎖で棍棒を抑えつけ、両腕で耐え凌ぐ。肉体強化で身体能力を上昇させているが、やはり巨人族であるゴンゾウの方が上手であり、
「ふんっ!!」
「うあっ……!?」
ドスンッ!!
上から押し潰されそうになり、レノは片膝を着く。このままでは力ずくでやられてしまうが、レノは棍棒を抑える右腕をゴンゾウに構え、
「吹き飛べ!!」
「ぬあっ!?」
ボフゥッ!!
掌から「嵐属性」の竜巻を形成し、そのまま棍棒を弾き飛ばす。ゴンゾウは大きく体勢を崩すが、決して棍棒を手放さない。だが、その隙を逃さずに今度はレノが動き出し、右手に魔力を流し込むと、
「はぁああああっ!!」
ギュルルルッ……!!
足の裏から、足首、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕、拳の順で身体を回転、及び加速させ、勢いを乗せた右拳をゴンゾウの下腹部(体格的に顔面や胸元は狙えない)に放つ。彼は咄嗟に左腕で防御しようと前に出すが、
ズドォオオオオンッ!!
「ぐはっ……!?」
「らあっ!!」
左腕に直撃したレノの拳はそのままゴンゾウの巨体を浮かび上がらせ、吹き飛ばした。
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