種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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第四部隊編

長老との再会

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結界を抜け出したレノ達は森に残るのは危険と判断し、外に向けて移動を開始する。不思議なことに森人族の刺客は姿を現さず、無事に枯葉の森を抜け出す事に成功する。


「はあっ……はあっ……」
「た、助かったのか……?」
「皆、無事か?」
「……一応は全員居ると思うでござるが……」
「……大丈夫」
「コトミ様の言う通りです。我らも誰一人欠けていません」


兵士2人は息切れが激しいが、残りの面子は平然としており、ハイ・ゴブリン達も並の人間よりも体力があるため、この程度の距離を移動したところで疲労は無い。

カゲマルは忍者のため、木の上を移動して先行を行い、コトミはレノに背負わさて特に疲労は無い。一方で人一人を抱えて移動していたレノに至っては息切れどころか汗すら流しておらず、半分は森人族の血が流れている彼にとってどのような状況であろうと森林という環境は彼に力を与えてくれる。


「さて……どうするかね」
「レノ殿の転移魔方陣で闘人都市に転移したらどうでござる?」
「これだけの人数を?」


周囲一帯に広がるハイ・ゴブリン達を見渡し、流石にこれだけの人数を同時に転移させる事は不可能であり、第一に魔物である彼らを都市に招き入れるのも問題がある。聖導教会の兵士達にとっては一刻も早く安全な場所に移動したいのだろうが、彼らの任務はハイ・ゴブリンの世話役であり、無闇に離れる事は出来ない。


「さて……と、カイこっちに来てくれる?」
「は、はい?」
「どうしたでござる?」


レノはコトミを降ろしてカイを招くと、他のハイ・ゴブリン達も「何だ何だ?」とレノの元に集まる。


「……ふむっ……もうちょい下がって」
「はあ……?」
「「ギギッ?」」


ハイ・ゴブリン達を下がらせ、レノは前方に見える森を確認し、


「……出てきなよ」



――決して大きな声ではないが、森の中に隠れて居た「何者」かには聞こえたようであり、すぐに樹木の間からその人物は姿を現した。



「えっ……!?」
「森人族か……!?」
「あ、貴方様は……!!」


姿を現した老人の姿をしたエルフに全員が驚愕し、カゲマルがレノを守るように前に出るが、レノはそれを制止して老人に近づく。


「……久しぶり、お爺ちゃん」
「ああ……久しぶりだな、レノ」



――森の中から現れたのは数年ぶりに再会する深淵の森の「長老」であり、その変わり果てた彼の姿にレノは眉を顰める。



現在の彼の右足は木造の「義足」であり、全身をフードで覆い隠してはいるが、恐らくは身体中に拷問をされた跡が残っているのだろう。過去にハーフエルフのレノを庇ったせいで、フレイ共々他の森人族(エルフ)から迫害されたのは間違いない。

恐らく、カイの反応から察するにこの目の前の長老がゴブリンである彼に「共通言語」と簡単な魔法を教え、彼等に食料を分け与えていた森人族だったのだろう。


「……随分とボロボロだね」
「ははっ……まあ、色々と遭ってな……そうだ、珍しい果物が手に入ってな。食べるか?」
「待って」


長老は腰に付けた袋を取り外そうとしたが、レノはそれを止め、


「さっきの結界……お爺ちゃんがやったの」
「……そうだ」
「そんな……」
「一体どういう事でござる?この方は一体……」


レノの質問に長老は目つきを変え、子供の頃には見たことが無い真剣な表情を浮かべる。すぐにカイとカゲマルが駆けつけようとしたが、レノが二人を制止する。、


「1人であんな規模の結界を生んだの?やり方教えてほしいんだけど……」
「はっはっはっ……それは無理だな。この森自体に特別な魔水晶を事前に用意していたからな」
「……口調が変わった?」
「こちらも色々とあってな……冒険者時代の時のように生活しているせいか、若返った気分だ」
「冒険者?」


長老が冒険者をやっていたというのは初耳だったが、今気になる事はどうして彼がレノ達を「結界内」に封じ込めたのかである。眼の前の彼からは「敵意」や「殺意」は感じられない。放浪島の北部山岳や地下迷宮(ロスト・ラビリンス)で暮らしていたレノだからこそ、自分に敵意を向けられたときは敏感に察知できる。


「何で俺達を閉じ込めようとしたの?」
「……正確に言えば、お前だけを逃がさない様にしたつもりだがな」
「俺を……」
「レノ……真面目な話だ。お前はこのまま私と共に来るんだ。悪いようにはしない」
「……族長は知っているのか?」
「もう、私は深淵の森からは追放されている。族長とは関係ない」


嘘を付いているとも思えないが、かと言って簡単に信用するわけにもいかない。長老の事は短い間とは言え共に過ごした間柄だが、何らかの洗脳魔法で操られている可能性は否定できない。


「理由を聞きたいんだけど」
「そうだな……まだ時間はある。ゆっくりと話そうか」
「……?」


長老の言い方に違和感を覚えるが、とりあえずはレノ達は彼の前に集まり、全員で囲む形で座り込む。時間帯は既に深夜を迎えており、少し肌様い。


「あの……レノ様」
「我々は出来ればその……」
「……ああ、うん。分かった」


聖導教会の兵士2人組が言いにくそうにレノの元に集まり、彼らとしては一刻も早くこの場を離れたい気持ちは分かる。一応は教会側にも今回の件は報告しなければならないので、一先ずは彼らを転移魔方陣で闘人都市に送り込む事にする。


「拙者は残るでござるよ。王国の報告よりも、レノ殿の護衛が最優先でござるからな」
「いや、出来ればカゲマルも着いて行ってやってくれないか?一応はバルたちにも伝えてほしい」
「レノ殿がそうおっしゃるのなら……招致したでござる」


カゲマルは兵士達と共に転移魔方陣で先に闘人都市に戻らせ、長老の前には無数のハイ・ゴブリンとコトミ、そしてレノだけが残った。


「さて……まずはあれから何が起きたのかを話しておくべきかな」



――長老はゆっくりと話始め、その内容はレノにとっては大きな衝撃を受けた。
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