拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さま、入学式です ★2★

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「柚鈴ちゃん、おはよう」
学園に着くと、明るい声で近づいて来たのは、花奏かなでだった。
「おはよう」
挨拶を返すと、花奏はふんふんと柚鈴の制服姿を眺める。
「流石に寮生はしっかり制服着てるなぁ。朝から上級生に身だしなみを見て貰ったんでしょう?」
「良く知ってるね」
「うん。入学式の寮の伝統でしょう?ひとみお姉さまが羨ましがってたからね」
『ひとみお姉さま』
そう呼ぶ習慣は、花奏の家系ではないはずなのだが、どうも本人が好んで勝手に呼んでいるらしい。
一応、遥先輩の知らない所だけで、そうしているみたいだが、常葉学園の制度を最大限に楽しんでいる様子の花奏を叱る人は、いない気もしている。
なんとなく花奏のセーラー服を眺めると。
襟元には、銀のバッチが飾られている。
片翼のデザインだ。

「それ」
「へへ。昨日始業式だったでしょう?助言者メンターのバッチを頂いたからって早速昨日いただいちゃった」
花奏は見せびらかすように、くるりと回って見せる。
「学園からのペアの認定も降りたってこと?」
「前持って、先生方には話を通してたもの。もちろん一番乗りだよ」
ピースサインで笑っていると、一緒に歩いていた幸も覗き込んだ。
「うわぁ、これが助言者メンター制度のバッチなんだ。いいなぁ、素敵」
既に寮で顔見知りになっていた花奏なので、幸も遠慮なくバッチを見せてもらう。
薫はさして興味なさそうだ。

助言者メンター制度のバッチと言えば、あれから陸上部の先輩からのお誘いはどうしたんだろう。
日々の忙しさで、すっかり忘れていた。
気になって見上げてると、気づいた薫はニヤリと笑った。
「何?見惚れてんの?」
皮肉げな物言いは薫の得意分野だ。
柚鈴もいい加減慣れた頃だった。
「うん。さすが先輩方、薫が美形に見えるなぁって」
にっこり笑って、言い返すと
「言うねえ」
薫はにぃっと笑ってから、満更でもなさそうな顔をする。
セーラー服の柄では決してないのだが、髪を整えられた薫はなんだか凛々しいのは確かだった。
同級生や、もしかしたら下級生のにもファンが出来るかもしれない。

「ほら、あんたらいい加減進むよ」
薫は、いつまでたってもバッチの話に花が咲いてる花奏と幸に声を掛けて、進ませる。
のんびり気味の幸を急かすのは、薫の日課みたいになっている。
はあい、と良い返事が返って、校門を進むと、そこに常葉学園の校舎。

古さも歴史もある常葉学園の校舎は、赤茶色の煉瓦造り。
時計台があり、歴史を感じさせるくすんだ深緑の屋根が逆に大きな洋館のお屋敷に来たような印象を与える。
なんだか映画のワンシーンに出てきそうな、うっとりとするほど美しい建物だ。
受験や入学説明会でも来たのだが、入学式となるとやっぱり気分が違った。
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