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第四部隊編
レノの決断
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「爺ちゃんが、族長の息子?」
「そうじゃ……まあ、信じられんのは無理はないがな」
レノが知っている族長の容姿は10歳前後の子供の姿であり、彼女が子供が産めるような体型とは思えないが、もしかしたら魔法的な力で若返りをしているだけで、実際は別の姿に変化出来るのかもしれない。
族長(ムメイ)と「センチュリオン」の関わりが数十年前から存在したという話も驚きだが、気にかかったのはフォルムという単語である。以前にもミキから聞いたことがあったが、記憶が確かならば歴史上で最も有名な「英雄姉妹」の姉の方の名前である。
1000年前の魔族侵攻大戦の発端とも言える存在でもあり、もしも彼女という存在がいなければ英雄姉妹の妹であるアイルは肉体に「悪魔」を宿すことも無く、魔王に変貌する事も無かったと言われている。そんな存在の名前をムメイが何故口にしたのか気にかかるが、それだけでは情報が少なすぎる。
「レノ……お前が生きていたのは嬉しいが……このまま王国に仕えるのは危険だ。いずれ人間はお前の力を恐れ、裏切る」
「そうかな……」
「……むうっ」
コトミががっしりとレノの腕に絡みつき、自分は違うとばかりに頬を膨らませる。そんな彼女の頭を撫でやりながら、ムミョウは話を続ける。
「お前の話は良く耳にする。つい先日も、教会の方で大活躍したようだな……よくここまで成長したな」
「どうかな……」
教会の件は内密に処理してもらったはずだが、恐らくは闇ギルド辺りが嗅ぎつけて既に噂になっており、レノとしては迷惑な話である。
「まさか聖剣(カラドボルグ)の選定者にまで選ばれたと聞いた時は耳を疑ったが……どうやらあの結界を破った所、本当らしいのう……」
「ん?」
ムミョウはどうやら先ほどの結界を破ったのは「カラドボルグ」を使用したと思われているようだが、特に否定する理由も無いため口は挟まない。
「しかし……お前が生きている限り、森人族は全力で排除しようとするだろう。だが、王国側が何時までもお前を特別扱いすると思うのか?」
「……無理だろうね」
現在のバルトロス王国は国王である「バルトロス13世」がレノのために色々と配慮してくれている。彼がカラドボルグを所有する選定者だからこそ丁重に扱っているのだろうが、それでも国王はハーフエルフという理由で彼に対して侮蔑や傲慢な態度は取らない。
しかし、もしも仮にアルトが王位を継いだ場合は状況は一変するだろう。アルトが自分に対して快くない感情を抱いているのはレノも理解しており、バルトロス13世のように自分をこれまでと同様に扱ってくれるとは思えない。
最悪の場合、レノにカラドボルグを王国に譲渡するように要求して聖剣を回収した後は秘密裏に追放される可能性が高い。決してアルトが悪人ではない事を理解しているが、レノに対してだけ彼は異様な対抗心を抱いている。
「もしも仮に王国以外に仕えたとしても、遅かれ早かれ追い出されるだろう……我々はあまりにも長く生き過ぎ、そして他の種族は短い時しか生きられない」
「言いたいことは分かるけどね……」
森人族は最も寿命が長い種族であり、他の種族の4~5倍以上は生きられる。だからこそ、森人族は他種族との交わりを禁止している不死がある。
それにはハーフエルフは「第二の魔王」と呼ばれる存在を生み出す可能性もあるため、森人族が他の種族と結ばれることは一層に禁じているのは事実ではあるが、仮に森人族と他種族が結ばれたとしても、その最後は悲惨な話ばかりである。
大きな問題は森人族と他種族の「寿命」の違いであり、成人を迎えたエルフはそれ以降はゆっくりと老けていく事に対し、他種族は彼等よりも早い段階に肉体が衰える。エルフ以外にも長寿の種族は存在するが、それでもこの世界で最も長生きをするのは森人族であり、他種族と結ばれたエルフは基本的には最後は「悲恋」で終わってしまう。自分が愛した者が老衰で死にゆく姿に耐え切れず、後を追って命を絶つエルフも大勢存在した。逆に何時までも若々しい姿を保つ恋人に耐え切れず、相手側の方が自殺した場合も存在する。
森人族はそんな悲惨な結末を終えない様に敢えて他種族との交流は拒み、間違いが起きない様に自分たちの領土から出ない様に心がけている節がある。森人族は彼等なりに仲間たちの事を考えて他種族との交流を拒んでいた。
「今はまだ問題は無いかもしれないが……10年、20年先はどうだ?何時までもお前の友が、友のままでいてくれるのか?」
「…………」
「儂とてそう長くは生きられないだろう……だが、それでもあと100年は共に一緒にいられる。友を作りたければ儂が紹介しよう……もう、これ以上苦労する必要などないのだ」
「……レノ」
優しく語り掛けてくるムミョウに対し、レノは黙り込む。確かに彼の言っている言葉は間違いではなく、いずれは訪れる確実な「未来」の話だろう。
ここで彼に着いて行けば「森人族」として生きられる事も可能かもしれない。それに完全に今までの付き合いを投げ出す必要はなく、誰かに会いたければ内密に会えばいい話であり、王国という場所から抜け出す機会なのかもしれないが、
「嫌だ」
それではレノは納得できない。ここでムミョウと共に生きるという事は、あの「ダークエルフ」に辿り着けない気がした。それだけは耐え切れず、耐えられるはずがなく、耐える事こそが出来なるはずがない。
自分から何度も大切な存在を奪ったダークエルフに「復讐」を果たすまで、レノは「平穏」や「安全」な人生など望みはしない。あの女への復讐を果たさない限り、自分の人生は進まないと思っていた。
レノ自身も自分が間違った選択をしている事は理解している。復讐のために生きるなど、あまりにも哀れで愚かな行為かも知れない。だが、これまで力を求めてきた全ての理由はダークエルフの復讐であり、彼女に出会うまでは立ち止まるわけには行かない。
もしも、ここで諦めてしまえば今までの自分の行動が全て無意味になってしまう。そんな事を「今」のレノが耐え切れるはずがなかった。
もう二度、現実世界で生きていた頃のような「無意味」な生き方を味わいたくない。そんな思いを抱きながら、レノはムミョウの申し出をはっきりと断った。
「そうじゃ……まあ、信じられんのは無理はないがな」
レノが知っている族長の容姿は10歳前後の子供の姿であり、彼女が子供が産めるような体型とは思えないが、もしかしたら魔法的な力で若返りをしているだけで、実際は別の姿に変化出来るのかもしれない。
族長(ムメイ)と「センチュリオン」の関わりが数十年前から存在したという話も驚きだが、気にかかったのはフォルムという単語である。以前にもミキから聞いたことがあったが、記憶が確かならば歴史上で最も有名な「英雄姉妹」の姉の方の名前である。
1000年前の魔族侵攻大戦の発端とも言える存在でもあり、もしも彼女という存在がいなければ英雄姉妹の妹であるアイルは肉体に「悪魔」を宿すことも無く、魔王に変貌する事も無かったと言われている。そんな存在の名前をムメイが何故口にしたのか気にかかるが、それだけでは情報が少なすぎる。
「レノ……お前が生きていたのは嬉しいが……このまま王国に仕えるのは危険だ。いずれ人間はお前の力を恐れ、裏切る」
「そうかな……」
「……むうっ」
コトミががっしりとレノの腕に絡みつき、自分は違うとばかりに頬を膨らませる。そんな彼女の頭を撫でやりながら、ムミョウは話を続ける。
「お前の話は良く耳にする。つい先日も、教会の方で大活躍したようだな……よくここまで成長したな」
「どうかな……」
教会の件は内密に処理してもらったはずだが、恐らくは闇ギルド辺りが嗅ぎつけて既に噂になっており、レノとしては迷惑な話である。
「まさか聖剣(カラドボルグ)の選定者にまで選ばれたと聞いた時は耳を疑ったが……どうやらあの結界を破った所、本当らしいのう……」
「ん?」
ムミョウはどうやら先ほどの結界を破ったのは「カラドボルグ」を使用したと思われているようだが、特に否定する理由も無いため口は挟まない。
「しかし……お前が生きている限り、森人族は全力で排除しようとするだろう。だが、王国側が何時までもお前を特別扱いすると思うのか?」
「……無理だろうね」
現在のバルトロス王国は国王である「バルトロス13世」がレノのために色々と配慮してくれている。彼がカラドボルグを所有する選定者だからこそ丁重に扱っているのだろうが、それでも国王はハーフエルフという理由で彼に対して侮蔑や傲慢な態度は取らない。
しかし、もしも仮にアルトが王位を継いだ場合は状況は一変するだろう。アルトが自分に対して快くない感情を抱いているのはレノも理解しており、バルトロス13世のように自分をこれまでと同様に扱ってくれるとは思えない。
最悪の場合、レノにカラドボルグを王国に譲渡するように要求して聖剣を回収した後は秘密裏に追放される可能性が高い。決してアルトが悪人ではない事を理解しているが、レノに対してだけ彼は異様な対抗心を抱いている。
「もしも仮に王国以外に仕えたとしても、遅かれ早かれ追い出されるだろう……我々はあまりにも長く生き過ぎ、そして他の種族は短い時しか生きられない」
「言いたいことは分かるけどね……」
森人族は最も寿命が長い種族であり、他の種族の4~5倍以上は生きられる。だからこそ、森人族は他種族との交わりを禁止している不死がある。
それにはハーフエルフは「第二の魔王」と呼ばれる存在を生み出す可能性もあるため、森人族が他の種族と結ばれることは一層に禁じているのは事実ではあるが、仮に森人族と他種族が結ばれたとしても、その最後は悲惨な話ばかりである。
大きな問題は森人族と他種族の「寿命」の違いであり、成人を迎えたエルフはそれ以降はゆっくりと老けていく事に対し、他種族は彼等よりも早い段階に肉体が衰える。エルフ以外にも長寿の種族は存在するが、それでもこの世界で最も長生きをするのは森人族であり、他種族と結ばれたエルフは基本的には最後は「悲恋」で終わってしまう。自分が愛した者が老衰で死にゆく姿に耐え切れず、後を追って命を絶つエルフも大勢存在した。逆に何時までも若々しい姿を保つ恋人に耐え切れず、相手側の方が自殺した場合も存在する。
森人族はそんな悲惨な結末を終えない様に敢えて他種族との交流は拒み、間違いが起きない様に自分たちの領土から出ない様に心がけている節がある。森人族は彼等なりに仲間たちの事を考えて他種族との交流を拒んでいた。
「今はまだ問題は無いかもしれないが……10年、20年先はどうだ?何時までもお前の友が、友のままでいてくれるのか?」
「…………」
「儂とてそう長くは生きられないだろう……だが、それでもあと100年は共に一緒にいられる。友を作りたければ儂が紹介しよう……もう、これ以上苦労する必要などないのだ」
「……レノ」
優しく語り掛けてくるムミョウに対し、レノは黙り込む。確かに彼の言っている言葉は間違いではなく、いずれは訪れる確実な「未来」の話だろう。
ここで彼に着いて行けば「森人族」として生きられる事も可能かもしれない。それに完全に今までの付き合いを投げ出す必要はなく、誰かに会いたければ内密に会えばいい話であり、王国という場所から抜け出す機会なのかもしれないが、
「嫌だ」
それではレノは納得できない。ここでムミョウと共に生きるという事は、あの「ダークエルフ」に辿り着けない気がした。それだけは耐え切れず、耐えられるはずがなく、耐える事こそが出来なるはずがない。
自分から何度も大切な存在を奪ったダークエルフに「復讐」を果たすまで、レノは「平穏」や「安全」な人生など望みはしない。あの女への復讐を果たさない限り、自分の人生は進まないと思っていた。
レノ自身も自分が間違った選択をしている事は理解している。復讐のために生きるなど、あまりにも哀れで愚かな行為かも知れない。だが、これまで力を求めてきた全ての理由はダークエルフの復讐であり、彼女に出会うまでは立ち止まるわけには行かない。
もしも、ここで諦めてしまえば今までの自分の行動が全て無意味になってしまう。そんな事を「今」のレノが耐え切れるはずがなかった。
もう二度、現実世界で生きていた頃のような「無意味」な生き方を味わいたくない。そんな思いを抱きながら、レノはムミョウの申し出をはっきりと断った。
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