種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘編

不審人物

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ホノカが予約しておいた特等席に向かう際中、レノは闘技場の一番最上列の観客席に座り込む不審人物を発見し、眉を顰める。


「あいつは……」


昨日では通路を行き違い、今日も予選開始前の待合室で見かけた人物であり、てっきり自分と同じ一般選手かと思っていたが、先ほどの試合場では見かけなかったことに不思議に思っていた。

第一次予選では見かけなかった事から、最初にサンドフィッシュにやられて試合を失格になったのかと思い込んでいたが、どうやら観客席で観戦しているところを見ると、リノン達と同じく「予選免除」された特別選手らしい。


「何で待合室なんかに……」


仮に特別選手だとしたら先ほどの待合室で待機する必要はないはずだが、レノは関わり合うのは面倒だと判断し、ヨウカたちの姿を探し出す。



――ウォンッ!!


――馬鹿!!騒ぐな!!



「……んん?」


先ほどの不審人物が座り込んでいる席から聞き慣れた声が二つ聞こえるが、レノは振り返ると先ほどの人物が慌てふためきながら席から離れる姿があり、やはり後を追うべきかと悩んでいると、


「あ、レノた~ん!!」
「兄貴~!!ここっすよ~」
「おっ?」


不意にヨウカ達の声が聞こえ、視線を向けると闘技場の最前列に彼女達の姿が発見し、レノは不審人物を放って彼女達の元に向かう。


「試合お疲れさん……しかし、随分と時間が掛かったね」
「まあね……」
「……ここに座る」


コトミが自分の隣の空席を指し示し、そこに座り込むとホノカの姿が見えない事に気が付き、やはり彼女が試合場の転移魔方陣を展開している張本人らしい。


「レノたん格好良かったよ~惚れ直しちゃったっ」
「え……み、巫女姫様?流石にまだ恋愛事は速いんじゃ……」
「ただの冗談だよ……本気にするなよ」
「え~」


ヨウカの言葉にテンが激しく動揺するが、すぐにレノは左右を見渡し、


「……リノン達は?」
「あいつらは予選に参加しないから、控室でのんびりとしてるんじゃないかい?」
「さっき遊びに行ったら、随分と豪勢な部屋だったっすよ?」
「へえ……」


予選免除がされた選手の特別個室が用意されており、こちらの世界のテレビの役割を行うミラー・クリスタルまで配置されており、水晶体を通して試合の内容が放映されるため、わざわざ観客席に移動する必要はない。


「あいつ等の事だから、直に試合を観戦すると思ったけど……」
「リノンの嬢ちゃんは王国側に報告があるとかで部屋には居なかったね……あのでかい坊主は忘れ物とかで酒場に戻っていたし、ワン子(ポチ子)は昼寝中だったから、起こさずに放って置いたよ」
「そうなのか……あれ、選手以外は地下施設の出入りは禁止されてたんじゃなかったけ?」
「そこの嬢ちゃんに協力してもらったよ」
「えへへ~」


ヨウカが照れながら頭を搔き、隣のテンが疲れた表情で溜息を吐く。どうやら巫女姫の権限で地下施設を訪れたようだが、後々に厄介なことにならなければいいが。


「そういえばさ~途中で変な人を見かけたっすね」
「そうだね……まあ、大会参加している奴等の大半が変人みたいなもんだけどね」
「失礼な事を言うでござるな……」
「変な人?」
「……あの人」



――コトミがくいくいとレノの服の袖を引き、彼女が指さす方向を全員が確認すると、そこには観客席の間を歩いて移動する先ほどの不審人物の姿が見えた。



「そうそう、あれあれ」
「巨人の兄貴の個室の隣から出てきた人っすね」
「あの人、犬の鳴き声を上げながら歩いてたよ~」
「犬……」


先ほどの聞き慣れた犬というよりは狼の泣き声を思いだし、まさかとは思うが本当にレノの知っている「エルフ」と「狼」なのかと思い悩む。普通に考えればどちらも放浪島に居るはずであり、この場所がいるとは思えないが、


「……あの者、只者ではないでござるよ」
「ああ……歩き方から熟練の戦士だね」


カゲマルとテンが目つきを鋭くさせ、確かに不可解な行動を起こしているが、歩き方から察するに一般人ではない。


「まあ、特別個室が与えられた選手なら、それほど可笑しくは無いと思うでござるが……」
「不審人物として捕えますか?巫女姫様」
「別にいいと思うけど……そこまでしなくても。悪い人じゃないと思うし……」
「何でそう思うんだい?」
「えっと……何となくかな」
「巫女姫の勘……か」


ヨウカの言葉に賛同するわけではないが、色々と不審な行動を起こしているが、どういうわけかレノも彼女が悪人とは思えない。


「おっ……やっと準備が終わったようだね」
「確か今度は……」
「……獣人族の予選が始まる」
「さり気なく膝の上に乗るなコトミ」


レノはコトミの身体を支えながら、試合場を確認すると既に改装が終了しており、先ほどまでの砂漠の風景が一変し、まるで鉱山地帯を想像させる大地が広がっていた。

干からびた地面に無数の岩石が配置されており、硫黄の匂いが観客席にまで届いくる。一応は観客達に被害が出ないよう、テンペスト騎士団の訓練場で見かけた結界石の結界が展開されているはずだが、それでも完全に臭いが遮断されず、バルとカリナが鼻を抑える。


「うえぇ……何だいこの臭い!?」
「鼻がきついっす~……!!」
「……獣人族にはきつい環境みたいだな(なでなで)」
「……にゃあっ」


コトミの頭を撫でまわしながら試合場を見下ろし、先ほどの「砂漠」にしろ、この大会は随分と選手たちに悪環境を押し付けてくるらしい。
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