種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘編

行き違い

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ドゴォオオオオオンッ……!!


「……っ!!」


レノが地下通路を疾走中、爆音と振動が通路に響き渡り、まだこの地下通路にホムラが残っている事を確信する。レノはハーフエルフの優れた聴覚を最大限に生かし、爆音と衝撃方向を確認して移動を始めようとした時、


ガタンッ!!


「……マ、テ……」
「……ちっ」


通路を進もうとした途端、唐突に人影が現れ、全身を黒いローブで覆っているが明らかに腐敗臭を放つ人物が出現する。間違いなく、シャドウが操る死人の類だろうが、どうも様子が可笑しい。

前回は無数の死人を操作していたが、今回は1体だけであり、さらに動きがどうにもぎこちない。何らかの罠かと警戒していると、


「ウッ……」
「え?」


ドォンッ……!!


死人が突然倒れ込み、まるで電池が切れたようにそのまま動かなくなる。何が起きたのかは分からないが、恐らくはシャドウの身に異変が起きた可能性が高い。


「……こっちか」


予想通りというべきか、地下通路内には異様に薄暗く、通路内の松明が全て消されている。恐らくは先ほどライオネルが告げた「暗闇こそ奴の力が発揮される」という言葉と関係しているのだろうが、眼の前で倒れ込んだ死人を確認する限り、シャドウが先にホムラと接触したのだろう。

最悪の場合、既に決着が着いてしまい、シャドウが殺害されて彼の使役していた死人が影響を受けて動かなくなった可能性がある。というより、そう考えるのが妥当だろう。

「影の聖痕」を宿すシャドウとは三度に渡って交戦したが、今まで闘ってきたどんな相手よりも厄介な能力の持ち主であり、真面に戦えばレノでも勝てる保証は無い。そんな相手をホムラはわずか数分足らずで倒したことになるが、


「……行くか」


ここまで来た以上、引くわけには行かない。地上に繋がる螺旋階段にはまだ魔甲虫が残っており、主人が死亡した事であの魔甲虫たちがどうなるのかは分からないが、少なくともあの虫は死人のように死体を操っているわけではなく、契約を行って彼が使役していたのは間違いない。契約主を失ったとしても、魔甲虫たちが死ぬことは無い。

死人をこのまま放置するのは気が引けるが、急いで向かわなければホムラが他の螺旋階段を登って移動してしまう可能性もある。レノは一度だけ両手を合掌させ、急いで通路を疾走する。


「風輪!!」


ゴォオオオッ……!!


両足に嵐属性で形成した車輪を作りだし、通路を駆ける。この技は地面を抉ってしまうため、室内では使用する事は向かないが、今は気にしている暇は無い。


ガガガガッ……!!


ターボエンジン付きのローラースケートを想像させる速度で通路内を移動し、レノは遂に試合場に繋がっている場所にまでたどり着くが、


「くそっ!!」


ダァンッ!!



――既にホムラの姿は消えており、代わりに人型の形をした灰の山があり、ここで何が起きたのかはすぐに理解できた。



この通路でホムラとシャドウが激突し、そして彼女が勝利した。この灰の山がシャドウの死体かどうかは分からないが、レノはすぐに追いかけようとした時、


ガタァンッ……!!


試合場に繋がる門が開き、振り返るとホムラの次の試合の勝者か敗者が訪れたのかと振り返ると、


「レノ……?何だわざわざ迎えに……これは!?」


そこには疲れた様子のリノンが現れ、すぐに彼女も異変に気付く。どうやら第三試合が彼女の試合だったようだが、この様子では無事に勝ち上がれたらしい。


「一体何が起きたんだ!?それにその灰は……」
「落ち着けって……分かった、説明する」


この様子では既にホムラは立ち去っており、一体どの通路を過ぎたのかが分からない以上、追いかけるのは困難だろう。この地下通路はやたらと広く、単純な構造ではあるが追跡する方法が無い。

とりあえずは彼女に自分の予想を含めた説明を行うと、リノンは黙り込み、目の前の光景を見渡す。


「なるほど……あのシャドウが……しかし、あの女性がそれほどの実力者だったとは」
「知ってるの?」
「あ、ああ……行き違いでな。何故か、横を通り過ぎる時に鼻で笑われたような気がする」
「そうか……」


確かにレノも試合が終了した際、試合場の門を通り過ぎた時に次の試合の選手である「ゴンゾウ」と通り過ぎたが、仮にホムラと顔を合わせていたらと思うと、唇を噛み締める。


「……うわっ!?な、何だ!?」
「ん?」
「貴女は……」


2人が話しこんでいる間に長槍を掲げた冒険者らしき服装の少女が現れ、目の前の惨状に驚愕する。どうやらリノンの次の試合の選手らしく、すぐにレノ達に視線を向ける。


「あ、あんた達一体何を……どんなプレイをしてたのさ!!」
「な、何の話だ!?」
「ん?」
「まあいいや……退いてくれる?こっちも急いでるからさ」
「あ、待って」


少女は灰の山を避けて通り、門に向けて移動しようとするところをレノが止め、


「あんた……じゃなくてお姉さん、どこからここに来た?」
「ん?観客席で呼ばれたから、上から降りて来たけど?」
「その時に女……黒髪の森人族(エルフ)は見かけなかった?」
「いんや、私が降りた時にはすれ違わなかったなぁ……ねえ君、確か最初の試合で勝った子だよね?」
「そうだけど……」
「ふ~ん……君が「佐田君」が狙っている……」
「え?」
「あ、ごめんごめん、何でもないよ。それじゃあね~」


手をぶらぶらと振りながら、少女は扉が開かれた門に向かう。その後姿を見送り、リノンがレノの耳元に口を近づけ、


「……あの人もミカさんと同じ勇者だ。名前は「アイダ・ルミ」と名乗っていたはずだが……」
「なるほど」


彼女に抱いた違和感の正体を理解し、「プレイ」という言葉は「旧世界」の人間しか使わないはず。恐らく本名は「相田留美」というのだろう。
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