種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘編

祝杯

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――全ての試合が終了し、レノ達はレグが良く通う「コウラン」の酒場で祝杯を挙げていた。いつもならの黒猫酒場で行いたい所だが、今日ぐらいはゆっくりしたいというバルの希望でこちらの方に移動する。


「何だったんだい、あいつは……芸人って奴かい?」
「でも、本当に強かったね~」
「頭は残念だがね」
「……面白かった」
「あの方が……名高き勇者ですか……うっ、頭が……!!」
「英雄マニアにはきつい事実だったか……ほら、これでも飲んで落ち着きな」


バルとテン、さらにホノカは酒を酌み交わし、ヨウカとコトミは衝撃を受けて落ち込んでいるレミアの両隣で慰める。


「にしても、巨人の兄貴は残念だったけど、兄貴達が無事に勝ち残れて安心したっす」
「まあ……ゴンゾウの場合は相手が悪すぎました。いったい何者なのか……」
「私は試合の組み合わせで観戦は出来なかったが……そこまで凄いのか?」
「わぅんっ!!わっ、私の尻尾が今までにないほどにびんびんに立ちました!!」
「ポチ子の尻尾はセンサーか何かなのか?」
「拙者もあの森人族の女性は危険だと思うでござる……絶対に近寄りたくない類でござる」


カリナとカゲマルを含めた試合の勝ち残り組は一つの机に集まり、山盛りの食事を味わう。


「あのダークエルフ……何処かで見覚えがあるような……」
「私もです……以前に森人族の方に住まわせて貰った我らの故郷で見かけたような……」


別の場所で観戦していたセンリと、全身をローブで覆って人間に変装していたカイも酒場に立ち寄っており、センリは巫女姫の護衛役として付き添い、カイはレノの勇姿を見るために彼女に頼んで付いてきたらしい。

実際はカイが闘技場に訪れたのはムミョウからの指示でもあり、レノに危険が会った時にすぐに戻るように頼まれていた。事前に彼から転移結晶を受け取っており、いざという時はこれを使用してレノを連れ帰るつもりらしい。

この「転移結晶」はムミョウが深淵の森を出る時に族長であるムメイから拝借した物であり、勇者達が使用する物よりも性能が高い。


「レノ君も随分と頑張っていたね~」
「まあね……結局、あんたの学んだ技術はあんまり上手く活用出来なかったけど……」
「ま、そんなもんだよね~覚えたての技を頼りにするより、今までの技術で戦う方が勝率が高いだろうしね~」


少し離れた机にはレグが1人で酒を飲んでおり、彼女は闘技場で観戦せず、ずっとこの酒場の「ミラー・クリスタル」で様子を見ていたという。レノが第一試合に出たときはそれなりに期待していたようだが、結局は魔闘術を使わなかった事に少し残念そうだった。


「でも、魔術師との戦闘では一番の頼りになるからね~」
「確かに……けど、ここまで勝ち残った魔術師はいるの?」
「そうだな……何人かここまで残った物はいるが、殆どが冒険者や各種族の代表の戦士ばかりだな」
「基本的に魔法を撃つ前にやられてたからね~」


今日の試合は冒険者たちに圧倒的に有利であり、折角生き残った魔術師たちもほぼ全員が敗退していた。彼らの殆どは詠唱の最中に相手に打ち倒され、抵抗する暇も無く降参を申し出た。

ミカのような勇者ならば無詠唱で魔法を発現できるが、普通の魔術師が無詠唱魔法を習得するのは非常に困難であり、しかも魔力消費が大きいため、彼らの殆どは詠唱を行ってから魔法を放つ。

忘れがちだがレノが無詠唱で魔法を発動できるのは彼が「ハーフエルフ」だからであり、魔力容量が常人とは桁違いだからこそ出来る芸当であり、普通の人間は無詠唱を行うだけでも相当な修行が必要とする。魔石を使用すれば媒介を無しに魔法を発現出来ても、詠唱まで省略する事は出来無い。


「勝ち残った魔術師と言えば……2人ほどいたような」
「1人は勇者だったようだね。名前は忘れたが……ミカさんと違って、水系統の魔法を得意としていたな」
「ササキさんだ。あの人はいい人だぞ?私達を「エヌピーシー」とは呼ばないからな」


レノの脳裏に「第13試合目」に出場したメガネをかけた小柄な少女を思いだし、彼女は対戦相手の森人族の戦士に水属性の魔弾を放ち、強制的に試合場を覆い囲む水堀に落とした。

ミカは「火属性(爆裂)」の魔法を得意とするが、彼女はセンリの「千(サウザント)の形態魔法(マジック)」と酷似した水の魔法を得意としており、恐らくはミカと同格の実力を誇る。


「あの方は私も知っています。少し大人しい方ですが、心優しい子です」
「ササキさんはいい人だよ~私のためにクッキーを作ってきてくれたもん」


センリとヨウカがすぐに反応し、彼女達とササキは接点があるらしく、彼女が勝ち残った事を喜ぶが、すぐに心配気な表情を浮かべ、


「でも……ササキさん大丈夫かな、あんな怖い人たちの中で戦えるのかなぁ……」
「その怖い人達の中にはレノ君達も含まれているんだが……まあ、彼女なら平気だろう。他の勇者と違い、善良な子だ」
「そうですね……ですが、今回の大会は少し気になりますね」
「どういう意味だい?」
「いえ……各種族が協力の元、大々的に宣伝されたからこそ実力者が集まるのは当然ですが、どういう事か肝心のセンチュリオンの存在が未だに掴めない事です」


センチュリオンという言葉に全員がセンリに顔を向け、彼女は周囲を見渡し、自分たち以外に客が居ない事を確認し、


「……これは内密の話ですが、今回の大会には「センチュリオン」をおびき寄せ、六種族協力の下で彼らを殲滅する作戦が考えられています」
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