種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市崩壊編

触手の正体

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「おらおらぁっ!!」
「馬鹿の一つ覚えか……」


テンは長剣を振り払い、前方から向い来る触手を切り捨てて真っ直ぐに老人に向かって突進する。無数の触手を斬り裂きながら、テンは肉体強化で最大限にまで身体能力を引き上げ、自分の足元に絡みつく触手を力ずくで引き千切る。


「ふんっ!!」
「ちっ……!!」


遂には死霊使いの老人との距離が3メートルにまで接近し、テンが長剣を振りかぶると、老人は懐から何かを取りだそうとしたが、


「うらぁっ!!」


ズザザッ!!


「何っ……!?」


テンは足元の砂を蹴りあげ、老人の顔面に向けて放つ。彼は咄嗟に意識が乱され、懐に伸ばしていた魔石を取りこぼしてしまう。その隙を逃さず、テンは長剣を勢いよく振り抜く。


「ぬんっ!!」


ドスゥッ!!


「ぐあぁあああああっ!?」


長剣の刃が老人の足元に向けて投擲され、ローブを簡単に貫いて枯木を想像させる細い右足を貫き、そのまま倒れこむ。その間にテンは最初に青年に向けて投擲した長剣に歩み寄り、壁から抜き取ると、


「さて……決着だね」
「くそっ……貴様ぁっ!!」
「させるか馬鹿!!」


ズガァッ!!


老人が黒い杖を取りだそうとしたため、咄嗟にテンはそれを蹴りで打ち払い、刃を放つ。


「終りだよ!!」
「まっ……!?」


ズバァアアアッ!!



――容赦なく死霊使いの頭部に向けて振り下ろし、鮮血が地面に舞う。フードを斬り裂き、そのまま頭を刀身で叩き割る。同時に辺り一面に広がっていた触手が活動を停止し、地面に横たわる。



「ふうっ……たくっ、何時になっても殺しは慣れないね……」


老人のフードを取り払い、完全に死んだことを確認すると、テンは顔を顰める。フードの中身はまるで死人を想像させるほどにやせ細った肉体であり、内側には複数の魔石が隠されていた。

どれもが一級品の魔石であり、中には転移結晶等の希少品も存在しており、テンはそれらを確認し終えると、問題の杖に視線を向ける。


「こいつは……私の手じゃ負えないね」


地面に横たわった黒杖は明らかに「呪具」の類であり、幾らワルキューレ騎士団の「総団長」であるテンと言えど、彼女が持つ「聖属性」の力だけでは浄化出来ない。

ここに巫女姫のヨウカや聖天魔導士のセンリ、もしくは聖石を持つレノがいれば話は別だが、現状ではどうしようもなく、取りあえずは直に触れない様に布か何かで覆うとした時、


ブワァアアアッ……!!


「何っ!?」


突然、老人が倒れたと同時に停止したはずの黒色の触手が蠢き、やがて全ての触手が一点に集中して形作る。


「こいつは……まさか」


テンはてっきり老人がこの触手を操っていたと思っていたが、すぐにそれは勘違いだと気づく。恐らくは触手自体が生命体であり、間違いなくバイオプラントなどのような食肉植物とも違う存在だと理解する。


「……スライムか!!」



グニュニュッ……!!



彼女の眼前には以前に聖導教会総本部で、教皇の肉体から出てきた黒色のスライムと同種の粘体生物が出現し、その大きさは5メートルは軽く超える。スライムというだけでも厄介だが、この目の前に立つのは恐らくは全身に呪詛を宿しており、直に触れるのは危険極まりない。

よく観察すると先ほどの攻防で触手に絡みつかれた足元にも黒い痣が出来ており、興奮して気付かなかったが、だんだんと痛みが芽生えてくる。


「くそっ……」


二振りの長剣を握りしめ、テンは後退する。相手がただのスライムならば彼女なりの方法で対処できるが、今回は相手が悪い。増援が期待できない状況では引くのが妥当なのだが、


ズルズルッ……!!


黒色の大型スライムはゆっくりと動き出し、やがて死霊使いの老人の死体と「黒杖」が横たわる場所にまで接近した瞬間、



ギュルルルッ……!!



「うおっ!?」


テンの目の前でスライムから無数の触手が放たれ、老人の肉体と杖を掴んだと思うと、そのまま捕食する。その光景に彼女は顔を引きつらせ、逃げようとした時、


「ア、アガァッ……」
「なっ!?」


唐突にスライムに「口」を想像させる穴が出現し、明らかに人間の声を発した。本来「スライム」とは決して意思を持つ生物体ではなく、声帯なども存在しないはずだが、


「オマエ、ユルサナイ……!!」
「こいつは……教皇様の時と同じかい」


以前に教皇を乗っ取ったスライムも、教皇の身体を利用して操っていた節があり、今回とは少し勝手が違う。どうやら老人の肉体を吸収したことで「人語」を会得したと考えるのが妥当だろう。

テンは二振りの長剣を向けながら、ゆっくりと距離を取るように離れ、笑みを浮かべる。そんな彼女の態度にスライムは疑問を抱いたのか、うねうねと蠢くだけで動く気配は無く、明らかに警戒している。


「ふんっ……許さないね、それは私の台詞だよ」
「ナンダト……?」
「あんた達のせいでどれだけの人間が被害にあったと思うんだい……と、言ったところで無駄か。スライムのあんたには人間様の話は到底理解できないからね」
「キサマ……!!」
「ちっ……」


ジャキィッ!!


侮辱されたと判断したのか、スライムが全身から触手を出現させ、テンは長剣を重ね合わせて元の大剣へと変化させる。そして、自分に向かって放たれるスライムの触手に構えた。
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