種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

異業のミノタウロス

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「これは貰うよ」


ヒナは倒れ込んだ少女型のロボットの腰に取り付けられた懐中電灯を取り外し、周囲を照らしながら先に進む事に決めた。どうやら懐中電灯には電池が内蔵されているらしく、ロボットから取り外しても灯りは消えないのが幸いだった。

ここまで随分と歩いたにも関わらず、まだまだ通路に終わりは見えない。ヒナは周囲の様子を伺いながら、先ほどの蜘蛛や倒れているロボットなどの存在に出くわさない様に願いながら、移動を続ける。


ズズンッ……!!


「ん?」


不意に床が揺れ動いたような感覚が広がり、不思議に思って立ち止まると、


ズズンッ……!!


「……何?」


確かに床が揺れ動いており、しかも地震の類ではない事を理解する。すぐにヒナは前方の通路から何かが近づいてくるのを確信し、周囲に隠れられる場所が無いかを確認する。

だが、薬品倉庫以来から扉の類は確認出来ず、頭上から風が流れる音が聞こえ、天井を見上げると通風孔と思われる四角形の穴が広がっており、その場を跳躍して隠れようとした時、


「その前に……!!」


ヒナは倒れ込んだロボットの両肩に取り付けられた巨大な電灯を確認し、すぐにロボットを向きを変え、丁度通風孔の少し前まで移動させる。これならば上からでも電灯の光で照らす事で音の正体を確かめる事が出来る。


ズズンッ……!!


確実に「振動」が強まっており、既に近くにまで接近しており、ヒナは急いで通風孔の中に入り込む。幸いにも人が通れるほどの余裕があり、その場に隠れこむ。


(……ばれませんように)


通風孔の穴から下の様子を確認し、先ほどのロボットの電灯が上手く通路を照らしており、子の位置でも相手の正体を確かめることは出来る。ヒナは息を潜めながら、近づいてくる足音と振動に心臓が高鳴る。


ブフゥウウウウッ……!!


動物の鳴き声のような音が響き渡り、どう考えても相手は人間ではない。ヒナは通風孔の穴から覗き込みながらも、相手の姿がはっきりと確認できるまで待機していると、


(うっ……!?)


ヒナの嗅覚に強い獣臭を感じとり、一層に通路の振動が強まり、相当な重量の相手だと分かるが、まだ姿が見えない。


ブモォオオオオッ……!!


まるで「牛」の鳴き声を思わせる咆哮が響き渡り、その声を聴いた瞬間にヒナはすぐに相手の正体に感付くと同時に、通風孔の下からそれは姿を現した。


ズシンッ!!


「ウオォオオオオオッ……」



――全身が茶色い毛皮で覆われ、頭には二つの白角が生えており、赤い瞳に突きだした鼻、異様なまでに肩幅が広く、その両腕は異常なまでに発達しており、地面に拳が届くほどに伸びている。が、両足の部分は毛皮で覆われているが間違いなく五本指であり、まるで「牛」と「類人猿」が合わさったような生物が姿を現した。



それは間違いなく、地下迷宮でヒナに付き従っていた「ミノタウロス」と同種の存在だと思われるが、ここまで異形なミノタウロスはヒナも初めて見る。普通のミノタウロスよりも上半身の部分が発達しており、血管が常に浮き出ている。


(何……?)


ミノタウロスとは何度が交戦したことがあり、場合によっては付き従わせたこともあるヒナだが、視界に捉えたこのミノタウロスに関しては違和感を感じ取る。他の個体と比べ、あまりにも威圧感を纏っている。


「ブモォッ!!」


ズガァンッ!!


ミノタウロスは倒れているロボットの残骸を踏みつぶし、その巨大な足の裏で何度も叩き付ける。あの少女型のロボットに恨みでもあるのか、それとも本能のままに破壊行為を楽しんでいるのかは分からないが、相当に厄介な相手である。

ヒナは通風孔の中で覗き込むのを中止し、相手に気付かれない内に匍匐前進でその場を離れようとした時、


ギチギチギチッ……!!


(最悪……っ!?)


後方を振り返ると、そこにはヒナに赤く光り輝く複眼を向けてくる蜘蛛が待ち構えており、歯を何度も噛み合わせながらこちらに近づいてくる。ヒナは右腕を構えながらも、真下の様子を確認し、未だにミノタウロスがロボットを踏み続けており、しばらくは移動する様子は無い。

ミノタウロスと蜘蛛に挟み撃ちをされた形であり、このままでは戦闘は避けられない。下手に蜘蛛に対して攻撃を行えば間違いなく、ミノタウロスに気付かれる。

だが、このままでは蜘蛛に攻撃されるのは間違いなく、ヒナは右腕を向けたままどうするべきか悩んでいると、不意に聖剣と懐中電灯の存在に気付き、


(一か八か……!!)


ヒナは懐中電灯を握りしめ、すぐに真下を把握するとミノタウロスは倒れ込んだロボットの残骸を踏みつけるのに集中しており、こちらに気付いていない。ヒナは懐中電灯を振り被り、気付かれない様にミノタウロスの後方に向けて投擲する。


ガランガランッ!!


「ブモォッ……?」


不意に後方から聞こえてくる音にミノタウロスは視線を向け、ロボットを踏みつけるのを止めて注意がそれる。ヒナはその隙を逃さず、右手で聖剣の柄を握りしめ、蜘蛛に目掛けて向けると、


(一瞬だけなら……!!)


ゴォオオオッ……!!


柄に魔力を送り込み、青い光が漏れ出ると、蜘蛛はそれに反応したようにヒナに向けて跳躍しようとした瞬間、



――ズドォンッ!!



一瞬だけ「光の剣」が形成され、蜘蛛の口内に突き刺さり、そのまま貫いて悲鳴を上げさせる暇も無く絶命させる。すぐにも光は消散し、一瞬だけ通風孔の中が聖剣の光で覆われたが、ミノタウロスは懐中電灯に気を取られて気が付いていない。


「ブモォオオオッ……?」


メキィイイッ……!!


下方を確認すると、そこにはミノタウロスが唐突に現れた懐中電灯を指でつまみ、あまりの力で握り潰している姿が見える。どうやら通風孔にヒナが隠れている事には気づいていないようであり、鈍感な相手で合ったことが幸いし、安堵すると同時にこれ以上ここに残るのは危険と判断し、今度は動かなくなった蜘蛛の足を掴む。


(死体を利用するのは少し気が引くけど……!!)


通風孔から蜘蛛の死骸を掴み上げ、まだミノタウロスが懐中電灯に注意を取られているのを確認すると、ゆっくりとヒナは死骸を投擲する。


ドチャッ……!!


「ブモッ……!?」


ミノタウロスが音に気付いて振り返り、すぐに蜘蛛の死骸が地面に落ちている事に気付くと、首を傾げながら弄んでいた懐中電灯を放り投げ、床に落ちた死骸に接近し、


「アガァッ……!!」


バキィッ!!グチャグチャッ……!!


迷いなく、死骸を掴み上げて巨大な腕を器用に操りながら口に運び込み、ゆっくりと咀嚼する。蜘蛛の体内にはあのロボットですら溶解させるほどの体液が入っているにも関わらず、ミノタウロスは気にした風も無く食している。

その光景に冷や汗を流しながらも、ヒナはミノタウロスが蜘蛛の食事に夢中の間に通風孔の中を匍匐前進で移動し、その場を離れた――
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