種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

研究資料

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「よっこいしょっと……」


ヒナはある程度離れた場所から通風孔の出入口から姿を現し、通路から離れた別の部屋に抜け出す。どうやら先ほどの薬品倉庫とは違う場所であり、まるで図書館のように数多くの本棚が並んでいる。

この部屋も掃除が行き届いているのか埃臭さは感じず、先ほどのロボットの所業なのか清潔感が保たれている。ヒナは狭い場所を長時間動いた事で身体中の骨を鳴らし、周囲を伺う。

蜘蛛等の昆虫種、もしくは先ほど遭遇したロボットや異形のミノタウロスは確認できず、一先ずは休憩する事に決め、すぐ傍の本棚から一冊の本を取りだして適当に捲りながら座り込むと、


「これは……」


掛かれている文字は懐かしい日本語であり、やはりこの施設は旧世界の遺産である事は間違いない。内容はどうやらこの研究施設で行われた実験のレポートであり、ヒナが手に取ったのはある「生物」の資料だった(幸いにも複雑な漢字についてはふりがなが上に刻まれており、問題なく彼女でも読める)。


「……ミノタウロス?いや……違う」


資料には画像が付属されており、そこには卵型のカプセルの中で培養液らしき液体に浸かっている先ほどの「ミノタウロス」の姿が描かれており、どうやら先ほどの異形の怪物はこの施設で造りだされたみたいだが、気になる文章がカタカナ表記されている。


「……プロトタイプ?」


先ほどの異形の怪物とは別個体と思われる生物の写真も付属されており、こちらはヒナが知っているミノタウロスと形状が似ているが、どういう事か写真は血塗れの状態で棍棒らしきものを握りしており、背後には研究員らしき人間が倒れこんでいる光景が描かれている。

気になる事は多々あり、この資料に書き込まれている西暦と日時は前世のヒナが死亡した日から5年後であり、ミノタウロス以外にも様々な怪物の写真と資料が収納されている。

「オーク」や「サイクロプス」といったヒナが知る魔物とは多少形が異なる怪物や、中には何故か「死人」や「喰人(グール)」と酷似した赤い瞳に顔面に異様に血管が浮き出た人間の姿もあり、どうやら自分が死んだ後の日本に何かが起きたのは間違いない。最も、今更知ったところでどうにも出来ない話だが。


「ん……?」


資料の後半に入ると不意に気にかかる文字が書かれており「ナンバーズ計画」と「ハンドレットゲーム」という単語も気にかかるが、ヒナが興味をそそられたのは一番最後に記されていたある「生命体」の資料だった。


「これは……間違いない、迷宮にいた奴だ」



――資料の一番最後には茶色の体毛に覆われた人型の生物の「絵」が描かれており、何故かこの生物に関しては写真ではない。その手足は異様に細長く、体長は恐らく2メートルほどであり、脚は人間の物とは大きく違い、猛禽類の類に近い。その割には両手は人間というよりは類人猿に近く、指の数だけでも6つもあり、爪の類は見当たらない。



この生物だけが写真でなくまるで絵本に出てくる怪物のように描かれている事が気にかかり、その資料を解読すると、不可思議な単語が幾つも出てくる。



元々は日本近海に存在する島にいたという生物であり、地球外の生命体ではないかという説もあるらしい。この生物の体毛からは地球上では観測されていなかった新種の未知の「ウィルス」が発見され、このウィルスを人体に送り込むことで異常な現象が起きるという。

それよりも気になったのはヒナはこの生物を地下迷宮で確かに見かけた事であり、以前にホノカを追跡した際に彼女が地下三階層に繋がる階段に辿り着いた時、下層から姿を現して唐突に攻撃を仕掛けてきた。

この生物の正体が何なのか資料を調べて確かめようとしたが、生憎とこちらに書かれているのはこの生物が元々は日本近海に存在するという島に生息していたという事であり、実際にその生物を確保した訳ではないらしい。

それでも島の住民たちはこの生物を度々目撃し、ある老人はこの生物の住処と思われる洞窟を発見して例の体毛を入手したという。セカンド・ライフ社はこの生物の体毛を研究を行い、新種のウイルスを開発したと書かれている。

体毛が存在すればクローンを作り出せることも可能だが、当時のセカンド・ライフ社の会長はそれを拒否し、あくまでも体毛から摂取出来たウイルスの量産化だけを行ったという。


「何なんだろうこれ……」


資料の突拍子の無い内容よりも、むしろこちらの怪物に対してヒナは意識が奪われ、この生物がセカンド・ライフ社が後に管理する島に生息し、今尚も地下迷宮で生き延びていた事に驚きを隠せず、まさかこの資料に書かれている生命体と同一個体であるとは思えないが、不気味に感じる。


「まあ、いいか……」


ヒナは資料を本棚に戻し、先に進む事に決める。興味深い内容ではあるが、今は一刻も早く先ほどの異形のミノタウロスと遭遇しないうちに進むしかない。この場所も気がかりだが、今はゴンゾウたちと再会する事が最優先である。


「それにしても……」


この施設が旧世界の遺産である事は確定したが、それでも謎は多い。どうしてこのような地下施設が放浪島に残されていたのか、異様なまでに内部が清潔感に保たれている事や、昆虫種やミノタウロスなどの生物の存在、他にも武装を施された少女型の清掃ロボットなど、気になる事は幾らでもあるが、今は地上に戻らなければならない。


「扉は……」


まるで迷路のように広がっている本棚を潜り抜け、やっと出入口と思われる扉を見つけ出す。だが、鋼鉄製の扉の傍には明らかに指紋認証のような機器が壁に埋め込まれており、この施設に関わりのある人物の指紋を認識させない限りは通れない可能性が高い。

理由は不明だが、この施設のシステムはまだ生き残っている。実際、先ほどのロボットが稼働している辺り、現在も電源が通っていると考えるべきだろう。もじかしたら自家発電の機能が存在してもおかしくはない。


「……せえのっ……!!」


ガシィッ!!


何とか扉を掴んで力ずくで開こうとしたが、やはりロックが掛けられており、常人よりも運動能力が優れた彼女でも開くことが出来ない。しばらくは肉体強化や嵐属性の魔法で奮闘してみたが、流石にこれほどまでの施設だと頑丈な素材で造られており、どうしようもできない。


「……稼働してるのかな?」


仕方なく、壁に埋め込まれた指紋認識の装置らしき機器に近づくと、どうやら指紋というよりは掌全体を押し込むタイプであり、大きめの掌の形を模した画面が取り付けられている。システムがまだ生きているのならば触れてみれば何らかの反応があると思うのだが、下手に試みるとまたもや先ほどのようなロボットが現れるかも知れない。


「閉じ込められた……というわけでもないか」


よくよく考えれば先ほどの通風孔の中に戻り、移動を行えばいいだけの話であり、わざわざ指紋認証という大掛かりな機械が設置されている割には簡単に移動できる建物の構造に疑問を抱きながら、ヒナは通風孔に戻ろうとした時、


ガコンッ……!!


「え?」


後方から音が聞こえ、ゆっくりと振り返ると、先ほどまでロックされていた扉が外側から開かれていた。


『……生体反応を感知。このエリアは今から清掃作業に入ります。今すぐに退避してください』


そして、扉の外側には下半身がキャタピラ型の少女ロボットと酷似しているが、今度は完全な人型のロボットが立っており、ヒナに視線を向けていた。
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