種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

実験獣

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「それは捕獲した白狼種の事ですね?私も拝見しましたが、ですが正直に言えば私の記憶の中にあるフェンリルと比べると……その、言いにくいのですが拍子抜けしました」
「ひょ、拍子抜け……?」
「それは私も思った。多分、あの狼はまだ若いと思う。身体は大きくても私の知っている白狼とは比べ物にすらならないね」
「あ、あれでも比べ物にならない……?」
「一体、お二人が知っている白狼種とフェンリルはどれほどの化け物でござるか……?」


ナナとヒナの発言に全員が愕然とし、特に白狼種を捕獲したアルト達は衝撃を受けた様に顔を俯く。彼等としても必死に捕獲を成功させたのだが、本物とは比べ物にならないという言葉が信じられず、今回復活するフェンリルはどれほど強大な存在なのかと思い知らされる。


「それに私の知るフェンリルは、少なくともあのような美しい白毛では覆われていませんでしたね。外見は良く似ていますが、私が知っているフェンリルは青みがかった鬣を纏い、尻尾も異様に長いという特徴がありました。恐らく、白狼種とはフェンリルの亜種なのでしょう」
「あるいは白狼種の亜種がフェンリルなのかもね」
「その可能性の方が高いそうですね……ですが、今はフェンリルの出生ではなく討伐方法に集中しましょう」
「しかし……亜種とはいえ、あの白狼種はフェンリル対策に利用できるのではないのか?戦法を知って置けば、フェンリルとの戦闘でも有利に立てるのでは?」
「それはどうかにゃ~……元々は同種とはいえ、生まれや環境が違えば戦闘方法も違うと思うにゃ」
「あの、1つ気になったんですがフェンリルとの戦闘経験があるナナ殿ならば、フェンリルの戦闘方法や対抗策も存じているのではないんですか?」
「……あっ」
「「「え?」」」


ジャンヌの言葉にナナは「その手があったか」という表情を浮かべ、会議中の全員の視線が集まる。彼女は頬から冷や汗を流しながら、そっと視線を反らし、


「……す、すいません。言われみれば確かにその通りでした……」
「ちょっと待って……それじゃあ、私達のやった事って……」
「全部無駄だった……て事かな?」
「い、いや!!そうとは言い切れないでござるよ!!」


全員が表情を暗くさせる中、カゲマルは慌てた風に長机の上に置かれたある資料を指差し、それは第4部隊がアイリィが教えてくれた地下施設から回収した伝説獣に関する資料だった。


「この島に調査に訪れなければ恐らくは魔族侵攻大戦よりも前の時代に製作されたと思われる貴重な資料は手に入らなかったでござる!!それにヒナ殿の話なら、まだ遺跡の中には様々な文献が残されると聞いているでござる!?」
「多分……」



――ヒナが無事にデルタと供に脱出した際、施設内部でベータが自爆したのか大きな地震が起きたが、彼女が事前に言っていた通り地上部分に関しては影響は一切なく、地上の建物には自由に出入り出来る。地下に通じる階段や通路は全て封鎖されてしまったが、地上の建物に関しては問題ない。


あの施設に保存されていた生前のアイリィが書き残した研究資料、彼女の資料は王国側にとっても有益な物ばかりであり、今後の召喚実験や今までの歴史の謎を解き明かすのに十分な有限資材であり、決してこの島に訪れたのは無意味ではない(ちなみに後々に再会したアイリィに告げたところ、彼女は自分の研究成果が王国に管理される事に対しては特に問題ないとの事)。



「ですが、それならあの白狼種は一体どうすれば……」
「わざわざ捕獲したのに、あれを養える事は出来ないからな……」
「かと言って逃がすのも危険だし、だからと言って従う存在でもないからなぁ……人に懐く種じゃないだろうし」
「その割にはウルはヒナ殿に懐いていると思うでござるが……」
「ク~ン?」


ヒナの椅子の傍でお座りの体勢で待機するウルに視線が集まり、彼女はそんな従順な白狼の頭を撫でやり、


「この子は特別。懐いているというよりは、私の事を家族だと思っている」
「ウォンッ!!」
「だが……その子の親である白狼は君が殺したんだろう?普通に考えたら有りえない状況だと思うが……」


一部の魔物にも親愛などの感情は存在し、例としては「サイクロプス」が有名あり、彼らは途轍もない戦闘力を誇りながらも比較的に大人しい生物であり、無闇に自分からは人間に襲い掛かる真似はしない。だが、縄張りを犯されたり、自分の家族を襲われた場合は凄まじく激怒し、親兄弟や子供を攫おうとする輩に至っては四肢を引き千切るまでは絶対に容赦しない存在だ。

ウルとその父親である白狼もヒナが知る限りは確かな親子の絆が存在し、基本的には放逐主義だがウルが危険に晒された時(グリフォンなどの魔物に襲われた際)にはどんな場所からも駆けつけ、相手を食い殺すまで執拗に追跡して仕留めていた。


「私の場合はウルとは仲は良かったけど、白狼とはあんまり近づかなかったしね……それに気づいたんだけど、野生に置いては戦闘とはお互いの命を奪い合う場、勝者が生者、敗者が死者。白狼が死んだのは私との勝負に負けた事はウルもちゃんと理解しているよ……多分」
「ウォンッ……」
「なら……今の状況は尚更可笑しいんじゃないのか?何故、その……ウル?という狼は君に懐いてるんだ?」
「それはウルにしか分からないよ。でも……遅かれ早かれウルも親離れの時期を迎えていたはずだし、あの戦いは私なりのけじめをつけるためにやった事だし、父親が正面から戦って敗れたことはこの子も見ているからね……案外、敵討ちという感情を心の奥底に抑えている可能性もあるけど」
「ふんっ……くだらん。犬ころがそんな高尚な思考や感情を持ち合わせているとは思えんがな」
「ウォンッ!!」
「うおっ!?」


ゴルスの馬鹿にするような態度にウルが勘付いたのか、牙を剥き出してくる。驚いた彼は椅子から転げ落ちそうになるが何とか耐えると、少し焦ったように距離を取る。


「お、おい!!その狂犬を何とかしろ!!というか、何故この会議の場に連れて来た!?」
「勝手に付いてきたんだもん。それに今の発言はあんたが悪い」
「そうでござる。魔物の中にも拙者たちのような考え方や感情を持つ存在もいるでござるよ」
「そうですね……だからこそ、私と相対したフェンリルもある意味では可愛そうな存在かも知れません」
「……?どういう事ですか?」


ナナの発言にリノンが気にかかって問い質すと、


「……元々、フェンリルという存在は1000年前のバルトロス王国の祖であるバルバロス帝国の実験獣として飼育されていると聞いています。あの名高き「神獣」の血を受け継ぐ狼というだけであり、帝国は様々な実験を施しました」
「実験獣って?」


神獣という言葉にヒナは地下施設から回収したアイリィの資料を思い出し、話を聞いていみると、


「実験の生贄として利用される魔獣の事でござる。野生から捕獲したり、幼少の頃から育て上げたりなど、様々な飼育方法で管理されている魔獣種の事でござる……最も、あまりにも自然の摂理を冒涜し、残酷な手段と判断されて随分昔に廃止されたはずでござるが……」
「当時はまだ、実験獣に対しての配慮は存在しない時代でしたから……帝国はこの資料にも書かれているように伝説獣と呼ばれる存在を知っていました。今となっては最悪の魔王と謳われているアイルですが、彼女は暴走する前は優秀な科学者でした」
「科学者(マッドサイエンティスト)か……」
「ん?ヒナ殿、今何か呟いたでござるか?」
「ううん、別に」
「……私も当時の戦友から聞いた話ですので、真実とは差異があるかも知れませんが――」


ナナはまだ実験獣として捕獲され、後に魔王(リーリス)にフェンリルと名付けられる前の狼の話を始める。
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