種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

勇者の要求

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――バルトロス13世が勇者達に誘拐されてから二日後、城塞都市の中心に存在する巨大な王城ホワイト・ベルには未だに混乱が収まらなかった。人間の代表である国王が勇者に誘拐されるなど前代未聞であり、すぐにフェンリル対策会議を先延ばしにして国王の奪還の会議が行われる。

国王の代理として王位第一位継承者であるアルトが一時的に全権を握る事になり、彼はまずは国王を誘拐した勇者達の行方を掴むため、カゲマルが率いる隠密部隊を総動員させて調査を行わせ、その間に勇者達に対抗するために追跡部隊を編成し、現在動かせる人員を全て呼び寄せる。

王城に存在する第一会議室にはバルトロス王国が誇る四人の大将軍が集結し、さらにテンペスト騎士団の団長であるジャンヌと副団長のリノン、その他にも長年に渡って王国を支え続けた重臣や将軍たちも参加しており、1人だけ場違いではないのかと思いながらもジャンヌとリノンに挟まれる形でレノも参加していた。


『俺も出るの?』
『いや、当たり前だろう?君は英雄なのだから、他の者に気後れする必要は無いよ』
『そんな重要な会議に他種族の俺が出るのって色々と問題があるんじゃないの?』
『君の口からそんな今更な事を言われるのは違和感しかないんだが……大丈夫、いざとなったらジャンヌたちも助け舟を出してくれる』


会議の前にアルトからそのように告げられ、レノは一応は会議に参加してみたが、明らかに何人かが彼に不審気な視線を向けてくる。


――そして、その中にはレノも見知らぬ残り2人の大将軍も含まれており、どちらも厳つい強面の男性だった。前々からレミアから2人の事は聞いていたが、随分と想像していた人物像とは違う。


1人は国王と同世代ではないかと思われる異様に長い白髭を生やした老人であり、戦前にも関わらずに兜を被ったまま出席している。身長はアルトよりも高く、老齢にも拘らずに服の上からでも盛り上がるほどに筋骨隆々とした肉体だと分かる。

だが、もう1人の方はこの老人よりも一回り程体格が大きく、一体何を喰ったら人間がここまで大きくなるのかと思えるほどに巨体である。一目見るだけでは肥満のように思われるが、すぐによく観察したらそれは肥大化した筋肉だと分かり、小柄な巨人族を思わせる体格の持ち主だった。年代は40代かほどであり、心なしか隣の老人と顔つきが良く似ているため、親子の可能性が高い。


「さて……早速本題に入ろう。まずはこの事態に陥った経緯を説明してくれ」
「はっ……僭越ながら、某が説明を」
「ギガノ大将軍か……お願いします」
「私を相手に口調を正す必要はありません。アルト王子」
「ギガノよ、今の王子は国王代理だ。お主の方こそ言葉を改めんか」
「これは失礼を……国王代理」


深々と頭を下げるギガノの姿に、どうやら外見からは考えられないほどに礼儀正しく、彼は前に出て説明を始める。


「事の顛末は我々が勇者殿達が国境の警備から独断に帰還し、フェンリル討伐に参加させろと要望したのが始まりです。無礼にも勇者殿達は国王に直談判し、討伐作戦に自分たちを主力として参戦させろと申してきましたが、王が直々に彼等に与えた国境の守備の重要性を説いたのですが、遂には激昂した彼等が国王自身に手を上げようとしたのを私と父上が拘束しました」
「全く……勇者というのがどれほどの者かと期待していたにも関わらず、あの程度とは不甲斐ない」


その話が事実ならば10人近くの勇者を相手に2人だけで取り押さえたという事になるが、勇者の1人1人は美香のような特殊能力を所持しているはずだが、たった2人で本当に鎮圧したというのならば流石は大将軍というべきだろう。あまり勇者と相対した事が無いレノには彼らの正確な力量は分からないが、少なくとも元勇者のミカは多彩な魔法を扱える事から、この世界でもそれなりの実力者のはずだが。

同じ大将軍であるレミアもカノンも強者ではあるが、彼女達の場合は特殊な能力と武器を所持しており、他の2人も何か独特の能力を持っているのではないかとレノが考察していると、ギガノは話を続ける。


「勇者殿達は謀反を企んだと判断し、王城の地下牢獄へ厳重な監視下の元で見張っていましたが、どういう方法を使ったのか厳重な警備が施されていた牢を脱出し、私と父が軍の訓練で王城を離れている隙に国王を誘拐したようです」
「不覚じゃ……儂と息子のどちらかは王城へ残っておればこのような事にはならずに済んだのかもしれません……」
「いや、テラノ将軍。今回の件は貴方達に落ち度はない。僕も調べたところ、どうやら勇者達の牢獄脱出の件、裏に手を引いていたのはハナムラ侯爵家の残党だ」
「ハナムラ侯爵の?しかし彼は既に……」
「確かにハナムラ侯爵は死亡している。だが、彼の息子が処刑を逃れて逃げ延び、ロスト・ナンバーズと繋がっている情報を掴んでいる。彼は軍人として王城に勤務していた以上、城の内部の警備体制を知り尽くしている」
「そうか……カズキ・ハナムラか。しかし、あの小童が謀反を働くとは思えんがな……父親と違い、性根は腐ってはいなかったはずじゃが」


ハナムラ侯爵の息子の一人であるカズキは剣の才能があり、侯爵家の跡取りにはなれないと判断し、自らの申し出で王国の騎士として志願する。非道な父親と違い、カズキは真っ当な人間であり、ストームナイツ騎士団の団員として立派に勤めを果たしていた。

しかし、2年前の剣乱武闘の際に父親が放浪島から囚人である「リュウケン」を内密に引き取り、逆に彼に殺された事から侯爵家は瓦解し、カズキも同時期に失踪した。その後の消息は掴めなかったが、最近の隠密部隊から情報によれば先の闘人都市にロスト・ナンバーズが訪れた際に彼の姿を見かけたという。

それだけではロスト・ナンバーズとカズキの繋がりがあるとは断定できないが、目撃したという闘人都市の警備隊の兵士によれば彼の首元に蛇を想像させる黒い痣が存在したという事から、彼もリーリスの怨痕によって洗脳されていると考えるべきだろう。


「カズキ以外にも最近になって王城内から姿を消した大臣もいる。恐らく、今回の勇者達の反乱はロスト・ナンバーズが裏で手を引いているのは間違いない」
「おおっ……そこまでお調べとは」
「流石は王位第一継承者ですな」
「茶化さないでくれ……それで現在の勇者達と国王の行方は?」
「それは拙者が説明するでござる」


頭上から声が聞こえ、会議室の全員が見上げるとそこには久しぶりに登場を果たした天井に張り付くカゲマルの姿があり、彼女は飛び降りるとすぐにアルトの前に跪ぎ、


「国王代理、このような形で登場したことを許してほしいでござる」
「あ、ああ……何時からいたんだい?」
「つい先ほど戻ってきたばかりでござるが?」
「何時の間に……」
「ぜ、全然気づきませんでした……」
「ふぉっふぉっ……まだまだ若いのう」


ジャンヌとレミアは冷や汗を流し、そんな彼女達にテラノ将軍は起こった様子も無く笑みを浮かべる。どうやら外見よりも大らかな性格であり、親しみやすそうだが、


「しかし……そこのハーフエルフ殿は気付いておったようじゃな」
「ほう?」
「えっ」


唐突に鋭い目つきでレノを見つめ、ギガノ将軍も視線を向ける。確かにレノはカゲマルが会議室の天井で待機しているのは気付いていたが、まさかそれを見抜かれているとは思いもしなかった。


「時に国王代理……今回の会議の場は王国の重要人だけを呼び寄せたと聞いておりますが、レミアとカノンが復帰したのは喜ばしい事ですが、そちらの少年は例の噂のハーフエルフの英雄殿か?」
「その長い耳に我らを相手に堂々とした態度……噂に聞く雷光の英雄か」
「そんな中二病臭い仇名は呼ばないで下さい」
「ちゅうに……?よく分からんが、なるほど……どうやら外見からは想像できんほどに修羅場を潜り抜けておるな」


長年の軍人の勘という奴か、2人の大将軍はレノが自分と同格かそれ以上の力を有している事を見抜き、会議室の空気が一変した。



※テラノとギガノは親子であり、普段は王城に勤務しています。どちらも優れた武芸者であり、カノンとレミアを子供の頃から面倒を見ています。四人の大将軍の実力は一番がギガノ、次点でテラノ、三番目にカノン、最後にレミアといった順です(但し、レミアの場合は知っての通り「憑依術」で過去の英霊を憑依させれば別ですが)。

裏設定ではテラノは若い頃にミキに惚れており、彼女に告白するも玉砕。その時に落ち込んでいた彼の幼馴染と結婚して一人息子のギガノが生まれました。奥方は今でも元気であり、早く孫の顔を見せろとギガノに脅迫しています。

さらに親は子に似るというのか、ギガノも子供時代にミキに憧れを抱いており、まだ10才になったばかりの頃に彼女に告白して振られています(少なくとも30~40代の頃の彼女に告白したことになりますが)。
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