種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
676 / 1,095
英雄編

相対

しおりを挟む
「ロスト・ナンバーズ……!?」
「何故、自ら……!!」


唐突に結界から出現したロスト・ナンバーズの姿にソフィア達は驚きを隠せず、まさか自分たちの方から姿を現すとは予想できず、彼等の反応をせせら笑うように5人の世界最悪犯の罪者達は前に出る。その中の1人のマドカはソフィアに視線を向け、その迸る凄まじい魔力を感知し、笑みを浮かべる。


「すごいねぇ……あれからそんなに経っていないってのに、また成長してるとは。あの時に殺して置けば良かったかも」
「じゃから言ったじゃろう?あの時に何としても殺しておくべきだったと」
「あんただって何度か見逃してるじゃない」


マドカとムメイが笑みを浮かべ、その姿に隣に立っているゴーテンは舌打ちする。どうやら前日の件を根に持っているらしく、ソフィアを睨み付けてくるが、


「……ソフィア」
「ゴンちゃん?」


彼女の後ろからゴンゾウが姿を現し、棍棒を構える。その行動にゴーテンは額に青筋を立て、自分の人生を無茶苦茶にしたと思い込んでいる彼を睨み付ける。十数年前は赤ん坊である彼を殺す事が出来なかったが、やはり自分たちは戦う「運命」だと悟り、直後に運命などという自分らしくない考えを抱いた事に苦笑する。


「てめえの相手は俺がしてやる……従兄弟ちゃんよぉ?」
「……お前など知らん」
「はっ!!嫌われたもんだな!!」


ゴーテンとゴンゾウはお互いに歩み寄り、棍棒を握りしめる。だが、その後方からそれぞれの仲間達が引き留め、


「辞めろゴンゾウ!!迂闊に前に出るな」
「むっ……」
「止まりなゴーテン、まだ早い」
「ちっ……」


2人は渋々と下がり、今度はギガノが巨闘拳を構えて前に出る。彼は今までにない激怒の表情を浮かべており、その威圧感は半端ではない。実際、ロスト・ナンバーズの全員が後退り、戦闘態勢に入る程だった。


「貴様等……国王はどうした!!」
「国王?ああ、あの偏屈爺さんの事かい?まだ学園内に残ってるよ」


あっさりとマドカが学園の方向を指差し、既に学園を覆い囲む結界はまるで黒煙に覆われているように黒色化しており、途轍もない規模の呪詛が蓄積している事が分かる。ギガノはマドカの返事に怒髪天を突く勢いであり、今にも彼らに襲い掛からんばかりだが、アルトが彼の肩に手を置く。


「ギガノ将軍……落ち着くんだ。どんな状況でも冷静さを欠くなと言ったのは貴方だ」
「っ……そうですな」


彼の言葉にギガノは落ち着きを取り戻すが、それでも握りしめた両拳は開かず、ロスト・ナンバーズを睨み付ける。そんな彼に唯一勇者であるシゲルが前に出ると、


「ふっ……安心してくれギガノ将軍。国王に手荒な真似はしていない。彼には僕たち勇者を召喚したという罪はあるが、恨みはないからね」
「シゲル殿か……何故、このような真似を」


シゲルとギガノは面識があり、元々は勇者として彼が活躍していた時代は共に王国のために戦い続け、それなりの親交があったはずだが、いつもの彼らしくない真剣な表情を浮かべる。


「……切っ掛けを造ったのは君たちだ。僕たちを騙し、都合よく使い捨てたくせに元の世界に帰る方法を知らない事を黙っていた……それが君たちの罪だ!!だからこそ、こんな世界など僕が壊す!!」
「……確かに我等王国が君たち勇者達をこの世界に呼び出した責はある。だが!!だからといってお前たちの行動で何人の人間が犠牲になったと思っている!!何の罪もない人間を一体何人殺してきたぁっ!!」
「うっ……」
「気にしてんじゃねえよ!!悪いのは全部騙していたこいつ等なんだからよぉっ!!」


ギガノの発言と威圧にシゲルは表情を歪めるが、意外な事に彼の隣にゴーテンが移動し、


「偉そうに言うけどよぉっ……どれだけ言葉を言い繕うが、騙す奴が一番悪いに決まってんだろうが!!」
「ケンキか……久しぶりだな」
「その名で呼ぶんじゃねえっ!!」


元々は巨人族の戦士として戦い続けていたケンキと、バルトロス王国の将軍であるギガノは戦場で何度か面識があり、人間の体格ながらに真正面から他の巨人族の誰よりも前線に出てくる彼には、ギガノも敵ながらに感心していたのだが、今の落ちぶれた姿を見て溜息を吐く。

ダンゾウと彼の間に何が起きたのかは分からないが、それでも今のゴーテンが行おうとしている事は認められない。


「ダンゾウ殿が……目を覚ましたぞ」
「っ……!?」
「だが、もうそれほど長くはない」


自分の義父の名前にゴーテンは目を見開き、ギガノは彼の心にまだダンゾウへの想いが残っている事を確信し、先日に聖導教会で彼の見舞いに訪れた時の事を話す。


「獣王と違い、ダンゾウ殿はお前の攻撃で精神的な影響を受け、目を覚ましたころには何も反応しない状態だった。何も話さず、ずっと虚空を見つめるばかりだ」
「……それがどうした、俺にはもう……」
「彼の世話をしている修道女から直接話を聞いた。あんな状態でありながら、時折誰かの名前を呟いていると……ケンキ、そしてゴンゾウとな」
「「なっ……!?」」


自分の本名が出た事にゴンゾウとゴーテンは同時に目を見開き、全員が彼らの話に水を差さない。あのロスト・ナンバーズですらも興味深けに彼らの話に聞き入り、


「意識を完全に取り戻してはいない。だが、何度も息子たちの名前を呟いていた。そして、レイゾウ殿の名前もな」
「親父……!?」
「……?」


レイゾウという名前にゴンゾウは聞き覚えは無いのか首を傾げるが、ゴーテンは明らかに動揺する。今更、どうして彼の実の父親の名前をダンゾウが口にするのかと問い質すように視線を向けると、彼は口を開き、ダンゾウが呟いた言葉を告げる。



『――レイゾウ……すまない……』



その言葉を聞いた瞬間、ゴーテンは棍棒をゆっくりと下ろし、黙り込む。今、彼の頭の中で様々な感情が渦巻いている事が良く分かり、憎悪、嫉妬、悲しみ、怒り、やがて彼は頭を抑えながら、ゆっくりとゴンゾウの方向に視線を向け、


「……るせぇよ……もう、遅ぇ……今更、そんな言葉なんか……遅いんだよ!!」


ゴーテンは「黒棒」を振り翳しながらゴンゾウに突進する。


「てめえがいなければぁっ!!」
「ぬうっ!?」
「「ゴンゾウッ!?」」


咄嗟にゴンゾウは棍棒を構えるが、ただ受け止めただけではあの巨人族の天敵に相応しい棍棒の「振動音」の餌食であり、このままでは危険である。全員が彼を庇おうと動き出そうとした瞬間、ロスト・ナンバーズも邪魔はさせないとそれぞれの武器を掲げた時、


「――ちょっとごめんよ」
「うおっ!?」


ゴンゾウの後方には何時の間にかソフィアから元の姿に変化していたレノが移動しており、彼は棍棒に触れると、瞬時に紅色の魔力の炎が覆われ、一瞬にして「魔装術(アーツ)」を発動させる。


「死にやがれぇええええっ!!」


レノの登場に気にした風も無く、ゴーテンは構わずに2人に向けて黒棒を振り下ろし、その間に完全な魔装を終えた棍棒をゴンゾウは横薙ぎに振り抜き、


「やれゴンちゃんっ!!」
「うおぉおおおおおおっ!!」



――ビュオォオオオオッ!!



遂にゴーテンの黒棒とゴンゾウの棍棒が衝突し合い、凄まじい衝撃波が辺りに霧散する。その音にゴーテンは笑みを浮かべるが、すぐに手元に感じる違和感に疑問を抱き、どういうことか「紅炎」に覆われた棍棒と正面衝突したはずの黒棒が振動音を放たず、そのまま鍔迫り合いの状態でゴンゾウは渾身の力を籠め、



「ふんっ!!」
「なっ……うわぁああああああっ!?」



ゴォオオオオッ!!



そのまま彼の怪力に吹き飛ばされる形でゴーテンが宙を舞い、その光景に誰もが唖然とする。彼は数メートルほど跳躍し、背中越しに地面に墜落してしまう。


ドォオオンッ!!


「がはぁっ……!?」
「ゴーテン君!?」


地面に背中を強打し、ゴーテンは痛みよりも困惑していた。どうして衝撃を与えるだけで振動するはずの自分の武器が発動しなかったのか戸惑う。彼は何とか起き上がってゴンゾウの方を確認すると、そこには棍棒に腕を差し出した状態のレノが視界に入り、また何かを仕出かしたのかと睨み付ける。


「て、てめえら……!?何をしやがった!?」
「さあ……自分で考えろ」
「レノ……助かった」


ゴンゾウとレノは拳を合わせ、その姿に怒りを抱く一方、ゴーテンは自分が今何が起きたのかを理解できなかった。




――皆がギガノの話に集中している隙にソフィアはレノに変化し、ゴンゾウの後方に待機する。そして彼の武器に自分の魔鎧を纏わせる「魔装術」の準備を整え、ゴーテンが動き出した瞬間に防御型の魔鎧を形成したのだ。


ソフィアの魔鎧と違い、レノの魔鎧は「防御型」であり、あらゆる衝撃を受け流す特性を持つ。だからこそ、ほんの少しの衝撃を与えるだけで振動を放つ黒棒に対抗するため、ゴンゾウの棍棒に防御型の魔鎧を装着させて攻撃した場合はどうなるのか試した。

その結果、見事にレノの読み通りに棍棒に纏わせた魔鎧は黒棒と衝突した際、お互いの衝撃を外部に受け流して振動を防いだのだ。これがゴーテンに対抗するためにゴンゾウ達と協議して考え出した戦法であり、見事に策は成功した。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:8,127

シモウサへようこそ!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:335

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:852pt お気に入り:8,885

新宿アイル

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:138

処理中です...