種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

雷の雨

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空中に投擲されたスマートフォンが眩く発光し、身体のほぼ全てが腐敗化したマドカはその光景を黙って見据え、口元に笑みを浮かばずにいられない。この狭い結界内であの魔法を使用すれば誰も助からない。


(悪いね坊主……仲間は裏切れない)


マドカがレノに伝えたスマートフォンの使用方法は虚言であり、そもそも強い衝撃を受けただけで発動する条件ならば最初のキメラの攻撃によって発動していた。より正確に言うならば、あのスマートフォンはマドカと一定の距離を離れると爆破装置が発動する。

彼女の体内にはカノン同様に特殊な人工心臓が埋め込まれており、リーリスに忠誠を誓った際に彼女から植え付けられた物である。カノンとの違いはこの心臓はスマートフォンと伝動しており、仮に一定以上の距離を離れるとどちらも爆発する仕組みになっている。

彼女が魔方陣を発動させて砲撃魔法を行う事や、魔力暴走という能力も得たのもこの心臓が原因であり、スマートフォンに内蔵されている魔水晶が発動する仕掛けだった。その爆発の規模は丁度この学園を飲み込むほどであり、都合がいい事に学園が結界で覆われている以上、必要以上の被害は生み出されない。


「まあっ……悪くない人生だったね」


既に首元まで腐敗化が進み、失われつつある意識の最中、マドカは天空に誕生した巨大な電撃を確認し、自分に向けて降りかかる巨大な落雷に笑顔を浮かべ、最後に自分と供に過ごした恋人(ヒカリ)の姿が思い浮かび、


「今行くよ……ヒカリ」


それだけを告げると彼女は瞼を閉じ、このまま身体が雷に飲み込まれれば腐敗化した肉体は一瞬にして崩壊し、彼女の胸元の心臓部に存在する魔水晶が発動する。先のツインが所持していた「プロミネンス・ノヴァ」よりも規模が大きい「エクスプロージョン・ノヴァ」が発動する手筈だった。

この心臓部の魔水晶が発動する条件は「ノヴァ級」の電力を必要とし、スマートフォンに仕込まれたライジング・ノヴァを敢えて身体に受ける事で心臓部に高圧電流を流し込み、自爆する仕組みが施されていた。



――その爆発規模は5キロ圏内であり、発動と同時に鳳凰学園は跡形も無く吹き飛ぶはずだったが、



ズドォオオオオンッ!!



『オォオオオオオオオッ……!!』



襲い掛かるはずの衝撃が来ない事に疑問を抱き、さらには至近距離から聞こえてくる怪物の咆哮にマドカは瞼を開くと、そこには彼女を覆い隠すように落雷を自身の身体で受け止めるキメラの姿が合った。


「なっ……!?」
『がぁあああああっ……!!』


それは突発的な行動なのか、それとも本能で見抜いたのかは不明だが、キメラは降りかかる落雷を全てその身に受け続け、マドカの身体を覆い隠す。決してその行為は彼女を守るための行動ではなく、体内に存在する彼女の魔道具を発動させないためだ。


「くそっ……ふざけるじゃないよ!!」


必死に逃げ出そうと試みるが、すでに首元以外の感覚は失っており、動くことも出来ない。一方で天空に発現した電気の球体は週一帯に雷を放出させ、あらゆる場所に落雷する。

しかし、怪物は電流による耐性すらも身に着けているのか「ノヴァ級」の落雷を受け続けながらも平然としており、むしろ雷を浴びる度にキメラの身体から電流が迸り、吸収しているように見える。


(まさか……これも勇者の能力なのかい?)


今まで相対してきた勇者達の中には相手の魔法を利用する輩も存在し、恐らくは吸収したキメラには30人の人間の電気耐性と魔法を吸収する能力を所持しており、逆にこの境地を自分の力へと変化しているのだ。


(こんな化物……どうやって殺せって言うんだい!?)


天上から降りかかるカラドボルグ級の雷撃を受け続け、平然とするキメラにマドカは舌打ちし、こんな化け物を生み出したムメイに悪態をつく。このままでは雷を吸収し続け、さらに強化されたキメラは伝説銃に匹敵する化け物へと変化してしまう。


(因果応報ね……全く、ふざけた最期だよ)


しかし、今の自分では何もする事が出来ないマドカは早々に諦め、こちらに向けて右拳を構えるキメラの姿を認識し、今度こそ恋人が待つ天上の世界へと行ける事を願いながら――



――ドゴォオオオオンッ!!



グラウンド全体に広がったのではないかと思わせる地面の亀裂が生じ、無慈悲な一撃によって肉塊と変わり果てた彼女の姿と、残されたのは右拳に返り血を浴びたキメラだけだった。


『……さんだぁばぁすと』


バチィイイイイッ……!!


自身の身体に電流を迸らせながら、充電を終えたキメラは上空に視線を向け、スマートフォンから発言した巨大な電気の塊を確認し、


『だぁくぶらすたぁああああああっ!!』



――ズドォオオオオオンッ!!



砲身から巨大な「黒雷」が放出され、そのまま上空に位置するライジング・ノヴァを貫通し、そのまま結界に衝突する。



ドガァアアアアアアンッ!!



上空に凄まじい放電現象が誕生し、あらゆる衝撃に工程されて形成された森人族のプロテクトドームに大きな波紋が生じ、それを確認したキメラは左腕からさらに砲撃を行う。


『オォオオオオオッ!!』


ズドォンッ!!ズドドドドッ……!!


左腕から何度も漆黒の光線を放出し、結界の波紋が徐々に広まり、地震が生じる。このままでは結界を破壊しかねない勢いだが、その様子を校舎の屋上から確認するソフィアには手出しできない。


(……本当に化物だな)


結界に向けて砲撃を続けるキメラに対し、その足元に転がるマドカだった者の肉塊に視線を向け、眉を顰める。彼としては騙された立場だが、別に彼女に怒りは抱いていない。敵を利用するのも立派な作戦であり、その事に対して恨みはしない。


(それにしても……どうする?)


相手は地下迷宮のキングゴーレムの砲撃を上回る攻撃を行い、しかも魔力が尽きる様子を見せない。恐らくは30人の勇者の魔力だけではなく、腐敗竜の核や先ほどの吸収したライジング・ノヴァの影響もあるだろうが、それでも馬鹿げた出力の攻撃を繰り返している。

ソフィアの予想としてはロスト・ナンバーズがこれまでに摂取した人間達の魔力も利用されており、実際に彼女の予想は間違いではなく、キメラの内蔵には無数の魔水晶が埋め込まれており、膨大な魔力を保有していた。

冗談抜きでキメラは原子炉並のエネルギーを所有する怪物であり、戦闘力は間違いなくホノカに匹敵する。同時にソフィアはある疑問を抱き、仮にそれほどの莫大なエネルギーを所持しているのならばどうやって制御しているのか。


「……やっぱり、あの核か」


キメラの胸元に存在する赤黒く光放つ宝石を確認し、ソフィアはあの「腐敗竜の核」こそが膨大な魔力を呪詛へと変化させている事に気が付き、今までのキメラの砲撃を思い返せば、その全ての攻撃が呪詛によって形成されていたことを思い出す。

膨大な魔力を所持していたとしても、仮にあの核を破壊した場合、少なくとも呪詛の放出は防げる可能性は高く、ソフィアは聖爪を収納していた魔石を取り出し、アイリィが用心のためにと入れていてくれた短剣を取りだす。



――この短剣は元々は闘人都市で開催された剣乱武闘の優勝者の副賞の1つであり、ロスト・ナンバーズの襲撃の際、アイリィがどさくさに紛れて掠め取った「オリハルコン」で造りだされた短剣だった。ソフィアは左腕を確認し、一か八かの賭けに出る事を決意する。



※ちなみにライジング・ノヴァは天属性ではなく、限りなく極限的に高められた雷属性です。仮に天属性の雷撃を喰らえば流石のキメラも無傷では済みません。
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