種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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魔王大戦編

継承の儀式

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扉から戻ってきたアルトの表情を確認し、尋ねるまでも無く上手く言ったことをバルトロス国王は悟り、リオに支えられながら部屋の中央に立ち続ける。既に身体の感覚は失われており、もう間もなく命が尽きる事を悟っていた。


「アルトよ……彼はなんと?」
「……問題ありません。少なくとも、僕等がいなくなったとしても彼はこの王国の害となる存在になるはずがありません」
「そうか……」


国王はレノと対面したことは実は三度ほどだけであり、腐敗竜の討伐の際のパーティーの時とS級冒険者の証であるペンダントを渡した時、最後に鳳凰学園から救い出された時だけであり、正直に言えばレノの人物像は人から聞いた噂でしか想像できない。

剣乱武闘でお互いに激突しながらも、アルトと今のレノの関係は良好である事をテラノから聞いており、最初の頃は信じ難いが今のアルトの表情を見る限りはどうやら嘘ではなかったらしく、これで心残りは無くなった。後は立派に成長した王位継承者に最後の儀式を施すだけだった。


「アルトよ……これより、お主に王位継承の儀式を行う。手順は分かっているな?」
「はい」


リオの傍から離れ、震える身体で何とか立ち続け、真正面に跪く彼の両肩に手を置き、


「今から儂の魔力をお主に流し込む……お主が儂の力を制御出来なければ、生涯身体に何らかの不備が起きる事になる。それでも構わないのか?」
「お願いします」
「そんなっ!?」


王位継承の儀式の危険性を知らせれていなかったリオが驚愕するが、国王とアルトの決意は既に固く、口出しできる状況ではない。不安の表情を抱きながらも黙って見つめていると、不意に国王が彼女に視線を向け、


「リオよ……お主にはこの不甲斐ない義兄を救ってほしい。まだまだ未熟ではあるが、きっとお主の父親のように立派な男へと成長するだろう」
「お爺様……その任、しかと受け取りましたわ」


真剣な表情で頷く彼女に国王は笑みを浮かべ、出来る事ならばもう少し彼女と共に平穏な日々を過ごしたかったと思う一方、覚悟を決めて待ち構えるアルトの両肩をきつく握りしめ、


「行くぞ……!!」
「はっ!!」



――ギュォオオオオッ……!!



国王の身体から聖属性の白霧を想像させる魔力が迸り、他者からも視認できる魔力密度はとても高齢の人間が生み出した魔力とは思えず、リオは息を飲む。その一方でアルトは両肩から流し込まれる国王の魔力に顔を顰め、まるで血液に熱い液体が注ぎ込まれている感覚だった。

代々、バルトロス王国の王族は幼少の頃から聖導教会に一時的に預かられ、体内に「白石」と呼ばれる特殊な魔石を埋め込む事で聖属性の力を習得し、当然ながら国王もアルト同様に聖属性の魔力を宿している。

王位継承の儀式とは先代の王が次の王に自分の力を引き継がせる事であり、上手く行けば先代の王の魔力を身に宿す事で魔力容量が大幅に上昇するが、失敗すれば注ぎ込まれた魔力が仇となり、身体の機能を著しく狂わせてしまう。


「うぐぅっ……!!」
「何を呻いておる……!!まだ半分も終わっておらんぞっ!!」


次々と流し込まれる魔力にアルトは苦痛の表情を浮かべ、それでもこの行為を乗り切らねば国王の国を託す想いを踏みにじり、自分が王になる事を信じてくれている仲間達を裏切る事になる。それだけは何としても避けねばとアルトは歯を食いしばり、直後に異変が起きる。


ボウッ……!!


彼の身体から国王同様に白霧を思わせる魔力が光り輝き、同時に国王の魔力が縮小していく。遂には継承の儀式が始まってから1分も経たぬうちに完全に国王の魔力が消え去り、残されたのは今までにない程に自分の力の沸き上がりを実感するアルトと、まるで生命力を使い果たしたように一気に老けたような表情を浮かべる国王の姿だった。


「よく……やったな」
「国王様!?」


ゆっくりと倒れ込む国王を支え込み、アルトの身体から魔力が掻き消える。その様子を確認し、彼に抱き抱えられながらバルトロス13世は乾いた笑みを浮かべ、


「馬鹿者が……国王はもうお前だ。バルトロス14世よ……」
「っ……!!」
「お爺様!!」


国王の言葉にアルトは目を見開き、リオが駆け寄る。2人に支えられながら先代の国王は意識が徐々に薄れていき、間もなく自分の命が尽きる事に気が付く。


「……アルト、リオ……」
「国王様!!」
「お爺様!!」


涙目の2人の顔を確認しながらも、出来る事ならば笑顔で別れて欲しいが既に声をだす事も出来ず、バルトロス13世は最期に笑みを浮かべ、ゆっくりと瞼を閉じる。


「お爺様?お爺様!!お爺様ぁああああっ!!」
「国王様っ……!!」



泣き叫ぶリオが国王に抱き付き、アルトは彼を抱えながら大粒の涙を流す。実の孫娘と次代の国王に最期を看取られ、歴代の王の中でも最も厳格であり、同時に種族間の対立を無くす為に働いた偉大な国王が急逝した――






――翌日、彼の死を弔うために世界中から大勢の人間が城塞都市に集結し、中には他種族の者も数多く、獣人族の代表である獣王や、森人族の代表であるレフィーア、他にも巨人族、魔人族(ライオネルなど大陸に残っていた者達)の姿もあり、種族問わずに数多くの人間が弔問に訪れ、巫女姫であるヨウカと聖天魔導士のセンリの元、彼の魂が天上の世界に届くように祈りを捧げられる。



葬式は王城で行われ、城内は数多くの一般民衆や各種族の重鎮で満たされ、国王の遺体は裏庭にて火葬される。大量の花に囲まれながら聖導教会の「聖火」によって焼かれていく姿に大勢の人間が涙を流し、長い時を共に過ごしてきたテラノは跪き、彼に習ってテンペスト、ストームナイツ、ワルキューレの大陸内でも三本指に入る騎士団の面子も敬礼を行う。

聖剣の所有者であるレノとジャンヌに関しては巫女姫の隣に立ち、カリバーンとレーヴァティンの刀身を重ね合わせ、祈りを捧げる。本来ならばデュランダルの持ち主であるアルトも参加する手筈なのだが、新国王である彼は葬式の終わりに灰と化した国王の前に祈りを捧げ、最後に集結した者達の衆人環視の中、自分が次の国王である事を宣言しなければならない。数多くの人間に見守られる中、アルトは一度だけ深呼吸を行い、



「僕が……いや、私はバルトロス13世の意思を引き継ぎ、バルトロス14世の名前を受け継いだ!!今日を持って、この僕が人間(ヒューマン)の代表の座に就くことをこの場で宣言する!!」



その発言に大半の人間が困惑と動揺し、何しろ彼が剣乱武闘で見せた醜態は民衆に知れ渡っており、不満を抱く者も多い。それでも彼の性格をよく知っているテンペスト騎士団やストームナイツ騎士団の面々は大きな拍手を行い、彼の幼馴染であるリノン、ゴンゾウ、ポチ子に至っては涙を流しており、ヨウカとセンリもそれに習って拍手を行い、聖導教会の面々も祝福する。

バルトロス13世の意思を引き継ぐという言葉に獣人族の代表である獣王も笑みを浮かべて拍手を行い、一方で森人族の代表であるレフィーアだけはつまらなそうにしており、何時の間にかレノの姿が見かけない事に気付く。先ほどまではいたはずだが、気付かないうちに姿を消していた。

集まった人々の半分が歓喜し、その一方で困惑を不安を隠せないという者達も多いが、アルトは続けてある宣言を行う。


「同時にこの場を持って私の専属の護衛騎士を決めさせてもらう!!皆も、あの雷光の英雄は知っているだろう!?」


その言葉に城内に集まっていた者達の殆どが驚愕の表情を浮かべ、すぐに彼がハーフエルフでありながら民衆に英雄として祟られている「レノ」を騎士に任命すると思い込んだが、


「しかし!!英雄殿は多忙であり、聖剣の所有者を私だけの専属として扱うには忍びない!!だからこそ、彼と同等の技量を持つ彼女を紹介させてもらおう!!」


アルトの後方からワルキューレ騎士団の制服(デザインは少し異なるが)を纏った青髪の美少女が現れ、民衆は大きく息を飲む。それと同時にレフィーアは度肝を抜かれた様に大きく口を開け、今までに見せた事も無い反応をする彼女に獣王は驚愕し、話を聞いていなかったテラノも驚きを隠せない。


「彼女の名前は――ソフィア!!雷光の英雄殿の実の姉であり、そしてワルキューレ騎士団の次期聖天魔導士の立場を返上し、私の専属騎士として従う事を誓ってくれた!!」
「……どうも~」


誰もが驚愕の表情を浮かべながら自分を見ている事に対し、ソフィアに変化したレノは愛想笑いを浮かべ、その傍には尊敬の眼差しを向けるレミアと、どうしてこうなったのかと困惑した表情のカノンが控えており、そんな彼女の態度に2人の後ろにいるジャンヌは苦笑いを浮かべ、


「彼女には雷光の英雄殿の代わりとして王国の騎士となってもらう!!同時に「キリサキ」の苗字を与え、侯爵家の爵位を与えよう!!」


誰もが驚きを困惑をする中、一方的にアルトはそれだけを告げると、ソフィアは彼の傍で出来る限りの真面目な表情を浮かべながらも内心では偉い事に巻き込まれたと若干後悔していた――
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