種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

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――港町アリーゼを襲撃した魚人の大群とリバイアサンは、バルトロス王国の四大将軍、さらにはテンペスト騎士団の聖剣の所有者ジャンヌとレノ、そして国王でありながらデュランダルの選定者であるアルト達の尽力によって撃退に成功した。

しかし、配備されていた警備兵の殆どは死亡し、一般庶民にも大勢の被害者が生まれた。さらに撃退したリバイアサンが再襲来する可能性も否定できず、王国は港町アリーゼに避難勧告を行い、内陸側に誘導する。当然だが他の港町や漁村の人間達にも避難を促し、大人数の人間が避難を開始する。

伝説獣のリバイアサンに対して王国側は大々的に住民達を避難させ、他種族もそれに呼応するように自分たちの海側に存在する港町の住民の避難を行わせ、急遽として世界会議が開かれる。今回は六種族全員が集まり、さらには交易都市のホノカも参加となり、レノも含めた全員が勢ぞろいで王国の第一会議室に集まっていた。


「――全く、一体何回目なんだい? こんな大きな世界を揺るがす問題が発生するのは?」
「確かに……これも活性化の影響なのだろうか」
「あの魔王のせいだろう。奴のせいで、世界の均衡が壊れた」
「確かにな……死した後も、まだ我等に迷惑をかけるきか」
「ヨウカ、センリさんは?」
「えっとね、終末者さんの見張りもあるから参加できないって」
「終末者? 誰だ?」
「そこ、私語は慎むように」
「……本題に入ろう」


会議室には六種族の代表と、最早常連と化しているレノ、さらには巫女姫のヨウカと盗賊王のホノカが参加しており、今回の議題は「リバイアサン」の対策、さらには世界中で起きている水属性の魔石の不出による問題を話し合うためだった。


「今回集まってもらったのはリバイアサンの対策、そして人魚族が海底都市を離れた事で水属性の魔石の産出が停止し、世界中で起きている水不足の問題について考えるべきだろう」
「本当、参っちゃうね~」
「僕としては笑えない問題なんだが……」


海底都市から発掘される水属性の魔石が産出されなくなった事により、世界中で数多くの地域から魔石が届かなくなったことで水不足の問題が発生していた。水属性の魔石は特殊な機器を使用すれば一般人でも使用が可能であり、主に飲料水を蓄積する事が出来るタンクの役割も存在する。

飲料水の供給源が少ない地域ではこの魔石を利用して生活を支えており、ホノカの交易都市も人魚族から大量の水属性の魔石を購入していたからこそ、滅多に雨が降らないアマラ砂漠でも人々は水不足で悩む事は無かった。

しかし、海底都市がリバイアサンに襲撃を受けた事により、人魚族が王国の王都に避難してしまい、現在では完全に水属性の魔石の発掘は中止され、世界中に流出された魔石の供給源が絶たれてしまう。一応は今までは各種族が保管していた魔石で補っていたが、そろそろ限界が近い。


「どうにか海底都市の奪還はできないか……」
「無理無理~あんな化け物がいたら、私達だけじゃどうしようもならないよ~」
「それは……そうだが」


人魚族は戦闘はあまり得意ではなく、彼女達は聖導教会のように回復魔法を得意とし、リバイアサンに襲われた時は反撃せずに逃走を行った。相手があまりにも強すぎるという事もあるが、唐突に出現したリバイアサンに対処しきれなかった点も大きい。

元々、海底都市は名前の通り海中に存在し、今までの歴史で攻め寄せられたのは1000年前の「魔族侵攻大戦」の時代だけであり、全盛期のリーリスが魔人族を従えて襲撃した。その後は一度たりとも他種族から攻め寄せられる機会など一切なく、警備の面が怠っていたのも仕方が無い。


「あの化け物をどうにかせん限りはどうしようもないのか……」
「それだけじゃない。世界中の港が閉鎖されたせいで、漁業や交易などにも影響が出ているんだろう?魚が取れず、船の移動もできなくなったため、僕の商業も商売あがったりだ」
「ホノカちゃんはフライングシャーク号とスカイシャーク二号機があるのに?」
「いや、あの二つだけで世界中の交易は補えないよ。あと少しで三号機が開発されるんだが……はっ⁉」
「へえ~……なら、名前はクラーケン三号機だね‼」
「最早、サメですらない‼」


またもや勝手に船の名前を名付けられたことに(しかも完成してすらいない)ホノカが驚愕し、そんな彼女達を呆れた視線が集まる中、レノは机に置かれた世界地図を確認する。


「海底都市に現れてから一日足らずでここまで離れたアリーゼを襲ったのか……とんでもない奴だな」
「海中でリバイアサンに勝てる生物など存在しないとまで言われているからな。奴の真価が発揮するのは陸ではなく、海だ」


地図上を確認する限りは3000キロは離れているアリーゼに出現したことを確認すると、あの巨体で海中で時速100キロを超える速度で移動していたことになる。しかも港街に襲い掛かったのはリバイアサンだけではなく、謎の魚人型の魔物の大群が最初に襲撃していたことが気にかかる。

偶然にも魚人型の魔物が街を襲撃していた時にリバイアサンが出現したとは考えにくい。港の海面で発生していた大渦を生み出していたのはリバイアサンで間違いなく、その渦の中から出現した魚人が無関係なはずが無い。


「あの魚人について何か分かったことは?」
「調査中だが……正直に言って今までに発見されていない新種の魔物だ。突然変異で生まれたのか、それとも元々海中に生息する生物なのかは分からずじまいだったが……」
「私達も見覚えないのが不思議~」


人魚族に確認してみたところ、魚人に関しては海の事ならば全てを知り尽くしていると言っても過言ではない彼女達ですらも、今までに見た事が無い初めて目撃した生物らしく、恐らくは最近に生まれた新種だと考えられる。



「その事に関してだが、これを見てくれ」



ライオネルが挙手し、机の上に随分と薄汚れた羊皮紙を広げる。全員が疑問を抱きながら覗き込むと、そこにはリバイアサンと思われる絵柄の生物が書き込まれており、不思議に思ってレノが視線を向けると、



「これは?」
「俺の島に古くから伝わる古文書だ。調べたところ、300年前に書き込まれた羊皮紙だ」
「リバイアサンの資料か⁉」
「恐らくはな……だが、あまりに破損していて肝心な内容が読めん」
「なんだかミミズがのたくったような文字だね~」
「本当だ~」
「口調がうつっているぞヨウカ」


挿絵の内容から間違いなくリバイアサンに関する資料なのだろうが、あまりにも薄汚れて古い文章のため内容が読み解けず、しかも、書き込まれている文字が魔人族に伝わる物らしく、解読するのに時間が掛かりそうだった。


「この部分を見ろ」


ライオネルはリバイアサンの別の挿絵を指差し、そこには口から卵のような物を吐きだす場面が描かれており、さらには卵から奇妙な魚と人が合わさったような生物が出現していた。


「これは……?」
「奴の産卵方法でも書き込まれているのか? いや、しかし……口から卵を産むなど……」
「待って……こいつ、あの時の奴と似ている」
「ああ……確かに街を襲った魚人と酷似している」


レノとアルトがすぐに反応し、卵から姿を現している生物は間違いなく、港町アリーゼを襲撃した魔物だった。ライオネルに視線を向けると、彼は両腕を組みながら頷き、


「今の時点で解読で来た文によると、奴は体内に無数の卵を貯蔵し、海中で吐きだす事で自分の分身を生み出す事が出来るという」
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