種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

主従関係

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「ミノっち‼」
「ブモォッ……?」

 
サルモドキに止めを刺したミノタウロスの出現に全員が戸惑う中、レノだけは懐かしの地下迷宮の門番の姿に歓喜の笑みを浮かべ、すぐに相手も成長した自分の主人だと気付き、こちらに向かってくる。


「ミノっち~‼」
「ブモォッ……‼」


そのまま2人は大きく手を広げてお互いに駆け寄り、そのまま抱き付いて感動の再会を――


「フンッ‼」
「おっと」


ブォンッ‼


――する前に、寸前でミノタウロスが拳を固めてフック気味にレノに拳を放ち、彼はそれを体勢を低くして躱し、逆に下からミノタウロスの顎に目掛けてアッパーを放つ。


「せりゃっ‼」
「ブモォッ‼」


下からの拳を難なく躱し、ミノタウロスは後ろにバックステップを行い、距離を取る。2人はそのままボクシングのように身構えたまま、次の行動に移る。両者共に拳を突きだし、お互いの顔面に交差する。


ズドォオオンッ……‼


ボクシングで言う所のクロスカウンターが決まり、レノとミノタウロスの顔面に拳がめり込むが、やがて先に膝を崩したのは体格が優っているはずのミノタウロスであり、彼はそのまま膝を着いて鼻血を吹き出す。そんなミノタウロスを口元の血を拭いながら見下ろし、レノは殴られた頬を抑えながら笑みを浮かべる。


「ふっ……前よりも随分とパワーアップしてるねミノっち」
「……ブモッ(頷く)」


右手を差し出すとミノタウロス改め、この地下迷宮の出入口を守るミノっちはその手を受け取り、そのまま騎士が王に忠誠を誓うように跪く。そんな光景に唖然と見守っていたリノン達だが、すぐにフレイがツッコミを行う。


「いや、何してんだレノ⁉ そのミノタウロスは何なんだ⁉」
「うむ……いい闘いだった」
「そ、そうですか……? 半ばふざけているように思えましたが……」
「わふっ‼ ミノタウロスさん久しぶりです‼」
「……牛肉」
「ブモォッ⁉」
「こらこらっ……」


ミノっちとレノの周りにリノン達が詰め寄り、とりあえずは強力な助っ人の登場に喜ぶ。レノは久しぶりに会ったミノっちの姿を拝見し、前の時よりも全身に傷が増えており、立派だった頭部の角が一本折れている。それでも先ほどの邂逅で随分と腕力が増しており、あれからも魔物達と戦い続けて身体を鍛えていたらしい。


「えっと……ミノっち、さんでいいのか?」
「あ、こいつを呼ぶときは呼び捨てでいいよ。それと、あんまり人の言葉は理解していないみたいだから、複雑な言葉は分からないよ」
「そ、そうか……」
「いい勝負、だったぞ」
「ブモォッ……」


ゴンゾウが右手を差し出し、ミノっちは黙ってそれを見つめ、やがて彼の巨大な掌に自分の掌を合わせて握手を行う。その際にお互いの力を試し合うように力を籠め、跡が残るほどに握りしめ合う。


「こらこら、張り合うな2人とも」
「たくっ……ミノタウロスにも知り合いがいるなんて、本当にうちの甥は一体何者なんだ?」
「まあ、その辺についてはいつか話すとして……ミノっちに頼みたい事があるんだけど」
「ブモォッ……?」


ここで地下迷宮の門番と出会えたことは吉報であり、レノは手振り身振りで自分たちがやってきた目的を伝え、そしてアルトから頼まれた「浮揚石」がある場所を知らないのか尋ねる。幸いにも羊皮紙に書き込まれた絵を見せた途端、心当たりがあるのかミノっちは深く頷き、付いて来いとばかりに移動を始める。

全員がミノっちの後に続き、何人かは周囲に感じていた魔物の気配が消えた事に気が付く。どうやらレノとミノっちの存在に恐れを為したのか、見つかる前に逃げ出した可能性が高い。


「ミノっちは俺がいなくなってからどんな風に過ごしてたの?」
「ブモッ……ブフッ……」
「そうかそうか……何を言っているか分からん」
「……ずっと、修行してたって言ってる」
「分かるのかコトミン?」
「……何となく」


コトミの意外な能力が発覚し、一向はミノっちの案内によって迷宮内を進み、不意にレノは異変に気が付く。通路から抜け出して少し開けた場所へとたどり着いたが、皆を引き留める。


「ちょっと待って……どうなってるんだ」
「わふっ?」
「どうかしたのかレノ?」
「……これを見て、気付かない?」


移動の最中、レノはすぐ隣に広がる壁を指差し、全員が視線を向けるとそこには異様な光景が広がっている気が付く。彼が指さした壁には異様なまでの深い切傷が刻まれており、まるで巨大な動物が壁に三本爪で削り取ったような跡が広がっていた。

その大きさは尋常ではなく、まるで白狼がここに現れて壁を斬り裂いたのではないかというほどの大きさであり、この異常なまでに耐久性が高い頑丈な迷宮の壁に傷を刻み込まれている事に対し、レノはすぐに傷跡に指を触れ、地震や何かで発生した亀裂ではない事を悟る。



「……第一階層にこの壁を傷つられる奴なんていなかったはず。少なくとも、俺がここに住んでいた頃はこんな傷跡なんて見た事ない」
「……何か知ってる?」
「ブモォッ……」


コトミが隣にいるミノっちに問い質すと、彼は顔を俯かせ、やがて頷いた。ある程度の人語は解せるらしく、ミノっちはレノの元に移動し、壁際の傷跡に手を差し伸べ、


「ブモォオオッ……」
「……え、ごめん。ニャン子さん、通訳お願いします」
「……報酬は?」
「あんま調子乗ってると、おっぱい揉みしだくぞ」
「……ぽっ」
「そこは頬を赤らめる場面ではないと思うが……」



一先ずはコトミによるミノっちの翻訳が始まり、彼の話によるとどうやら少し前(一ヶ月半ぐらい)からこの地下迷宮内で今までに見た事も無い魔物が出現し、この第一階層の生態系も若干変化しているという。

新種の魔物は異様なまでに強く、それでいながら食欲旺盛で手が付けられず、この一ヶ月の間に地下迷宮の既存の魔物達の数多くが餌食となり、大幅に減少したという。だから以前と比べてもレノ達が魔物に襲撃される事が少なく、ここまで対して戦闘も行わずに辿り着けたのかもしれない。


「そんなやばい奴がいるなら、ミノっちが倒せばいいじゃん……って、言いたいところだけど、その傷はもしかして……」
「……ブモォッ」
「……申し訳ないって」


既にミノっちも新種の魔物に戦闘を挑んだ後であり、頭部の片方の角はその時に折られてしまったらしい。ミノっちは敗北はしたものの、相手から逃げ切れる事には成功し、今の今までずっと療養していたという。


「こんな危ない場所でよく傷を治せたな……」
「そうでもないよ。ここ、結構休める所が多いから。第二階層で俺が棲んでいた場所のように魔物達が寄り付かない特別な場所もあるからね」
「そういえばそうだったな……レノが住んでいた所はゴーレムが現れるまで安全だった気がする」


レノが一年間以上過ごしていた第二階層の中央広場は、主にロック・ゴーレムが一定の周期で誕生する場所であり、基本的に他の魔物達は姿を現す事は無い。この第一階層にも魔物同士の縄張り争いが存在し、ミノタウロスは自分の縄張りで傷を癒し、再戦のために赴いたところをレノ達と思いもよらぬ再会を果たしたという。


「なるほどね……事情は分かったけど、やっぱりあいつのせいかな……」
「あいつ?」
「……例の終末者の事ですか?」


唐突に姿を現したという新種の魔物、そしてこの地下迷宮から恐らくは目覚めたと思われる「終末者」と無関係とは思えない。もしかしたら、浮揚石を回収するまでに面倒事に巻き込まれる可能性が高くなった。
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