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真章 〈終末の使者編〉
人型種
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「おお~……こんなにあっさりと壊れたるのか」
「ま、私達の結界と比べたら子供だましみたいなもんだな」
「その子供騙しにかかった昔の俺って……あ、子供だったか」
迷宮の結界を無事に破壊し、レノ達はミノっちの案内で移動を再開する。地下迷宮に侵入してから既に1時間以上の時が経過しており、予想よりも魔物との戦闘が少ないのが幸いだが、ミノっちが告げた新種の魔物の存在が気がかりだった。
「ミノっち、その新種の魔物ってどんな奴?」
「ブモォッ……?」
「……それを聞いてどうするんだって」
レノの言葉にミノっちが首を傾げ、すぐにコトミが翻訳してくれる。彼としては新種の魔物については自分の手で何とかする覚悟を抱いているらしく、関係の無いレノ達に話す必要は無いと思い込んでいるようだが、流石にそういうわけにはいかない。
「別にミノっちが1人で何とかするなら俺達も手出しはしないけどさ……どんな外見なのか分からないと俺達も対処しにくいんだけど」
「……レノ、困る。教えて」
「ブモォッ……」
主人の言葉にミノっちが仰々しく頷き、すぐに手振り身振りで何事か伝える。レノ達にはさっぱりだが、コトミだけは意味を理解しているのか頷き、
「……外見はオーガに近くて、右腕だけが異様に大きいって」
「なるほど……オーガの亜種でも生まれたのかな」
「もしくは他の魔物との混合種かもしれませんね」
混合種とは文字通り、種族が違う魔物同士が交配して生まれた魔物の事である。白狼やフェンリルがそれに当たり、両者共に「神獣」と呼ばれた現実世界の狼がこの世界の魔獣(狼)と交わったことで生まれた種であり、どちらも神獣の力の一部を引き継いで伝説として語られている。
他にもレノが鳳凰学園で相対した「合成獣(キメラ)」もこれに含まれ、この世界の混合種は滅多に発見されないがその能力は凄まじく、場合によっては生態系を乱す危険性も高い。
「混合種か……厄介な相手だが、私達なら何とかなるだろう」
「ぶっちゃけ、レノ1人がいれば何の問題も無いと思うけどな……」
「ブモォッ‼」
「……あいつは俺が倒す。ご主人様に、手出しはさせないって」
「お前、俺の事ご主人様って呼んでたのか……」
「……あくまでも私の主観」
フレイの迂闊な発言に憤るミノっちを抑え、一行は移動を続ける。ミノっちは迷いない歩み方で迷宮内を移動し、レノ達も彼を信じて後に続くが、不意にウルがレノの袖に噛みつく。
「ウォンッ‼」
「ん? どうしたウル? トイレか?」
「ウォンッ」
「後ろ?」
ウルが後方を振り返るように促し、レノ達が視線を向けると、そこには異様な光景が広がっていた。
――そこには巨人族並の巨体の生物が立っており、外見は赤黒い皮膚に覆われ、やたらと光り輝く赤い瞳をこちらに向け、頭髪や鼻の類は存在せず、生殖器も存在しない。全身は筋肉というよりも金属のようであり、手足は人間のように五本指ではあるが、右腕の部分だけはやたらと巨大であり、地面に届くほどだ。
その生物の登場にレノ達は後退り、ゴンゾウが金棒を握りしめて全員を守るように前に出る。その頬には嫌な冷や汗を流しており、どうしてここまで接近されながら誰一人気付かなかったことに疑問を抱く暇もない。
「なっ……⁉」
「何だ……こいつは⁉」
「い、いつの間に……⁉」
「下がれ‼」
ゴンゾウが金棒を構えて何時でも迎え撃てるようにするが、レノだけは彼の後方で唐突に現れた異形の化物に違和感を覚える。このような魔物を初めて見るはずだが、どういう事か化物の肥大化した右腕だけが覚えがあった。
(あの時の奴と……? )
以前、この地下迷宮の何処かに存在する「旧世界」の研究施設に訪れた際、途中で遭遇した施設内の化け物を思い出す。あの時の生物は研究施設の実験生物であり、外見は人間に近いが、両腕が異様なまでに肥大化しており、恐るべき腕力を誇った。
そして、外見はかなり異なるが眼の前の生物の「右腕」のみはあの時の生物と酷似しており、レノの脳裏に終末者の姿が浮かぶ。あの研究施設は既にベータの自爆によって内部を焼却されているはずだが、間違いなく目の前の生物はあの時の実験生物と同じ類の化け物で間違いない。
「――ニグゥウウッ……‼」
化け物はゆっくりと口を開き、その告げた言葉にレノは目を見開く。その言葉はこの世界の言葉ではなく、現実世界の記憶が存在するレノがよく耳にした「日本語」だった。
「ニグ、ヨコセェッ……‼」
「ぬっ……⁉」
化け物はゆっくりと歩み寄り、どういう事なのか巨体が歩いているにも関わらずに足音が全くしない。ゴンゾウは近づいてくる化け物に金棒を構え、相手が戦闘態勢に入ったと判断した化物は右腕を振るい上げる。
「ドケェッ‼」
ブォンッ‼
恐るべき速度で化物は右腕を振り抜き、その速度は周囲に衝撃が走るほどであり、次の瞬間にはゴンゾウの巨体が空中に浮き上がる。
「うおおっ⁉」
「ゴンゾウ⁉」
ゴンゾウの身体が皆の上空を通り過ぎ、そのまま派手に土煙を沸き上げながら倒れこむ。その光景に誰もが臨戦態勢に入り、ジャンヌとリノンが先に動く。
「よくもゴンゾウを‼」
「覚悟して下さい‼」
リノンは長剣を、ジャンヌは戦斧を構え、左右から同時に化物に向けて刃を突き出す。
「ジャマダッ‼」
「「なっ⁉」」
ガァンッ‼
だが、化物は向い来る二つの刃を右腕で弾き返し、そのまま大きく踏み出すと、体勢を崩した2人に左腕を振り被るが、
ブォンッ‼
「「えっ⁉」」
「ヌゥッ⁉」
そのまま何故か派手に空振りし、それどころか体勢を崩して勝手に倒れこむ。その姿を唖然と誰もが視線を向けるが、化物はもたつきながらも起き上がる。しかし、当のリノンとジャンヌは既に距離を取っていた。
「ぬぐぐっ……」
「ゴンさん‼ 大丈夫ですか⁉」
「怪我はないか⁉」
「平気だ……」
吹き飛ばされたゴンゾウが起き上がり、身体を強かに打ち付けたが戦意は衰えず、そんな彼にフレイとポチ子が駆け寄り、そのまま立ち上がらせる。
「ブモォオオオッ‼」
「あ、ミノっち⁉」
ミノっちが化物を見て激昂したように駆け出し、そのまま真っ直ぐに突進する。自分に向かってくる相手に化物は右腕を振るいあげようとしたが、
ドォンッ‼
「ナニッ……⁉」
「ウォオオオッ‼」
寸前でミノっちが空中に跳躍し、化物振り払われた右腕を回避し、そのまま突き出した踵で化け物の顔面に叩き付ける。意外なことにそのまま化け物は体勢を崩し、後ろに倒れこむ。その一方で化物の顔を土台にしてミノっちはさらに跳躍し、回転しながらレノ達の元へ着地する。
「おおっ……外見に似合わず、凄いアクロバティックな動き」
「……格好いい」
「ブモォッ‼」
「……油断するなって」
ミノっちがギラギラとした目つきで倒れ込んだ化け物を睨み付け、レノも前に出る。ミノっちが1人で戦う分には手出しをしないつもりだったが、ゴンゾウを吹き飛ばされ、さらにはリノンとジャンヌを攻撃されたからには黙っていられない。
「お前の正体とか色々気になる所はあるけど……ここで潰す」
レノは右手を構え、適当な魔法で化物を攻撃しようとした時、不意に異変が生じる。
「ウ、グォオオオオッ……⁉」
「うわっ⁉」
「な、なんですか⁉」
「ウォンッ⁉」
ブシュウゥウウッ……‼
化物の右腕からまるで蒸気のように煙が噴き出し、そのあまりの高熱に全員が下がる。やがて、化物の身体が完全に覆い隠され、蒸気が狭い通路内に満たされようとした時、
「風盾‼」
ビュォオオオオッ‼
レノが右手に三本の嵐の刃を形成し、扇風機の要領で高速回転させて強風を造り上げる。その瞬間、異常なまでの高温を誇る白煙が遥か上空に吹き飛ばされ、完全に通路内から消え去った時には化物の姿が消えていた。
「……逃げられたか」
前方に広がる一直線の通路には先ほどまで化け物の姿は完全に消えており、どうやら相当な速度で撤退したらしい。
「ま、私達の結界と比べたら子供だましみたいなもんだな」
「その子供騙しにかかった昔の俺って……あ、子供だったか」
迷宮の結界を無事に破壊し、レノ達はミノっちの案内で移動を再開する。地下迷宮に侵入してから既に1時間以上の時が経過しており、予想よりも魔物との戦闘が少ないのが幸いだが、ミノっちが告げた新種の魔物の存在が気がかりだった。
「ミノっち、その新種の魔物ってどんな奴?」
「ブモォッ……?」
「……それを聞いてどうするんだって」
レノの言葉にミノっちが首を傾げ、すぐにコトミが翻訳してくれる。彼としては新種の魔物については自分の手で何とかする覚悟を抱いているらしく、関係の無いレノ達に話す必要は無いと思い込んでいるようだが、流石にそういうわけにはいかない。
「別にミノっちが1人で何とかするなら俺達も手出しはしないけどさ……どんな外見なのか分からないと俺達も対処しにくいんだけど」
「……レノ、困る。教えて」
「ブモォッ……」
主人の言葉にミノっちが仰々しく頷き、すぐに手振り身振りで何事か伝える。レノ達にはさっぱりだが、コトミだけは意味を理解しているのか頷き、
「……外見はオーガに近くて、右腕だけが異様に大きいって」
「なるほど……オーガの亜種でも生まれたのかな」
「もしくは他の魔物との混合種かもしれませんね」
混合種とは文字通り、種族が違う魔物同士が交配して生まれた魔物の事である。白狼やフェンリルがそれに当たり、両者共に「神獣」と呼ばれた現実世界の狼がこの世界の魔獣(狼)と交わったことで生まれた種であり、どちらも神獣の力の一部を引き継いで伝説として語られている。
他にもレノが鳳凰学園で相対した「合成獣(キメラ)」もこれに含まれ、この世界の混合種は滅多に発見されないがその能力は凄まじく、場合によっては生態系を乱す危険性も高い。
「混合種か……厄介な相手だが、私達なら何とかなるだろう」
「ぶっちゃけ、レノ1人がいれば何の問題も無いと思うけどな……」
「ブモォッ‼」
「……あいつは俺が倒す。ご主人様に、手出しはさせないって」
「お前、俺の事ご主人様って呼んでたのか……」
「……あくまでも私の主観」
フレイの迂闊な発言に憤るミノっちを抑え、一行は移動を続ける。ミノっちは迷いない歩み方で迷宮内を移動し、レノ達も彼を信じて後に続くが、不意にウルがレノの袖に噛みつく。
「ウォンッ‼」
「ん? どうしたウル? トイレか?」
「ウォンッ」
「後ろ?」
ウルが後方を振り返るように促し、レノ達が視線を向けると、そこには異様な光景が広がっていた。
――そこには巨人族並の巨体の生物が立っており、外見は赤黒い皮膚に覆われ、やたらと光り輝く赤い瞳をこちらに向け、頭髪や鼻の類は存在せず、生殖器も存在しない。全身は筋肉というよりも金属のようであり、手足は人間のように五本指ではあるが、右腕の部分だけはやたらと巨大であり、地面に届くほどだ。
その生物の登場にレノ達は後退り、ゴンゾウが金棒を握りしめて全員を守るように前に出る。その頬には嫌な冷や汗を流しており、どうしてここまで接近されながら誰一人気付かなかったことに疑問を抱く暇もない。
「なっ……⁉」
「何だ……こいつは⁉」
「い、いつの間に……⁉」
「下がれ‼」
ゴンゾウが金棒を構えて何時でも迎え撃てるようにするが、レノだけは彼の後方で唐突に現れた異形の化物に違和感を覚える。このような魔物を初めて見るはずだが、どういう事か化物の肥大化した右腕だけが覚えがあった。
(あの時の奴と……? )
以前、この地下迷宮の何処かに存在する「旧世界」の研究施設に訪れた際、途中で遭遇した施設内の化け物を思い出す。あの時の生物は研究施設の実験生物であり、外見は人間に近いが、両腕が異様なまでに肥大化しており、恐るべき腕力を誇った。
そして、外見はかなり異なるが眼の前の生物の「右腕」のみはあの時の生物と酷似しており、レノの脳裏に終末者の姿が浮かぶ。あの研究施設は既にベータの自爆によって内部を焼却されているはずだが、間違いなく目の前の生物はあの時の実験生物と同じ類の化け物で間違いない。
「――ニグゥウウッ……‼」
化け物はゆっくりと口を開き、その告げた言葉にレノは目を見開く。その言葉はこの世界の言葉ではなく、現実世界の記憶が存在するレノがよく耳にした「日本語」だった。
「ニグ、ヨコセェッ……‼」
「ぬっ……⁉」
化け物はゆっくりと歩み寄り、どういう事なのか巨体が歩いているにも関わらずに足音が全くしない。ゴンゾウは近づいてくる化け物に金棒を構え、相手が戦闘態勢に入ったと判断した化物は右腕を振るい上げる。
「ドケェッ‼」
ブォンッ‼
恐るべき速度で化物は右腕を振り抜き、その速度は周囲に衝撃が走るほどであり、次の瞬間にはゴンゾウの巨体が空中に浮き上がる。
「うおおっ⁉」
「ゴンゾウ⁉」
ゴンゾウの身体が皆の上空を通り過ぎ、そのまま派手に土煙を沸き上げながら倒れこむ。その光景に誰もが臨戦態勢に入り、ジャンヌとリノンが先に動く。
「よくもゴンゾウを‼」
「覚悟して下さい‼」
リノンは長剣を、ジャンヌは戦斧を構え、左右から同時に化物に向けて刃を突き出す。
「ジャマダッ‼」
「「なっ⁉」」
ガァンッ‼
だが、化物は向い来る二つの刃を右腕で弾き返し、そのまま大きく踏み出すと、体勢を崩した2人に左腕を振り被るが、
ブォンッ‼
「「えっ⁉」」
「ヌゥッ⁉」
そのまま何故か派手に空振りし、それどころか体勢を崩して勝手に倒れこむ。その姿を唖然と誰もが視線を向けるが、化物はもたつきながらも起き上がる。しかし、当のリノンとジャンヌは既に距離を取っていた。
「ぬぐぐっ……」
「ゴンさん‼ 大丈夫ですか⁉」
「怪我はないか⁉」
「平気だ……」
吹き飛ばされたゴンゾウが起き上がり、身体を強かに打ち付けたが戦意は衰えず、そんな彼にフレイとポチ子が駆け寄り、そのまま立ち上がらせる。
「ブモォオオオッ‼」
「あ、ミノっち⁉」
ミノっちが化物を見て激昂したように駆け出し、そのまま真っ直ぐに突進する。自分に向かってくる相手に化物は右腕を振るいあげようとしたが、
ドォンッ‼
「ナニッ……⁉」
「ウォオオオッ‼」
寸前でミノっちが空中に跳躍し、化物振り払われた右腕を回避し、そのまま突き出した踵で化け物の顔面に叩き付ける。意外なことにそのまま化け物は体勢を崩し、後ろに倒れこむ。その一方で化物の顔を土台にしてミノっちはさらに跳躍し、回転しながらレノ達の元へ着地する。
「おおっ……外見に似合わず、凄いアクロバティックな動き」
「……格好いい」
「ブモォッ‼」
「……油断するなって」
ミノっちがギラギラとした目つきで倒れ込んだ化け物を睨み付け、レノも前に出る。ミノっちが1人で戦う分には手出しをしないつもりだったが、ゴンゾウを吹き飛ばされ、さらにはリノンとジャンヌを攻撃されたからには黙っていられない。
「お前の正体とか色々気になる所はあるけど……ここで潰す」
レノは右手を構え、適当な魔法で化物を攻撃しようとした時、不意に異変が生じる。
「ウ、グォオオオオッ……⁉」
「うわっ⁉」
「な、なんですか⁉」
「ウォンッ⁉」
ブシュウゥウウッ……‼
化物の右腕からまるで蒸気のように煙が噴き出し、そのあまりの高熱に全員が下がる。やがて、化物の身体が完全に覆い隠され、蒸気が狭い通路内に満たされようとした時、
「風盾‼」
ビュォオオオオッ‼
レノが右手に三本の嵐の刃を形成し、扇風機の要領で高速回転させて強風を造り上げる。その瞬間、異常なまでの高温を誇る白煙が遥か上空に吹き飛ばされ、完全に通路内から消え去った時には化物の姿が消えていた。
「……逃げられたか」
前方に広がる一直線の通路には先ほどまで化け物の姿は完全に消えており、どうやら相当な速度で撤退したらしい。
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