種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

復活の猶予

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――聖天魔導士の屋敷に存在する地下室、さらには扉には三つの封印魔法陣を重ね合わせ、1つでも解除を間違うと相手を転移魔方陣で強制的に聖導教会の地下牢(囚人を監修する牢ではなく、呪詛に侵されて瘴気ではない人間を収納する牢)に送り込む術式を組み込んでおり、少なくともセンリやミキクラスの魔術師でなければ解除できないように仕組まれていた。

センリが自分が施した罠の解除に奮闘している間、レノはセンリからオルトロスが封印されている場所を尋ね、聖導教会総本部へ訪れる。聖導教会の人間ではなくても、彼の影響力は既に教会内でも大きく、途中ですれ違った兵士や修道女に頭を下げられたときは複雑な思いを抱く。

レノは勝手に付いてきたコトミを引き連れ、普段はセンリが政務を行っている執務室に訪れる。事前に聞いていたすぐ傍の本棚に収められている書物を指示通りに動かすと、本棚が動いて地下室へと繋がる階段が現れる。


ガコォンッ……‼


「おおっ……なんか、ゲームっぽい」
「……げえむ?」
「なんでもない、危ないからお前はここで待ってなさい」
「……ぷいっ」


普段ならばどんな命令でも言う事を聞くコトミであるが、今回は顔を反らして拒否を示し、そんな彼女に溜息を吐きながらレノは仕方なくそのまま階段を降りる。


「……暗いな、少し怖い」
「……暖めてやる」
「イケメンみたいなセリフを……」


遠慮するなとばかりにコトミが掌を差し出し、とりあえずは2人で手を繋ぎながら先に進む。地下へ続く階段は螺旋階段であり、気のせいかなのこの世界の階段の多くは螺旋階段な気がしてならない。先ほどのデルタの話だと、オルトロスが眠っている場所は100メートルほどの地下だと言っていたが、だいたい体感的に30メートルほど降りた場所に巨大な扉を発見する。

地下室というよりは空洞といった表現が正しく、階段の底には広大な空間が広がっており、階段から30メートルも離れた場所に扉が存在した。その大きさは巨人族どころか、白狼種さえも通れるほどの大きさであり、全長は10メートルを超えている。扉の中心部にはセンリが入手したという「鍵」を入れると思われる窪みが存在し、高さ3メートルほどの高さに存在し、巨人族並の身長がなければ嵌め込むのに苦労するだろう。


「ここか……見た感じは特に変わった所はないけど」
「ご主人様、センサーによると扉の向こう側は空洞が広がっています」
「お前、何時からいたの?」
「……階段を少し降りた辺りから付いてきてた」


何時の間にかデルタがレノの後方に姿を現し、彼女の場合は機械人形のせいか気配を感じ取れなかったのか、それとも先日から終末者の装甲を追加してバージョンアップしたせいなのか、隠密性が増している。


「まあ、いいや。生体反応はどうなってる?」
「以前、反応を一定のペースで強めています。25時間48分36秒後に覚醒すると思われます」
「そうかい……寝ている間に止めを刺すか」
「確実に仕留める方法ならば、私かに内蔵されている「ノア」を使用する事を勧めます」
「ノア?」


初めて聞く単語にデルタに視線を向けると、彼女は自分の胸元を指差し、ビキニアーマーのような装甲の中心部が赤く発光している。


「私達のシリーズには動力源として「ノア」と呼ばれるコアが搭載されています。このノアを一定の温度にまで過熱した場合、爆発を引き起こします。範囲1キロ圏内ですが、威力は核の数百倍ほどの熱量を発揮します」
「でも、そんな事をしたらお前はどうなる」
「コアが消失すれば新しい動力源を搭載されるまで活動不能となります」
「ざけんな」
「……だめ」


デルタが自身を犠牲にするような発言にコトミは首を振り、レノとしてもそれは受け入れられない。ずっと一緒に暮らしてきたデルタは既にレノ達にとっては仲間、というよりは家族同然であり、今更彼女を犠牲にする方法などできない。


「しかし、この方法が確実です。万が一の場合はコアの使用許可を……」
「そんなもの必要ない。いつも通り、皆でぶっ倒す」
「……ぐっじょぶ」


レノの答えに満足したようにコトミは頷き、そんな2人にデルタは少しだけ考え込み、


「……私は皆様のように死という概念は存在しません。この身体には人間の細胞も使用されていますが、人間ではありません。私は人に尽くすために開発されました。ですから、私を犠牲にする事で大勢の人間の命を救う事が出来るのならば……」
「それは違う」
「……そんな事、誰も望んでいない」


自分を犠牲にしようとするデルタに対し、レノとコトミは首を振り、


「お前が死ねば皆が悲しむ。お前を犠牲にしたところで誰も喜ばない」
「私は活動停止するだけで死亡するわけでは……」
「その動力源がもう存在しないのに?」


既に放浪島の研究施設はベータによって焼却済みであり、都合よくデルタの代わりとなる動力源がまだ残っているとは考えにくい。それに一キロ圏内の物が消失するほどの爆発を引き起こせばこの聖導教会総本部も爆発の影響を受けるのは間違いないだろう。


「ともかく、お前は犠牲にしない。いつも通りに皆で倒す。お前も協力すること、以上‼」
「了解しました」


困惑、というよりは不思議そうな表情を浮かべながらデルタは承諾し、どうして2人が自分の犠牲をそこまで嫌がるのかと理解できていない辺り、まだまだ人間の感情を理解できていないのだろう。


「ま、とりあえずは扉に変化はないけど……終末者の奴が脱出して、オルトロスを目覚めさせようとしている可能性は?」
「有り得ません。先ほど地下牢に赴きましたが、彼女は未だに活動を停止しています。それに武装は全て解除して私に組み込まれていますので、活動を再開したところで彼女は何も出来ません」
「それもそうか……」


どうやらレノ達と合流する前にデルタは終末者の様子を確認していたようであり、既に武装は解除され、現在の彼女は幾重もの封印を施されて拘束されている。レノから受けた傷は自己回復したのか消えているが、未だに意識を取り戻さない。

だが、終末者の仕業で無ければどうしてオルトロスが目覚めようとしているのかが気になる。単純にフェンリルのように封印が解放されて目覚めかけているのか、それとも何者かの策略によって目覚めさせられようとしているのかは分からないが、この封印の扉をどうにかしない限りは調べられない。


「まだこっちに変わった様子はないけど……デルタ、センリの様子を見てきて」
「その必要はないかと思われます。既に彼女の反応はこちらに向かっています」


デルタに指示を与えた直後、上の階から大勢の人間が降りてくる音が聞こえ、見上げるとそこには螺旋階段を年齢の割には素早く駆け下りるセンリと、その後方から恐らくは訓練中だったであろうワルキューレ騎士団の団長であるテンと女騎士達が続く。


「み、皆さん無事ですか⁉」
「オルトロスの野郎が復活するってのは本当かい⁉」
「いや、一旦落ち着いて」


駆け下りて早々に息を荒げながらもセンリとテンが詰め寄り、一先ずは彼女達にまだ封印が解かれていない事を説明し、デルタの話から終末者が何かを仕掛けた訳ではない事もしっかりと伝える。
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