種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

突入

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作戦も決定し、レノはアルトと共にオルトロスが封印されている扉の前に辿り着く。既にデルタの計測したオルトロスが目覚めるまでの時間まで1時間を切っており、扉の前には教会内の戦力が集結していた。

まずはレノとアルトの2人が突入し、打ち合わせ通りにオルトロスに接近した後、デルタの簡易転移で扉の前に待機している全員を呼び寄せる。連絡手段としてレノはベータから受け取った機器を耳に取り付け、この機械は通信機能も搭載されているらしく、問題なくデルタと通話できる。

扉の前にはゴンゾウたちの他にテンが新人たちの中でも選りすぐりの女騎士10名を用意しており、残りの者達は既に教会内部の人間達の避難を促す。あまりにも急な避難勧告のため、大部分の者達が混乱を起こしたが、センリとヨウカの指示によって人命を最優先として最低限の重要文化財を搬送させ、総本部から一時的に聖天魔導士の館に避難させる。転移魔方陣が使用できない以上、移動するのに手間取ったが教会総本部の人間達は避難を終えた。


「……準備は終えたかレノ?」
「問題ない……急だから、片腕しか解放術式を仕込めなかったのは痛いけど」
「申し訳ありません……鍵が見つかったこと安心し、オルトロスの問題を先送りしていた私の不徳です……」
「しょ、しょうがないよセンリ……急に起きるなんて誰も分からないよ」
「巫女姫様の言う通りですよ。今回の事は誰の責任でもありません。誰もこのような事態を予想できるはずがありません」


突入直前のレノとアルトにセンリが申し訳なさそうに頭を下げるが、今回の出来事は彼女に責任はない。オルトロスが急に目覚めるなど誰も予想できず、第一に封印ではなく休眠活動で眠っていたなど予測できるはずがない。

今回は時間がないため、レノの装備は聖天魔導士に就いた際に教会側が用意してくれた頑丈な素材の青を基調とした服であり、右手には「竜爪」腰には「カリバーン」を装着し、片耳にはベータのイヤホンを取り付けている。アルトの方はいつもの国王の恰好ではなく、騎士団時代の制服に着替えており、今回は速度を重視したため鎧の類は付けていない。第一に呪鎧が相手では鎧など何の意味もないのだが。



「そう言えばレノさん。思ったんですが、今回の呪鎧は魔人王が生み出していたあの魔力の鎧のように浄化できないのですか?」
「それは無理だね。質量違いすぎるから、流石にどうしようもできない」



ジャンヌが思い出したように魔人王との決戦の際、レノの天属性の雷が魔人王の魔鎧に酷似した能力を打ち破ったことを思い出すが、あの時の魔人王と今回のオルトロスの呪鎧はあまりにも質量に差がある。呪鎧は恐らく聖属性や天属性の攻撃が有効であるのは確かだろうが、一度の攻撃で浄化できる筈がない。


「ジャンヌはここで聖剣の力を蓄積しておいてよ。いざという時は頼りにしてるんだから」
「分かりました……今日ほど、自分の魔力がこれほどまでに少ない事を実感したことはありません……」
「それは僕も同じだよ……こういう時はレノが羨ましい」


アルトもジャンヌも常人とは比べ物にならない魔力容量の持ち主ではあるが、魔力消費が激しい聖剣を使用できる回数は限られており、膨大な魔力の持ち主のレノを羨む(ちなみに2人がカラドボルグを使用した場合、一発の砲撃で魔力切れを引き起こして死亡する)。


「レノさんはカリバーンはどれほど扱えるのですか?」
「ん~……あんまり使ってないから確かとは言えないけど、昼頃にやった攻撃程度なら100回ぐらいはできるかな」
「あれほどの斬撃を100回もですか……」


聖天魔導士の館で放出したカリバーンの斬撃を思い出し、あの時の魔力消費量はせいぜい撃雷と同程度であり、今のレノならば特に問題はない。しかし、オルトロスとの戦闘を考えて上手く力を抑えて進まなければならないが。


「さてと……じゃあ、行ってくるね」
「僕たちが戻らなかったら、皆は一度避難してください」
「演技でもない事を言うなアルト。お前たちが戻ってくるまで私達は待ち続けるぞ」


去り際のアルトの言葉にすぐにリノンが反論し、皆がそれに賛同するように頷く。そんな彼らにアルトは何か言いかけたが、苦笑いを浮かべてレノに振り返り、


「行こう」
「うん」


二人は既に開かれた扉を確認し、どうやら地下から湧き出している呪鎧は地上にまで迫っているのか、螺旋階段を見下ろすと地下から黒色のスライムを思わせる物体が溢れており、アルトはデュランダルを握りしめ、レノも片腕を向ける。


「まずは手始めに……乱刃!!」


ズドォンッ!!


迫りくる黒色の波にレノは三日月の嵐の刃を放つが、


ボヨヨンッ!!


まるで漫画の擬音みたいな音が響き渡り、そのまま嵐の刃は弾き返され、あらぬ方向に吹き飛ばされる。どうやらただの魔法攻撃では通用しないらしく、今度は右腕を振るい、



「魔鎧(フラム)」



右腕に「紅炎」を想像させる魔力の鎧を形成し、そのまま勢いを付けて殴りつける。



ドォオオオンッ!!



右拳が叩き付けられ、衝撃が波紋状に広がり、呪鎧が一際震えるが衝突した個所だけが陥没しただけであり、レノが拳を退くとすぐに元の形へ戻ってしまう。どうやら魔鎧ならば攻撃も通じるようだが、質量が違いすぎて数秒もしないうちに元に戻ってしまう。


「やはり、ただの攻撃は通じないのか……」
「なら、試しにこれも……」


レノがカリバーンを取り出し、聖剣に魔力を送り込む。刃に青い光が灯され、そのまま勢いよく剣を振るう。その瞬間、三日月状の光刃が放出され、呪鎧に衝突する。



ズバァアアッ……!!



「おおっ」
「やったか!?」


予想外に光刃は呪鎧を切り裂き、そのまま5メートルほど進んだところで縮小化し、消散してしまう。どうやら聖剣の攻撃が全くの無意味という訳ではなく、このまま進もうとした時、



ズズズズッ……!!



左右に切り裂いたはずの呪鎧が瞬時に押し寄せ、そのまま元の形に復元する。単純に再生したという訳ではなく、光刃が切り裂いた部分は消え去ったようだが、あまりの質量差で元の形へと戻ったように見える。


「……上手くいったと思ったんだが」
「再生というわけじゃないと思うけど、進むのは苦労しそうだな」
「今度は僕が……」


デュランダルを構えたアルトが前に出ると、そのまま大剣を構え、刀身が振動する。久しぶりに彼が聖剣を使用するところを見るが、そのまま勢いをつけて刃を呪鎧に放つ。



「はああああっ!!」



ドゴォオオオオオンッ!!



刃が呪鎧にめり込んだ瞬間、凄まじい衝撃波が放たれ、そのまま呪鎧が一気に押し返される。デュランダルが放つ衝撃波は風属性の魔法とは違い、呪鎧も無効化できないのか下層に向けて吹き飛ばされ、一気に7、8メートルほどの道が開く。


「すごっ……アルト1人だけでどうにかできるんじゃないの?」
「いや、流石にそれは無理だと思うよ……一発でこの様さ」


アルトは余程集中していたのか額に汗を流し、やはり聖剣の使用は身体に負荷がかかる。当人としては一気に呪鎧を吹き飛ばすつもりだったが、結果としては10メートルも押し戻せず、さらには話している間にも呪鎧がまたもや湧き出してくる。



「休んでいる暇もないな!!」



ドゴォオオオオンッ!!



次の一撃を呪鎧に向けて放ち、逆に押し返しながらアルトは階段を駆け下り、レノもそれに続く。オルトロスが覚醒するまで既に1時間を切っており、ここから先は時間との戦いだった。
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