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真章 〈終末の使者編〉
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デルタから事前に伝えられたオルトロスの覚醒する時間まで30分まで迫り、遂にアルトとレノは螺旋階段の呪鎧を振り払い、最下層に辿り着いた。既に2人とも相当な魔力を消費しており、特にデュランダルを連発していたアルトは何度もレノの魔力供給で回復を行い、最下層に到達した時にはかなりの疲労が蓄積していた。
それでも2人の目の前には延々と広がる地下空洞に呪鎧が広がっており、まるで漆黒の湖を想像させる。この量を全て消失させることは不可能であり、ここから先は慎重且つ最短に進まなければならない。
「……はあっ……はあっ……」
「大丈夫かアルト?」
「僕より、君の方がきついだろう……何度も僕に魔力を渡して聖剣を使っているじゃないか」
「いや、別にそれほど……」
「そ、そうか……」
全身が汗だくのアルトに対し、レノの方は少し疲れた程度であり、種族間の魔力容量の差が浮き出ている。二人は眼の前の呪鎧を確認し、懐中電灯代わりの蛍光石を灯らせながら周囲を伺うが、呪鎧が光さえも遮断するのかオルトロスの姿は見当たらない。
「ここからは無駄に魔力を消費できない……オルトロスの位置を把握しなければ……」
「ちょっと待ってて……デルタ、方角は解る?」
『私のセンサーでは北東の位置にオルトロスの生体反応が感じられます』
デルタの言葉を信じ、2人は北東の方角に視線を向ける。ここから数百メートル先にオルトロスが存在し、今尚も眠っている状態なのかは分からないが、先に進むしかない。
「アルト」
「ああ……ここまで来たら、全力で行く」
螺旋階段を降りる際は階段その物を破壊しないために制御していたが、この広い地下空間ならばデュランダルの全力を発揮する事も可能であり、彼は魔力を掻き集める。その間にもレノは聖剣の刃に青光を灯らせ、オルトロス戦も考えてある程度の魔力を残さないといけないが、アルトの援護のために聖剣を突き立てる。
「カリバーン‼」
ズドォオオオンッ……‼
虚空に向けて刃を突き、その瞬間に刀身から青白い光線が放出され、そのまま呪鎧の湖に的中する。光線はそのまま呪鎧を吹き飛ばしながら50メートルほどの位置に来たところで縮小化し、100メートルに到達した時点で消散する。
「デュランダル‼」
――ドゴォオオオオンッ‼
呪鎧が元に戻る前にアルトがデュランダルを振り抜き、その瞬間に地面に凄まじい衝撃波が放たれ、カリバーンの斬撃で途中まで切り開かれた呪鎧の間を潜り抜け、一気に衝撃波は呪鎧全体を震わせながら突き進む。
ドォオオオオオンッ……‼
200メートル、300メートルまで勢いを弱めることなく突き進み、400メートルを超えたところで減速、そして500メートルに到達した瞬間に何かに衝突したような音が響き渡り、衝撃波が焼失した。
「よし、道が出来た‼」
「デルタ‼ 来い‼」
『了解』
デュランダルとカリバーンの協力攻撃により、2人の前方の呪鎧が押し開かれて道が出来ており、即座に駈け出すと同時にデルタに指示を与える。
――ブゥンッ‼
「おわっ⁉」
「わうっ⁉」
「ぬうっ⁉」
「こ、これは……」
「す、凄い……」
「本当に転移するとは……」
唐突にレノ達の目の前に落下してきたようにリノン、ポチ子、ゴンゾウ、ジャンヌ、カノン、センリが現れ、後方の階段からも何かが飛翔する音が聞こえる。
「遅くなりました‼」
「やっほ~」
ミキに憑依させたレミアがヨウカを抱き上げて片翼を翻しながら螺旋階段から出現し、その後ろから必死の形相でテン達が後に続く音が聞こえる。どうやら螺旋階段の方も無事であり、すぐに皆が行動を移す。
「聖剣の準備は?」
「整っています‼」
ジャンヌに一言だけ告げると彼女は頷き、両手に握りしめられていたレーヴァティンには真紅の炎が纏っており、既に魔力の蓄積は終えている。全員がアルトとレノの2人がかりで生み出したオルトロスへの道を確認し、左右から呪鎧が押し寄せる前に突き進む。
「ご主人様、対象は先ほどの衝撃で目覚めかけています。覚醒するまでの時間は……」
「言っている場合か‼」
「皆さん‼ 急いでください‼」
肉体強化で皆が身体能力を上昇させて駆け出し、やがて前方から黒色の巨大な物体が姿を現す。全員がその光景に驚愕し、恐らくはオルトロスと思われる個体が、その外見は彼等が想像していた物と大きく食い違っており、特にレノは白狼のような狼型の魔物だと思っていた分に衝撃が大きい。
「これが……オルトロス⁉」
「なんと不気味な……」
「うぇえっ……気持ち悪い」
――最後の伝説獣であるオルトロスは確かに「狼」の形をしていたが、全身には体毛の類が存在せず、皮膚というよりは筋肉組織が丸出しであり、顔面には眼球の類は見当たらず内側に陥没しており、何処となくリバイアサンの再生時の姿を想像させる。それどころか爪や牙の類も見当たらず、大きく開かれた口からヘドロのように呪鎧を噴出していた。
そのあまりの不気味さは腐敗竜と似通っており、とてもではないが白狼やフェンリルと同じ先祖から生まれたとは思えない。だが、今はオルトロスの外見に見入る暇はなく、先に到達したミキがヨウカを地上に降ろし、ヨウカから受け取った生前のミキの杖を掲げ、
「行きますよ巫女姫様‼」
「ヨウカでいいよ‼」
ヨウカは懐からまるでマイクを想像させる杖を取り出し、その間にもミキはこの漆黒の空間を何とかするため、上空に向けて杖先を構える。
「我等に天上の光を‼ ホーリーライト‼」
次の瞬間、まるで照明弾のように杖先から巨大な光の玉が出現し、そのまま幾つも上空に向けて放出され、闇に覆われていた地下空間全体を照らす。これで懐中電灯代わりに使用していた蛍光石が必要なくなり、全員がその場で武器を構える。
「皆頑張って‼ 私も精一杯応援するよ‼ 愛しき者達に想いを込めて、光の精霊の祝福がある事を願います……ホーリーソング‼」
その場でヨウカはマイク状の杖を片手に歌い始め、その歌声を聞いた瞬間にレノは疲れていた身体が一気に軽くなり、これが彼女が言っていた支援魔法の力なのかと感心する。それは他の面々も同じであり、彼等の身体にも異変が起きる。
「わふっ⁉ なんだか、力がみなぎってきます‼」
「これが巫女姫様だけにしか扱えない伝説の支援魔法……まるで人魚族のマーメイドソングを思い出します」
「元々は人魚族から伝えられた魔法だと聞いていますが……まさかこれほどまでとは」
まるで早送りしたように皆の動きが加速し、一番前に移動していたレノはカリバーンを構え、上空に跳躍すると聖剣を勢いよく振り翳し、
「カリバーン‼」
ズドォオオオオンッ‼
沈黙を保つオルトロスに向けて巨大な三日月状の光刃を放出させ、直後に凄まじい衝撃音が地下空間に広がった。
それでも2人の目の前には延々と広がる地下空洞に呪鎧が広がっており、まるで漆黒の湖を想像させる。この量を全て消失させることは不可能であり、ここから先は慎重且つ最短に進まなければならない。
「……はあっ……はあっ……」
「大丈夫かアルト?」
「僕より、君の方がきついだろう……何度も僕に魔力を渡して聖剣を使っているじゃないか」
「いや、別にそれほど……」
「そ、そうか……」
全身が汗だくのアルトに対し、レノの方は少し疲れた程度であり、種族間の魔力容量の差が浮き出ている。二人は眼の前の呪鎧を確認し、懐中電灯代わりの蛍光石を灯らせながら周囲を伺うが、呪鎧が光さえも遮断するのかオルトロスの姿は見当たらない。
「ここからは無駄に魔力を消費できない……オルトロスの位置を把握しなければ……」
「ちょっと待ってて……デルタ、方角は解る?」
『私のセンサーでは北東の位置にオルトロスの生体反応が感じられます』
デルタの言葉を信じ、2人は北東の方角に視線を向ける。ここから数百メートル先にオルトロスが存在し、今尚も眠っている状態なのかは分からないが、先に進むしかない。
「アルト」
「ああ……ここまで来たら、全力で行く」
螺旋階段を降りる際は階段その物を破壊しないために制御していたが、この広い地下空間ならばデュランダルの全力を発揮する事も可能であり、彼は魔力を掻き集める。その間にもレノは聖剣の刃に青光を灯らせ、オルトロス戦も考えてある程度の魔力を残さないといけないが、アルトの援護のために聖剣を突き立てる。
「カリバーン‼」
ズドォオオオンッ……‼
虚空に向けて刃を突き、その瞬間に刀身から青白い光線が放出され、そのまま呪鎧の湖に的中する。光線はそのまま呪鎧を吹き飛ばしながら50メートルほどの位置に来たところで縮小化し、100メートルに到達した時点で消散する。
「デュランダル‼」
――ドゴォオオオオンッ‼
呪鎧が元に戻る前にアルトがデュランダルを振り抜き、その瞬間に地面に凄まじい衝撃波が放たれ、カリバーンの斬撃で途中まで切り開かれた呪鎧の間を潜り抜け、一気に衝撃波は呪鎧全体を震わせながら突き進む。
ドォオオオオオンッ……‼
200メートル、300メートルまで勢いを弱めることなく突き進み、400メートルを超えたところで減速、そして500メートルに到達した瞬間に何かに衝突したような音が響き渡り、衝撃波が焼失した。
「よし、道が出来た‼」
「デルタ‼ 来い‼」
『了解』
デュランダルとカリバーンの協力攻撃により、2人の前方の呪鎧が押し開かれて道が出来ており、即座に駈け出すと同時にデルタに指示を与える。
――ブゥンッ‼
「おわっ⁉」
「わうっ⁉」
「ぬうっ⁉」
「こ、これは……」
「す、凄い……」
「本当に転移するとは……」
唐突にレノ達の目の前に落下してきたようにリノン、ポチ子、ゴンゾウ、ジャンヌ、カノン、センリが現れ、後方の階段からも何かが飛翔する音が聞こえる。
「遅くなりました‼」
「やっほ~」
ミキに憑依させたレミアがヨウカを抱き上げて片翼を翻しながら螺旋階段から出現し、その後ろから必死の形相でテン達が後に続く音が聞こえる。どうやら螺旋階段の方も無事であり、すぐに皆が行動を移す。
「聖剣の準備は?」
「整っています‼」
ジャンヌに一言だけ告げると彼女は頷き、両手に握りしめられていたレーヴァティンには真紅の炎が纏っており、既に魔力の蓄積は終えている。全員がアルトとレノの2人がかりで生み出したオルトロスへの道を確認し、左右から呪鎧が押し寄せる前に突き進む。
「ご主人様、対象は先ほどの衝撃で目覚めかけています。覚醒するまでの時間は……」
「言っている場合か‼」
「皆さん‼ 急いでください‼」
肉体強化で皆が身体能力を上昇させて駆け出し、やがて前方から黒色の巨大な物体が姿を現す。全員がその光景に驚愕し、恐らくはオルトロスと思われる個体が、その外見は彼等が想像していた物と大きく食い違っており、特にレノは白狼のような狼型の魔物だと思っていた分に衝撃が大きい。
「これが……オルトロス⁉」
「なんと不気味な……」
「うぇえっ……気持ち悪い」
――最後の伝説獣であるオルトロスは確かに「狼」の形をしていたが、全身には体毛の類が存在せず、皮膚というよりは筋肉組織が丸出しであり、顔面には眼球の類は見当たらず内側に陥没しており、何処となくリバイアサンの再生時の姿を想像させる。それどころか爪や牙の類も見当たらず、大きく開かれた口からヘドロのように呪鎧を噴出していた。
そのあまりの不気味さは腐敗竜と似通っており、とてもではないが白狼やフェンリルと同じ先祖から生まれたとは思えない。だが、今はオルトロスの外見に見入る暇はなく、先に到達したミキがヨウカを地上に降ろし、ヨウカから受け取った生前のミキの杖を掲げ、
「行きますよ巫女姫様‼」
「ヨウカでいいよ‼」
ヨウカは懐からまるでマイクを想像させる杖を取り出し、その間にもミキはこの漆黒の空間を何とかするため、上空に向けて杖先を構える。
「我等に天上の光を‼ ホーリーライト‼」
次の瞬間、まるで照明弾のように杖先から巨大な光の玉が出現し、そのまま幾つも上空に向けて放出され、闇に覆われていた地下空間全体を照らす。これで懐中電灯代わりに使用していた蛍光石が必要なくなり、全員がその場で武器を構える。
「皆頑張って‼ 私も精一杯応援するよ‼ 愛しき者達に想いを込めて、光の精霊の祝福がある事を願います……ホーリーソング‼」
その場でヨウカはマイク状の杖を片手に歌い始め、その歌声を聞いた瞬間にレノは疲れていた身体が一気に軽くなり、これが彼女が言っていた支援魔法の力なのかと感心する。それは他の面々も同じであり、彼等の身体にも異変が起きる。
「わふっ⁉ なんだか、力がみなぎってきます‼」
「これが巫女姫様だけにしか扱えない伝説の支援魔法……まるで人魚族のマーメイドソングを思い出します」
「元々は人魚族から伝えられた魔法だと聞いていますが……まさかこれほどまでとは」
まるで早送りしたように皆の動きが加速し、一番前に移動していたレノはカリバーンを構え、上空に跳躍すると聖剣を勢いよく振り翳し、
「カリバーン‼」
ズドォオオオオンッ‼
沈黙を保つオルトロスに向けて巨大な三日月状の光刃を放出させ、直後に凄まじい衝撃音が地下空間に広がった。
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