種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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追想編

地下施設での取引

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レイアはベータと名乗るアンドロイド(という名の種族だとレイアは思い込む)に案内され、この施設が大昔から存在する特別な場所だと説明される。誰が、どのような理由でこの施設を造り出したのかまでは教えてくれなかったが、一先ずは客人として扱われる。

彼女が壊してしまったガンマとシグマはアルファと呼ばれる新しいアンドロイドが運び込み、2人の修理を施す。普通の人間ならば絶命しても可笑しくはない損傷だったが、2人はベータやアルファと違い、基本的には人間の細胞を持つ機械という構想で生み出されているため、たとえ身体が八つ裂きにされようと重要な部分さえ残っていれば再生が可能だという。


『それで、貴女は誰なんですか? 勝手に人の家に入り込んできて……』
「いや……まあ、成り行きというか」


ベータは自分が普段使用している部屋に招き入れ、彼女にお茶を振る舞いながら今度はレイアに問い質す。正直に言えば今回の事態は彼女の不用意な行動が原因であり、そもそも彼女が警告を無視して建物内に入り込まなければ余計な争いなど起きなかった。

だが、既に起きてしまった事は仕方がないため、ベータは首の後ろに存在するコードを接続して建物の被害損傷を調査する。予想以上にレイアとガンマ達の被害が大きく、出入口の通路に関しては最早修復不可能なほどに酷い有様だった。


『全く……核シェルターと同じ素材の出入口を破壊してくるなんて、外の世界の人たちの力も油断できませんね』
「いや~……てへぺろりっ」
『喧嘩売ってんすか』


誤魔化すように笑みを浮かべるレイアにベータはアンドロイドでありながら苛立ちの感情を抱くが、すぐに気を取り直したように彼女の身体を確認し、異常なまでの生体数値が観測される。その数値は人型種では有り得ない値であり、興味が注がれる。


『……まあ、だいたいの事情は分かりましたけどその魔槍とやらの封印と、聖剣と呼ばれる物を探している最中なんですね? 生憎と私達は迷宮内の構造を把握しているわけではないので、力にはなれませんね』
「そっか……」


ベータの言葉にレイアは落胆し、アイリィが依頼した聖剣の捜索と魔槍の封印のために当てもなく広大な迷宮内を1人で渡り歩くとなると何ヶ月も時間が掛かってしまう。彼女としては一刻も早く、このような危険な場所から立ち去りたい所ではあるが、約束を果たさなければアイリィは自分を地上に戻る方法を教えてくれないだろう。

レイアは考え込み、これからどうするべきか悩んでいると、彼女に差し出したはずのお茶を勝手に飲みながらベータが話しかけてくる。


『……ですけど、その聖剣という存在の心当たりはなくもないですよ』
「え、そうなの?」
『はい。センサー……いや、私達の能力なら探し当てる事が出来なくもないような気がします』
「出来るの? 出来ないの?」
『多分、恐らく、きっと出来ると思いたいな~、という感じです』
「願望!?」


あまり当てになりそうではないが、今は藁にもすがりたい心境なのでレイアはベータたちに協力を申し出ると、彼女はすぐに先ほど2人の機械人形を運び出したアルファを呼び出す。



『何の御用でしょうかベータ』
『さっきも会いましたけど、一応は紹介しておきますね。この娘はアルファという名のアンドロイド……まあ、妹みたいな物です。このアルファは元々は戦闘方面に駆り出されるはずだったんですけど、色々と理由があって現在は雑用をやらせています』
「どうも」
『改めまして自己紹介を行います。私はアルファ、正式名称は『α―04号機』です』
『この子のセンサーなら、その聖剣とやらを見つけ出すことが出来るかもしれませんね』


アルファの紹介が終ると、ベータは彼女に内蔵されているセンサーは生体反応、熱源反応、更にはこの世界で魔力と呼ばれる「生命エネルギー」も感知出来る事を説明する。アンドロイドの中で下から二番目に製造された機体であり、ベータたちより後期型のため性能も高い。


『この娘をお供として連れて行けばきっと役に立ちますよ。戦闘方面はやや不安がありますが、まあ何とかしてください』
「それは有難いけど……まさかタダで貸してくれるの?」
『いくら私が寛大で優しくて美しいと評判のアンドロイドでも、流石に出入口をぶっ壊した人にタダで貸してあげると思いますか?』
「うっ……」



ベータ側としては勝手に侵入して荒らしたレイアに本来なら協力する義務もないが、彼女のせいでガンマとシグマが大きな損傷を受けたため、この施設の防備が手薄になってしまう(しかも出入口を破壊してしまったため、迷宮内の魔物も入り込む事も避けられない)。

だが、レイアの力にはベータも大きな興味を抱き、もしも彼女と同じ存在が「量産」出来たとしたら今後の何かの役に立つかもしれない。そう考えた彼女はある提案を行う。



『――ですから、変わりにレイアさんの血液を下さいませんか?』



結局、レイアはベータの受け入れ、彼女に自分の血液を採取させる。その後はしばらくの間はこの施設内で世話になり、破壊してしまった出入口から侵入してくる魔物達の迎撃の手伝いを行う。

肝心の聖剣の捜索はアルファが1人で行い、彼女は迷彩機能と呼ばれる自分の姿と気配を隠蔽する能力も所有しており、単独で迷宮内に潜り込んでレイアが依頼した聖剣と呼ばれる存在を探す。例え、生物で無かったとしても武器の類に膨大な魔力が秘められていれば彼女のセンサーに反応するため、アルファは1人で調査を行う。

レイアは施設内に滞在している間、ベータの手によって自分の血液から人間クローンが生み出される工程を見せつけられる。この施設が普通ではない事は分かってはいたが、それでも血液から人間を生み出す技術が存在した事に彼女は驚愕する。



培養液の中で育成される自分の血液から誕生した子供に対し、レイアは複雑な感情を抱く。決して彼女自身が産んだ子供ではないが、それでも自分の身体の一部から生み出された生命に彼女は親のような感情を抱く。



アルファが帰還するまでの間、レイアはカプセル型の機械の中で急速的に成長する赤ん坊を見守り続け、ベータの予測では赤ん坊は一ヶ月もすれば普通の人間の5歳時程度にまでは成長し、その後は普通の人間のように年齢を重ねるらしいが、レイアのクローンである赤ん坊は既に異常な生体数値が観測された。

オリジナルのレイアから採取した血液を利用してクローンを生み出す際、ベータは遺伝子の組み換えを行ったせいなのか、赤ん坊は既にレイアの半分の生体数値(魔力)を保有しており、あくまでも予測にしか過ぎないが、レイアと同じ年齢にまで成長した時には彼女の生体数値を10倍以上をも上回る計算だった。

そして、最も予想外だったのは赤ん坊はレイアが生まれた時から宿している「炎」を想像させる紋様も受け継いでおり、何故かレイアは赤ん坊の肉体に紋様が発現してから自分の肉体に存在したはずの紋様が消失してしまう。
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