種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

第一次予選 〈その2〉

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予選の始まりの鐘の音が鳴り響き、第一次予選が開始される。その直後、ソフィアの周囲に居た冒険者達を掻い潜り、森人族の集団が出現する。


「ハーフエルフがっ‼」
「偽りの英雄めっ‼」
「うわっ⁉ 何だ⁉」
「エルフ⁉」


自分たちよりも先にソフィアを狙う森人族の集団に他の冒険者は呆気にとられ、彼女はすぐに身構えるが、予想外にもソフィアの前に大きな人影が割り込む。


「ふんっ‼」
「うぐぉっ⁉」
「なにっ⁉」


ツルハシを想像させる棍棒を振るいあげ、そのままエルフたちを薙ぎ倒したのは巨人族の「ダイア」であり、彼は力こぶを見せつけながら笑みを浮かべる。


「おいおい……事情は知らねえが、女一人を相手に随分と物騒じゃねえか」
「貴様‼邪魔をするな‼」
「我等の使命はその偽りの英雄の抹殺‼ 貴様如きが……ぐはぁっ⁉」
「よそ見してんじゃねえ‼」


森人族の集団がダイアに気を取られている隙に周囲の冒険者も動き出し、彼等に襲い掛かる。この予選はバトルロワイヤル方式であり、全ての選手が敵同士である。例え腕利きの戦士だろうと、周囲から一斉に攻撃されたらひとたまりもない。


「ダイアーさん」
「だからダイアだ‼語尾を伸ばすな‼はっ、礼なら別に良いぜ? こんな1人を相手によってたかって襲い掛かってくるような連中は気に入らないんだよ‼」
「元盗賊のあんたが言うと説得力に欠けるんですけど」
「な、なんでそれを⁉」


格好つけてはいるが、ダイアも元々は落ちぶれて盗賊だった時期もあり、最初の頃はレノを他の仲間達と共に襲い掛かったこともある。今では真面目に働いて改心したが、実際に襲われた事もあるソフィア(レノ)にとっては彼の行動は少し意外だった。


「ちっ‼ 巨人族は厄介だね‼ あんたら、ここは一時共闘と行こうじゃないか⁉」
「しょうがねえ‼ 全員でかかれ‼」
「ふんっ‼ お前等みたいなチビ共にやられるかよ‼」


巨人族のダイアの周囲に冒険者達が集まり、彼はツルハシを構えて堂々と立ち尽くす。その間にもソフィアは冒険者から逃れた森人族の刺客と相対し、彼等は吹き矢を向けてくる。


「ふっ‼」
「死ねぃっ‼」
「いつも思うけど、攻撃がワンパターンだよね」


ソフィアは自分に放たれた吹き矢の弾を軽く掌で弾き、少し離れた場所から射抜こうとした射手の矢を頭を軽く下げて難なく回避する。この状態ならばレノの時よりも敏感に周囲の気配を感じ取り、事前に行動を移せる。ソフィアは掌を手刀に変え、遂に魔鎧を発動させた。


「魔鎧刀」


ゴォオオオッ……‼


「なにっ⁉」
「ひ、火属性だと⁉」


彼女の右手に蒼炎を想像させる魔力が発生し、さらに形状を変化させてまるで刃物のように研ぎ澄まし、直径30センチほどの魔鎧の刃が誕生する。実を言うとリノンの火炎剣を参考に生み出した技であり、彼女のように長剣を扱えるわけではないが、盗賊時代に短剣の技術は仕込まれている。


「ほら、近づいて見なよ」
「くっ……な、舐め負って……‼」
「ハーフエルフが……‼」


ソフィアが右手に魔鎧を纏った瞬間、明らかに森人族の資格は怯み、本来森人族は火属性の魔法を極端に嫌う種族である。嫌うというよりは本能が拒否し、自然を燃やし尽くす「火炎」を彼等は受け入れず、同族であるダークエルフは火属性を扱えるにも限らずに純粋な森人族は火を極端に恐れる傾向がある。


「ええい‼ 情けない奴等め‼ 儂がやる‼」


年配者と思われる少し老けたエルフが前に出ると、彼は木刀を構える。それはソフィアも見覚えのある形であり、随分昔にアルファが使用していた神木製の木刀と同じ素材だった。恐らく、彼はアルファ同様に何処かの森の族長らしく、年老いた外見からは想像できない威圧を放つ。


「小娘……お主に恨みはないが、儂が介錯してやろう」
「そういうのは聞き飽きた」
「何っ……⁉」


だが、老人の気迫に対してソフィアは欠伸でもするように口元を抑え、そんな彼女の態度に老人のエルフは驚きと怒りを露わにしようとした瞬間、


「もう面倒くさい……終わらせるぞお前等っ」


ソフィアはエルフ達に獰猛な笑みを浮かべ、それを見た彼等は背筋が凍り付く。先ほどまでとは雰囲気が一変し、まるで超巨大な生物に睨み付けられたような感覚が襲い掛かる。真正面に位置していた老人のエルフはソフィアの姿に何故か「白色の体毛の巨狼」の姿が重なり、次の瞬間には彼女が動き出した。


「せいっ‼」
「ぬおっ⁉」


迷わず老人の握りしめている木刀に向けてソフィアは右手を振り落とし、咄嗟に彼は受け止めようとするが、すぐに彼女が右手に宿している青炎に気が付き、木刀が燃やされる事を危惧して退いてしまう。彼等にとって神木製の武器は最も大切な宝物であり、決して傷つけるわけにはいかない。


「やっぱりそう来たね」
「何っ⁉」


だが、それを見越していたソフィアは炎を纏っていない左手で老人の身体を掴み、そのまま勢いを付けて巨人族を想像させる腕力で彼の身体を浮き上がらせ、地面に受け身を取らせる暇もなく叩き付ける。


ドォオオオンッ‼


「がはぁっ⁉」
「なっ⁉」
「貴様ぁっ‼」


老人がやられたことで動揺が走り、一早く年若いエルフが激昂しながらソフィアに突進するが、彼女は軽く裏拳を顔面に叩き付ける。


ドゴォッ‼


「ぐぶっ⁉」
「遅い」


そのままエルフは派手に転倒し、顔面から夥しい鼻血を吹き出しながら痙攣する。決して力を込めて殴った訳ではないが、レノの時と比べると身体能力に違いがあり、手加減する事も難しい。最も、この予選では手加減する必要はないのだが。


「迂闊に近づくな‼ 囲んで矢を放てば……」
「肉体強化(アクセル)」


ビキィイイイッ……‼


後方で弓矢を構える外見は中年男性のエルフが指示を与えようとするが、ソフィアは遂に身体能力を強化させ、筋肉に血管が浮き上がり、瞬時に彼女の姿が掻き消える。


「なっ⁉ 消えた⁉」
「幻惑魔法か⁉」
「落ち着け‼ 奴にそんな魔法が……ごはぁっ⁉」


ドゴォンッ‼


唐突にエルフの1人が派手に吹き飛び、周囲にいた者は彼が勝手に自分で吹き飛んだようにしか見えず、何が起きているのか理解できない。


ダンッ‼ ダァンッ‼


「な、なんだこの音は⁉」
「一体何が……いぎゃあっ⁉」
「うおっ⁉」


周囲に謎の轟音が響き渡り、次は冒険者と相対していたエルフが前のめりに倒れ込み、その背中にはくっきりと足跡が残っていた。それを見たエルフ達はやっと状況を理解し、同時に有り得ないと否定する。


「ま、まさか……」
「我々の捉えきれない速度で攻撃しているというのか……⁉」
「正解」


ダァンッ‼


ソフィアは中年のエルフの背後に回り込み、瞬脚を凌駕する速度で動き回っていた彼女の靴は煙を立てており、背後に向けて軽く平手打ちをかます。


バチィンッ‼


「ぐぁあああっ⁉」


そのまま中年のエルフはトラックに衝突したかのように派手に空中を何回転もしながら石畳の地面に倒れ込み、それを見た残りの森人族は顔色を真っ青にする。


「さてと……あと9人」
「ひぃっ⁉」
「ゆ、許し……‼」
「命を狙っておいて、それはないでしょ」
「あぶしっ‼」


しっかりと人数まで数えていたソフィアは直ぐ近くにいた怖気づいて腰を抜かしたエルフに笑みを浮かべ、そのまま容赦なくビンタを放つ。奇怪な悲鳴を挙げながらエルフは空中に吹き飛び、涙を流しながら顔面から地面に倒れ込んだ。
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