鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百参拾四話 真珠を使った鍛冶をしますが何か! その参

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「ふ~ぅ。鋼の鍛錬はこの位か・・・なかなかに善い鋼になったのではないか?それで、次は何をするつもりだ」

俺が鎚を振るのを止めるのに合わせて、相槌をしていたボルコスも大金槌を鍛冶小屋の土間に置き、流れ出る汗を拭いながら満足そうないい表情を浮かべつつ次の動きを尋ねてくる。
俺も流れる汗を頭に巻いていた布で拭き取り大きく一呼吸ついて、

「次は先に鍛えていたミスリルに熱を加えて今鍛えていた鋼を包み込む様にして鍛接だな。」

といつもの調子で話すと、途端にボルコスは目を大きく見開き陸に上がった魚の様に口をパクパクと何回か開け閉めしていたかと思ったら、

「な、な、なんだとぉ!?ミスリルで鋼を包み込む??そんな事をして武具として鍛えられるのか?」

と以前リンドブルム街で初めて鍛冶仕事をした時のスミス爺さんと同じような事を口にするボルコス。しかし、スミス爺さんと違うのはただ心配しているのではなく、好奇心にあふれその瞳をキラキラと輝かせながらの言葉だったところだった。そんなボルコスの態度に俺は苦笑を浮かべる。

「勿論!ちゃんと武具として使用出来るものを鍛えられるぞ。既にリンドブルム街で何振りもの武具をこの方法で鍛えている。ただ、リンドブルム街では依頼主の特性に合わせて使用する金属鋼や鉱石を選定したんだが、今回は真珠に宿る精霊の力を引き出すためにミスリルを使用したいところを、ミスリルの量が少ないため不足を補うために鋼を使うと言う点が、なんとも歯痒いところではあるが無い袖は振れないという事で今回は目を瞑ってもらうってことだな。
しかし、今回の方法が上手く行きこの村に住む人魚族の人達に合う精霊が真珠に宿っているとなれば今後はミスリルの入荷量を増やしてもらえれば、より良い武具が鍛えられると思う。」

「う~ん、本来は使用者に合わせて用いる金属鋼を変えるか・・・なるほど、なるほど♪
では早速始めよう!次はミスリルを使うんだったな」

俺の説明を聞いたボルコスは、嬉しそうに何度も頷きながら鍛えて置いたミスリルを炉の近くに運び作業を続ける様に俺を促す。そんなボルコスに俺は苦笑いを浮かべ汗で濡れた布を強く絞って再び頭に被り、運んできたミスリルを炉の中へと投入した。
 熱したミスリルを打ち広げて鋼を包み鍛接することで、芯は鋼、表面はミスリルの鍛接鋼にしていくと、両金属鋼に使用した真珠に宿る巻貝冠の水精霊が嫉妬深いミスリルディナシーと、無骨なスティールディナシーの間を取り持っていた。
その様子を真眼で確かめ、鍛接が上手く行った事にホッと胸を撫で下ろしトライデントへの成形へと工程を移していった。
前回は、刺突だけでなく薙ぐ事も出来る様に勝手に形状を変更して依頼主に拒絶されてしまったことを踏まえ、今回はボルコスが手掛けてきたトライデントに近い刺突に特化した三又の銛に近い形状に鍛えてゆく。
俺としては、今でも前回の形状が全く駄目なものだとは思っていないが、海の中で使用する事を考えれば使用者となる島の人魚族の懸念も良く分かる。今回の真珠を用いる武具製作が思惑通りに行けば・・・まぁ『獲らぬ狸の皮算用』にならぬようにと気合を入れ直しボルコスの指導の下、トライデントへと鍛え上げてた。
何時もの様に最後に焼き入れを入れ濛々と立ち込める蒸気の中、真眼で確認したトライデントには精獣は宿らなかったものの、ミスリルディナシーもスティールディナシーも巻貝冠の水精霊と共に満足げな様子だった。

「・・出来たか。なかなか良い出来ではないか、これならばアコルデも使用に際し『否』とは言わぬだろう。」

焼き入れを終えたトライデントを見たボルコスは満足げな表情で太鼓判を押した。しかし、俺はそんなボルコスに対して首を横に振り、

「確かに打ち終わったが、今回はこれで終わりと言う訳にはいかないだろう、何しろ初めて真珠を用いて鍛えたんだ。真珠に宿る精霊がどのような力を示すか確認しない内は仕事が終わったとは言えないだろう。」

「そうか・・・そうだな。では砥ぎなどは吾輩がやっておこう、驍廣は少し休むと言い。おいフォルテ!」

俺の言葉に深く頷いたボルコスは砥ぎや握りとなる柄巻きなどは自分がやると言い、フォルテに俺を鍛冶小屋から連れ出すよう指示した。
そんなボルコスの言葉に従いフォルテは俺の背中を押して鍛冶小屋を出ると、

「明朝にはトライデントの用意も出来ているでしょうから。最後の試しは津田さんが自身でやるつもりなんでしょ?でしたら今日の所はボルコスさんの厚意に甘え、真珠使った武具がどのようなものか津田さん自身がしっかりと確認してください!」

とボルコスの気遣いを告げられ、俺は苦笑しながらもフォルテの言う通り明日に備える為に宿へともどった。

 翌朝。何時もの時間にフォルテと共に鍛冶小屋を訪ねると、ボルコスが鍛冶場の片隅で綺麗に仕上げられたトライデントを抱きしめ倒れていた。
俺とフォルテは慌てて駆け寄ると・・・

「ク~ゥ・・カ~ァ・・ク~ゥ・・・」

「これは・・・」

「寝ているだけのようですね。は~ぁ、多分夜遅くまで頑張って仕上げていたんでしょう。それで出来上がった途端に睡魔に負けて。しかし・・・見て下さいこの満足そうな寝顔。ボルコスさんにとっても津田さんとの鍛冶仕事は楽しい物だったんでしょうね。」

その厳つい風貌には似合わない可愛らしいイビキを掻きながら時々笑顔を浮かべるボルコスの寝顔を見ながら苦笑を浮かべるフォルテに、俺も苦笑を返した。
そんな俺達の気配に気付いたのだろう、それまで浮かべていた笑顔の眉間に皺が寄ったかと思ったら、

「うっ・・うぅぅがぁぁぁぁ!」

厳つい風貌そのままの唸り声のような欠伸をしたかと思ったら大きく伸びをするようにして目を覚ましたボルコスは、自分を覗きこんでいる俺とフォルテの顔を見ると

「ぉおぉおぉお!? なんだ、誰かと思ったら驍廣にフォルテか。驚かすな!!」

寝顔を見られたのが恥ずかしかったのか、頬を赤く染めながら大声を上げ俺達を睨み付けて来た。そんなボルコスに俺とフォルテは思わず噴き出してしまい、ボルコスを宥めるのに一苦労する事になってしまった。


「ほれ! 出来とるぞ持って行け!!」

漸く怒りを治めたものの、未だ仏頂面のままボルコスは抱えていたトライデントを俺に押し付けて来た。
トライデントの穂先は綺麗に砥ぎ上げられ、長柄には海水に濡れても滑らない様に何かの動物の革が巻かれていた。

「一応、滑り止めとしてアシカの革を巻いておいたぞ。村の守手衆が使うトライデントも同じ物を使っているからな。これで海水の中で使っても問題は無いだろう。
本当は吾輩も一緒に海に行き試しに立ち会いたいところだが、残念ながら吾輩は海が苦手でな。一緒に行っても邪魔になるだけだろう、悔しいが驍廣とフォルテに後は任せ吾輩は寝かせてもらうとする。だが、試しの結果は後で必ず報告するんだぞ。良いな!!」

そう言うと大きな欠伸を何度も繰り返しながら鍛冶小屋の奥へと消えて行った。そんなボルコスに俺は頭を下げて見送った後、フォルテと共に守手衆が修練の場としていた海中の台地へ向かった。

 海中の台場に向かうと、そこではアコルデが守手衆と共にいつもの修練をしていたが、フォルテと共にやって来た俺の手に新しく鍛えたトライデントがあるのを見ると守手衆から離れて、

「よお! どうやら新しくトライデントを鍛え直したらしいな。」

と言って近寄って来た。そんなアコルデに俺は苦笑を浮かべ

「一応はな・・・ただ俺が考えていた通りの武具になっているかまだ分からないがな。」

「そうか?その割には自信がありそうな表情をしているが・・・まぁ、お手並み拝見と言ったところだな。
修練止め! 全員休憩に入れ。」

大きな声で守手衆に修練を止めさせて台場を開けてくれた。アコルデの声で守手衆達は動きを止め各々休憩に入ったがその視線は、フォルテと俺そして俺の手に握られているトライデントに注がれていた。

「さぁ! 」

守手衆から注がれる視線に戸惑っている俺の背中に活を入れる様に平手で叩きながら台場中央へと押し出すアコルデ。その顔は俺の失敗を期待する様な嫌らしい雰囲気は一切なく、寧ろ俺よりも俺とボルコスが鍛えたトライデントに対する信頼?期待?といった物が垣間見える表情を浮かべていた。
そんなアコルデの表情に後押しされる様に俺は台場中央でトライデントを腰溜めに、先ずはトライデント多用されている刺突を繰り出そうと身構え、

「っはぁ!ぁあ~?」

鋭く突きだした瞬間、力み過ぎたのかはたまた気合が入り過ぎたのか思わず突き出す際にトライデントに捻りを加えてしまった。直槍や棍なら突きに捻りを加え突きの力を倍加させる手法もあるが、トライデントに捻りを加えては穂先に掛かる負担が大きくなってしまい武具の破損にも繋がりかねない悪手。今回は素振りの様なものだから問題は無いかもしれないが、我ながらヘマをやったと思った矢先。トライデントの穂先から繰り出された勢いがそのまま穂先前方の海水に伝わった様に海水が俺が加えた捻りそのままに螺旋を描いて遠く離れた岩にまで到達すると三又の穂先と同じ大きさの穴が岩の表面に穿たれていた。
 その光景に息をのむ守手衆。フォルテとアコルデも目を起きく見開き驚きの表情を浮かべている。
俺もまさかこんな事になるとは思いもせず、岩を穿った刺突痕と自分が持つトライデントの間を何度も視線が往復している中、トライデントに宿る巻貝冠の水精霊はドヤ顔を浮かべているのが視えた。

「原因はコイツかぁ・・・」

「つ、津田さん! これは一体・・・」

巻貝冠の水精霊の表情に表情を顰めさせながら思わずつぶやきを溢した俺に、微かに震える声を投げかけて来た。その声に慌ててその場をどう取り繕えば良いのかと思考を巡らせながら声の方へ視線を移すと、そこには恐怖と期待が入り混じった表情を浮かべるフォルテとアコルデが俺の事をジッと見つめていた。そんな二人の表情に『不味ったか?』と内心では焦りつつ、

「まぁ、まて!聞きたい事はあるだろうが、まだ試しは終わっていないから暫し待て。」

と言って一旦フォルテ達の追求を躱すと再びトライデントを握り先ほど同じように構えを取って視線を落とすと、俺の事を面白そうに見る巻貝冠の水精霊と視線が合った。
視線が合った事で一瞬、驚きの表情を浮かべた巻貝冠の水精霊だったが直ぐに満面の笑みへと変わり、その場で嬉しそうにクルリクルリと舞うような動きをみせ巻貝冠の水精霊の全身を視る事に出来た。

『そうか・・・海精霊ネーレーイスだったか。』

上半身は巻貝の冠を被っているとはいえ他の水精霊と同じように水色のベールを羽織る女性を思わせる体型だったが、下半身はフォルテ達人魚族と同じように足が魚の尾鰭の様な形状になっていた。
俺が彼女海精霊の事を認識したことが伝わったのだろう、心に思い描いた途端海精霊は一層嬉しそうにしながらミスリルディナシーとスティールディナシーの間を舞い踊り体全体で表現していた。
一頻りその喜ぶ姿を見ていたが、トライデントを構えたまま動きを止めた俺の様子に心配したのかフォルテとアコルデが近づいてこようとする素振りを感じた俺は、改めてトライデントを握る両手に力を籠め、捻りを加えない様に気を付けながら何回かトライデントで海中を突くと、トライデントは以前は感じていた海水の抵抗を一切感じさせる事無く、陸に上がっているのと同じようにスムーズに突きを放つことが出来た。
そのあまりに軽快に動かす事の出来るトライデントに気を良くした俺は、またもつい・・トライデントでは使わないとされた横薙ぎをしてしまった。
すると、突きを放つ時と同じように海水の抵抗を感じる事無く横薙ぎが出来てしまった。しかも、勢いのついたトライデントによる横薙ぎによって勢いよく薙ぎ払われた海水が穂先の動いた方向に沿って鋭く動き、まるで斬撃を放ったかのように数メートル先まで横薙ぎの力は伝わって行った

「あぁ・しまっ・・・」

思わず漏れた呟き。どうやら俺とボルコスは真珠を使う事で海中内で自由自在に操る事の出来る海精霊が宿る武具を鍛えてしまったようだ。そんな俺にリンドブルム街などで遣り過ぎてしまった時にアルディリアが浮かべる様な怖い笑顔を浮かべたフォルテと、スミス爺さんが浮かべていた面白い物を見つけたとでも言うような爛々と輝く笑顔のアコルデがゆっくりと近づいてきた。
『これは、質問攻めかぁ?』と諦め始める俺。
だが、それは回避される事となった。なぜなら、ある声が台場に居た俺達の下に届いたからだった。その声とは、

「フォルテ~! アコルデ守手長~!!船がぁ、突然商船がやってきましたぁ~!」

と商船来島を告げるピアの声だった。





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