種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

最終予選開始直前

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休息日を挟み、闘人都市に存在する「本戦闘技場」には予選に勝ち残った118名の強者と、予選を免除された10名が勢揃いしており、既に観客席には3万人を超える観客が集まっていた。


『さぁ~‼ いよいよ本戦まであと一歩‼ 最終予選を開始するっすよ~‼』
『何故、私がこんな場所に居るんだ……』
『今回の実況席には森人族代表のレフィーア様がお越しっす』


カリナの能天気な声が響き渡り、既に円形型の闘技場には選手たちが集まり、周囲に存在する観客たちに委縮される。


「おおうっ……まだ予選なのに随分と集まってるね」
「ミラークリスタルを通して全世界にも放映されているからな……下手な事を仕出かして悪目立ちするのは避けてくれ」
「なんでそれを私にだけ言うのかな」
「あ、あははっ……」


ソフィアの両隣にはリノンとジャンヌが立っており、彼女達も遂に今日から参戦であり、ゴンゾウとポチ子も装備を整えてすぐ傍に待機していた。今回のために参加選手それぞれが最大限の鍛錬と準備を整え、最終予選に備えて待ち構えていた。


「ん? そう言えばコトミは何処だ? 彼女も今日から参加するはずだが……」
「あそこで優男と話してるよ」
「優男?」


彼女の指差す先にリノンが視線を向けると、そこには珍しくコトミが見知らぬ青年と会話している姿があり、基本的には仲間以外の人間とは滅多に接触を持とうとしない彼女が普通に話している姿に驚く。


「ソフィアはあの人の事を知っているのか?」
「ううん。聞いても内緒とだけしか応えてくれなかった。幼馴染がどうとか言っていたけど……」
「コトミさんの幼馴染? という事は彼も聖導教会の……?」
「いえ、あのような人は見かけたことがありません。私も何年かは聖導教会に世話になっていましたが……」


コトミと同じく聖導教会総本部の出身であるジャンヌも知らないようであり、ソフィアはコトミと何事か長々と話し合っている青年、シュンに視線を向ける。彼は自分に視線が集まっている事に気付いたのか、ソフィアに向けて笑顔を浮かべて掌を振り、そんな彼の行動に眉を顰める。

ソフィアの異変に気付き、リノンは彼女とシュンの交互に視線を向け、何時もらしくないソフィアに首を傾げ、もしかしたら彼女が彼に対して何か思う事があるのかと問い質す。


「どうしたソフィア? 何か気になるのか?」
「いや……気になると言えば気になるかな」
「ま、まさかコトミさんがあの男性と仲良さげなのが気になるのですか⁉」
「何故そうなる……」


あのソフィアがシュンにコトミを取られるのではないかという「嫉妬」の感情を抱いたのかとジャンヌが慌てるが、彼女は考え込むように黙り込み、


「アルト? いや……どちらかというとクズキかな」
「え?」
「気になるのはコトミじゃなくて、あっちの男の方かな。何となくだけど昔の知り合いと雰囲気が似ているというか……」


シュンから感じる雰囲気に覚えがあり、それは魔王の洗脳が解ける前のアルトや、レノの恩師であるクズキと似たような感覚であり、大きく性格の違う二人ではあるがシュンからは2人と似た空気を感じる。

アルトもクズキも基本的には善人だが、どちらも暴走しがちな面があり、アルトはリノンの事に関すると常識が抜けてしまったり、クズキも昔惚れていたという理由でレイアのためにレノをロスト・ナンバーズのメンバーに育て上げようとする辺り、普通の人間とは言い難い。

間違いなくシュンも2人と同類の人間であり、あまり近づきたくはないタイプだが、アルトから彼が自分の情報を調べられているという事を聞かされているため、無視はできない。だからと言って自分から進んで近づきたくはないが。


「……何故か、あの方からカトレアと同じ雰囲気を感じます。外見は全然違うのに……」
「ああ、なるほど。確かにカトレアとも似てる」


ジャンヌが嫌な表情を浮かべてシュンに視線を向け、ソフィアも賛同する。彼からはカトレアとは別ベクトルの変態性が感じられ、だからこそ近寄りがたい。


「私は普通の人にしか見えないが……コトミと知り合いというのが気になるな」
「私もコトミとは幼い頃の付き合いですが、彼女がレノ様以外にあれほど心を許した男性は見た事がありませんね」
「あ、戻ってきた」


コトミがシュンの元を離れてソフィアの方に戻り、じっと彼女を見つめると少しだけ頬を膨らませる。


「……シュンが私よりソフィアの方が痩せてるって」
「えっ……そうかな?」
「確かにソフィアさんはお腹回りが細いですね……羨ましいです」
「その前にコトミはよく食べるのにあまり動かない事が問題じゃないのか?今日もゴンゾウの肩の上に担がれてきただろう?」
「……歩くの面倒くさい」
「俺は構わん。コトミぐらいの重さの人間を抱えて移動するのはいい鍛錬になる……ぬおっ⁉」
「ああ⁉ ゴンさんの頭の上に雨雲が⁉」



ザーーーッ……‼



若干、失礼なことを告げたゴンゾウにコトミが無言で杖を掲げ、水属性の魔法なのかゴンゾウの頭の上に雨雲が発生し、そのまま彼の頭を濡らす。恐らくは水属性と雷属性の合成魔法であり、このような芸当も出来たのかとソフィアが感心していると、


『それじゃあ時刻になったので、最終予選の説明を行いたいっす‼ 今回の予選を突破すれば晴れて本戦出場となりますが、これまで以上の難易度の試練が用意されているっすよ‼』
『今度は何をする気だ?』
『おおっと、実況役のレフィーア様も気になるようですね‼それでは最終試練の内容を発表するっす‼ 皆さんの知っての通り、本戦の出場枠は64名です‼ですが、既に各種族の代表とも言える金色のメダルの所持した選手たちが8名存在しています‼』
『……8名?どういう事だ……13人の間違いじゃないのか?』
『ええっとですね……いえ、間違いじゃないっすよ?人間側からは3名(レノ、レミア、ホノカ)、森人族からは2名、巨人族からも1名、獣人族も1名、魔人族も1名で合計8名っす』
『そんな馬鹿な……どうして人間と我等の以外の種族の代表が1名ずつになっている? 大会前の規定では交易都市の盗賊王を別として、それぞれの種族が2名ずつ選出しているはずだ。それに参加予定のS級冒険者達はどうした? 奴等も2名ほど出場するはずじゃなかったのか?』
『ちょ、ちょっと待ってくださいね』


事前の情報では13名の金色のメダルの所持者がいると聞かされていたレフィーアは眉を顰め、それはソフィア達も同じであり、事前にアルトから聞いていた情報では確かに「13人」の予選を免除された者達が存在すると聞いていたが、


『資料によりますと、レフィーア様の言う通り確かに当初は13名の選手が参加する予定でしたけど、どういう事か予選免除の方たちが宿泊しているはずの宿から報告が届いた所、全員が荷物だけを置いて失踪したみたいですね。ご丁寧に大会に必要な金色のメダルも放置したまま行方不明の扱いっす』
『行方不明だと……?』


カリナの発言に観客達と最終予選を受ける参加者たちもざわつき、ソフィアは何となく特等席に座り込んでいるアルトに視線を向けると、彼もソフィアに気付いたのか頷く。


(失踪か……このタイミングで? )


別に大会の参加者が襲撃される事は珍しくないが(実際にレノも参加証を狙われた事もある)、最終予選が開始される前に出場枠を増やすとばかりに実力者揃いのはずの金色のメダルの所持者が5名も消えたという事が気にかかり、ソフィアは何となく先ほどまでシュンが立っていた場所に視線を向けるが、そこには既に誰もいなかった。
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