種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

本戦二日目

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――深夜まで黒猫酒場では宴が行われ、ほどほどに祝杯を楽しみ終えるとレノ達は明日の本戦のために早めに就寝し、早朝に目覚める。今回の試合は正午から行われ、試合形式も複数の選手が同時にではなく、1つの試合場に1対1の選手同士の対戦形式に変更する予定だった。

朝食を終えた後、酒場の前にわざわざ選手たちを迎え入れるために豪華な馬車が用意される。ここまで勝ち残った選手はVIP扱いであり、大会が終了するまで丁重に扱われる決りであり、レノ達はバルたちに見送られて馬車に乗り込む。


「おおっ……俺が入れるほどに大きい」
「巨人族用の馬車なのかな」
「椅子もふかふかです~」
「随分と豪華ですね……」


馬車に乗り込んだのはレノ、ゴンゾウ、ポチ子、レミアであり、結局ライオネル達は宴には参加しなかった。昨日の夕刻頃に闘技場で問題が発生したらしく、その対処に時間が掛かって訪れる暇がなかったらしい。

ジャンヌは王国に一度戻っており、試合前には転移する手筈であり、ホノカは高級旅館で滞在中、ホムラはそもそもどこで寝泊まりしているのかも不明。馬車に送り迎えされるのは4人だけであり、辿り着くまで十数分は掛かる。本来ならもう少し早く辿り着くのだが、現在の都市は世界中から人が集まっており、早朝だというのに人だかりができていた。


「お、おい見ろよ‼ あの馬車に乗っているのレミア様だぜ‼」
「あっちのでかいのはゴンゾウ大将軍か⁉」
「あの可愛い女の子も見た事あるぞ‼」
「あっちの兄ちゃんは大会で一番目立っていた英雄様じゃねえか‼」


馬車が街路を通るたびに行き交う人々から視線を集め、レミアは律儀に彼等に手を振り返すが、レノは面倒気に竜爪の手入れを行う。


「レノ、今回は武器を使うのか?」
「まあね。たまに使わないと可哀想だからね」
「それがレノ様の武器ですか? 鍵爪とは少し変わってますね」
「そうですか? 私のお父さんもお母さんもよく使いますよ」
「いえ、獣人族の方はよく愛用されますが、エルフの方が鍵爪を使うのは珍しいので……」


基本的に種族によって武器を好む系統に大きな違いがあり、森人族は狩猟するために弓矢を愛用し、巨人族は棍棒や戦斧といった長物、獣人族は鍵爪、人魚族は金魚鉢のような乗り物(正式名称はクリスタルボール)、魔人族はそもそもが武器を必要としない個体が多く、人間はありとあらゆる武器を使用する。


「そう言えばウルさんは元気ですか? 最近顔を見ないので寂しいです」
「ウルは今は忙しい時期だから呼び出せないかな……北部山岳の方で縄張り争いしてるよ」
「縄張り争いか……ウルは親のように、地上の主になれると思うか?」
「まだそんな段階じゃないよ。今は経験を積んで、立派な大人に成長するまでは面倒を見るよ」


ウルも放浪島の地上の主として君臨する日も訪れるかもしれないが、それはあくまでも数年後の未来であり、今の段階では他の白狼種に縄張りを侵されない程度の実力しか持っていない。いずれはレノの元を巣立ち日も来るだろうが、その時までは変わらずに接するつもりだった。


「それにしても次のレノ様の対戦相手は気になりますね……氷雪を操る魔導士、一体何者でしょうか」
「急に嫌な気分になったんですけど」


レミアの言葉を聞いてレノは頭を抑え、そアルトにリオが勝ち残ったことを報告するのを忘れていたため、彼女がまさかこの本戦にまで勝ち残っていた事に気付かなかった。しかも、次の自分の対戦相手という事に初めて気が付き、もう少し真面目に自分が戦う相手を調べておくべきだった。


「レノ……まさか、王女様と戦うのか?」
「え、王女様?」
「らしいね……どうしよう。アルトに今から伝えるべきかな……」
「ど、どういう意味ですか?」
「わうっ……次のレノさんの対戦相手はリオ様ですよ?」
「ええっ⁉」
「気付いてなかったんかい」


ポチ子の言葉にレミアは驚愕し、どうやら本気で彼女の正体に気が付いていなかったらしく、慌てふためく。流石に相手が王国の王女であればいつものようにレノを応援できるはずがない。


「ど、どうしてリオ様が大会に⁉な、何故リオ様がこの大会に⁉」


レミアの質問に確かにレノも不思議に思い、どうしてリオがこの大会に参加した理由が分からない。自分の実力を試すためか、それとも大魔導士の美香に対抗して彼女よりも世間に名を知らしめるために参加したのかは不明だが、問題なのはレノがどのように対応するかだ。


「わざと負ける?それとも手加減して勝つ?」
「前者はともかく、後者はかなり難しいな」
「リオ様も強くなられましたからね……」
「湖を凍らせたときはびっくりしました‼」


アルト同様、リオも王族の血が流れているのかは不明だが彼女の実力は確かであり、少なくともコトミ並の魔力と魔法の技量があるのは間違いなく、何より氷属性を操るという時点で並の魔術師とは比べ物にならない。

レノが対戦する場合、彼女は全力で倒しに来るだろう。アルトに説得してもらうのが一番だが、彼女が何処に居るのかも分からない現状ではどうしようもない。


「何とかアルトにこの事を伝えないと……」
「それがその……アルト様は今は都市には居られないです」
「え、何で?昨日までは酒場にいたよね?」
「それが王都の方で問題が起きたらしく、深夜にリノン様と共に帰還しました。大事があれば連絡を送るとは言ってましたが……」
「王都で何か起きたの?」
「いえ、それほど深刻な問題ではないそうなので、大会に出場するレノ様を起こさずに自分たちだけで解決すると伝えるように言付かっています。今は大会に集中して欲しいと……」


自分たちがいない王都で何か起きたのかは気にかかるが、アルトの心配りを無下にするわけにもいかず、彼の言う通りに大会に集中する事にする。リオの件は頭が痛いが、他の三人の初戦の対戦相手も難敵であり、特にDブロックのレミアに至っては強敵であり、相手は同じ王国所属の参加者であるジャンヌである。


「……ジャンヌさんと戦うのは初めてではありませんが、一度も勝てた事がありません。ですが、今回はそう簡単に負けるわけにはいきません」


レミアは自分の身体に埋め込んでいる英雄たちの命石を感じ取り、今回の試合では「銀の英雄」「片翼の天使」そして危険性が高いため、彼女自身も表に出すのは躊躇う最後の英雄も憑依させないといけない可能性が高い。レノはナナとミキは知っているが、最後の三人目の英雄に関しては見たことも聞いたこともない。


「皆様、間もなく闘技場に辿り着きます」


馬車を操る使用人の言葉に全員が準備を整え、各々がこれから行われる試合に向けて覚悟を決める。今回のトーナメントで決勝に勝ち残るの枠は4人だけであり、12人の選手が敗退する事が確定していた。
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