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剣乱武闘 覇者編
決勝前夜
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剣乱武闘の決勝進出者には闘技場内の宿泊施設が用意されており、レノとゴンゾウはやたらと質素な部屋へと案内される。この数年で大幅な改装が加えられた闘技場ではあるが、この宿泊施設だけは闘技場の管理者の要望によって手を加えられていない。この場所は歴史上の剣乱武闘の決勝まで勝ち残った選手たちの休息場であり、この場所だけは何があろうと改装したくないという彼等の願いだった。
レノとゴンゾウは二段重ねの木製のベッドが並び、巨人族用にも造られているのか随分な大きさであり、ゴンゾウは下の段、レノは上の段で横になる。時刻はまだ夕刻から少し過ぎた程度だが、試合の疲れもあって2人は身体を休める。
ちなみに試合の出場者は医療魔導士の治療と、身体をほぐすためのマッサージが施され、万全な状態で戦いを望めるように配慮されている。ゴンゾウの場合は鬼人化による影響で筋肉痛だったが、彼等のお蔭で明日の決勝は十分に力を発揮出来そうだった。
「……レノ、起きているか?」
「起きてるよ」
下の段のベッドから声を掛けられ、レノは覗き込むとゴンゾウが身体を仰向けにしながら見上げ、
「ありがとう」
「急にどしたの」
いきなり礼を告げられ、レノが首を傾げるとゴンゾウは口元に笑みを浮かべ、壁に立て掛けている金棒に視線を向ける。この金棒は巨人族の武具であり、魔王討伐大戦の際に巨人族のダンゾウから送り込まれた物だ。彼にとっては様々な思い出がある武器であり、ゴンゾウは今度は自分の掌を見つめる。
「俺が、ここまで来れたのは、レノのお蔭だ」
「……?」
「いや、俺だけじゃない。ポチ子も、リノンも、アルトも、今の俺達がいるのはレノのお蔭だ」
「どういう事?」
ゴンゾウはゆっくりと上半身を起き上げ、自分の腕を確認する。彼の身体は傷だらけであり、ここまで来るのに様々な強敵から傷つけられた。この傷跡の一つ一つが彼にとって強敵との思い出であり、勲章とも言えなくもない。
「もしも、俺達が学園でお前と出会わなかったら、きっとこんなに傷を負う事は無かった。そして俺達は別々の道を辿っていたはず」
「どうして?」
「学園で皆が別れた後、ポチ子は巫女姫様と共にお前に救われた。その後も、地下迷宮では俺も含めてアルト達も救ってくれた。今の俺が生きているのはレノのお蔭だ」
「そうかな……」
「そうだ。あの時、お前がいなければ皆死んでいたかもしれない。助かっていたとしても腐敗竜には勝てなかった。バジリスクにも、ロスト・ナンバーズにも、魔王にも……お前がいたから、皆強くなれた」
ベッドからゴンゾウは腕を伸ばし、掌を差し出す。レノはその掌を不思議そうに眺め、自分の掌を重ねると彼は痛いくらいに握りしめる。
「俺達を、ここまで導いてくれてありがとう」
ゴンゾウはそう告げると手を離し、レノは彼に握りしめられた掌を見つめ、
「……だったら俺もお礼を言わないと」
「?」
「俺も皆がいたから、ここまで来れたよ」
レノは笑みを浮かべ、感謝するのはこちらの方だった。自分がここまで来れたのもゴンゾウはもちろん、アルト、リノン、ポチ子、ミキ、クズキ、ヨウカ、ホノカ、センリ、バル、カリナ、アイリィ、ライオネル、レミア、ジャンヌ、カノン、テラノ、ギガノ、ベータ、デルタ、他にも大勢の人たちとの出会いがあったからこそ彼は成長できた。
仮にホムラが孤児院に来なければ今頃レノはどんな道を歩んでいたのか想像できず、少なくとも今のような立場になる事はなかった。ハーフエルフという身分が彼を追い詰め、下手をしたら奴隷として捕まっていた可能性もある。
「俺の方こそ言わせてよ……ここまで見放さずに一緒に居てくれてありがとう」
「レノ……」
「でも、明日は容赦しないからね」
「ふっ……」
最後の言葉にゴンゾウは笑顔を浮かべ、明日の決勝では2人は敵同士であり、思えばお互いが本気で戦ったことは一度もないかもしれない。組手で対戦した事は今までに何度かあったが、お互いが本気で戦闘した事はない。
「……出来る事なら、決勝は、俺とお前だけで戦いたかった」
「嬉しいけど、そればっかりは仕方ないよ」
「そうだな……」
今回の決勝戦はレノとゴンゾウ、そしてホムラとエンの4人のバトルロワイヤルであり、最後まで勝ち残った1人が剣乱武闘の優勝者となる。
(強敵だらけだな……)
レノが知る中でも巨人族最強のゴンゾウ、言わずと知れた天下無双のダークエルフのホムラ、そして得体の知れない紅蓮のエン、今までに様々な強敵と戦い続けたが、レノはまるで単騎で伝説獣に戦いを挑む方がマシな気してきた。
(まあ……やるか)
身体中に仕込んだ解放術式を確認し、明日に対する準備は全て整えた。ホムラだけではなく、他にも2人の強敵を相手にどこまで通用するのか分からないが、レノは拳を握りしめる。
(とりあえず……寝よ)
色々と考えるよりは身体を休める方が先決であり、万全の体勢を整えるためにレノは睡眠に着いた――
レノとゴンゾウは二段重ねの木製のベッドが並び、巨人族用にも造られているのか随分な大きさであり、ゴンゾウは下の段、レノは上の段で横になる。時刻はまだ夕刻から少し過ぎた程度だが、試合の疲れもあって2人は身体を休める。
ちなみに試合の出場者は医療魔導士の治療と、身体をほぐすためのマッサージが施され、万全な状態で戦いを望めるように配慮されている。ゴンゾウの場合は鬼人化による影響で筋肉痛だったが、彼等のお蔭で明日の決勝は十分に力を発揮出来そうだった。
「……レノ、起きているか?」
「起きてるよ」
下の段のベッドから声を掛けられ、レノは覗き込むとゴンゾウが身体を仰向けにしながら見上げ、
「ありがとう」
「急にどしたの」
いきなり礼を告げられ、レノが首を傾げるとゴンゾウは口元に笑みを浮かべ、壁に立て掛けている金棒に視線を向ける。この金棒は巨人族の武具であり、魔王討伐大戦の際に巨人族のダンゾウから送り込まれた物だ。彼にとっては様々な思い出がある武器であり、ゴンゾウは今度は自分の掌を見つめる。
「俺が、ここまで来れたのは、レノのお蔭だ」
「……?」
「いや、俺だけじゃない。ポチ子も、リノンも、アルトも、今の俺達がいるのはレノのお蔭だ」
「どういう事?」
ゴンゾウはゆっくりと上半身を起き上げ、自分の腕を確認する。彼の身体は傷だらけであり、ここまで来るのに様々な強敵から傷つけられた。この傷跡の一つ一つが彼にとって強敵との思い出であり、勲章とも言えなくもない。
「もしも、俺達が学園でお前と出会わなかったら、きっとこんなに傷を負う事は無かった。そして俺達は別々の道を辿っていたはず」
「どうして?」
「学園で皆が別れた後、ポチ子は巫女姫様と共にお前に救われた。その後も、地下迷宮では俺も含めてアルト達も救ってくれた。今の俺が生きているのはレノのお蔭だ」
「そうかな……」
「そうだ。あの時、お前がいなければ皆死んでいたかもしれない。助かっていたとしても腐敗竜には勝てなかった。バジリスクにも、ロスト・ナンバーズにも、魔王にも……お前がいたから、皆強くなれた」
ベッドからゴンゾウは腕を伸ばし、掌を差し出す。レノはその掌を不思議そうに眺め、自分の掌を重ねると彼は痛いくらいに握りしめる。
「俺達を、ここまで導いてくれてありがとう」
ゴンゾウはそう告げると手を離し、レノは彼に握りしめられた掌を見つめ、
「……だったら俺もお礼を言わないと」
「?」
「俺も皆がいたから、ここまで来れたよ」
レノは笑みを浮かべ、感謝するのはこちらの方だった。自分がここまで来れたのもゴンゾウはもちろん、アルト、リノン、ポチ子、ミキ、クズキ、ヨウカ、ホノカ、センリ、バル、カリナ、アイリィ、ライオネル、レミア、ジャンヌ、カノン、テラノ、ギガノ、ベータ、デルタ、他にも大勢の人たちとの出会いがあったからこそ彼は成長できた。
仮にホムラが孤児院に来なければ今頃レノはどんな道を歩んでいたのか想像できず、少なくとも今のような立場になる事はなかった。ハーフエルフという身分が彼を追い詰め、下手をしたら奴隷として捕まっていた可能性もある。
「俺の方こそ言わせてよ……ここまで見放さずに一緒に居てくれてありがとう」
「レノ……」
「でも、明日は容赦しないからね」
「ふっ……」
最後の言葉にゴンゾウは笑顔を浮かべ、明日の決勝では2人は敵同士であり、思えばお互いが本気で戦ったことは一度もないかもしれない。組手で対戦した事は今までに何度かあったが、お互いが本気で戦闘した事はない。
「……出来る事なら、決勝は、俺とお前だけで戦いたかった」
「嬉しいけど、そればっかりは仕方ないよ」
「そうだな……」
今回の決勝戦はレノとゴンゾウ、そしてホムラとエンの4人のバトルロワイヤルであり、最後まで勝ち残った1人が剣乱武闘の優勝者となる。
(強敵だらけだな……)
レノが知る中でも巨人族最強のゴンゾウ、言わずと知れた天下無双のダークエルフのホムラ、そして得体の知れない紅蓮のエン、今までに様々な強敵と戦い続けたが、レノはまるで単騎で伝説獣に戦いを挑む方がマシな気してきた。
(まあ……やるか)
身体中に仕込んだ解放術式を確認し、明日に対する準備は全て整えた。ホムラだけではなく、他にも2人の強敵を相手にどこまで通用するのか分からないが、レノは拳を握りしめる。
(とりあえず……寝よ)
色々と考えるよりは身体を休める方が先決であり、万全の体勢を整えるためにレノは睡眠に着いた――
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