種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

洞穴

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「あそこが大迷宮の出入口で~す」
「あそこって……洞穴じゃん」


獣人族の砦の端にまで移動すると、ラッキーが示した方向には巨大な岩山が存在し、あそこが獣人族の大迷宮らしく、出入口と思われる巨大な洞穴が存在した。外見は王国の領土に存在した大迷宮の遺跡とは全く違うが、どうしてここが大迷宮と呼ばれているのか。


「ここはもともと平原だったんですけど、急にあのへんな岩山が盛り上がって来て~……最初は気にしなかったんですけど、あの穴から魔獣が沸きだしてきて~」
「それで大迷宮だと?」
「何度か調査隊も派遣されたみたいですけど、その度に傷だらけの隊員が帰って来て~中は煉瓦製の迷路が広がっていたそうです~」
「そうなのか~」
「レノ、口調が移ってるぞ」


ラッキーの話を聞き終え、調査隊の陣営は洞穴から300メートルほど離れており、洞穴の周囲は木柵で囲まれていた。しかし、既に何度も破壊されて修復した跡が存在し、完全に洞穴から出現する魔獣の脱走を防いでいるわけではなさそうだ。


「あそこか……出入口を塞いだら?」
「何度か大きな岩石や鋼鉄製の金属の板を仕込んだこともあったらしいですけど~内側からガリガリと食い破られてしまうんですよね~」
「魔法的な罠を仕掛けたら……」
「生憎と私達は魔法は苦手ですから~」


単純に封鎖する事も難しいらしく、これまでに何度か試みたが全て失敗したらしい。レノは周囲を確認し、確かに辺り一面は地平線が広がっており、この岩山だけが露出している形になっている。どうやらここが獣人族の大迷宮で間違いなく、恐らく守護者も内部で待ち構えているはず。


「出発は明日の朝からだっけ?」
「ああ、内部の方は私達が侵入した場所のように天井が光石が仕込まれていて明るいそうだが、基本的に魔獣は夜の時間帯に活発になる傾向がある。迷宮内の魔獣もその特性があるのかは分からないが、念のために朝方に出発した方がいい」
「それまで自由か……とは言っても、観光できる様子じゃなさそうだしな」
「ここいら辺は名産品もありませんからね~」


レノは洞穴に視線を向け、獣人族の見張り番が存在し、木柵の内部を注意深く見守っていた。いったい、どんな魔獣が出てくるのかは知らないが下手をしたら白狼種並の危険な魔物と遭遇するかもしれない。


ぐぅうううっ……


「はうっ⁉」
「……腹減った」
「そう言えば何も食べていなかったな……」


レノ達のお腹が同時に鳴き、朝早く出発したためまだ食事を取っていない。その音を聞いてラッキーは笑みを浮かべ、


「あちらの方に食堂が存在するので、獣人族の名物料理を楽しんでくださ~い」
「獣人族の名物料理?まさか、ドックフード……」
「いや、肉料理と魚の刺身が美味しいぞ」
「安心した」
「わぅっ……ドックフードはありますか?」
「ごめんね~うちの子たちはあんまり食べないから~」


ラッキーに案内されるがまま、レノ達は陣営の食堂に案内される。



――その一方、幕舎の中に集められた種族代表達は机に座り込み、レノから渡された資料を片手に会議を行う。会議と言っても話し合いを終えればレフィーアだけは自分の領土に帰還し、調査隊の報告を待つだけである。彼女以外の種族代表はしばらくは滞在する予定だが、自国で異変が起きた場合はすぐに帰還する用意はしている。



今回の会議は今までに獣人族が得た大迷宮の見取り図の確認であり、机の上には現在だけで把握できる迷路の地図が存在した。


「これが現在で判明している場所の見取り図だ。残念ながら、見ての通りこの場所から先には進んでいない」
「これが地図だと? ほとんど何もわかっていないじゃないか」
「出入口の部分しか書き込まれていないな……」
「本当に申し訳ない……だが、ここから先は僕らだけの力ではどうしようもない」


地図に映し出されていたのは大迷宮の出入口の部分だけであり、最初から5つの路が広がっており、そこから先は何も書き込まれていない。何度も調査隊を送り込んだらしいが、その度に魔獣の群れに撃退されてここまでの情報しか手に入らなかったらしい。


「この5つの路の先がどうなっているのかは分からない。だから調査隊を5つに分けてそれぞれの部隊に調べて貰いたいんだが……」
「丁度いいじゃないか。5つの部隊、ならばここは各種族の部隊が1つずつ調べて行けばいい」
「それだと六種族共同の名目で造り上げた調査隊の意味がないだろう。協力するために結成したのに、別れて行動してどうする?」
「いや、ここはレフィーア殿の意見で行きたい。急な編成でまだ調査隊の人員も馴染んでいない。ここは敢えて別々に行動する事で作戦の効率を上げたい」
「だが、それだと人数の少ない部隊が……不利なのでは……」


獣人族以外の部隊は少数精鋭であり、特にレノ達はアルトを含めても5人しかいない。それでは他の部隊と調査の進行具合に支障がでてくるだろう。


「それだったら300人もいる獣人族の部隊から何人か派遣すればいいだろう」
「分かった。なら、腕利きの娘たちを一緒に……」
「いや、待ってくれ。それだったら僕が同行しよう」
「お前が?」


ホノカが挙手を行い、アルト達は顔を見合わせる。確かに戦力的にも能力的にも彼女が加わるのは心強いが、どうしてアルト達の部隊なのか。


「確か、貴様は大迷宮内に存在するかもしれない宝物が狙いだったな……それならどうして人数が一番少ないこの男の部隊に参加する?」
「そっちの方が安全そうだからさ。君たちの種族は気に入らないし、魔人族の人たちはなんか怖いし、巨人族の人たちは性格が合わなそうだし、獣人族の可愛い女の子たちに紛れるのも悪くないけど、安全面を考えたら聖剣の所有者が2人もいるアルト君の部隊だろう」
「堅実だな」
「だが、今回は宝物の発見ではなく調査が最優先だぞ」
「分かっているよ。そこら辺はちゃんとするさ。それと、僕の知り合いも同行させるよ」
「知り合い?誰か来ていたのか?」
「正確にはそろそろ来る頃だよ。上手い具合に僕の飛行船もこの領土で停泊してるからね」
「そうか……なら、会議はここまでにして置こう。今日は解散でいいかな?」


獣王の発言に代表達が同意し、調査隊の会議は終了した。アルトはすぐにレノ達の元に戻ろうとした時、珍しくホノカが彼に話しかける。


「アルト君」
「ホノカ……さん?」
「君に聞きたい事があってね……」


ホノカはレノから渡された資料をひらひらと翻し、アルトは顔色を変える。彼だけはレノから資料の出所を明かされており、この資料がベータが偽造した物だと知られたのかと視線を向けると、


「……最近、武器に関する密輸の依頼が殺到している。気を付けておいた方が良いよ」
「え?」
「僕としても依頼人の正体を晒すことが出来ないんでね。それでも忠告はしておくよ」


それだけ告げるとホノカは立ち去り、残されたアルトは彼女の告げた武器の密輸という言葉に呆然とした。
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