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第一部 幼年期
第五十一話 乳母のマチルダさん
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マチルダをシュリ達に引き合わせた後、ジュディスはまだ仕事があるからと帰って行った。
帰り際、妙に色っぽい流し目でシュリを見つめてから。
ともあれ、乳母もといママ友が出来たと大喜びのミフィーは、さっそくマチルダを自分達の部屋へ誘った。
ジュディスの話によれば、マチルダさんとその娘の為の部屋もきちんと用意してあるとのこと。
後で使用人に確認して下さいと、ミフィーに伝えていたが、浮かれていたミフィーがどこまでまともに聞いていたか微妙だ。
まあ、この屋敷の使用人達は妙に優秀な人が多いから、こちらから言い出さなくても頃合いを見て声をかけてくれるとは思うけど。
そんなことを考えているうちに、4人はミフィーの部屋へ着いていた。
ミフィーはマチルダに椅子を勧め、マチルダは戸惑いながらも椅子に座っておずおずと目の前に座るミフィーを見てる。
(まあ、その気持ちもわかるけどな)
シュリは屈託のないミフィーの心からの笑顔を見上げながらそう思う。
何しろミフィーには自分が貴族の一員だという自覚が薄い。
まあ、まだここに来て日が浅いし、人の意識ってモノはそう簡単に変わるものでもないから仕方ないとは思うけど。
そんなミフィーの貴族らしくない感じが、マチルダを戸惑わせるのだろう。
彼女は貴族に、しかもこの町の領主の一族に仕えるのだと思って緊張しながらここを訪れたはずだから。
貴族の家に来たのに、出迎えてくれたのはまるで貴族らしくない女性。
同じ使用人かと思えばそうではなく、その女性と子供こそ自分が仕えるべき相手だというのだからびっくりもするだろう。
「あ、あの、ミフィー様」
「ミフィー様はやめて、マチルダさん。人前では仕方がないかもしれないけど、私達だけの時は、様をつけないで欲しいの」
ミフィーは苦笑混じりにそう告げた。
今や彼女も、貴族としての少々の自覚は出てきてはいるようだ。
人前でのフランクな態度がマチルダの評判を落とす事になること位は分かっているらしい。
「ねえ、マチルダさん。私、あなたとお友達になりたいの。同じ年頃の子供を持つもの同士」
ミフィーは身を乗り出し、そっとマチルダの手をとった。
マチルダは、その言葉に戸惑ったようだが、ミフィーの真剣さがちゃんと伝わったのだろう。
最後にはその優しげな面に笑みを浮かべてくれた。
「わかりました。じゃあ、普段はミフィーさんって呼ばせてもらいますね。だから、ミフィーさんは私のことをマチルダと、呼び捨てでお願いします」
「え、でも」
「そこはけじめということで」
「うん。わかった。マチルダも私の希望を聞いてくれるんだから、私もそうする。マチルダ、私のお友達になってくれる?」
そんなミフィーの申し出にマチルダはちょっぴり困った顔をしたものの、最後には微笑んで頷いてくれた。
「私みたいな身分の低いものでもよろしければ喜んで」
その返事を聞いて、ミフィーの顔がぱあっと輝く。
「身分なんて関係ないわ。私だって、たまたまここに迎え入れてもらったから貴族の内に含められるけど、本当ならそんな上等な身分じゃないんだから」
ミフィーはにこっと笑ってマチルダの手を両手で握る。
「ありがとう、私と友達になってくれて。心から嬉しいわ。出来ればシュリとあなたの娘さんも仲良くなってくれるといいんだけど」
言いながら、ミフィーの目が愛おしそうにシュリを見つめた。
それからマチルダの娘を見る。
「ねぇ、マチルダ。娘さんのお名前は?」
「リアです。少し変わった子ですけど、シュリ様のお役に立てるように育てます」
「シュリにも様はいらないわ。ふうん、リアって言うのね。可愛い名前だわ。よろしくね、リア。私はミフィーよ」
身を乗り出し、ちょっと無表情だが可愛らしい顔立ちの赤ん坊のふっくらとしたほっぺを指先でつついて、ミフィーはにっこり微笑んだ。
「やっぱり女の子よね。シュリよりちょっと小さいわ」
「ふふ、そうですね。シュリ様……いえ、シュリ君は男の子だから育てるのが大変だったでしょう?男の子は大変だってよく聞きますから」
「それがそうでもなかったのよ。シュリはすごく聞き分けがいい子で。ね、シュリ」
「う!」
ミフィーが話を振ってきたので、シュリは片手を上げて元気に返事をした。
その様子をみたマチルダが目をまん丸くする。
「すごい。かしこいんですねぇ、シュリ君は」
「そう?1歳くらいってこんなものじゃないの?」
「うだ!」
シュリも、そんなもんだとばかりに声を上げると、マチルダは苦笑混じりに自分の娘を見下ろした。
「まさか。うちの子もおませさんな方ですけど、シュリ君みたいな反応はまだしませんよ?後もうちょっと大きくなれば別なんでしょうけど」
マチルダの言葉を受けて、ミフィーはまじまじと己の息子を見つめた。
そして同じように自分を見上げてくる息子のつぶらな瞳に微笑んで、
「そっかぁ。シュリはすごかったんだねぇ。母様は気が付かなかったよ。まあ、賢くてもおバカさんでも、私の愛は変わらないけどね。どんなシュリでも私の可愛い息子だもの」
愛しい息子をぎゅうぎゅう抱きしめ、その柔らかなほっぺにむちゅーっとキスをした。
シュリはやれやれと言った感じの、ちょっと赤ん坊らしくない表情を浮かべつつも、母親の好きなようにさせている。
マチルダは、そんな母子を微笑ましそうに見つめていた。
帰り際、妙に色っぽい流し目でシュリを見つめてから。
ともあれ、乳母もといママ友が出来たと大喜びのミフィーは、さっそくマチルダを自分達の部屋へ誘った。
ジュディスの話によれば、マチルダさんとその娘の為の部屋もきちんと用意してあるとのこと。
後で使用人に確認して下さいと、ミフィーに伝えていたが、浮かれていたミフィーがどこまでまともに聞いていたか微妙だ。
まあ、この屋敷の使用人達は妙に優秀な人が多いから、こちらから言い出さなくても頃合いを見て声をかけてくれるとは思うけど。
そんなことを考えているうちに、4人はミフィーの部屋へ着いていた。
ミフィーはマチルダに椅子を勧め、マチルダは戸惑いながらも椅子に座っておずおずと目の前に座るミフィーを見てる。
(まあ、その気持ちもわかるけどな)
シュリは屈託のないミフィーの心からの笑顔を見上げながらそう思う。
何しろミフィーには自分が貴族の一員だという自覚が薄い。
まあ、まだここに来て日が浅いし、人の意識ってモノはそう簡単に変わるものでもないから仕方ないとは思うけど。
そんなミフィーの貴族らしくない感じが、マチルダを戸惑わせるのだろう。
彼女は貴族に、しかもこの町の領主の一族に仕えるのだと思って緊張しながらここを訪れたはずだから。
貴族の家に来たのに、出迎えてくれたのはまるで貴族らしくない女性。
同じ使用人かと思えばそうではなく、その女性と子供こそ自分が仕えるべき相手だというのだからびっくりもするだろう。
「あ、あの、ミフィー様」
「ミフィー様はやめて、マチルダさん。人前では仕方がないかもしれないけど、私達だけの時は、様をつけないで欲しいの」
ミフィーは苦笑混じりにそう告げた。
今や彼女も、貴族としての少々の自覚は出てきてはいるようだ。
人前でのフランクな態度がマチルダの評判を落とす事になること位は分かっているらしい。
「ねえ、マチルダさん。私、あなたとお友達になりたいの。同じ年頃の子供を持つもの同士」
ミフィーは身を乗り出し、そっとマチルダの手をとった。
マチルダは、その言葉に戸惑ったようだが、ミフィーの真剣さがちゃんと伝わったのだろう。
最後にはその優しげな面に笑みを浮かべてくれた。
「わかりました。じゃあ、普段はミフィーさんって呼ばせてもらいますね。だから、ミフィーさんは私のことをマチルダと、呼び捨てでお願いします」
「え、でも」
「そこはけじめということで」
「うん。わかった。マチルダも私の希望を聞いてくれるんだから、私もそうする。マチルダ、私のお友達になってくれる?」
そんなミフィーの申し出にマチルダはちょっぴり困った顔をしたものの、最後には微笑んで頷いてくれた。
「私みたいな身分の低いものでもよろしければ喜んで」
その返事を聞いて、ミフィーの顔がぱあっと輝く。
「身分なんて関係ないわ。私だって、たまたまここに迎え入れてもらったから貴族の内に含められるけど、本当ならそんな上等な身分じゃないんだから」
ミフィーはにこっと笑ってマチルダの手を両手で握る。
「ありがとう、私と友達になってくれて。心から嬉しいわ。出来ればシュリとあなたの娘さんも仲良くなってくれるといいんだけど」
言いながら、ミフィーの目が愛おしそうにシュリを見つめた。
それからマチルダの娘を見る。
「ねぇ、マチルダ。娘さんのお名前は?」
「リアです。少し変わった子ですけど、シュリ様のお役に立てるように育てます」
「シュリにも様はいらないわ。ふうん、リアって言うのね。可愛い名前だわ。よろしくね、リア。私はミフィーよ」
身を乗り出し、ちょっと無表情だが可愛らしい顔立ちの赤ん坊のふっくらとしたほっぺを指先でつついて、ミフィーはにっこり微笑んだ。
「やっぱり女の子よね。シュリよりちょっと小さいわ」
「ふふ、そうですね。シュリ様……いえ、シュリ君は男の子だから育てるのが大変だったでしょう?男の子は大変だってよく聞きますから」
「それがそうでもなかったのよ。シュリはすごく聞き分けがいい子で。ね、シュリ」
「う!」
ミフィーが話を振ってきたので、シュリは片手を上げて元気に返事をした。
その様子をみたマチルダが目をまん丸くする。
「すごい。かしこいんですねぇ、シュリ君は」
「そう?1歳くらいってこんなものじゃないの?」
「うだ!」
シュリも、そんなもんだとばかりに声を上げると、マチルダは苦笑混じりに自分の娘を見下ろした。
「まさか。うちの子もおませさんな方ですけど、シュリ君みたいな反応はまだしませんよ?後もうちょっと大きくなれば別なんでしょうけど」
マチルダの言葉を受けて、ミフィーはまじまじと己の息子を見つめた。
そして同じように自分を見上げてくる息子のつぶらな瞳に微笑んで、
「そっかぁ。シュリはすごかったんだねぇ。母様は気が付かなかったよ。まあ、賢くてもおバカさんでも、私の愛は変わらないけどね。どんなシュリでも私の可愛い息子だもの」
愛しい息子をぎゅうぎゅう抱きしめ、その柔らかなほっぺにむちゅーっとキスをした。
シュリはやれやれと言った感じの、ちょっと赤ん坊らしくない表情を浮かべつつも、母親の好きなようにさせている。
マチルダは、そんな母子を微笑ましそうに見つめていた。
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