親友をセフレにする方法

　約束を反故にされ、さらには口早にそんなことをねだられて……もう、文句の一つでも言ってやらなきゃ気が済まない。
　イッたままでいっこうに失墜できない身体に泣きそうになりながらも、そう意気込んで大悟を見あげた。でも見あげた瞬間、不満や文句が音を成さずに喉奥で消える。

　烈しい視線だった。俺の瞳の奥、ただ一点だけを注視するその瞳は、昏くて、猛々しくて、何かに眩んでいるようだった。
　その眼差しにたじろいでる間に、力強い二の腕が俺の膝裏を掬いあげる。いまだ硬直の解けない身体を難なく二つに折りたたまれて、繋がったままのそこがさらに内圧をあげた。
「ぅ、く、まって、だいご、まだっ」
　まだイッてるのに、このままされたら……。

「ひあッ、あぁあッ！」
　大悟がぬうっと腰を引いた。いっそう狭くなった肉筒の内側を、ただでさえデカい大悟のペニスがぞろりと刮いで過ぎていく。硬直の解けない身体にそんな体感を与えられ、受容しきれない快感に甘い悲鳴が喉を突いた。

「んあっ、うごかなっ、はぅっ」
　喘ぎまじりの制止など聞く気はないらしい。眉間のしわを深くしたまま、今度は大きく腰を入れてきた。俺が騎乗位でしていたのとは比べ物にならない勢いだ。
「ァああッ！」
　尾てい骨から脳天まで、びりびりと鋭い電流が真っ直ぐに貫いていた。反射で身体が仰け反ろうとするけど、ベッドと大悟のあいだに固定されていてはそれも叶わない。


「ぅ、く。きっつ……」
　頭の上で大悟が息を詰めた。キツいとこぼすわりには、抽挿がどんどん速くなる。
「ふ、んんっ、も、むり、ぃ、」
　激しく揺さぶられながら限界を訴えてみたけど無駄だった。大悟にとまる様子は欠片もない。ねちゃぬちゃと粘度の高い水音が腰の奥からあがるたび、限界に見えたラインを強引に引きあげられた。

　息が苦しい。吸えばいいのか、吐けばいいのか。楽になる方法がわからない。
　アナルの内圧も高すぎだ。狙われてもいないのに、腹側も背骨側も同時にごりごりと内壁を削られる。その削り痕から痛みに近い快美感が延々と湧きおこる。それが背中を伝ってあちこちに伝播した。痺れた指先がじんじんと疼いて、もはや痛い。

　もう嫌だ。本当に限界だ。これ以上感じたくない。なのに、大悟が俺の脚を左右に押しひらき、その上に身を伏せてきた。

「や、も、ばかぁ」
　大悟の汗が頬に散る。好きな匂いに目がまわる。涙に滲んだ世界が律動に合わせてふにゃりと歪んだ。
「ひあ、あぁっ、ぁああんッ」
　精液まみれのペニスが押し潰された。揺さぶられるたびに、粘着音を立てながらまた硬くなっていく。すでにいっぱいいっぱいの限界をさらにもうひとつ押しあげられた。

「ゆき、なり」
　耳元で、荒れた息に乱れた低い声がした。
「ゆき」
　熱い吐息とともに、耳の奥へと吹き込まれる。
「あいしてる」

　それがトドメだった。
「ふ、ぁああッ」
　胃の底あたりから、ぶわっと何かが膨れあがる。そのまま勢いよく四肢の隅々、髪の先まで、波のように押し寄せた。
　全身が熱い。胸が苦しい。心臓が痛い。一斉に襲いくる感覚に息までとまる。

「あ、や、ぁ、は、」
　一度じゃ終わらない。次々と波が押し寄せる。それがどんどん高くなる。どれだけつらくても、もう抗えない。いまにも溺れてしまいそうだ。
　溺れないよう、浚われてしまわないよう、必死で何かにしがみつく。


　けど。
　もう、いいか。
　どうせ大悟のことだ。たとえ俺がこのまま死にかけたって、どうにかするだろ。もうどうとでも、すきにしてくれ。

　気持ちを委ねた瞬間だった。総身を浸す幾重もの波が、蕩けた生クリームのような恍惚にとってかわった。

「ふあっ、……ッッ、……」
　どこからそんな力が出たのか。大悟とベッドの狭間で、顎があがりキツく仰け反る。胸が大悟の胸を押しあげて、勝手に蹴りあがった脚が大悟の腕を振り解いた。
「くっ、ぁ、ゆきっ、」
　近いはずの大悟の声がなぜか遠い。視界も思考も一気に白く霞んでいく。カクンカクンと揺れる自分の腰に、いつの間にかドライの高波へ乗りあげていたことを知った。

　アナルの肉壁から身体中へ、確かな快感と柔い愉悦が交互に広がる。
　強い緊張と儚い弛緩。制御できない不規則なリズム。何も見えない白い世界は、いつもと同じ、俺のお気に入りだ。
　でも、いつもと少し様子が違う。脳を浸す快楽のひと波ひと波が、異様に深くて長かった。気持ちよすぎて声も出ない。

「ゆき、ゆきなり」
　耳の後ろに当てられた唇がつぶやいた。それはわかるのに、やっぱり声だけが遠かった。
　快感以外の感覚が鈍いんだ。大悟で気持ちよくなってるのに、大悟が不確かでよくわからない。それが無性に寂しくて……。

「だい、ごぉ」
　仰け反り強張る身体を宥めつつ、両手を伸ばして逞しい首に抱きついた。そのまま頬を寄せてキスをねだる。気づいた大悟に、すぐさま唇を塞がれた。
　押し込まれた舌を、進んで飲み込み吸いあげる。喉奥を舐められ、背筋が震えた。息まで奪われ、よけいに苦しくなったけど、それでも大悟の舌を求めずにはいられない。そうして大悟を実感したかった。


　もっと。
　もっと深く塞がれたい。もっと強く繋がりたい。
　ドライの高みから転げ落ちたってかまわない。
　大悟といっしょのほうがいい。

　伸ばしてた脚を大悟の腰へと引き寄せて、抱きつく腕も強くした。すかさず浮いた背中に腕をまわされ、キツくキツく抱き締められる。腹も胸もぴたりとついて、もう、少しの隙間もなくなった。
　首の後ろにも腕が潜り込み、キスがますます深くなる。舌の付け根から、じわりと唾液が溢れてきた。飲み込みきれなかった唾液が、腰の揺らぎに合わせてたらりと熱い頬を零れていく。

　きもちいい……。ドライもいいけど、俺が本当に欲しいのはこれだった。
　大悟の腕に拘束されながら、全身で大悟を感じられる、これがいい。
　ドライの高みで揺蕩いながらうっとりと満悦に身を浸していると、ゆるゆると硬直が解けてきた。あまりにも長く硬直していたせいか、下腹部がびくびくと引き攣り始めてる。

「……っ、ゆき、ごめんッ」
　唇の隙間から聞こえたそれが合図だった。
　下腹の痙攣を掻き消すように、大悟が大きく強く腰を送り込んでくる。そのせいで、せっかくくっついていられた互いの身体に隙間ができた。

　ドライオーガズムで痺れた身体を鋭い快感が駆け抜ける。それをまた大悟の腰が蹴散らすから、身体の隅々でも小さな快感がぱちぱちと弾けた。

　気持ちよく痺れた四肢には、碌に力が入らない。それでも大悟に絡めて、なんとか振り落とされないようしがみつく。がつがつと奥を突かれる衝撃に、まだ知らなかった最奥を教えられた。


　ふいに、アナルの内圧がぐぐっとあがった。俺が締めつけてるわけじゃない。大悟のペニスが大きくなったんだ。
　大悟がイク。そう思ったら、鼓動が急に忙しなくなった。ついで、身体の真ん中から込みあげてきた熱い塊が胸を詰まらせる。

「っ、だいご、だいごぉ」
　身体も心も、もう限界だった。いっぱいいっぱいで、ぎりぎりで、いまにも溢れ出しそうだ。
「すき、だいごが、すきだ……」
　膨れあがった熱い塊を、気持ちのままに口にした。そのときだった。

「ゆきッ」
「うあッ、あ、ああぁぁっっ！！」
　強くて深い一突きを食らった。