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3巻
3-3
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「ここは人の世界ではない。竜は強さが全て。そしてお前達二人はこの中で一番弱い。ゆえに誰も言う事など聞かん」
「そうですわね。エサの意見など聞く必要はありませんわ」
「食べないでいるうちに帰れ」
「虫けらは黙れ」
「虫けらが信仰する虫けら神など、誰も信仰しない」
ああ、駄目だ……青龍の加護もそうだが、イービルの加護が暴れ始めた。自分で感情を制御できないなんて、これは加護というより呪いじゃないか?
ハービアの時もそうだったが〝あだなす者を殺せ〟〝凶神を馬鹿にした者を許すな〟と、頭がそれしか考えられなくなる。
「……爬虫類の親玉風情がよく言う。俺の事は良い。だが、偉大なるイービル様を侮辱するなど許せないな」
「ならばどうする?」
竜王の問いには答えず、俺は青龍に詫びる。
「青龍、すまない。勝てるかどうかわからないが、俺はここで戦う事にする。もしかしたら、俺はお前の大切な仲間を殺すかもしれないが、許してほしい」
「待て、死ぬだけだ……」
「そうかもしれない。だが俺は、イービル様の加護持ちだから、イービル様を馬鹿にしたあいつらに対しての行動を自分で制御できない。それにこのままイービル様を信仰しない選択をすれば、いずれにせよイービル様による竜種虐殺が行われる可能性が高い。なら俺が戦って勝つ事で話が済めば、それに越した事はない」
「そうか……わかった。確かにイービルなら、竜種が従わないと知った瞬間そうするな。絶望的だが、俺はお前が勝つのを信じるしかないという事か」
「青龍もその虫けらも何を話している」
竜王がいら立ったように口を挟んできた。もうやつに敬意を払う必要はないな。
「トカゲの諸君、君達の中で一番強いのは誰だ? そいつと俺が戦う! 竜は力が全てなのだろう?」
俺がそう呼びかけると、八大竜公の七人の中から黒い甲冑の男が前に出てきた。
「俺の名前は黒龍。八大竜公のトップだ。この中で一番強いのは俺だが……」
いや、やはり八大竜公じゃ駄目だな。俺はそう思い直して、勝手に指名する。
「俺が戦うのは、そこの老いぼれだな。それが手っ取り早い」
俺は竜王を指さした。
「もっとも、老いぼれすぎてそこの黒龍の方が強いと言うなら、黒龍とやるけど?」
「貴様、言うに事欠いて竜王様だと! ふざけるな」
黒龍が憤りをあらわにするが、俺は無視する。
竜王がゆっくりと口を開く。
「余と戦うと、そう言うのだな。余は竜王、いかなる相手にも背を向けぬ。だが、竜王相手に戦うという事は、お互いに命を懸けるしかない。ルールは無用、命乞いもなしの殺し合いだが、良いのかな?」
「それで良い……トカゲ王」
ああ、俺は何を言ってるんだ……神様からほいほい加護を受け取った過去の自分がうらめしい。
「お前の勇気だけは認めてやろう……そして死ね」
竜王は怒気をはらんだ声で言った。
その後、俺達は洞窟内部にあるコロシアムに移動した。
「それでは剣と鎧を預かります」
竜王の従者と思しき竜にそう言われた。まさか、竜王相手に丸腰でやれと言うのか?
「竜は素手ですよ? それなのにあなたは武器を使うのですか?」
確かに言われてみればそうだ。それにここは竜の国……従うしかない。
「そうだな。ほら、頼んだ」
「確かに受け取りました。しかし、剣や武器を持ってない人間など、竜にとってはエサにしかすぎないのによくやりますね」
「それならエサらしく頑張るさ」
「死にますよ」
「そうかもな」
コロシアムの中心に行くと竜王が待っていた。
しかも、すでに本来の竜の姿に戻っている。その体は巨大すぎて、まるで山のように見えた。
竜化した青龍ですらこの半分の大きさもない。確かにこれに比べたら、俺は虫けらに見えるかもな。
「お前が馬鹿にした竜王の姿だ。余を馬鹿にしたお前には、竜の力を存分に思い知らせてやる」
「そうか……」
この山みたいな存在とどう戦うか。俺の頭はただそれだけを考えていた。
「せめてものハンデだ。先に攻撃してくるが良い」
こいつに通用するとすれば、対ズーマ用に考えていた技くらいか……
くそ、どうにでもなれ!
「天凶竜カルテット!」
俺はエンジェリックフェザーで空に舞い上がった。これはズーマと戦った時に無意識に発動した天界の天使が使う技。今回も方法はわからないのに、なぜか体が勝手に動き魔法を発動させる。
「貴様……人間じゃないのか? まさかその姿は……」
俺は竜王の呟きを無視して魔法の翼で天高く舞い上がると、光の針を撃ち出す魔法、フェザーニードルを放った。これも俺が覚えている魔法ではない。
「うぎゃぁぁぁぁぁーーーーっ! 痛ぇーーーーーぞーーーーーーーーーーーーー!」
フェザーニードルは、竜王の体を貫通した。
そのまま、俺は右足に竜の力を宿らせ、左足に凶神の力を纏わせる。こちらも青龍とイービルの加護が暴走し、勝手に発動している。
俺が使える加護の合成技――これが天凶竜カルテットだ。ハービアの加護による天使の技、青龍の加護による竜の技、イービルの加護による凶神の技を合わせた攻撃だが、どれも俺が意識的に使えるものではなく、加護の暴走に頼っている。
もしズーマがまた天界に寝返った時は、俺は意図的に加護の贈り主を馬鹿にするよう仕向け、俺の中に沸く怒りをもって加護を同時に暴走させ、この技を叩き込むつもりだった。
意識してできるものではないがゆえに成功率は低そうだったが、なんとか決まったみたいだ。
俺は、竜と凶神の力が宿った両足蹴りを竜王の頭にぶち込もうとする。
竜王とはいえ、もし当たればダメージは大きいはず。
だがその時、俺の右目が急に輝き出した。それと同時に俺は、とてつもない力が体に宿ったように感じる。
輝く俺の右目が、竜王の弱点――頭の薄い部分を見抜いた。イービルからもらったイービルアイの効果だろうか?
そのまま吸い込まれるようにそこに蹴りが入り、俺の体が竜王の頭を貫通する。
気付くと、竜王が俺の目の前で倒れていた。
当たり前だ。いかに竜王といえど、頭を貫通したらそうなる。
嘘だろう……ここまでの威力は想定していなかった。
戦いの様子を見ていた黒龍をはじめとする八大竜公が慌てて駆け寄ってきた。
「死んでいる……」
黒龍の呟きを聞き、これはまずい事になったのかもしれないと、今さらながらに怖くなってきた。
呆然としていた俺だったが、しばらくして体に物凄い痛みを感じる。まるで体が溶けているような感覚だ。竜王の血肉には毒があったのかもしれない。
激しくなる痛みに耐えられなくなった俺は、そのまま意識を失った。
しばらくして目を覚ますと、俺は見知らぬベッドに横たわっていた。
「俺はいったい……」
そこで記憶が蘇る。そうだ、俺は竜王を殺してしまった。
この国の王を殺してしまったのだ。
その時、すぐ横から声をかけられる。
「目を覚ましたか?」
「せ、青龍……俺はこれからどうなるんだ? 竜王様を殺してしまったとなれば、大変な事になるんじゃ……」
「ああ、お前が竜王様を殺したおかげで、大変な事になっているよ。ケイン様!」
ケイン様? なぜ青龍が俺に様付けするんだ?
それに大変な事になっていると言う割には、なぜか表情が明るい気が……
「おい、何がどうなっている?」
俺が尋ねると、青龍は答える。
「竜は強い者が正しい。竜王が死んだという事は、あいつはお前よりも弱かった。ただ、それだけだ。だから気にするな。だが、お前は何者だ? 天使の翼に凶神の力、それに俺が加護を与えたからか知らんが、竜の力まで……」
「俺はただの人間……のはずだ」
「はあ、まぁ良い。ケイン様、ちょっと王の間まで来てくれないか?」
青龍はそう言って、立ち上がった。
そういえば、俺はなんで倒れたんだ? あの時は死ぬほど痛かったはずなのに、今はもう治まっている。むしろ前より気分が良い。
俺は疑問に思いながらも、青龍について部屋を出た。
王の間に到着し、俺は青龍に続いて中に入る。
すると――
「ケイン様、お体は大丈夫か?」
は……? りゅ、竜王……?
「おかしい……お前は死んだはずじゃないか?」
「確かに余は死んだ。しかしケイン様は知らないだろうが、高位の竜は複数の命を持っているのだ。余の場合は八つ。まだ残り七つある」
高位竜、凄いな……複数の命とかチートすぎるだろ。とにかく重大な問題にならなそうで助かった。
「それは良かった。ただ、ルールはルール。これでイービル様を信仰してもらえるな」
「それがあなた様の望みなら喜んで。余に勝利した竜なのだからな」
竜? 俺がか? というか、いつの間にか竜王まで青龍と同じように様付けになっているんだが……俺は嫌な予感がした。
「ケイン様、どうした? 何惚けているんだ? 竜の力を使ったんだ、お前は竜だろう?」
「俺は人間だ。あの技が使えたのは、青龍の加護のおかげだよ。青龍以外にも天使長、魔神、凶神……複数の加護をもらったから勝てたんだ」
「ケイン様、お前は何者なんだ? 普通に考えれば、一人の人間にそれほどの加護を与えたら肉体が耐えられずに死ぬはずだ」
「余も精々が二つまでしか知らんな」
「そもそも、魔神の力は闇、神や天使は光……相容れないものだ」
青龍、竜王、黒龍がそれぞれ言った。
彼らの言う事が本当なのだとしたら、一体俺の体は今どうなっているんだ?
俺は他にも気になった事を尋ねる。
「竜王様を倒した直後、体が溶けるような感覚に襲われたんだが、これはそのせいなのか」
「余は毒竜ではなく、誇り高き古代竜。さらに細かく分類するならハイシェントドラゴンだ。その血には加護こそあれ、毒などない」
「加護?」
「余の血を浴びたものは、不老不死になるという伝説がある……眉唾だがな」
「精々が数千年生きて、マグマに落ちても死ななくなる程度です。すでにケイン様もそのくらいの能力はありそうですが」
えーと、たぶん俺はそこまでの存在じゃないと思うが、まあいい。今は置いておこう。
それじゃなぜ俺は倒れ、あの焼けつくような感覚に襲われたのだろう。
「もし、気になるなら我らの秘宝〝ドラーの鏡〟で見たらどうだ?」
「ドラーの鏡?」
俺が聞き返すと、青龍が説明する。
「ケイン様、人間の鑑定を超える能力を持つ鏡だ。対象を映せば、かなり詳細な分析ができる。使えば何かわかるかもしれないぞ」
「それはぜひ使いたいが、良いのか?」
「ああ、構わない。余に勝ったんだ、誰も文句なんて言わない」
竜王はそう言って、一度王の間を出ると、大きな鏡を持って戻ってきた。
そして、その鏡を俺の方に向ける。
鏡に俺の姿が映し出され、同時に鏡に映った俺の近くにステータスが表示された。
だがところどころ虫食いのようになっていて、見えない。
種族:竜神 超越神 中級神
人でありながら、人の枠を超えて神になった者。神、天使、魔族、竜の力を持つ。
武※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
魔※※※※※
この個体は※※※※※に縁があり、※※※※において、神の中でも最高の※※※の能力を持つ。
この個体は複数の神や天使から加護をもらい、当人の努力で神に至った存在。
「ケイン様……お前、竜神だったのか?」
青龍が呆然とした様子で呟くと、竜王が唐突に大声を上げる。
「無礼者、青龍! 頭が高いわぁー! ケイン様、数々のご無礼をお許しください。まさかあなたが竜神様とは知りませんでした。通りでお強いはず。この竜王、これからは誠心誠意仕えさせていただきます」
竜王がいきなりひれ伏してしまった。
俺が竜神……いや、そんなわけはない。ただ、ここで何を言っても仕方がない気がするので、俺はとりあえずの用件だけ伝える。
「ひとまず、竜族が信仰する神はあくまで凶神イービル様という事でお願いします」
「わかりました。竜神であるあなた様が信じる神イービル様……必ずや竜の隅々まで信仰させましょう」
イービルを信仰してくれるようだし、もうこれでいいや。
竜神については帰ってからハービアに相談してみよう。何かわかるかもしれない。
とりあえず俺が竜神だという事はここだけの話にして、俺のパーティメンバーや竜王達の竜種の仲間には黙っておいてもらう事にした。
そう伝えると竜王は頷いた後、尋ねてくる。
「ケイン様はこの後、竜の国でバカンスを過ごされるのですよね。青龍をつけますのでなんなりとお申しつけください。支払いは国費で賄います」
これで、久しぶりにゆっくりできるな。
しばらくは絶対に働かない。俺はそう決意した。
その後、俺は仲間達が案内された迎賓館の豪華な一室で寛いでいた。パーティメンバー達はまだ出かけていて、今は俺一人だ。
疲れたしひと眠りするか……俺がそう思った時、いきなり俺の近くが光り出した。
光が収まると、そこからイービルとエルザが現れた。
凶神はこんな事もできるのか。
俺は慌てて跪こうとした。
「膝なんてつかなくて良いよ? 君はこの国の副神みたいなものでしょ。まずはケイン、神の世界にようこそ」
「知ってらしたのですか?」
「神になりたてだからかわからないけど、君は神の気を流しっぱなしにしてるんだよ。それにしても竜神か……良かったね」
「あの、竜神だと何か良い事があるのですか?」
「大ありだよ。邪神や魔神系の神になったら、君は僕やズーマと本格的に敵対する事になる。逆に創造神や女神側の神になったら邪神の敵だから、君が仲のいい魔王や魔王子に嫌われる。そう考えたら、中立の竜神は君にとって都合が良いんじゃないかな?」
「確かについていますね」
「しかし、君はいつも本当に僕の欲しいものをくれるね。凶神だったせいで今まで全く信者がいなかったのに、一日で国ごと信仰してもらえるなんて……あ、そうだ。竜の国には僕がいるから、ケインはこれからも今まで通りに自由にして良いからね」
「ありがとうございます」
イービル様は〝じゃあ〟と言って、部屋を出ていった。これから竜王達と今後の事について話し合うのだろう。
後の事はイービル様に任せて、俺は仲間とバカンスを楽しもう。
「ケイン」
それからまたしばらくゆっくりしていると、ケイトが戻ってきた。
いつの間にかTシャツみたいなラフな服に短パン、草履を履いており、なぜか真っ黒に日焼けしている。
「ケイト、お前俺が苦労している時に何をしていたんだ?」
「もちろん、魚釣りさぁ。ここは凄く面白いんだ。二メートル以上の魚が普通に釣れるんだよ」
二メートル? 竜の国は海に面しておらず湖しかないのに、そんな魚が釣れるとは凄いな。
「他のメンバーは何をしているんだ?」
「シエスタは料理をしているけど、他の皆は観光と買い物に行っているよ。それよりケインも僕と魚釣り行かない?」
せっかくのお誘いだが、今日はやめておこう。
「俺は疲れているから、すまんが今日はケイト一人で行ってくれ」
「ケイン、なんだか僕のお父さんみたいだね? まだ若いのに」
「あのなぁ、俺は今まで仕事していたんだよ。ケイトみたいに遊んでいたんじゃないんだ」
「あはははっ。ごめん! わかった、今日は僕一人で行ってくるよ」
そう言ってケイトはまた外に走り出ていった。久々にケイトの素を見た気がするな。
彼女は言ってしまえば、残念なボッチだ。昔から、なぜか一人でいる事が多い。
明るいし面白いやつだから人気者なのだが、気が付くといつも一人なのだ。
まぁ、一人を楽しめる性格だから、別に問題はないんだけどな。
しかし、本当に釣りが好きだな。たぶん、飽きたら次は虫取りに行くんだろうけど……
夏休みの小学生みたいな感じだ。
少しして、青龍が部屋に入ってきた。
「青龍、ここは迎賓館だよな? さっきケイトに聞いたんだが、なんでシエスタが料理しているんだ」
「俺にもわからない。ちゃんと給仕役の使用人はいるぞ」
青龍は理由を知らないみたいだし、確かめに行くか。
俺は青龍に案内してもらって調理場に向かった。
調理場には他のメイドさんに交じって、鍋をかき回しているシエスタがいた。
「シエスタ、いったい何をしているんだ?」
「ケイン様、もちろん料理です」
「いや、そういう意味じゃなくて……ここにだって使用人やメイドがいるのに、なんでシエスタが料理をしているのかな? って聞いたんだ」
「あっ! そういう意味ですか。だって竜種の皆さんはお肉ばかり食べているのですよ。毎日、塩か胡椒を振った肉なんです。それじゃいけないと思って、栄養バランスを考えてわたしが作っているんですよ」
「ケイン様、竜は基本肉食が多いんだ。俺は調査のために人の世界に行く事が多いから、そこまで偏らないが、竜の国を出ない竜は、肉ばかり食べている。その代わり肉の味には結構うるさいけどな」
青龍が解説してくれた。確かに草を食べている竜なんてシュールで想像できないけど、肉ばかりは飽きそうだ。
「あの、ケイン様、なんで青龍様がケイン様を様付けで呼んでいるのでしょうか?」
おっと、まずい。シエスタに俺が竜神になった事がバレる前に、言い訳をしておかなくては。
「俺達を国賓として扱うために、様をつけているそうだ」
俺はあらかじめ用意していた言葉を口にした。
「そうなんですね」
「そうそう。だから、あんまり気にするな。それより、シエスタ。今はバカンスだからシエスタもメイドの仕事を休んで、ゆっくりしてもらいたいんだ」
シエスタは頷いた。
「そういう事なら、わかりました。それじゃここからはゆっくりさせていただきます。ケイン様はこれからどうするんですか?」
「まだ、決めてないな」
「それならわたしとお出かけしませんか?」
そうだな、ケイトと違ってシエスタも今日まで仕事していたみたいだから、労いの意味を込めて付き合ってあげるか。
「そうするか」
俺がそう答えると、シエスタは嬉しそうな表情を浮かべる。
「シエスタはどこか行きたい場所はあるのか」
「せっかくなのでわたしは、この国のレストランに行ってみたいです」
シエスタの言葉を聞いて、青龍が胸をどんと叩く。
「それなら、任せておけ。俺が超一流のレストランに連れていってやる」
青龍は自信満々だ。俺はシエスタに尋ねる。
「シエスタ、それで良いか」
「ぜひお願いします。はい、それじゃ皆さん、後は教えた通りにすれば大丈夫ですから」
シエスタがそう言うと、調理場で働くメイド達は頷いていた。
「シエスタが教えていたのか?」
俺の質問に、シエスタは少し恥ずかしそうに頷いたのだった。
その後、青龍が言う超一流のレストランに行ってみて、シエスタの言葉の意味が初めてわかった。
「肉料理、それも生肉かステーキしかない……」
「高級レストランでも同じだとは思いませんでした」
俺とシエスタがそう呟くと、青龍が得意げに言う。
「肉以上の高級な食べ物はないだろう?」
確かに素晴らしいくらいに美味しい……だが、こればかり食べていたら、すぐに胃がもたれてしまう。竜の国に滞在中はシエスタに作ってもらおう。
「そうですわね。エサの意見など聞く必要はありませんわ」
「食べないでいるうちに帰れ」
「虫けらは黙れ」
「虫けらが信仰する虫けら神など、誰も信仰しない」
ああ、駄目だ……青龍の加護もそうだが、イービルの加護が暴れ始めた。自分で感情を制御できないなんて、これは加護というより呪いじゃないか?
ハービアの時もそうだったが〝あだなす者を殺せ〟〝凶神を馬鹿にした者を許すな〟と、頭がそれしか考えられなくなる。
「……爬虫類の親玉風情がよく言う。俺の事は良い。だが、偉大なるイービル様を侮辱するなど許せないな」
「ならばどうする?」
竜王の問いには答えず、俺は青龍に詫びる。
「青龍、すまない。勝てるかどうかわからないが、俺はここで戦う事にする。もしかしたら、俺はお前の大切な仲間を殺すかもしれないが、許してほしい」
「待て、死ぬだけだ……」
「そうかもしれない。だが俺は、イービル様の加護持ちだから、イービル様を馬鹿にしたあいつらに対しての行動を自分で制御できない。それにこのままイービル様を信仰しない選択をすれば、いずれにせよイービル様による竜種虐殺が行われる可能性が高い。なら俺が戦って勝つ事で話が済めば、それに越した事はない」
「そうか……わかった。確かにイービルなら、竜種が従わないと知った瞬間そうするな。絶望的だが、俺はお前が勝つのを信じるしかないという事か」
「青龍もその虫けらも何を話している」
竜王がいら立ったように口を挟んできた。もうやつに敬意を払う必要はないな。
「トカゲの諸君、君達の中で一番強いのは誰だ? そいつと俺が戦う! 竜は力が全てなのだろう?」
俺がそう呼びかけると、八大竜公の七人の中から黒い甲冑の男が前に出てきた。
「俺の名前は黒龍。八大竜公のトップだ。この中で一番強いのは俺だが……」
いや、やはり八大竜公じゃ駄目だな。俺はそう思い直して、勝手に指名する。
「俺が戦うのは、そこの老いぼれだな。それが手っ取り早い」
俺は竜王を指さした。
「もっとも、老いぼれすぎてそこの黒龍の方が強いと言うなら、黒龍とやるけど?」
「貴様、言うに事欠いて竜王様だと! ふざけるな」
黒龍が憤りをあらわにするが、俺は無視する。
竜王がゆっくりと口を開く。
「余と戦うと、そう言うのだな。余は竜王、いかなる相手にも背を向けぬ。だが、竜王相手に戦うという事は、お互いに命を懸けるしかない。ルールは無用、命乞いもなしの殺し合いだが、良いのかな?」
「それで良い……トカゲ王」
ああ、俺は何を言ってるんだ……神様からほいほい加護を受け取った過去の自分がうらめしい。
「お前の勇気だけは認めてやろう……そして死ね」
竜王は怒気をはらんだ声で言った。
その後、俺達は洞窟内部にあるコロシアムに移動した。
「それでは剣と鎧を預かります」
竜王の従者と思しき竜にそう言われた。まさか、竜王相手に丸腰でやれと言うのか?
「竜は素手ですよ? それなのにあなたは武器を使うのですか?」
確かに言われてみればそうだ。それにここは竜の国……従うしかない。
「そうだな。ほら、頼んだ」
「確かに受け取りました。しかし、剣や武器を持ってない人間など、竜にとってはエサにしかすぎないのによくやりますね」
「それならエサらしく頑張るさ」
「死にますよ」
「そうかもな」
コロシアムの中心に行くと竜王が待っていた。
しかも、すでに本来の竜の姿に戻っている。その体は巨大すぎて、まるで山のように見えた。
竜化した青龍ですらこの半分の大きさもない。確かにこれに比べたら、俺は虫けらに見えるかもな。
「お前が馬鹿にした竜王の姿だ。余を馬鹿にしたお前には、竜の力を存分に思い知らせてやる」
「そうか……」
この山みたいな存在とどう戦うか。俺の頭はただそれだけを考えていた。
「せめてものハンデだ。先に攻撃してくるが良い」
こいつに通用するとすれば、対ズーマ用に考えていた技くらいか……
くそ、どうにでもなれ!
「天凶竜カルテット!」
俺はエンジェリックフェザーで空に舞い上がった。これはズーマと戦った時に無意識に発動した天界の天使が使う技。今回も方法はわからないのに、なぜか体が勝手に動き魔法を発動させる。
「貴様……人間じゃないのか? まさかその姿は……」
俺は竜王の呟きを無視して魔法の翼で天高く舞い上がると、光の針を撃ち出す魔法、フェザーニードルを放った。これも俺が覚えている魔法ではない。
「うぎゃぁぁぁぁぁーーーーっ! 痛ぇーーーーーぞーーーーーーーーーーーーー!」
フェザーニードルは、竜王の体を貫通した。
そのまま、俺は右足に竜の力を宿らせ、左足に凶神の力を纏わせる。こちらも青龍とイービルの加護が暴走し、勝手に発動している。
俺が使える加護の合成技――これが天凶竜カルテットだ。ハービアの加護による天使の技、青龍の加護による竜の技、イービルの加護による凶神の技を合わせた攻撃だが、どれも俺が意識的に使えるものではなく、加護の暴走に頼っている。
もしズーマがまた天界に寝返った時は、俺は意図的に加護の贈り主を馬鹿にするよう仕向け、俺の中に沸く怒りをもって加護を同時に暴走させ、この技を叩き込むつもりだった。
意識してできるものではないがゆえに成功率は低そうだったが、なんとか決まったみたいだ。
俺は、竜と凶神の力が宿った両足蹴りを竜王の頭にぶち込もうとする。
竜王とはいえ、もし当たればダメージは大きいはず。
だがその時、俺の右目が急に輝き出した。それと同時に俺は、とてつもない力が体に宿ったように感じる。
輝く俺の右目が、竜王の弱点――頭の薄い部分を見抜いた。イービルからもらったイービルアイの効果だろうか?
そのまま吸い込まれるようにそこに蹴りが入り、俺の体が竜王の頭を貫通する。
気付くと、竜王が俺の目の前で倒れていた。
当たり前だ。いかに竜王といえど、頭を貫通したらそうなる。
嘘だろう……ここまでの威力は想定していなかった。
戦いの様子を見ていた黒龍をはじめとする八大竜公が慌てて駆け寄ってきた。
「死んでいる……」
黒龍の呟きを聞き、これはまずい事になったのかもしれないと、今さらながらに怖くなってきた。
呆然としていた俺だったが、しばらくして体に物凄い痛みを感じる。まるで体が溶けているような感覚だ。竜王の血肉には毒があったのかもしれない。
激しくなる痛みに耐えられなくなった俺は、そのまま意識を失った。
しばらくして目を覚ますと、俺は見知らぬベッドに横たわっていた。
「俺はいったい……」
そこで記憶が蘇る。そうだ、俺は竜王を殺してしまった。
この国の王を殺してしまったのだ。
その時、すぐ横から声をかけられる。
「目を覚ましたか?」
「せ、青龍……俺はこれからどうなるんだ? 竜王様を殺してしまったとなれば、大変な事になるんじゃ……」
「ああ、お前が竜王様を殺したおかげで、大変な事になっているよ。ケイン様!」
ケイン様? なぜ青龍が俺に様付けするんだ?
それに大変な事になっていると言う割には、なぜか表情が明るい気が……
「おい、何がどうなっている?」
俺が尋ねると、青龍は答える。
「竜は強い者が正しい。竜王が死んだという事は、あいつはお前よりも弱かった。ただ、それだけだ。だから気にするな。だが、お前は何者だ? 天使の翼に凶神の力、それに俺が加護を与えたからか知らんが、竜の力まで……」
「俺はただの人間……のはずだ」
「はあ、まぁ良い。ケイン様、ちょっと王の間まで来てくれないか?」
青龍はそう言って、立ち上がった。
そういえば、俺はなんで倒れたんだ? あの時は死ぬほど痛かったはずなのに、今はもう治まっている。むしろ前より気分が良い。
俺は疑問に思いながらも、青龍について部屋を出た。
王の間に到着し、俺は青龍に続いて中に入る。
すると――
「ケイン様、お体は大丈夫か?」
は……? りゅ、竜王……?
「おかしい……お前は死んだはずじゃないか?」
「確かに余は死んだ。しかしケイン様は知らないだろうが、高位の竜は複数の命を持っているのだ。余の場合は八つ。まだ残り七つある」
高位竜、凄いな……複数の命とかチートすぎるだろ。とにかく重大な問題にならなそうで助かった。
「それは良かった。ただ、ルールはルール。これでイービル様を信仰してもらえるな」
「それがあなた様の望みなら喜んで。余に勝利した竜なのだからな」
竜? 俺がか? というか、いつの間にか竜王まで青龍と同じように様付けになっているんだが……俺は嫌な予感がした。
「ケイン様、どうした? 何惚けているんだ? 竜の力を使ったんだ、お前は竜だろう?」
「俺は人間だ。あの技が使えたのは、青龍の加護のおかげだよ。青龍以外にも天使長、魔神、凶神……複数の加護をもらったから勝てたんだ」
「ケイン様、お前は何者なんだ? 普通に考えれば、一人の人間にそれほどの加護を与えたら肉体が耐えられずに死ぬはずだ」
「余も精々が二つまでしか知らんな」
「そもそも、魔神の力は闇、神や天使は光……相容れないものだ」
青龍、竜王、黒龍がそれぞれ言った。
彼らの言う事が本当なのだとしたら、一体俺の体は今どうなっているんだ?
俺は他にも気になった事を尋ねる。
「竜王様を倒した直後、体が溶けるような感覚に襲われたんだが、これはそのせいなのか」
「余は毒竜ではなく、誇り高き古代竜。さらに細かく分類するならハイシェントドラゴンだ。その血には加護こそあれ、毒などない」
「加護?」
「余の血を浴びたものは、不老不死になるという伝説がある……眉唾だがな」
「精々が数千年生きて、マグマに落ちても死ななくなる程度です。すでにケイン様もそのくらいの能力はありそうですが」
えーと、たぶん俺はそこまでの存在じゃないと思うが、まあいい。今は置いておこう。
それじゃなぜ俺は倒れ、あの焼けつくような感覚に襲われたのだろう。
「もし、気になるなら我らの秘宝〝ドラーの鏡〟で見たらどうだ?」
「ドラーの鏡?」
俺が聞き返すと、青龍が説明する。
「ケイン様、人間の鑑定を超える能力を持つ鏡だ。対象を映せば、かなり詳細な分析ができる。使えば何かわかるかもしれないぞ」
「それはぜひ使いたいが、良いのか?」
「ああ、構わない。余に勝ったんだ、誰も文句なんて言わない」
竜王はそう言って、一度王の間を出ると、大きな鏡を持って戻ってきた。
そして、その鏡を俺の方に向ける。
鏡に俺の姿が映し出され、同時に鏡に映った俺の近くにステータスが表示された。
だがところどころ虫食いのようになっていて、見えない。
種族:竜神 超越神 中級神
人でありながら、人の枠を超えて神になった者。神、天使、魔族、竜の力を持つ。
武※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
魔※※※※※
この個体は※※※※※に縁があり、※※※※において、神の中でも最高の※※※の能力を持つ。
この個体は複数の神や天使から加護をもらい、当人の努力で神に至った存在。
「ケイン様……お前、竜神だったのか?」
青龍が呆然とした様子で呟くと、竜王が唐突に大声を上げる。
「無礼者、青龍! 頭が高いわぁー! ケイン様、数々のご無礼をお許しください。まさかあなたが竜神様とは知りませんでした。通りでお強いはず。この竜王、これからは誠心誠意仕えさせていただきます」
竜王がいきなりひれ伏してしまった。
俺が竜神……いや、そんなわけはない。ただ、ここで何を言っても仕方がない気がするので、俺はとりあえずの用件だけ伝える。
「ひとまず、竜族が信仰する神はあくまで凶神イービル様という事でお願いします」
「わかりました。竜神であるあなた様が信じる神イービル様……必ずや竜の隅々まで信仰させましょう」
イービルを信仰してくれるようだし、もうこれでいいや。
竜神については帰ってからハービアに相談してみよう。何かわかるかもしれない。
とりあえず俺が竜神だという事はここだけの話にして、俺のパーティメンバーや竜王達の竜種の仲間には黙っておいてもらう事にした。
そう伝えると竜王は頷いた後、尋ねてくる。
「ケイン様はこの後、竜の国でバカンスを過ごされるのですよね。青龍をつけますのでなんなりとお申しつけください。支払いは国費で賄います」
これで、久しぶりにゆっくりできるな。
しばらくは絶対に働かない。俺はそう決意した。
その後、俺は仲間達が案内された迎賓館の豪華な一室で寛いでいた。パーティメンバー達はまだ出かけていて、今は俺一人だ。
疲れたしひと眠りするか……俺がそう思った時、いきなり俺の近くが光り出した。
光が収まると、そこからイービルとエルザが現れた。
凶神はこんな事もできるのか。
俺は慌てて跪こうとした。
「膝なんてつかなくて良いよ? 君はこの国の副神みたいなものでしょ。まずはケイン、神の世界にようこそ」
「知ってらしたのですか?」
「神になりたてだからかわからないけど、君は神の気を流しっぱなしにしてるんだよ。それにしても竜神か……良かったね」
「あの、竜神だと何か良い事があるのですか?」
「大ありだよ。邪神や魔神系の神になったら、君は僕やズーマと本格的に敵対する事になる。逆に創造神や女神側の神になったら邪神の敵だから、君が仲のいい魔王や魔王子に嫌われる。そう考えたら、中立の竜神は君にとって都合が良いんじゃないかな?」
「確かについていますね」
「しかし、君はいつも本当に僕の欲しいものをくれるね。凶神だったせいで今まで全く信者がいなかったのに、一日で国ごと信仰してもらえるなんて……あ、そうだ。竜の国には僕がいるから、ケインはこれからも今まで通りに自由にして良いからね」
「ありがとうございます」
イービル様は〝じゃあ〟と言って、部屋を出ていった。これから竜王達と今後の事について話し合うのだろう。
後の事はイービル様に任せて、俺は仲間とバカンスを楽しもう。
「ケイン」
それからまたしばらくゆっくりしていると、ケイトが戻ってきた。
いつの間にかTシャツみたいなラフな服に短パン、草履を履いており、なぜか真っ黒に日焼けしている。
「ケイト、お前俺が苦労している時に何をしていたんだ?」
「もちろん、魚釣りさぁ。ここは凄く面白いんだ。二メートル以上の魚が普通に釣れるんだよ」
二メートル? 竜の国は海に面しておらず湖しかないのに、そんな魚が釣れるとは凄いな。
「他のメンバーは何をしているんだ?」
「シエスタは料理をしているけど、他の皆は観光と買い物に行っているよ。それよりケインも僕と魚釣り行かない?」
せっかくのお誘いだが、今日はやめておこう。
「俺は疲れているから、すまんが今日はケイト一人で行ってくれ」
「ケイン、なんだか僕のお父さんみたいだね? まだ若いのに」
「あのなぁ、俺は今まで仕事していたんだよ。ケイトみたいに遊んでいたんじゃないんだ」
「あはははっ。ごめん! わかった、今日は僕一人で行ってくるよ」
そう言ってケイトはまた外に走り出ていった。久々にケイトの素を見た気がするな。
彼女は言ってしまえば、残念なボッチだ。昔から、なぜか一人でいる事が多い。
明るいし面白いやつだから人気者なのだが、気が付くといつも一人なのだ。
まぁ、一人を楽しめる性格だから、別に問題はないんだけどな。
しかし、本当に釣りが好きだな。たぶん、飽きたら次は虫取りに行くんだろうけど……
夏休みの小学生みたいな感じだ。
少しして、青龍が部屋に入ってきた。
「青龍、ここは迎賓館だよな? さっきケイトに聞いたんだが、なんでシエスタが料理しているんだ」
「俺にもわからない。ちゃんと給仕役の使用人はいるぞ」
青龍は理由を知らないみたいだし、確かめに行くか。
俺は青龍に案内してもらって調理場に向かった。
調理場には他のメイドさんに交じって、鍋をかき回しているシエスタがいた。
「シエスタ、いったい何をしているんだ?」
「ケイン様、もちろん料理です」
「いや、そういう意味じゃなくて……ここにだって使用人やメイドがいるのに、なんでシエスタが料理をしているのかな? って聞いたんだ」
「あっ! そういう意味ですか。だって竜種の皆さんはお肉ばかり食べているのですよ。毎日、塩か胡椒を振った肉なんです。それじゃいけないと思って、栄養バランスを考えてわたしが作っているんですよ」
「ケイン様、竜は基本肉食が多いんだ。俺は調査のために人の世界に行く事が多いから、そこまで偏らないが、竜の国を出ない竜は、肉ばかり食べている。その代わり肉の味には結構うるさいけどな」
青龍が解説してくれた。確かに草を食べている竜なんてシュールで想像できないけど、肉ばかりは飽きそうだ。
「あの、ケイン様、なんで青龍様がケイン様を様付けで呼んでいるのでしょうか?」
おっと、まずい。シエスタに俺が竜神になった事がバレる前に、言い訳をしておかなくては。
「俺達を国賓として扱うために、様をつけているそうだ」
俺はあらかじめ用意していた言葉を口にした。
「そうなんですね」
「そうそう。だから、あんまり気にするな。それより、シエスタ。今はバカンスだからシエスタもメイドの仕事を休んで、ゆっくりしてもらいたいんだ」
シエスタは頷いた。
「そういう事なら、わかりました。それじゃここからはゆっくりさせていただきます。ケイン様はこれからどうするんですか?」
「まだ、決めてないな」
「それならわたしとお出かけしませんか?」
そうだな、ケイトと違ってシエスタも今日まで仕事していたみたいだから、労いの意味を込めて付き合ってあげるか。
「そうするか」
俺がそう答えると、シエスタは嬉しそうな表情を浮かべる。
「シエスタはどこか行きたい場所はあるのか」
「せっかくなのでわたしは、この国のレストランに行ってみたいです」
シエスタの言葉を聞いて、青龍が胸をどんと叩く。
「それなら、任せておけ。俺が超一流のレストランに連れていってやる」
青龍は自信満々だ。俺はシエスタに尋ねる。
「シエスタ、それで良いか」
「ぜひお願いします。はい、それじゃ皆さん、後は教えた通りにすれば大丈夫ですから」
シエスタがそう言うと、調理場で働くメイド達は頷いていた。
「シエスタが教えていたのか?」
俺の質問に、シエスタは少し恥ずかしそうに頷いたのだった。
その後、青龍が言う超一流のレストランに行ってみて、シエスタの言葉の意味が初めてわかった。
「肉料理、それも生肉かステーキしかない……」
「高級レストランでも同じだとは思いませんでした」
俺とシエスタがそう呟くと、青龍が得意げに言う。
「肉以上の高級な食べ物はないだろう?」
確かに素晴らしいくらいに美味しい……だが、こればかり食べていたら、すぐに胃がもたれてしまう。竜の国に滞在中はシエスタに作ってもらおう。
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