転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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17巻

17-2

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「俺が起きていなくても、フィルが弁当を作った日は、運動部の連中が必ずもらったおかずの話をしてくるからわかるんだよ」

 くっ、運動部の人たちか。それは盲点もうてんだった。
 運動部の生徒の中には、日の出前から自主練にはげむ者もいる。
 彼らは食堂が開くまでお腹をかせているから、お弁当の日は多めに作って、入りきらなかったおかずを分けてあげているのだ。
 当てずっぽうかと思ったら、情報に基づいての発言だったとは……。
 どうしよう。変な汗が出てきた。
 レイは頬杖ほおづえをついて、なおも俺を追いつめる。

「イルフォードさんのメッセージには、泥田のコルフ草を食べてタイロンの鬣の色が変わるって書いてあったんだよな? つまり、フィルたちは泥田の草を食べる前のタイロンを見たってことだ。あの日、泥田の草を除去する手伝いに行ったのか? でも、それだけだったら、俺たちにも話してくれているよな?」

 探偵たんてい対峙たいじする犯人は、こんな気持ちなんだろうか。
 今日のレイは、やけにえている。
 いや、違う。忘れがちだけど、レイはただの残念ドジっ子少年ではないんだった。
 頭の回転はいいし、記憶力きおくりょくもいい。知り合いも多く、そこから情報を仕入れる能力もあるんだよね。
 俺がどう答えようかと悩んでいると、レイが突然ハッと目を大きく見開く。

「……そうか、わかった。泥田にそのタイロンたちを連れて行ったのは、フィルたちなんだな? 話さなかったのは、それを隠したかったからか」

 それを聞いて、トーマは不思議ふしぎそうな顔で首を傾げる。

「タイロンを泥田に連れて行ったことを、なんでフィルたちは隠していたの? ディーンさんたちのお手伝いをするのは、いいことだよね?」

 レイがそれに答える前に、ライラが大きな声で言った。

「あ! タイロンたちって、襲撃事件のタイロンなのね!?」

 その指摘に、レイはコックリと頷く。

「俺はそうにらんでいる」

 あ、あぁぁ、ついに真相にたどりついてしまった……。
 トーマは驚いた顔で、俺とカイルの顔をうかがう。

「つまり、あの事件を解決したのも、フィルたちってこと?」

 その視線を受け、俺はカイルと顔を見合わせる。
 もう誤魔化ごまかしきれないよね。

「はい、僕たちがやりました」

 観念して俺が自白すると、レイは頭を抱えて叫ぶ。 

「やっぱりか! 外れてて欲しかったのにっ!」

 確信はあるけど確定させて欲しくはなかった、みたいな感じか。
 ライラとトーマは、呆気あっけにとられつつ言う。

「本当に、タイロンの襲撃事件を?」
「まさか、二人で解決したの?」

 その質問に、俺とカイルはコクリと頷く。

「まぁ、いつかは話そうと思っていたんだけど……」

 俺はそう前置きして、あの日の出来事について話し始める。
 事件現場付近の探索たんさく中に、タイロンの群れと遭遇そうぐうしたこと。
 タイロンの進行方向にある街道で商人たちの荷馬車が、立ち往生おうじょうしていたので助けに入ったこと。
 興奮状態にあるタイロンたちと、なんとか対話に成功したこと。
 彼らがコルフ草を求めていたので、泥田に案内したこと。
 話せる範囲はんいで事件のことを話した。
 説明を聞いて、トーマはキラキラした目で言う。

「うわぁ、すごい! タイロンたちが土を食べて養分を摂取するとか、その土が食べられない時はコルフ草でおぎなうなんて初めて聞いたよ。論文にもっていない!」
「動物と対話できる、フィルだからこそできる解決法ね」

 アリスは感心した様子で息を吐く。

「当初は、探索だけで済ます予定だったんだ。でも、緊急事態だったし、タイロンとも対話ができたから、流れでやむを得なくね」

 そう話す俺に、レイはコタツの天板をベシベシ叩きながら言う。

「あのなぁ、解決できたからいいけど、できなかったらどうすんだよ。事件の話をしていた時点で、タイロンが魔獣化してる可能性があるって話だったじゃん。精霊のヒスイさんがいても、絶対に安全ってわけじゃないんだぞ?」

 以前俺は魔獣化した山犬を鉱石を使って撃退したことがある。だけど、俺ではなくヒスイの力で解決したことにしたんだよね。
 レイに睨まれて、俺は首をすくめる。

「危ないことをしようと思っていたわけじゃないよ。さっきも言ったけど、本当に探索だけで済ますつもりだったんだ。まぁ、ヒスイがついているっていう安心感や、ルリに乗って上空からタイロンの様子を窺うくらいなら大丈夫かなって余裕がまったくなかったとはいえないけど」

 それを聞いて、トーマはポンと手を打つ。

「あぁ、そうかぁ。何かあっても、ルリがいれば、高速で飛んで逃げられるもんね」
「フィルたちの確認だけでもしておきたかった気持ち、少しわかるわ。仮に魔獣の群れが存在しているなら、早く対処しなければ被害は大きくなるもの」

 理解を見せたアリスに、俺はコクコクと頷く。

「そう。もし群れが魔獣化をしていたら、ラミアに早く討伐隊を手配してもらえるよう頼んでみようって思ってさ」

 クリティア聖教会には、魔獣討伐のエキスパートがいる。
 普通は一般の子供の報告なんて、相手にしてはもらえないだろう。
 だが俺にはクリティア聖教会で大司教をしている、ラミアという友人がいた。
 以前にも魔獣関係の事件で会っているので、緊急事態であることを話せば何らかの対策をとってもらえるはずだ。
 しかし、俺の説明を聞いても、レイはしぶい顔をしたままだった。

「魔獣化していたら早く対処しなくちゃいけないっていうのは、俺だってわかっているよ。だけど、フィルが精霊と契約していても、危ないことに変わりないだろ? カイルは身体能力にすぐれているけど、フィルは普通の子供なんだし」

 レイの言葉に、俺とカイルは思わず反応する。

「「普通の子供っ!?」」

 俺の声は明るく、カイルの声からは驚きが感じられる。
 レイに向かって、俺はパァッと笑顔を向ける。

「そう! そうなんだよっ! 僕、いたって普通の子供なんだよ!」

 コクヨウにせっつかれて、よく魔獣退治に行くはめになるけど、身体的には俺は普通の子供なんだ。
 いつもコクヨウに、『ひ弱』だの『へなちょこ』だの言われているし。

「カイルに比べて、だからな?」

 レイが訂正を入れてきたが、俺は笑顔で返す。

「だけど、普通だと思ってるんだよね?」
「いや、まぁ……それは……」

 言葉を詰まらせたことを、俺は肯定ととらえた。

「普通の子供かぁ」

 俺が感動していると、カイルは釈然しゃくぜんとしない顔で言う。

「レイは剣術の授業を受講していないから、そう言うんだ。確かに獣人の俺はフィル様に比べたら身体能力が高いが、フィル様はそんな俺と剣術の対戦で常に互角なんだぞ。ディーンさんとの対戦でも引き分けているし。総合的に考えて、フィル様が普通の子供と一緒だという意見には、納得できない」

 カイルの言う『総合的』には、レイに開示されていない俺の情報が含まれているのかもしれない。
 確かに、レイとトーマとライラには、ディアロスを召喚獣にしていることや、鉱石の力を最大限に引き出せること、鉱石を使って魔獣を浄化できることなんかは話していないもんね。
 それを含めて考えると、確かに普通の子供とは違うとも言えるが……。
 俺は大きくそらした胸を、パンッと叩く。

「レイが言いたいのは剣術とかの強さじゃなくて、身体的なことだもんね。レイが言ったように、僕はか弱い普通の子供だよ!」
「そこまで言ってねぇよ」

 レイは呆れ顔でツッコミを入れ、それから息を吐く。

「フィルが強いのは、俺だって知ってるよ。だけど、魔獣を相手にしたら、ひとたまりもないだろ? あんまり危ないことすんなって言ってんの」

 すると、ライラが表情をくもらせて言う。

「そうよね。いくらフィル君たちが強くても、レイが言ったように魔獣が危険なことに変わりはないわよね。フィル君たちが無理して探索に行ってくれたのって、うちの商会が被害にあったからでしょ? この件を私たちに話さなかったのって、もしかして私に負担をかけたくなかったから?」

 俺たちが危険な探索に行ったのが、自分のせいじゃないかと思ったようだ。
 うつむくライラに、俺は少し慌てる。

「いや、まぁ、探索に行くきっかけはそうだけど、トリスタン商会が関わっていなくても探索には出たと思うよ」

 結局は魔獣退治大好きなコクヨウに丸め込まれて、同じ結果になっていただろう。

「あと、黙っていた理由の一つに、ライラが負担に思うかもっていうのがあったのは確かだけど、それだけが理由じゃないし……」

 俺がもごもごとそう口にすると、レイはニヤリと笑う。

「バレるのがずかしかったんだろ。あの事件を解決したのは、天の御使みつかい様だもんな?」

 ライラはそれを聞いて、バッと顔を上げた。

「商人たちに目撃された天の御使い様って、フィル君なの!?」

 真っ直ぐな目で見つめられ、俺はきゅっとくちびるみ、コクッと頷いた。
 途端にレイが「やっぱりなぁ!」と爆笑ばくしょうする。

「どうしてそんな誤解が?」

 アリスが目をまたたかせながら尋ねてきた。
 爆笑するレイをじとりと睨みつつ、俺は説明する。

「タイロンの群れに襲われて、商人さんたちが混乱していたんだよ。それで、自分たちが天国にいると勘違かんちがいしたみたい。ね、カイル?」

 俺が同意を求めると、カイルは物憂ものうげな表情で頷く。

「ヒスイさんも空に浮かんでいたし、フィル様もルリに乗っていたから、天の御使いだと思ったみたいだ。一応、事件が解決したあとに事情は説明したんだが、全然信じてもらえなかった……」

 俺とカイルの説明中ずっと笑っていたレイは、涙をぬぐいながら息を整える。

「あー、面白過ぎだろ」

 そう言って、再び肩を揺らして笑い出す。
 くっ! だから、隠していたのに。

「……フィル様、イルフォードさんからいただいた飾り紐、レイにはあげなくていいんじゃないですか?」

 カイルの提案に、俺は無表情でコクリと頷く。

「うん、そうだね。ついでに、帰る時にコタツも片付けよう」

 それを聞いて、レイの笑いがピタッと止まった。

「あぁ! 笑ってごめんって! 飾り紐欲しいです! コタツもまだ片付けないでぇ!」

 レイはコタツの天板にしがみついて、嘆願たんがんする。
 それから三分間、俺はプイッと顔をそむけ続けたのだった。



 2


 ディーンたちから手紙が届いた一週間後の休日。
 俺はカイルとライラとトーマ、レイとアリスを連れてドルガドを訪れていた。
 あのあと、再びディーンからタイロンの件で相談があると手紙をもらい、ルリに乗って皆で泥田に行くことになったのだ。
 ライラはルリの背の上で、きょろきょろと見回す。

「あ、遠くにドルガドの城下町じょうかまちが見える。アリスが前に言っていたけど、下と上とで見える景色が全然違うのねぇ。馬車から見えるのは、木ばっかりだったもの」

 感心した様子のライラを見て、アリスはくすくすと笑う。

「街道は森の中にあるものね。日が落ちてくる頃にこのあたりをルリに乗って通ると、街の明かりが綺麗なのよ」
「えー、いいなぁ。見てみたい!」

 ライラはそう言って、楽しそうに笑う。
 良かった。ライラは今朝まで、ルリに乗ることを少し怖がっていたんだよね。だけど乗っているうちに、空の旅を楽しむ余裕ができたみたい。
 ライラとレイとトーマがルリに乗るのは、今回で二回目。
 一回目は一年半前、ルリと初めて会った時だ。
 あの時はルリも俺の召喚獣になる前で加減を知らなかったから、高速アクロバット飛行をしちゃったんだよね。
 俺とカイルは大丈夫だったが、アリスとライラとレイとトーマはしばらく動けないほどのダメージを受けていたっけ。
 その後、アリスは克服こくふくして普通の飛行なら平気になったけど、レイとトーマとライラはルリに乗ることさえ拒否していた。
 今回だって、レイとトーマは最後まで渋っていたもんなぁ。
 馬車で日帰りができる距離だったら、時間がかかってでもきっとそっちを選んでいたに違いない。
 俺はトーマとレイの様子を窺う。
 二人はぎゅっと体をちぢめ、ウォルガー用のくらにしがみついていた。
 ステアを出発してだいぶ経つというのに、いまだにこの状態だ。
 ルリにお願いして、いつもより高度を下げ、かなりゆっくり飛行してもらっているんだけどなぁ。
 ガチガチに緊張したままの二人が心配になり、俺は優しく声をかける。

「トーマ、レイ。大丈夫? 気分悪くなってない?」
「頑張るよ。タイロンに会うためだもん。うん、大丈夫、頑張るよ」
「あ、あぁ、俺も平気だ。も、もうすぐ着く頃だもんな」

 自分に言い聞かせているかのように、二人はブツブツ呟いている。
 俺はそんな二人を励ますため、明るい声で言う。

「うん。あと少しだよ。ほら、森のひらけたところに泥田が見えるでしょ?」

 俺が前方を指すと、ライラが少し身を乗り出した。

「わぁ、あれが泥田なのね! 動物の群れが見えるけど、あれがタイロンかしら」

 その言葉に反応したトーマは、ライラ同様に身を乗り出す。

「えぇ! タイロン? どこどこ!?」

 飛行の怖さより、動物への興味のほうがまさったようだ。
 すると、レイは慌ててライラとトーマの腕を引いた。

「おい! ライラ、トーマ、あんまり身を乗り出すなよ! 落ちたらどうすんだ!」
「はわわ、そうだった!」

 トーマはハッとして顔を青くしたが、ライラは小さく肩をすくめた。

「大丈夫よ。鞍があるし、鞍から落ちても命綱いのちづながあるもの」

 ウォルガー用の鞍には、体を固定するシートベルトがある。
 そして、そのシートベルトとは別に、命綱がついていた。

「命綱だって絶対じゃないんだぞ。ちぎれたらどうする!」

 必死な形相ぎょうそうのレイを落ち着かせるため、俺は優しく微笑む。

「安心して。乗る前に説明したでしょ。この綱はちゃんと耐久たいきゅうテストをクリアしたから、ちょっとやそっとじゃちぎれないよ」

 大柄な成人が三人ぶら下がっても大丈夫なくらい、とても頑丈な綱なのだ。
 しかし、レイはクワッと目をいた。

「世の中に絶対はないんだよっ! もし、もし、ちぎれて落ちたら……」

 綱がちぎれて落ちる自分を想像したのか、唇を震わせる。
 かなり低めを飛んでいるから、最悪落ちても木に引っかかるだけですむとは思うのだが……。
 レイにとっては、落ちること自体が大問題なんだろうな。
 カイルはレイの様子を見て、小さく唸る。

「安全だとわかるまでは、しばらく時間がかかりそうですね」

 その呟きに、俺はコクリと頷く。

「うん。少しずつ慣れてくれるといいんだけどなぁ」

 もしルリの飛行に慣れてくれれば、一緒に出かけられる範囲も広がると思うのだ。
 でも、この感じだと、カイルの言うように時間がかかりそう。
 そんなことを考えている間に、目的地の泥田が近づいてきた。
 おぉぉ、泥田の周りが綺麗になってる!
 以前来た時には、泥田の周りに黒いコルフ草がたくさん生えていたが、今はまったく見当たらない。
 タイロンたちによる『むしゃむしゃ除草作戦』は上手くいったみたいだ。

「フィル!」

 泥田のあぜ道で、タイロンに囲まれたディーンとイルフォードがこちらに向かって手を振っているのが見えた。
 約束した時間の一時間前なのに、もう来ているとは……。
 俺は手を振り返し、それからルリに向かって言う。

「ルリ、ゆっくり下に降りてくれる?」
【はい。了解です】

 ルリはゆっくりと、ディーンたちのいる手前に降り立つ。
 俺はルリの背から降りて、ディーンとイルフォードにけ寄る。

「ディーンさん、イルフォードさん、こんにちは!」

 俺が挨拶あいさつすると、イルフォードはふわりと笑う。

「うん、こんにちは」
「呼びかけに応じてくれたこと、感謝する」

 微かに口角をあげるディーンに、俺は笑い返す。

「僕もタイロンのことは気になっていたので、連絡いただけて嬉しかったです」

 その返答に安堵あんどしたのか、ディーンは先ほどより表情をやわらげる。

「そう言ってもらえると助かる。さっそく話をしたいところなんだが、その前に……後ろにいるフィルの友人たちは大丈夫か?」

 ディーンに言われて、俺は後ろを振り返る。
 皆はルリから無事に降りていたものの、トーマは地面にへたり込み、レイはカイルにしがみついていた。
 どうやら地上に降りたことに安心して、力が抜けちゃったみたいだ。

「トーマ、立てる?」

 アリスが心配して、手を差し伸べる。
 しかし、トーマはその手を取ることなく、足をプルプルと震わせながら自力で立ち上がった。

「が、頑張って立つよ。早くタイロンを近くで見たいもん」

 さすが動物好きのトーマ。動物のことになると、いつにも増して気合いたっぷりだ。
 カイルはそんなトーマをチラッと見て、自分の腕にしがみついたままのレイに言う。

「ほら、トーマも頑張ってるんだぞ。レイも一人で立て」

 そう言って、自分の腕からレイをはがそうとする。
 だが、レイは意地でも離れまいと、手に力を込める。

「カイル、待ってくれ! 手を放さないでくれ! まだ足が震えてっからぁ! 地面に足がついてんのに、まだふわっとしてんだよぉ!」

 ぎゃあぎゃあ叫ぶレイを、ライラがペシッと叩いた。

「もう! 大きな声で叫ぶんじゃないわよっ!」

 怒鳴どなったところで、自分の声も大きくなってしまったことに気づいたらしい。
 ライラはハッと口元を押さえ、それからディーンたちに向かって恥ずかしそうに笑った。

「ほほほ、すみません。騒がしくって。こちらは大丈夫なんで、気にせずに」
「そ、そうか? 大丈夫ならいいんだが……」

 ディーンは呆気にとられつつ、頷いた。
 すると、そんなタイミングで、一頭の大きな体のタイロンが俺に近づいてきた。
 この群れのリーダーだ。
 親愛しんあいを示すように、俺に顔を寄せる。

【また会えて良かった】
「うん、元気そうで良かったよ」

 俺は笑って、その顔をでる。

【ああ、おかげで皆元気だ】

 そう言ってリーダーが振り向くと、群れのタイロンたちが俺に向かって話しかける。

【ありがとうなぁ】
【ここの草は栄養があって美味うまかったぞぉ】
【おかげで鬣もツヤツヤだ】

 そう言われてみれば、毛質が良くなっている。
 俺は確かめるように、タイロンのリーダーの立派な鬣を触る。
 本当だ。以前は栄養が足りていなかったせいか、少しパサパサした毛だったのに。
 何より違うのは、タイロンたちの鬣の色だ。
 体毛の色は相変わらず明るいオレンジだが、鬣だけが以前と違い黒色へと変化していた。

「毛色が変わっていて驚いただろう?」

 ディーンの言葉に、俺はタイロンを撫でながら頷いた。

「はい。驚きました。手紙で言っていた通り、鬣の色が違いますね」

 俺の言葉に、ディーンは苦笑する。

「実は鬣の説明はイルフォードに任せたから、俺の手紙には書かなかったんだが……。鬣が変化した時、かなり焦ったんだ。もしかして、泥田のコルフ草を食べさせたことで何か問題があったんじゃないかと……」
「そ、そうですよね」

 急に鬣の色が変わったら、そりゃびっくりするよ。
 ただでさえ、泥田付近に生えていたコルフ草は禍々まがまがしい黒い葉っぱなんだもん。焦るに決まっている。

「それで、すぐにドルガド王国の動物の医者を呼んで、タイロンたちをてもらったんだ。その時、健康けんこうであるとは言われたものの、色が変わった理由がわからなくては安心もできなくてな」

 当時のことを思い出したのか、ディーンはため息を吐く。
 確かに、その気持ちはわかる。
 すぐには症状しょうじょうが出なくても、あとで何かあるかもって心配になっちゃうよね。


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