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2巻
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しおりを挟む第1話 大地の丘
俺は、ジャック・スノウ。
どういうわけか、人気ゲーム『ガールズ&ハンター(通称、ガルハン)』の世界に、悪役「ジャック」として転生したんだが、元々はこのキャラ、嫌われすぎて処刑されるというひどい設定だったんだ。
でも、そのまま殺されるわけにいかない。ゲームの知識を駆使して、本来の主人公クレイをバッドエンドに導いて何とか生き延びてきたんだよな。
まあ、まだまだ油断はできないんだが、ちょっと気になることがある。ガルハンには、魔王の復活をにおわせる本がいくつか登場するんだ。実際には、ゲームでもアニメ版でも魔王は登場しないんだが、この世界じゃどうなるかわからない。
せっかく処刑ルートを回避してきたのに、魔王に世界を滅ぼされてはたまらない。というわけで、その本の一つ「短剣の書」を手に入れるため、俺は「大地の丘」にやってきたんだ。契約した騎士、ラルフ・ガードナーを連れてな。
ラルフの他に俺に協力してくれるのは、学園唯一の友達、ルッツ・ウェバー。そして、その兄でルッツの騎士であるザック・ウェバーだ。こいつらと「短剣の書」を手に入れるイベントをクリアしてやるぜ。
大地の丘は、なだらかで芝生のような草が広がる平原。風が吹き抜け、花が咲き乱れ、とても綺麗なんだ。俺たちが転移した場所の近くには、大きな桜の木が一本だけ生えていた。
俺が覚えている短剣の書のイベントはこうだ。
■大地の丘のイベント
【発生条件】
・パーティメンバー四人のジョブランクが、2以上。
・ラルフがパーティメンバーにいること。
【ストーリー】
大地の丘に来たガルハンの主人公クレイパーティ。
そこで、パーティメンバー四人の中で、誰が一番強いかで喧嘩になってしまう。そしてラルフ(ゲームの中では、クレイのパーティに所属している)がダークゴーレムの討伐のタイムアタックを提案。
無事にダークゴーレムを倒すことに成功して桜の木の下に集合するが、ラルフが桜の木に寄りかかったことで、桜の木の上からモンスターが落ちてくる。
そのモンスターを慌てて討伐するが、ドロップアイテムをラルフが誤って使ってしまう。それによって、このイベントのボスが登場する。
アニメとゲームで展開が若干違うが、大まかにはこの条件とストーリーで間違いないはずだ。
俺は、その桜の木の下に仲間たちを集めて指示を出す。
「ラルフ、ルッツ、ザック、それぞれ散らばって、ダークゴーレムを倒してくれ」
「別々に、ダークゴーレムを討伐するんですか?」
ルッツが首を傾げながら聞いてきた。
このイベントのことをどう説明したらいいのかわからないな。そもそもガルハンの本来の主人公をバッドエンドさせたから、このイベントが本当に起こるかどうかも謎だし……。でも、ここは強引に押し切ろう。
「そうだ。理由はあとから説明する。今は俺の言う通りにしてほしい」
「わかりました」
ルッツは大きく頷いてくれた。俺は、そんな彼が持つ青い槍を見る。それは、先日行われた騎士団主催の学園オークションで、ルッツが落札した新しい武器だった。
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【アイテム名】 コールドランサー
【特殊効果】 氷属性付加
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コールドランサーには、「氷属性付加」の特殊効果が付いている。
これは、MPを消費して刃に冷気を纏わせ、通常の攻撃に氷属性の追加ダメージを与えるという、強力な能力である。
俺は、コールドランサーを指さしながらルッツに、追加の指示を出す。
「ルッツ、ダークゴーレムを倒すときにはコールドランサーの氷属性の付加魔法は温存してほしい」
「温存するのは構いませんが、スキル攻撃は使ってもいいんですか?」
「スキル攻撃を使って、できるだけ早くダークゴーレムを狩ってくれたらいい。そのあとでかなり強いモンスターと戦うことになると思う。そのモンスターはスキル攻撃の威力を半減させるスキルを持っているはずだ。だからルッツの氷属性の付加魔法の攻撃がメインになる」
「なるほど、そのために氷の付加魔法を温存するんですね。わかりました。ちなみに、ダークゴーレム以外は無視していいんですよね?」
このイベントは、十分以内にダークゴーレムを狩らなければ失敗してしまうので、ダークゴーレムを優先しなければならない。早さも重要なのだ。
俺はルッツの質問に頷きながら、ダークゴーレムを速攻で撃破して集合するようにと、みんなに念を押した。
大地の丘には、逃げるモンスターが多い。その上、強力なダークゴーレムがうろついている。労力が大きいわりに経験値が期待できないから、ここに来る学生は少ない。今も俺たち以外の学生の姿はなかった。これなら邪魔されることもないだろう。
桜の木が立っている場所から大地の丘を見渡してみる。すると、四体以上のダークゴーレムの姿を確認できた。ちょうどいい個体数だ。これなら一人一体のダークゴーレムに挑めるな。
ラルフが口笛を吹きながら俺の肩を叩く。
「俺はダークゴーレムを全力で倒すってことでいいよな?」
「ああそうだ。ザックも頼んだぞ」
「……!」
ザックがガッツポーズして気合を入れた。本当に無口だな。
「ダークゴーレムを狩ったら、またこの桜の木の下に集合だ」
俺はミスリルの剣を引き抜いて号令をかけた。
ラルフもミスリルの剣を引き抜き盾を構えて、俺の命令に応える。
「了解! 行くぜ!」
ルッツが槍を握りしめてザックの肩を叩く。
「兄さん、行きましょう!」
「……!」
ザックは黒鉱石の剣と大地の盾を振り上げる。そして俺たちは、それぞれ別々のダークゴーレムに向かって走り出した。
黒色の巨人、ダークゴーレムは単独行動していて、積極的に襲ってくるモンスターだ。
パワーとHPに優れ、ゴーレムとしては素早さもそれなりにある。大地の丘にいるダークゴーレムはランク2。ジョブランク1だと単独討伐は厳しいくらい強い。油断は禁物だ。
俺は、透明人間の「精霊の加護」を発動した。光が俺を覆い、一瞬で俺は透明状態になる。
そしてダークゴーレムの背後に忍び寄り強襲する。
俺のファーストジョブ「スライムナイツ」のスキル攻撃、無音の「一刀両断」を受けてダークゴーレムが前方に大きくよろける。体勢を立て直してダークゴーレムが振り返ったが、そのときには俺はさらに背後に回り込んでいた。
スキル攻撃のリロードが終わり、俺はミスリルの剣をダークゴーレムの背中に振り下ろす。二発目の一刀両断で、ダークゴーレムはアイテムをドロップしながら光となって消えていった。
ドロップアイテムは、「ゴーレムのコイン」と「ゴーレムの黒い板」だった。
透明人間で戦うと楽勝だな。敵が透明人間への対抗スキルを持っていない単独討伐において、この能力は最強だ。奇襲で先制攻撃が可能なので、強力なダークゴーレムでさえ瞬殺できる。「透明人間の種」を食って良かったよ。
ゴーレムのコインとゴーレムの黒い板を拾って、集合場所の桜の木に向かう。
遠目でラルフを観察したけど、危なげない戦いで勝利を収めたようだ。ドロップアイテムを拾い上げたラルフが、苦笑いしながら俺のところに駆け寄ってきた。
「最初に倒したのはジャックかよ。俺だって結構早く倒したのになー」
「俺は透明人間になれば一方的に攻撃できるからな」
そう言いながら、俺はルッツとザックのほうを見る。
ルッツは後退しつつ華麗にコールドランサーを操ってダークゴーレムを葬った。
一方、ザックも大地の盾を構えてダークゴーレムに体当たりをぶちかましている。二メートルはあるダークゴーレムを、ザックは簡単にぶっ飛ばして倒した。頼もしい仲間たちだぜ。
ルッツとザックが、ダークゴーレムのドロップアイテムを拾い上げてやってくる。
「槍を強化した分、戦いが楽になりました。兄さんは大地の盾は最高だって言っています」
「……!」
「そうか。俺にはその声が聞こえないんだけどな」
ザックはただでさえフルフェイスのフルアーマーを着ているから、表情がよく見えないんだ。その上、スキル攻撃のとき以外はしゃべらない。ルッツがザックの心の声を聞けるあたりは、さすが兄弟の絆と言うべきだろう。
俺は肩をすくめながら周囲を見回した。
「さてと、これからが本番だ」
「ジャックが言ってた、スキル攻撃を半減するスキルを持つ強いモンスターって、どんな奴なんだよ。どこにもいねーじゃん」
「いるだろ。ラルフの後ろに」
俺が指さしたのは、ラルフの後ろに生えている桜の木だ。幹の太さは幅二メートルを超え、大きく張り出した枝に花はなく、緑の葉に彩られている。
ラルフが桜の木を見てぽかんと口を開けた。
「この桜の木がモンスターなのかよ!?」
「『封印』で固定化された間抜けなモンスターだ。ラルフは思い切りミスリルの盾で桜の木を叩け。ルッツはスキル攻撃の準備を頼む」
「俺かよ!? まあ、いいけどさ」
「了解です!」
ルッツがコールドランサーを構えるのを見てから、ラルフはゆっくり桜の木に近づいた。そしてミスリルの盾で殴りつける。
すると桜の木の上から、七十センチほどの全身真っ青な鳥のモンスター「クリーンバード」が落ちてきた。クリーンバードは、このイベントにだけ出てくるモンスターだ。
モンスターは「封印」されると、全然動けなくなる。しかし封印状態のモンスターにダメージを与えることはできない。だから倒すためには封印を解く必要がある。クリーンバードのドロップアイテム「クリーンポーション」は、封印状態を解くアイテムで、このイベントに必須のアイテムなんだ。
俺はクリーンバードに向かって、スキル攻撃「スラッシュ」を叩き込む。風の刃が、地に落ちてもがくクリーンバードを切り裂いた。
「ルッツ、やれ!」
「ストライクランス!」
俺の命令で、ルッツがスキルの名を叫びながら高速で槍を突き出した。
槍の先から風の弾丸が飛んで、クリーンバードを貫通。クリーンバードは光を放ちながら消えて、「バードのコイン」と「クリーンポーション」をドロップした。
俺は、ドロップしたクリーンポーションを拾い上げる。
桜の木の上から急にクリーンバードが落ちてきたから、ラルフは相当ビビったみたいだな。桜の木を何度も振り返りながらダッシュで戻ってきた。そして冷や汗をかきながらぼやく。
「あぶね。見たことねーモンスターだったぞ……」
「ラルフ。次はこのクリーンポーションを桜の木に叩きつけろ」
「また俺かよ!? 何で俺ばっかり……。やるよ。やればいいんだろ!」
ラルフはブツブツ言いながらクリーンポーションを桜の木に叩きつけた。そして再びダッシュで俺たちのところに戻ってくる。
すると桜の木が振動し、その根っこがメキメキと音を立てて地面から現れた。
枝が巻き付きながら左右二本にまとまっていく。葉は木の頂上付近に集まり、髪の毛のようになっている。
鑑定してみるか。
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【モンスター名】 チェリーブロッサム(ランク3)
【スキル】 スキル攻撃半減、コンボ無効、硬直無効、桜吹雪
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チェリーブロッサムは、スキルを持つモンスター「スキルモンスター」の中でも強力なウッドゴーレムだ。
大きさは三メートルほどで、とにかく硬い。物理攻撃が通りにくい反面、魔法攻撃には弱い。
チェリーブロッサムを見たラルフが剣と盾を構え、驚いた顔で叫ぶ。
「なんだよ、このウッドゴーレムは!?」
「スキルモンスターだよ」
「ダンジョンの外にスキルモンスターがいるのかよ!?」
ラルフが驚くのも無理はない。スキルモンスターはダンジョンにしかいないというのがこの世界の常識である。
でも本当は、ガルハンのイベントとクエストでは例外的にスキルモンスターが出てくるんだけどね。それを説明している暇はない。
俺は鋭い声で指示を出す。
「驚くのはあとにしろ。こいつは『スキル攻撃半減』と『コンボ無効』と『硬直無効』のスキルを持っている」
ラルフとザックの盾によるスキル攻撃「ノックバック」は、敵を必ず後退させ「硬直」させる技だ。でもチェリーブロッサムには、「硬直無効」のスキルが付いているから、後退させても硬直せず隙を作れないんだよな。逆に、ノックバックの使用後の硬直をチェリーブロッサムに狙われるだろう。
仕方がない、ラルフとザックはルッツを守るのに専念させよう。
「ラルフとザックでルッツを守れ。ルッツは氷属性の付加魔法で攻撃しろ。こいつは顔が弱点だ」
「わかりました。顔を狙って攻撃しますね!」
「頼んだぞ。俺は敵の背後に回る。あいつが大きく息を吸い込んだら全員ザックの盾に隠れろ。土属性の特殊魔法『桜吹雪』を放つからな」
「了解、って、こいつ特殊魔法のスキルもあんのかよ!?」
ラルフが驚きながらも、ルッツの前に進み出てミスリルの盾を構える。
俺はラルフに頷くと、ザックの盾を指さした。大地の盾には「土属性耐性」のスキルが付いているから、土属性の魔法を防げるはずなんだ。
「ザックの大地の盾なら防げる。ラルフは桜吹雪が来ても盾で受けるなよ」
「了解! ザック、頼んだぜ!」
「……!」
ラルフがザックの肩をポンと叩き、ザックが大きく胸を張る。
これで指示は終わりだ。俺はラルフの「生存」スキルを、俺のセカンドジョブ「モノマネ師」のスキルでモノマネしてから、スライムを呼び出す。魔法陣から出てきた相棒に乗って、さらに透明人間で姿を消した。
チェリーブロッサムは驚くほど手が長い。ゴリラのように前屈みでのっそりと歩いてくる。
ザックの前まで来たチェリーブロッサムが、大きく腕を振り下ろした。ザックの盾が轟音を響かせて揺れ動く。
しかしザックは、チェリーブロッサムの強烈な攻撃を受け止めていた。
その隙に、ザックの背後からルッツがコールドランサーをチェリーブロッサムの顔面に叩き込む。氷属性の魔法を付加された槍は、冷気を纏ってチェリーブロッサムの額を直撃した。
カウンター気味の一撃で大きく後退したチェリーブロッサムに、俺はスライムに騎乗して透明になった状態のまま一刀両断を叩き込む。敵のスキルでこっちのスキル攻撃のダメージは半減するけど、一刀両断の威力は高いからある程度のダメージは入ったはずだ。
それでもチェリーブロッサムは、腕を振り回して反撃してくる。
しかし、俺はすかさず回避。スライムがスキル「スライムターン」で旋回したところで、敵の右脇に一撃入れて後退する。高機動のスライムに騎乗していると、一撃離脱が余裕でできて助かるな。
「ノックバック!」
ラルフがチェリーブロッサムをぶっ飛ばす。ラルフのほうに向き直った直後、チェリーブロッサムの顔面にルッツの攻撃が叩き込まれた。
ルッツは槍を引き戻して後退し、逆にザックが進み出てチェリーブロッサムの攻撃を受け止める。そんな盾と槍の騎士の絶妙な連携に、イラつくチェリーブロッサムは大きく息を吸い込んだ。
「がううううううううっっ!」
チェリーブロッサムの唸り声は詠唱だろう。木の顔の口が大きく開いて風を吸い込む。それを見てザックの後ろに避難するルッツとラルフ。
チェリーブロッサムの地属性の魔法攻撃「桜吹雪」が口から発射された。
放射状に口から舞い散る桜吹雪は幻想的で美しく、そして威力も半端ない。広範囲のその魔法攻撃を受け止めるのは不可能に近い。
だが、ザックの構える大地の盾は、桜吹雪を遮断して耐え抜き、全員ノーダメージだった。
「ノックバック!」
そのままザックは、隙だらけのチェリーブロッサムの顔面に盾を叩き上げた。
さらにルッツが流れるように槍の三連撃を放ち、チェリーブロッサムは片目を貫かれ、怒りの声を上げる。そして、怒りに任せて右手を振りかざす。
チェリーブロッサムは俺の存在を忘れている。隙ありだな。
スライムを操り高速機動で疾走させチェリーブロッサムの背後に迫った俺は、すり抜けざまに横薙ぎの一閃でチェリーブロッサムを斬り裂いた。
「うがああああああっっ!」
チェリーブロッサムは桜吹雪を俺のほうに向けてぶっ放す。しかし透明人間は、魔法を透過させて無効化する。お前の桜吹雪の魔法は俺には効かないぜ。
透明状態の俺は、桜吹雪をかき分けて突撃し、大きく開いたチェリーブロッサムの口に目掛けて一刀両断を叩き込む。
俺の一撃で後ろにぶっ飛んだチェリーブロッサムに、さらにルッツは凍てつく槍で五連突きを放った。流れるような攻撃のあと、すぐにルッツは後退。跳ね起きたチェリーブロッサムは両腕を突き出してダブルパンチを放ったが、ザックとラルフの盾に阻まれた。
「ストライクランス!」
二人の盾の間から、ルッツは再び氷魔法を付加させたスキル攻撃を、0距離でぶっ放す。
チェリーブロッサムは大ダメージを受けて崩れ落ちた。頭の葉が舞い落ちる。
その隙に俺はチェリーブロッサムに接近し、さらにその首筋にスラッシュを叩き込んだ。
風の刃をまともに食らったチェリーブロッサムは、桜の花びらをまき散らしながら消えていった。舞い散った桜が本当に綺麗だな。そして完全に消えると、大きな宝箱をドロップした。
俺はスライムから降りて透明人間を解除する。ラルフがやれやれと言いながら疲れた顔でぼやいた。
「強かったな……。ザックの大地の盾で桜吹雪を防げなかったらヤバかった」
「ふう、まあな。かなり強い部類のスキルモンスターだったのは間違いない」
俺は頷きながら宝箱を拾い上げる。前に宝箱に擬態したモンスターに襲われた経験のあるラルフは、この宝箱にもかなり警戒しているようだ。
「ジャック、その宝箱は大丈夫なんだろーな? モンスターじゃねーよな?」
「鑑定して確かめたから大丈夫だって。開けるぞ」
宝箱の中は、「王将の鎧」「桜の護符」「短剣の書」と金貨か。ゲームと同じだな。
王将の鎧は、「硬直無効」と「スキル攻撃半減」が付いた真っ黒なフルアーマーの魔法の品で、キングとジェネラルの名が付くジョブの専用装備だ。これはザック用だな。そう考えていたら、ザックがジーッと王将の鎧を見ていた。ルッツが苦笑しながら俺を見る。
「兄さんがすごく欲しがっていますね」
「見ればわかるよ。王将の鎧はザックでいいだろう。桜の護符は俺がもらう。金貨はルッツとラルフで分ける。これでいいか?」
桜の護符は、持っていると三回だけ一撃死を無効化するアイテムだ。だからセシリアに渡しておきたい。俺がそう言うと、みんなが頷いて賛成してくれた。
ラルフが金貨を数えながら、短剣の書を興味深く見ている。
「んで、その本はどーすんの?」
「ちょっと考えさせてくれ」
短剣の書は、対魔王用の短剣が隠された場所を示す宝の地図みたいなものだ。
ゲームでは、古代帝国語で書かれていたために、クレイは読めずに古本屋に売ってしまうんだよな。もちろん俺も古代帝国語は読めないが。
ガルハンでは魔王が復活していなかったので、少なくとも主人公のクレイが学園を卒業するまでは魔王の復活はないのかもしれない。正直、俺も短剣の書を含む魔王に関する書は、ガルハンの次回作の前振りだとさえ思っているから、そこまで警戒してるわけじゃない。
とはいえ、ガルハンの次回作が出たのかどうかはわからないし、それに対魔王用の短剣がどんなものかもわからない。結局、この短剣の書を解読してみないことには、俺には判断できないんだよな。
前回、宰相の姪のシスティナと共闘し手に入れた、魔王に関する書「封印の書」だけでは、魔王の存在が確かなのかはっきりしなかった。魔王に関する二冊目の書である「短剣の書」。この本の解読ができれば、魔王が存在するのか、もしそうならば復活するのか、その真相に迫れるだろう。
それに、この問題をさらにややこしくしていることがあって、王国の宰相が国内の王位争いをまとめるために、魔王の存在を巧みに利用しているんだ。
現在、二人の王子と貴族たちによる王位争いが激しくなっている。しかし魔王が復活するとなれば、内輪揉めをしている場合ではなくなり、二人の王子と貴族たちは団結せざるを得ないだろう。
この短剣の書は、魔王が復活する可能性があるとして国をまとめようとしている宰相の言葉に説得力を与えることができるかもしれない。
王国を守るために、宰相とシスティナに積極的に協力しないとな。俺は考えをまとめて、みんなに伝えた。
「帰還石で帰って、短剣の書は宰相に届けよう。みんな支度してくれ」
「了解だ!」
「王宮に行くんですか。すぐに用意しますね」
「……!」
アイテムと金貨を分配したあと、俺は帰還石を掲げて、ひとまず学園に戻ったのであった。
応援ありがとうございます!
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