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2巻

2-2

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 宿に帰り、ミリィの服とクロードのきょうこうにカードエンチャントを施す。
 装備にカードが吸い込まれ、ダメージ二割カットの効果が付与された。

「でも、いいんですか? こんな使い古しの装備で。もっといい防具につけたほうがよかったのでは?」
「いい防具はカードの何倍も値が張るからな。それよりは、多少安価でもカードエンチャントされた防具だ」

 ワシの防具はそのうち、よい中古品を探して買い換えるつもりだ。中古なら大抵安く買えるのでそのほうが効率的である。

「そうだクロード、この後少し付き合ってもらえるか? 試したいことがあるんだ」
「それは構いませんけど?」
「私も行くっ!」
「ミリィはワシの部屋の荷物を片付けろ。めちゃくちゃに散らかしおって……いらない荷物も捨てるなり何なりしておけよ」
「ええ~」
「文句を言うなら、自分の部屋に荷物を置け」

 ぶーたれながらワシの部屋を片付け始めるミリィを置いて、街の外へ移動する。
 クロードが手伝おうとしていたが、甘やかしてはいかん。自分のことは自分でできるようにならないとな。


「それで試したいことと言うのは?」
「うむ、スクリーンポイントについていくつか聞きたいことがある。教えてくれ」

 クロードのレオンハルト家に伝わる魔導師殺しの固有魔導、スクリーンポイント。
 その使い手であるケインは、ワシの魔導を完全に無効化していた。
 これを使えば、高レベルであっても魔導を使うタイプの魔物には、非常に楽に勝てるだろう。
 狩場が広がるのではないかと考えたのだ。

「スクリーンポイントは以前話した通り、魔導を無効化する魔導です。とはいえ、コンディションや術者によって効果のほどはかなり上下するようで、兄のスクリーンポイントは、魔導に対しほぼ無敵に近い効果を持ちますが、ボクのでは半分も軽減できません」
「ちょっと使ってみてもらえるか?」
「わかりました」

 そう言って、クロードは目を閉じる。すぐにクロードの身体を何か薄い膜のようなものが覆っていくのがわかる。スクリーンポイントが発動したようだ。
 クロードの身体に触ると、ワシのまとう魔力が一瞬にして削り取られた。魔力を遮断するというより、魔力を食らうたぐいの魔導なわけだ。
 ワシはクロードにスカウトスコープを念じる。


 クロード=レオンハルト
 レベル ―
 魔導レベル
  緋:―/―
  蒼:―/―
  翠:―/―
  空:―/―
  魄:―/―
 魔力値
  ―/―


 レベルと魔力値が見えないな。
 確かに、クロードのスクリーンポイントはケインのものより弱いようだ。ケインには、スカウトスコープそのものが発動しなかったからな。

「魔導を撃ってみてもいいか?」
「ちょ、いやですよっ! 痛いものは痛いんですからね!」
「……冗談だ」

 不安そうにワシを見るクロード。冗談とは言ったが、半分本気だったのを見透かされたのだろうか。ある程度しか無効化できないというのは本当らしい。
 クロードがスクリーンポイントを解除すると、少し疲れたような表情を見せる。
 気のせいか、クロードのまとう魔力がかなり減っているようだ。
 もしかしてと思い、もう一度スカウトスコープをクロードに念じる。


 クロード=レオンハルト
 レベル26
 魔導レベル
  緋:9/45
  蒼:5/39
  翠:0/40
  空:0/47
  魄:0/51
 魔力値
  149/356


 ケインの魔力値は39だった。つまり、スクリーンポイントはその程度の魔力で使える魔導なはず。
 にもかかわらず、クロードの魔力は200も減っている。

「クロードはある程度魔導を使えるのだよな」
「はい。と言っても、攻撃系はレッドボールしか使えないですけど」
「ちょっとそこの岩に五発ほど撃ってみてもらえるか?」
「わかりました」

 そう言うと岩に向かい、クロードはレッドボールを五回発動させる。
 岩が少し焦げヒビも入っているが、それだけだ。クロードは魔導レベルも低いし、威力はこんなものだろう。
 再びスカウトスコープで見ると、クロードの魔力値は50になっていた。

「もう一度スクリーンポイントを使ってもらえるか?」
「うぅ、結構疲れるんですよね……」

 そう言いつつも、スクリーンポイントを念じるクロード。
 こいつ、人の頼みは断れないタイプだな。
 そんなことを考えながら、クロードにスカウトスコープを念じる。


 ……が、見えない。やはりそういうことか。
 おそらくだが、スクリーンポイントは残りの魔力が少なければ少ないほど効果の上がる魔導なのだろう。
 所謂いわゆる『魔導師殺し』というやつは、その名の通り、魔導師を殺す魔導である。その効果は術者自身にも及び、『魔導師殺し』以外の魔導の効果や魔力値にまで悪影響が出る恐れがあるのだ。
 故に魔導師が『魔導師殺し』を用いることはほとんどなく、基本的には魔導を使わない騎士などが持つことが多い。
 先刻、クロードの魔力値が200も減っていたのは、その効果によって自身の魔力を食われてしまっていたからだろう。

「クロード、ちょっと魔導を一発、撃ってみてもいいか?」
「ダメって言ってるじゃないですかっ!」
「大丈夫、全然痛くないハズだ。だまされたと思って、な?」
「えぇ……ダ、ダメですよぅ~」
「心配するな、一番弱い奴で試すから」

 そう言って、ワシは魔力球を手のひらに発現させる。
 ――ブルーボール。初等魔導であるボールの中でも、特にダメージが低いものだ。
 安心させるために微笑みかけるが、それでもクロードは不安そうな顔でワシを見ている。
 何故だ。イケメンスマイルだぞ。

「……では行くぞ」
「うぅ……わかりました……」

 観念したように目をつむるクロードに、ブルーボールを投げつける。
 直撃したが、クロードは水に濡れただけで案の定ノーダメージだ。
 信じられない、といった顔でワシを見るクロード。
 ったく、だから心配いらんと言ったのに。

「おそらくスクリーンポイントは発動時、魔力が少ないほど効果を発揮するのだろう。ケインは生まれ持った魔力が少なく、スクリーンポイント使用時にほぼゼロになる。それで魔導に対してほとんど無敵になるのだ」
「なるほど。でも、どうしてそんなことがわかったんです? ゼフ君は相手の魔力量がわかるんですか?」
「む……」

 ……しまったな、スカウトスコープのことは秘密にしたかったが。
 まぁいいか、クロードはもう仲間だ。普通なら口外しないはずのスクリーンポイントのことも教えてくれたのだ。口の軽いミリィもいるし、どうせずっと隠し通すことなどできはしないだろう。
 そう考えたワシは、クロードにスカウトスコープのことを説明する。

「……スカウトスコープですか。すごいですが、ちょっと恐い魔導ですね」
「うむ、内密にな」
「わかっていますよ。固有魔導は余程信頼できる相手にしか教えないものですからね。だからボクも、ゼフ君達にスクリーンポイントの話をしたんですから」

 クロードは固有魔導の重要性をわかっているようである。
 会ってすぐのワシに自慢げに話してきたバカ娘もいたからな。念のために言ったまでだ。

「確かに魔導が得意でない人ほどスクリーンポイントは強力だったと、父から聞かされたことがあります」

 レオンハルト家は騎士の家系だし、魔導の実験など大してしなかったのだろう。
 固有魔導には知られざる使い道があることが多いのだ。

「あと一つ実験だ。これを着てみてもらえるか?」

 そう言って、持って来たワシの着古しのシャツを渡す。
 疑問の表情を浮かべながら、それを受け取るクロード。

「これは服……ですか」
「ケインとの戦いでクリムゾンブレイドは衣服のみを切り裂いていたが、ワシのレッドクラッシュではケインの鎧に傷一つつけられなかった。細かい効果がどうなっているのかを知りたい」

 ケインと打ち合い折れてしまったクロードの剣に、ワシは合成魔導クリムゾンブレイドをかけ、炎の剣を生み出した。その魔力の剣では、スクリーンポイントを展開したケイン自身に傷をつけることはできなかったが、衣服はスパスパと切れたのだ。
 ちなみに、防御魔導であるセイフトプロテクションは、身につけた装備にもダメージ大幅カットが適用される。
 渡したシャツを広げ、クロードが怪訝な顔でワシを見てくる。

「……つまりスクリーンポイントを使って、ボクの着た服が破れるかどうかが見たい……と?」
「そうだが?」
「~~っ!」

 クロードの顔がみるみる赤くなり、上ずった声で叫ぶ。

「な……何考えてるんですかっ! ゼフ君の変態!」
「だから破れてもいいように、ワシの着古しの服を着ろと言っているではないか」
「より変態っぽいですよっ!」

 真っ赤な顔で、クロードはワシに服を投げ返してくる。


 ……結局クロードの猛反対にい、実験内容は変更されたのだった。
 仕方ないか。まぁそのうち戦闘中に色々と試すこともあるだろう。


     ◆ ◆ ◆


 ――翌日、ワシらはベルタの街から少し離れた場所にある、はんに来ていた。
 ここは、以前ミリィが見つけたダンジョンの一つである。大地のマナが湖水を透過して形を成した魔物、エレメンタルが出没するのだ。
 ちなみにこのエレメンタルは少々特殊な魔物である。
 念のため二人にも説明しておくか。

「エレメンタルにそう系統の魔導は効かないのは知っているか?」
「属性レベル2ってやつだっけ?」
「弱点属性と属性耐性があるタイプの魔物ですよね」
「その通り」

 二人とも知っているようである。
 エレメンタルのような不定形の魔物は、一部の例外はあるものの、基本的には属性レベル2に分類され、奴らの持つ属性と同じ系統の魔導は完全に無効化されてしまう。
 だからといって戦いにくいわけではなく、我々魔導師にとっては逆にカモとなる場合が多い。一つの属性の攻撃は全く効かないが、逆に他の特定の属性に対しては極端に弱いからだ。

「弱点属性だが、そうに弱く、蒼はくうに弱く、空はすいに弱く、翠は緋に弱い。そしてはくは魄同士が弱点となっている。蒼属性の魔物であるエレメンタルには、空系統の魔導が弱点となる」
「わかってるわかってる!」

 まぁ、知識としては初歩の初歩だからな。
 ミリィといえども、わかっているようである。
 話しながら歩いていると、湖面からぶくぶくと泡が立ち始め、水柱とともにエレメンタルが姿をあらわした。髪の長い裸の女性を模した姿は、人間の油断を誘っているのだろうか。
 ま、そんなもので油断などするはずはないがな。
 即座に手をかざし、念じるのは空系統魔導、ブラックスフィア。
 エレメンタルの頭上に空気の刃が集まり、その頭部をズタズタに切り刻む。
 ――だが浅い!
 まともに当たらなかったので、本来のダメージは与えられなかったようだ。
 中等魔導のスフィア系は威力と射程に優れるが、発動まで時間がかかったりコントロールが困難だったりと、当てにくいものが多い。
 しかし後々のことを考えると、これからはスフィア系の魔導を中心に鍛えたほうがいいだろう。
 現状、ある程度強い相手には緋と空の二重合成魔導パイロクラッシュを使用しているが、これは射程が短く素早い魔物には当てにくいのだ。
 それにワシは緋系統魔導の才能値が低いので、最終的には他の属性の魔導レベルを上げていったほうがいいだろうからな。
 ブラックスフィアにより刻まれたエレメンタルの頭部は、すぐに再生され元に戻ってゆく。

「ゼフったら、へったくそ~♪ 私がお手本見せたげよっか?」

 からかうようなミリィの言葉。
 やれやれ、そこまで言うなら見せてもらおうではないか。

「ブラックバレットっ!」

 ミリィが右手を突き出すと、その手に魔力が集まる。
 そして空気の弾丸が次々に放たれ、エレメンタルを削り取っていった。
 ブラックバレットはブラックボールの連打版で、中等魔導の割に威力と効果範囲に優れる……が、消費魔力もその分かなり多めだ。
 雑な戦い方だが、案外こういった手法のほうがミリィには合っているのかもしれない。
 ミリィに魔導を教えたのは父親だろうが、幼いミリィには魔導の細かい使い分けなどできなかったはずだ。
 であれば、威力重視で鍛える魔導を厳選し、それを場面に応じて使い分けるのも悪くない戦法である。
 しかし、このゴリ押しとも言えるやり方は、才能のあるミリィだからこそできるもの。貧弱な一般魔導師がこんなことをやればすぐにガス欠になってしまうのがオチだし、ミリィだってこのままでは応用の利かない魔導師になってしまう。
 このあたりは、ワシが上手く仕込んでやらなければならないな……
 霧散したエレメンタルを尻目に勝ち誇るミリィ。ドヤ顔でワシにVサインを向けてくる。
 う、うざい……

「ところでゼフ君、今日も何か試したいことがあるとか言ってませんでした?」
「あぁ、そうだったな。クロード、昨日のように魔力を減らしてからスクリーンポイントを使ってもらえるか?」
「なになに~っ?」

 ミリィを放置して話を進めていると、寂しかったのか、ミリィはワシらの間に割り込んでくる。
 相手して欲しいなら、最初からドヤ顔などしなければいいのに。
 何度かレッドボールを使って魔力を減らしたクロードに、スカウトスコープを念じる。


 クロード=レオンハルト
 レベル26
 魔導レベル
  緋:9/45
  蒼:5/39
  翠:0/40
  空:0/47
  魄:0/51
 魔力値
   45/356


「……ふぅ、これで大丈夫でしょうか?」
「ばっちりだ」

 先日の実験で、スクリーンポイントは魔力30あれば発動できると確認済み。
 昨日クロードの反対を押し切り――といっても、ワシの服は着られないとのことで、カードをエンチャントしているきょうこうを外して――実験した結果、50前後の魔力でスクリーンポイントを発動すれば、ワシの中等魔導までは完全に無効化できた。服まで含めて、ノーダメージである。
 一度、隙をついてクロードに大魔導を撃ってみたが、それでも服が少し破れる程度だった。
 あの時クロードは怒っていたが、実験のためには仕方ないだろう。
 スクリーンポイントの効果は正確に把握しておく必要がある。効果を過信して敵から攻撃を受け、高価なカードをエンチャントした装備品が壊れてしまっては困るのだ。
 ワシは悪くない。
 ともあれ、スクリーンポイントは、生身の身体はともかく装備品まで完全に守れるわけではないようだ。強力な魔導を受けると、さすがに装備はダメージを受けてしまうらしい。
 クリムゾンブレイドでケインの装備を切り裂くことができたのは、恐らくだがクロードの剣技が上乗せされ、大魔導並みの威力になったからであろう。

「それで、やることとは?」
「しばらくそうやって、湖の近くに立っていてもらえるか?」

 疑問符を浮かべるクロードをはんに立たせ、ワシとミリィはクロードから少し離れる。

「何するの? ゼフ」
「まぁ見ていろ」

 クロードは初め何が始まるのかわからず、ただ湖面を眺めていた。が、しばらくすると何かに気づき、横に大きく飛ぶ。
 直後、クロードの立っていた場所に水撃が襲いかかり、地面に弾け飛んだ。
 ――ブルーボールである。
 クロードが水撃の発射点に目を向けると、そこには近づいてくるエレメンタルの姿があった。

「クロード! エレメンタルは近づかなければ魔導での攻撃しかしてこない! 避けなくても大丈夫だぞーっ!」
「そんなこと言っても怖いですよーっ!」
「慣れろ、クロード」
「ひぇ~っ!?」
「鬼……」

 ミリィに呆れ顔をされたが、気にしない。
 話している間にもエレメンタルが湖面から次々に湧き出し、クロードに水撃を浴びせ続けていく。
 五体を超えたあたりから流石さすがかわしきれなくなり、盾を構えてうずくまるクロード。
 しかし、前に構えた盾だけではすべてを防ぎきることはできず、足に、頭に、左右から水撃が浴びせられていく……
 スクリーンポイントを展開しているため身体へのダメージはほぼないが、盾や地面に当たって跳ね返った水しぶきが、クロードの身体をみるみるうちに濡らしていった。

「よし、クロードが引き付けているうちに攻撃するぞ」
「わ、わかった……」

 ワシとミリィで魔導を連打し、集まってきたエレメンタルを倒し続けたのであった。


 エレメンタルのせんめつを終え、見事盾役をこなした功労者をねぎらいに行くと、クロードはすっかりずぶ濡れになっていた。濡れた髪と服が肌に張り付き、細い身体のラインを強調している。
 初夏とはいえ、これだけ濡れると寒いのか、クロードは少し震えている。

「クロード、大丈夫?」
「ひどいですよぅ……」
「あーすまん、少し反省している。……だが、できるだけスクリーンポイントに慣れてほしいのだ。せっかくの強力な魔導だしな」

 涙目のクロードの髪をでてやる。
 スクリーンポイントを狩りで常用するのは難しいかもしれない。
 しかし今日は、クロードのおかげでかなり経験値が稼げたぞ。
 帰りにジュースでもおごってやるとするか。


     ◆ ◆ ◆


「おっかえり~」

 宿に戻ると、入口でレディアが出迎えてきた。ワシらの帰りを待っていたようである。

「レディアさん! 来ていたんですか?」
「これ、完成したよん」

 そう言って、四つの小さなバッジを胸の谷間から取り出すレディア。
 どこから出してるんだ、けしからん。
 レディアの手のひらで、『そうきゅう狩人かりゅうど』のエンブレムがきらりと光る。

「おお~っ」

 ミリィとクロードが感嘆の声を上げる。ワシも声は上げないが、思わず息を漏らした。
 弓をつがえ獲物を撃ち抜かんとしている狩人の姿が、小さなバッジの上に精巧に描かれている。

「見事な出来栄えだな」
「いや~、ギルドエンブレムの作成なんて初めてだったから、楽しくなっちゃって……つい徹夜しちゃった」

 あっははと笑うレディアだが、その顔はいつもより少しやつれ、目の下にクマができていた。
 なにせ依頼してからわずか二日しか経っていないのだ。無理もない。
 ミリィが袋から財布を取り出す。

「ありがとう、レディア。代金七万ルピだっけ?」
「いいって、そんなの。同じギルドじゃない」
「こういうのはしっかりしないとダメなのっ!」

 そう言って、財布から出した金を無理矢理レディアに渡そうとするミリィ。

「いいってば~」
「だーめっ! 受け取りなさいーっ!」

 レディアは拒むが、ミリィも負けじと押し返した。
 ぐいぐいと二人で金を押し付け合っていたが、結局はレディアが折れてしまった。

「ん~、しょうがないにゃあ……うん、ありがとミリィちゃん」
「うん、よろしいっ!」

 ため息をつくレディアに、金を渡して勝ち誇ったようにするミリィ。
 多分、勝ってはいないぞ。

「あれ? 六万五千ルピしかないけど……」
「えっ、嘘っ?」

 ミリィはゴソゴソと財布をあさるが、やはりさっきのが全財産だったらしい。

「……ないみたい。ごめん……」
「これで十分だよ。気持ちだけでもうれしいもん」
「でも、それじゃ私の気が……」

 そう言うミリィに、何かを思いついてニタリと笑うレディア。

「……じゃあ足りない五千ルピは、身体で払ってもらおっかな~」
「へ?」

 言うなり、レディアはミリィに思い切り抱きついた。
 髪の匂いを嗅ぎながら自分の身体を押し付け、太ももをで回し、戸惑うミリィの身体を思う存分、いじりたおす。

「ちょ……やめっ! ……離っ……あっ……やぁんっ!」
「ん~っ! ミリィちゃん、抱き心地最高~♪ 家に持って帰って毎日抱いて寝たいっ! いいかな、ゼフ君っ!」
「……何故ワシに聞くのだ」

 当然、ダメに決まっている。
 それからしばらくの間、ミリィの身体をまさぐり続けるレディアを、クロードとワシは呆れ顔で眺めていたのだった。
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