THE NEW GATE

風波しのぎ

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15巻

15-1

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 エルクント魔術学院において、罪源ざいげんの悪魔の1柱、強欲ごうよくのアワリティアと対峙たいじしたシン。
 戦いのなかで、同じく罪源の悪魔である色欲のルクスリアが悪魔とついをなす天使に変化。
 その力を借りて、シンは勝利を収めたのだった――。


 侵攻を退しりぞけたシンは、サポートキャラである相棒のシュニーに連絡を取った。
 ルクスリアの力によって、召喚陣から現れたモンスターこそ消えたものの、建物の損壊や人的被害は大きい。
 シュニーも全体の状況は把握していないようだったが、モンスターが消えたことで、怪我人の治療や救助も始まったらしい。

「俺は街に行くつもりだけど、ルクスリアはどうする?」
「そうね。私は魔術学院のシェルターの転移先に向かって、ヒラミーと合流するわ。メッセージで外はもう安全だと知らせたから、シェルターから出てくると思うし。でもその前に、シンにお願いがあるんだけど、いいかしら?」
「内容次第だ」

 また穿いてないだの、つけてないだの言われても困るので、シンはあらかじめ予防線を張っておいた。

「そんなに警戒しないで。ちょっと服を借りたいのよ。ほら、今の私、この帯っていうか布っていうか、まあそんな感じのものを体に巻いてるだけじゃない? これは私の力が形をしたみたいなんだけど、このままうろつくのはさすがにまずいと思うのよね」

 そう言って、肩をすくめてみせるルクスリア。
 シンが注視してみると、『天使の帯布』と出た。素材アイテム扱いのようだ。
『天使の帯布』は、ルクスリアの胸から太ももあたりまでを隠している。
 体に沿ってぴったり巻きついているので、体の凹凸おうとつがかなりはっきりと出ていた。
 巻きついた部分以外に、腕にも帯布は展開している。こちらはゆったりとしたもので、腕の周りに浮いていた。
 戦闘が終わったからか、背中にあった光の輪やそこから伸びていた羽らしきものは消えている。

「まあ、そのくらいなら協力するか。とりあえず、靴と服」

 シンはアイテムボックスを操作し、まずは適当な衣服を取り出す。これといった特殊効果のない、スキルレベルを上げるために作ったものだ。
 ルクスリアの穿いてない、つけてない発言があったので、もし入れっぱなしにしていたら程度の気持ちでアイテムボックス内でソートをかけてみる。
 すると、明らかに忘れていたのだろうものがいくつか残っていた。

「あとは……下着か」
「……あら? 今、下着って聞こえたような」

 ルクスリアがばっちり聞いていたようだ。

「ねぇ、シン? なんであなたが女性ものの下着を、さも当然のように持っているのかしら? まさか、自分で作った好みの下着をシュニーちゃんに――」

 カード状態のそれを見て、ルクスリアはシンに問いかけてくる。話している途中で、まさかといった表情になった。

「違うわ‼ 生産系のスキルを上げるときに作ったものが、アイテムボックスに入れっぱなしになってただけだ。まだ駆け出しのころのやつだから、サイズ自動調節機能もついてないしな」

 容量が無駄に多いとまで言われたアイテムボックス。それ故に、最初のころに作ったものがアイテムボックスの奥底で忘れられていたりするのだ。
 シンのような生産職のプレイヤーではよくあることで、他にもまだガラクタとしか言えないようなものも残っている。
 下着についても、シンも残っているとは思っていなかったくらいだ。

「ふ~ん、へぇ~」
「なんだかひどい誤解を受けている気がする」

 あからさまに疑っていますという風情ふぜいのルクスリアに、シンもなんと言うべきか迷う。
 男性であるシンのアイテムボックスから女性ものの下着が出てきたのだ。何を言っても言い訳に聞こえるのは間違いない。

「なんでもないわ。じゃあさっそく着替えるわね」

 ルクスリアがそう言うと、体に巻きついていた帯布がすっと消える。
 いきなりのことでシンはルクスリアが何をしたのかすぐには理解できなかった。目の前にあるルクスリアの裸体を見て数秒固まる。
 そして、何が起こっているか理解すると、ばっと体ごとルクスリアからそらした。

「そのまま見ててもいいのよ?」
「勘弁してくれ……」

 元が色欲の悪魔だけに、天使となってもその美しさと悩ましいボディラインは健在だ。
 これが悪魔のままなら過剰かじょうな色香を感じたのだろうが、天使になったせいか、それほど強い色香は伝わってこなかった。
 裸婦像らふぞうのような芸術作品を見ている感覚に近いかもしれない。

「ねぇ、シン。わざわざ用意してもらっておいてなんだけど、サイズ自動調整機能をつけてもらっていいかしら」
「……カードだけくれ」

 理由はお察しだ。一応、持っていた中で一番大きいサイズを渡したのだが、それでもダメだったらしい。
 同じような背丈の女性の平均値をはるかに越えているそれを知っているシンとしては、やっぱりかという感想しかない。
 ルクスリアを見ずにカードだけ受け取り、シンはささっとサイズ自動調整機能を付与ふよした。今まさにルクスリアはつけていないのだ。

「うん、ぴったり。話には聞いていたけれど、便利よね。いつも特注だったから、助かるわ」

 背後から聞こえる衣擦きぬずれの音がやんだので、シンが着替え終わったかと声をかけようとすると、背中に誰かが抱きついてきた。
 当然、相手はルクスリアだ。体を密着させているので、シンの背中で何か柔らかいものが押し潰されている。

「おい」
「ふふっ、ちょっとしたお礼よ。このくらいならいいでしょう?」

 背中の感触が離れたところでシンが振り返ると、いたずらが成功したような顔で、ルクスリアが笑っていた。
 白いセーターと黒いロングスカート姿のルクスリアは、仕草しぐさのせいで少しだけ幼く見える。
 ただし、次の瞬間には唇に人差し指を当てて妖艶ようえんな雰囲気を出し始めたせいで、どこまで本気なのかシンにはわからなくなった。

「ほんとはキスをしてあげたいところだけれど、シュニーちゃんに怒られそうだからやめておくわ」
「はぁ、どちらかといえば俺がやばいからやめてくれ」

 確実にシュニーが不機嫌ふきげんになる案件だ。シンとしては、そんな爆弾を投下されてはたまらない。
 シェルターからの転移先に向かうルクスリアと別れ、シンは街に向かう。
 アワリティアによって破壊された外壁から街中へと進むと、モンスターのもたらした破壊の跡がよくわかった。
 全壊、半壊したものも多いが、どちらかと言えば入口付近だとか屋根の一部だとか、ちょっとした損傷のほうが多いように見える。
 これは、誰かがモンスターと戦ったのが原因だろう。
 シュニーから聞いていたとおり、人々の表情に悲愴感ひそうかんはなかった。モンスターが消滅したことで危機は去ったと理解しているようだ。

「俺も、できる限り手伝うかな」

 マップを見て【気配察知】を使うと、倒壊した建物の中にまだ取り残されている人たちがいるのがわかる。まずはその救助からと、シンは一番近い場所に向かった。

「……2人か」

 建物の中には反応がふたつある。

「おいあんた、中に人がいるかわかるのか?」

 近くにいた男が、シンのつぶやきが聞こえたのか声をかけてくる。レザーアーマーを身につけているので、きっと冒険者だろう。

「気配を探る技術の応用でな。まずは建物が崩れても大丈夫なように、魔術で安全を確保する。念のため、少し離れていてくれ」

 シンがそう言うと、男はうなずいて周りにいた男たちにも離れるよう促した。
 この一帯で救助活動をしている人たちのリーダーらしい。
 シンはまず【透視スルー・サイト】と【分析アナライズ】を併用して、取り残された人がどんな状態かを確認する。
 運が良かったのか、柱と柱の隙間すきまに出来た空間にいるようだ。
 シンは土術系魔術スキル【アース・ウォール】を発動し、閉じ込められている2人をおおうように展開した。

「よし、OKだ。中にいる人を土壁で覆った。ちょっとやそっとじゃ壊れないから、とっとと瓦礫がれきを撤去しよう」

 シンの言葉を受けて、男たちが瓦礫をどかし始める。
 シンもその中に加わり、運ぶのに時間のかかりそうな大きな瓦礫をひょいひょい持ち上げては別の場所に積み上げていった。
 人命救助に自重じちょうは不要と、壁の一部がそのまま残っていようが丸太のような柱が折れて転がっていようがお構いなしに持ち上げていく。
 シンがひとつ瓦礫を撤去するたびに、ズンッやドンッといった音が響いた。

「なんじゃありゃ……」
「すんげぇ……」

 自身の数倍はある瓦礫を片手で持ち上げるシンを見て、同じように瓦礫を撤去していた男たちが唖然あぜんとしていた。

「お前ら、手ぇ止めてる暇なんざねぇぞ! でかいのはあの兄ちゃんに任せて、細かいもんを動かせ!」

 一足早く我に返ったリーダー格の男が棒立ちの男たちに発破はっぱをかける。他の男たちもはっと我に返るとすぐに動き始めた。
 大きな瓦礫をどかした後は、シンが要救助者のいる場所をピンポイントで指示し、しばらくすると、土で出来た球体が姿を現す。
 固すぎて男たちでは土を壊せないので、シンが穴を開けた。
 中には身を寄せ合っている親子の姿があった。
 男たちの手で引き上げられた母と娘は、何が起こったのかわからないという表情だ。

「後は任せた。俺は他の場所を見てくる」
「おう、こっちは任せてくれ。――頼んだぜ」

 その言葉にシンはうなずき、すぐに他の生き埋めになっている人のところへと急いだ。


         †


「ずいぶんと、活躍してくれたようだな。エルクントを代表し、礼を言う」

 アワリティアの襲撃から3日後、シンは王城にてクルンジード王と面会していた。シュニーは変装し、「ユキ」としてシンに従っている。
 ルクスリアから事情を聞いたヒラミーによって王城へ連絡が行き、アワリティアが討伐されたことはその日のうちにクルンジード王や上層部の者たちに伝わった。
 それなのに謁見えっけんが3日後となったのは、連絡に来た騎士に、シンが救助を優先したいと伝えたからだ。
 王との謁見を先延ばしにすることは、通常なら無礼極まりない。しかし今回は理由が理由だけに、問題にはならなかった。
 シンのところに来た騎士も、理由を聞いて自分も救助に向かいたいと言ったくらいである。先のアワリティア襲撃で、自分たちがほとんど何もできなかったことをいているようだった。

「いえ、こちらも後手ごてに回ることが多かったですし、今回の被害が少なくてすんだのは、単に運が良かっただけです。大口を叩いておいてあまり役に立てず、申し訳ないくらいで」

 人質を取られてほとんど何もできず、居心地の悪いシンだった。

「シン殿が役に立てなかったのなら、我々は役立たずどころではないのですがね……」
「そうだな。シン殿が提供してくれた武器がなかったら、今ごろ私たちは、生きてこの場にはいなかっただろう」

 苦笑いのシンに対し、ともに戦ったエルクントの騎士ファガルとシーリーンが、同じく居心地の悪そうな顔で言う。上司であるナムサールが操られていたからとはいえ、たかがアワリティアの分身に苦戦したことを気にしているようだ。
 アワリティアに操られていたナムサールは、心身ともにかなり消耗していて、まだ意識が戻らないらしい。

「はいはい、そこまで! 結果論だけれど、被害が少なかったことは喜んでいいでしょう? みんな手なんて抜いてなかったんだから、反省するところだけ反省して、あとはうじうじ引きずるなんてダメよ」

 不甲斐ふがいなかったところばかり挙げるシンたちの会話に、ルクスリアが割り込んできた。こちらはあきれ顔だ。

「そうですね。次はもっとうまくやれるように精進しょうじんしましょう」
「うむ、ルクスリア殿やユキ殿の言うとおりだな。今後は、悪魔やモンスターについてより多くの情報を集め、対処法を考えるとしよう。だが、今はまずシン殿たちへの報酬の話が先だ」

 クルンジード王はひとつうなずいて話題を変えた。ただ、その内容はシンたちが予想していたものとは違った。

「ドロップ品がいただけるなら、それで十分なのですが」

 今となっては、欲しいと思ってもほぼ手に入らないアイテムだ。報酬としては申し分ないとシンは考えていた。

「それは承知している。ただ、爵位しゃくいと領地を与えてはどうかという声もあってな。功績が功績だ。無理もない話なのだが」
「最初にお断りしたと思いますが?」

 冒険者がその活躍から貴族へと取り立てられる。
 確かに、ない話ではない。シンはそういった成り上がり系の創作物も読んだことがあったが、面倒事のほうが多い印象しかなかった。
 ギルドホームの捜索や聖地の調査など、まだやらなければならないことは多いのだ。宮仕みやづかえなどしている暇はない。無理にと言うならば、相応の対処をすることになる。

「無論承知している。だが、本人の口から聞かぬと納得せん者もいてな」

 シンたちと会う前に報酬の件について話し合いがあったようで、ファガルやシーリーンも苦笑していた。
 強大な力を持つ者を囲い込んでしまいたい。そう考える者はどこにでもいるようだ。

「シンとユキちゃんの力は魅力的だものね。ちなみに私は、防衛以外に手は貸さないわよ?」
「無論だ。天使の力を侵略に使うなど、どんなしっぺ返しがあるかわかったものではない。できる限り、その情報は隠匿いんとくするつもりだ」

 ルクスリアが悪魔から天使になったことも、クルンジード王たちには伝えてあった。悪魔であるが故に問題だったことも、天使ならば話が変わるからだ。
 疑う者もいたが、ルクスリアが天使の羽――光の輪から出る8枚の模様――を見せると、誰もが驚きとともに納得した。
 羽を展開しているルクスリアは神聖なオーラを発しているのだ。
 シンとシュニーも、ルクスリアが人々に危害を加えるとはもう思っていない。
 ただし性格は変わっていないので、そういう意味での危険度が同じなのは残念だった。
 クルンジード王たちのほうは、ルクスリアの放つ神聖なオーラに気圧けおされている。
 シンたちはさほど気にしていないが、この世界の住民には神々こうごうしく映るらしい。
THE NEWニュー GATEゲート】の世界において、伝承という形でしか存在しない天使が目の前にいる。まさに伝説の存在が顕現けんげんしたと言ってもいい。
 純粋に力でかなわないのはもちろん、天使を利用するなど恐れ多いといった雰囲気だった。これについては、上層部の中でも反対意見は出なかったらしい。

「賢明な判断だと思います。天使の存在をおおやけにすれば、他国とも今までどおりの関係ではいられないでしょうし」
「私も学院の仕事に支障が出ると困るから、そのほうが助かるわね」

 シュニーとルクスリアの発言に、シンは気にしている内容の規模が全然違うなと苦笑した。ルクスリアの正体が公になれば、保健室で生徒の世話などできるはずがない。

「話はこんなところですかね?」
「うむ、わざわざ足を運んでもらってすまぬな。ここ数日は住民の救助にも尽力してくれたと聞いている。改めて礼を言う」

 クルンジード王が頭を下げる。
 王族が軽々しく頭を下げるなど、と周囲が慌てそうなものだがファガルもシーリーンも落ち着いている。王が頭を下げるだけのことを、シンとシュニーは成し遂げたのだ。


         †


 王城を出た後、シンはシュニー、ルクスリアとともに、魔術学院に向かった。
 街の被害も多かったが、悪魔同士の戦いの舞台となった学院は、一部とはいえかなり無残なことになっていた。

「時間はあるから、がっつり直せるな」

 門をくぐり、ヒラミーのもとへと向かう途中、ぼろぼろになった校舎を見ながらシンが言う。
 鍛冶師かじしであるシンが建物の修復に自信があるのには理由がある。
『六天』のメンバーは、自分の得意とするものの一部を、他のメンバーと共有していた。シンならば鍛冶スキルや彫金ちょうきんスキルを、仲間のレードやクックに教えている。
 そして、シンはといえば、マイホームである月のほこらを作る際に『六天』の1人『青の奇術士』ことカインにいろいろと指導を受けている。
 そのおかげで、建築スキルこそ高くないが応用力はついていた。建築家には想像力も必要と、ゲームであることをいいことに、おかしな建物もかなり作っている。

「シンがすごいってことはわかってるつもりだったけれど、なんていうか、万能よね」
「そうでもない。ある程度は鍛えたってだけで、本職から見れば全然ダメだ。鍛冶関係以外でものになったのは、錬金術と建築関係のスキルくらいだろうな」

 建築はスキルレベルⅣ。錬金術はスキルレベルⅩ。鍛冶に必要な薬品もあり錬金術が飛びぬけているが、それだけだ。
『赤の錬金術師れんきんじゅつし』と呼ばれるヘカテーと同じものが作れるかと言われれば、答えはNO。ただ錬金術のレベルが高ければいいというものではない。
 反対に商業関係のスキルや農業、畜産などのスキルはほとんどⅠかⅡで、取っただけというレベルだ。
 ユズハをパートナーとしたことで調教ちょうきょう系のスキルは多少ましになったが、それでもこの世界で調教師テイマーを本職として活動している者と比べると、シンは劣っている。

「それだけできること自体が、もう十分すごいのだけれど。まあ、あなたが活動していたころを基準にしたら、そうなんでしょうね」

 ルクスリアは『栄華えいが落日らくじつ』前、ゲーム時代を知っているのでシンの自己評価に一応納得した。

「こちらとしては願ってもないことですが、いいんですか? あまり力を見せると、目立ちますよ?」

 学院長室でシンの提案を聞いたヒラミーは、複雑な顔でそう言った。
 戦闘力が高いというだけでも目をつけられるには十分。そこに生産系にも強いという情報が加われば、接触してくる者が増えるのは間違いない。事情があったとはいえ、自分たちに関わったことでシンが人前で必要以上に力を使っているとヒラミーは思っているようだ。

「そこはさすがAランク冒険者と思ってもらうさ。それに、目立つのはもう今さらって感じだし」

 シンはもう、目立つことに関しては仕方がないと割り切っている。
 どこかの国を拠点にしているわけではないので、国を出てしまえば連絡を取ることはほぼ不可能なのだ。もし追ってくる者がいようとも、振り切ることはたやすい。

「この際だから、甘えちゃいましょうよ? その分、しっかりお礼をすればいいんだし」

 背後からヒラミーの肩に手を置いてルクスリアは言う。ヒラミーからは見えないが、お礼のところで笑みが深まったのをシンは見逃さなかった。

「まて、お前の言うお礼はろくなもんじゃない気がする」
「あら、失礼しちゃうわね」

 ねたように唇をとがらせるルクスリア。大人の女性という外見のルクスリアがするには少々子供っぽい仕草だが、彼女の魅力をまったく損なっていないのが不思議だ。
 しかし、そんなルクスリアに、シンはジト目を向ける。
 天使になった今でも、ルクスリアが言うとお礼という言葉に『性的な』という言葉が付随しているように聞こえてしまうのだ。
 悪魔ではなくなったのだからもう人の情動からは力を得られないのではとシンは思ったのだが、予想に反してその能力はまだ持っているとルクスリアから返答をもらっている。

「天使に奉仕してもらうなんて、王族だって無理なのに」
「本性知ってるからな。それに、シュニーがいるのに他の女にそっち方面のことなんて頼むかっての」

 そう言って、シンは隣にいたシュニーの肩を掴んで抱き寄せる。
 ルクスリアの言動に鋭い視線を向けていたシュニーは、突然のことに目を白黒させていた。夫婦となった今でも、シュニーはこういった接触に初々ういういしい反応をするのだ。

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