女神なんてお断りですっ。

紫南

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4巻

4-3

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    ◆ ◆ ◆

 ティアは家の中で一人、テーブルの上に広げた地図や資料を整理していた。

「ん?」

 シェリスの声が聞こえたような気がして、反射的に窓の外を見る。

「気のせいか。ここに来るはずないもんね」

 その時、誰かが家に駆け込んできた。

「ティアっ。お、終わったぞ……」
「おぉ。早かったねぇ」

 壁に片手をついて、疲労で倒れそうな体を支えるベリアローズ。外にはマティとエルヴァストの気配もあり、森から無事に戻ってきたのだと確認できた。
 ここは、いつも訓練に使う森の手前の草原だ。その只中に今、一つの家が建っている。
 ティアとシェリスで作り上げた魔道具、【ゲルヴァローズの欠片かけら】。普段は大きな卵型の石にしか見えないが、契約した者の意思一つで、家を出現させる事ができるのだ。
 内装も立派で、使い勝手がいい。屋敷ではしづらい薬学の研究をしたり、冒険者としての計画を練ったりするには、もってこいの場所だ。
 ベリアローズ達がマティと鬼ごっこをしている間、ティアは近々行く事になる黒晶山こくしょうざんの位置や現状について調べていた。

「それじゃあ、ルクス達が来るまで休憩がてらお茶でもしようか」
「……その前に、エルが動けるか見てくる……」
「うん。ダメそうなら、これ飲んでもらって。お兄様もよかったらどうぞ~」

 ティアが渡したのは、特製の滋養じよう強壮きょうそうドリンクだ。

「……なんでこんなに毒々しい色なんだ……いや、いいっ! 何が入ってるかは言わなくていいっ」
「あ、じゃあこっちにする? 効能は一緒だよ?」

 そう言って取り出したのは、同じ大きさの瓶。ベリアローズが先に受け取ったものは血のように赤かったが、こちらは薬草由来の濃い緑だった。
 どっちがいいかと問われれば、正体不明の赤い液体よりも、健康によさそうな緑色の液体を選ぶはず。当然ベリアローズもこちらを選んだ。

「どうぞ、グイッとね。効能は保証する」
「あ、あぁ……」

 緑色の液体を一気にあおるベリアローズ。それを確認する事なく、ティアは次に必要になるであろうものを用意していた。

「っ~……!!」

 衝撃と共に取り落とされた瓶は、ティアがしっかりキャッチし、何事もなかったかのようにテーブルへ置いた。

「味は保証できないんだよね~。苦いわけじゃないのに、なんでか不味まずいんだよ。何味なのかも分かんないの」

 そんな事よりも助けてくれと、床に手をついて苦しむベリアローズ。そんな兄に、ティアはコップになみなみといだ液体を差し出した。

「はい。果実水」

 それをまた一気に飲み干すベリアローズ。ティアは果実水の入った瓶をテーブルに置いて、先ほど飲み干されたドリンクの瓶を手に取る。

「なんでかなぁ……」
「ま……まだ不味まずい~……」

 涙目になったベリアローズは、おかわりの果実水をコップにぎながら、ティアを恨めしそうに見る。

「そうなんだよね~。果実水ごときじゃ苦味は消せても、不味まずいのは消せないんだよ……だから、とっておきのものでなんとか味を誤魔化ごまかしたんだけど……」

 そう言って赤い液体の入った瓶を手に取るティアに、ベリアローズは目に涙を浮かべたまま尋ねた。

「そっちが改良版なのか? なんで言わないっ!」
「ん? だから先にこっちを渡したんじゃん。信用しなかったお兄様が悪い」
「……」

 なぜかベリアローズが悪い事になっている。とはいえ『信用できるか!』という心の声を口に出す勇気は、彼にはなかった。
 しかし、ベリアローズは感じていた。先ほどよりも確実に体が軽くなっている。苦しかった息も落ち着き、震えていた足もいつも通りだ。
 そんな事を確認している間も、ティアの独り言は続く。

「変な味を抑えるために薄めると、量をこの三倍くらいにしないと効果がないんだよね……」

 そこにエルヴァストがやってきた。

「ベル……回復が早いな……」
「え? あぁ、ティアに滋養じよう強壮きょうそうドリンクをもらったから……」
「何? 私にはないのか?」

 そんなエルヴァストに、ティアが赤い液体の瓶を差し出した。

「これか? いただきます」
「え、あっ!」

 慌てるベリアローズの前で、エルヴァストはなんの躊躇ちゅうちょもなく一気に飲み干す。

「ぷはっ! なんだコレ!? 酸っぱ……いや、甘っ~……っ?」

 どうやら味覚が大混乱中のようだ。

不味まずくはないんだけどね~。量も濃度も、これがベストだし?」
「エ、エルっ。果実水飲むか?」
「……もらう……」

 ベリアローズが差し出した果実水を、今度は少しずつ飲むエルヴァスト。そんな様子を見ながら、ティアは面白そうにつぶやいた。

「なんか、毒薬より効果あるかも? 育ちがいい貴族には効果覿面てきめん?」
「「……」」

 悪戯いたずらを思いついたような表情のティアに、二人は何も言えなかった。
 それに気をよくしたティアは、どんどん調子に乗っていく。

「ふふん。これで検証もバッチリだし、商品化を考えなきゃ。お店で売るなら二つを並べて売りたいよね……うんうん。絶対その方が面白いっ!」
「「……」」
「あ~……そうなると他のみんなにも試して、どっちを選ぶ人が多いか検証しとくべきかな? 需要と供給のバランスは見極めないと……ルクス達、そろそろ来るよね」

 止めなくていいのだろうかと、二人は目で語り合う。そして、最終的に自分達には何もできないと悟り、がっくりと肩を落とした。
 外門の辺りにルクスの気配を感じたティアは、いつもの結界を解く。

「マティ。結界を解いたから、近くを人が通るかも。見られちゃダメだよ」
《はぁい。とりあえずここでお昼寝してる》

 その言葉にエルヴァストが反応した。

「あ、なら一緒に昼寝してもいいか?」
《いいよぉ》
「マティの毛はフワフワで気持ちいいんだよな」
「そう……なのか?」

 興味を持ったベリアローズも、彼と一緒に外に出る。普段は逃げる事に必死で、マティから距離を取る事ばかり考えていたため、ろくにでた事もなかったのだ。
 しばらくしてから様子を見に出たティアは、マティの毛に埋もれるようにして穏やかな寝息を立てる彼らに苦笑する。

「まだお昼前なんだけどな……」

 眠る二人と一匹を優しく見つめたティアは、念のため、その周りに風の結界を張っておく。
 そこへ、ルクスがザランとボランを連れてやってきた。

「いらっしゃあい。入って」
「お、おう……」
「お邪魔します……」

 本来この場所にはない小さな家に驚きながら、二人は中へと入る。

「ティア。クロノスはどうしたんだ?」
「クロちゃんには交渉を頼んだの。移動のための騎獣きじゅうを借りたくて」
騎獣きじゅうって……馬じゃないのか?」
「うん。馬と荷車は国が用意するだろうけど、行くのは死の山だからね。山を素早く登り下りするには、馬じゃ無理だもの。あ、二人とも座って。ルクスもね」

 ティアは慣れた手つきでお茶をれ、少し落ち着いたところで本題に入る。

「シェ……マスターから聞いたと思うけど、二人には仕事のお手伝いを頼みたいの」
「仕事……それは、お嬢ちゃ……君とゲイルさんが受けたクエストの事だな」
「うん。あ、ティアって呼んでね。ボランさん」
「あ、あぁ。ではティア。黒晶山こくしょうざんに行くと聞いたんだが、具体的に何をするんだ?」

 そう問いかけるボランに、ティアは国からの依頼で『晶腐石しょうふせき』を採ってくる事を説明した。『晶腐石しょうふせき』の効果についても知らないようだったので、ついでに説明しておく。

「知らなかったな……割って使うものだってのは知ってたんだが……」

 片手で握れるほどの小さな『晶腐石しょうふせき』を、地面に投げつけて割る。すると一定時間、その場所には精霊達が寄ってこない。
 しかし、会議室のような部屋には石を割らずにそのまま置く事もある。その場合、一定の大きさを確保しなくてはならないが、それさえできれば半永久的に効力を発揮するのだ。

「まぁね。だから、ある程度の大きさの石を切り出して、割らないように運ばないといけないんだ」
「簡単じゃねぇ? 割れなきゃいいんだろ?」
「サラちゃん……やっぱりおバカさんなんだね……」
「っ、なんでだよ!」

 あわれむような目を向けたティアに、ザランが怒る。そんな彼から、ボランとルクスは静かに目をらした。

「あそこが危険な場所だって事は知ってるんでしょ? はい問題。なんで危険なの?」
「そりゃあ……魔術が使えない場所だから……」
「サラちゃん、ほとんど魔術使えないじゃんね。なら大丈夫かな?」
「っラ、ランクが高いから……?」
「なんでランクが高いんだろうね?」
「あっ、魔獣かっ」
「正解。よくできました~」
「っ~……」

 パチパチと手を叩いてめるティアに、ザランは悔しそうな表情をする。
 ティアが得た黒晶山こくしょうざんに関する情報は二つ。『魔術が使えない場所』であるという事と、普通の魔獣とは『似て非なる魔獣』がいるという事だけだった。ザラン達が気になるのは、その魔獣についてだろう。

「ほ、本当なのか? その……未知の魔獣がいるというのは……」
「そうだよ。魔獣っていうのは、魔力のみなもとである魔核を持ってるでしょ? その魔核にも、『晶腐石しょうふせき』は少なからず影響をもたらすの。だから環境に対応するために、魔獣の体が見た事もない進化を続けてる。あの辺りに棲息せいそくする魔獣は、魔力をほとんど使わないみたい。まぁ、だからって使わないだろうって思っちゃダメなんだけどね」

 精霊の力を借りた魔術は使いにくくなるものの、魔力自体が使えないわけではない。
 ちなみに『晶腐石しょうふせき』という名から、精霊が嫌う臭いが出ていると思われがちだが、実際は臭いなどない。精霊が嫌うのは、石から発せられる波動だ。微弱ゆえ、人には感じられないその波動が、精霊達には我慢ならないほど不快なのだ。

「魔術が使えないとは聞いているが、魔導具はどうなんだ?」

 ボランの言葉に、ルクスもうなずく。魔導具は言わば、精霊の力を付与した道具だ。使う時にいちいち精霊を呼び出す必要はない。

「『晶腐石しょうふせき』から発せられる特殊な波動に長時間さらされると、魔導具も誤作動を起こすようになるよ。細かい振動でものが動いていくみたいに、付与した力がズレてくるらしいんだよね。だから、『晶腐石しょうふせき』のそばに置く魔導具には、その振動を遮断しゃだんする特殊な加工をしないとダメなんだ」

 ティアやシェリスの見立てでは、死の山に棲息せいそくする魔獣達は、その特殊な加工をみずからの魔核にほどこしている状態なのだ。長い時間をかけて環境に適応した魔獣は、時に恐ろしい進化を遂げている。

「なるほど……ところで、なぜ俺達なんだ?」

 ボランとザランは、それが一番気になっていたようだ。

「うん? 名前が似てるから☆」
「「……」」
「冗談だよ。ノリが悪いなぁ。理由は単純だよ。私やゲイルパパが信頼できて、逆に信頼もしてくれる人を選んだの。危険な場所では、何よりも信頼感が大事だからね」

 少しの感動と、少しの不信感がこもった目で見つめるザランに、ティアはウィンクをプレゼントしておいた。その後、ザランが冷や汗を流しているように見えたのは気のせいだろう。

「な、なるほど……それで、策はあるのか?」

 そう尋ねたボランとルクスが、真剣な顔でティアの言葉を待つ。

「あるよ」

 ティアはニヤリと笑って作戦を説明した。とても簡単そうに聞こえるので、三人は拍子抜けしたようだ。

「なんだ。山を下るだけじゃんか……」
「石を割らずに駆け下りるだけだな」
「それなら、国の騎士達だけで充分じゃないか?」

 ティアは呆れたとばかりに、わざとらしく溜め息をつく。

「三人して……何ボケてんの?」
「「「え?」」」
「腕力がある男の人が四、五人で運ばないといけない大きさの石を、凶暴な魔獣達を相手にしながら運ぶんだよ? そんなに重くないけど、もろいから、どこかにぶつけたらおしまいなの」
「……やっぱ、強いのばっかりなのか?」

 ザランの不安げな問いかけに、ティアはいい笑顔で答えた。

「魔獣の最低ランクは、推定A。それ以下はいないから」
「は?」
「もちろん、Sランクもゴロゴロいるから」
「え?」
「という事でよろしく」
「「「はぁっ!?」」」

 驚愕きょうがくする三人をよそに、ティアは頭の中で他のメンバーを考える。

(もう何人か欲しいんだよね……)

 その間も、三人が衝撃から立ち直る事はなかった。


 その日の夜、ティアは自室で一人、机の上のブローチに魔力を流し込む。すると、すぐに反応があった。

「カルねえ。今大丈夫?」
『あぁ。サティアは寝なくていいのかな?』
「もう、そんな子どもじゃ……むぅ~子どもだった……」

 自分の小さな手を見つめ、そういえばそうだったと肩を落とす。

『はははっ。君は相変わらず可愛いな』
「っ~……カルねえも、そういうところ変わんない……」

 思わず顔を赤らめるティア。その周りには、何枚もの紙が散乱している。それらは全て、カルツォーネから頼まれた事に関係していた。

「それで、そっちの状況は?」

 カルツォーネからもたらされる情報をまとめながら、広げた紙にペンを走らせる。
 異常が起きている場所は特定できたのだが、問題が二つある。事の重大さが人々に認識されていない事と、原因が不明である事だった。

「やっぱり、直接見に行った方が早いかな?」
『君一人でかい? ダメだよ。彼らはとても臆病おくびょうなんだ。近付きすぎれば容赦なく襲ってくる』
「だからって、放っておけないでしょ?」
『それはそうだが……人族では相手ができないから魔族が見ているんだ。いくらサティアでも、危ないものは危ない』

 彼らは時に凶暴にして狂暴きょうぼう。巣と呼ばれる広大な土地から他の巣へと渡る習性がある。今は人族の土地に近い巣で過ごしているが、人の手に負えるものではない。
 その正体はドラゴンだ。一頭でも群れを外れて街に下り立てば、その街は壊滅的な被害を受けるだろう。

「サルバの街から山を三つ越えたところだもの。遠いとは言っても、何かの拍子にここまで来かねない。王都では目撃情報もあったみたい。討伐隊が組まれるのは時間の問題だよ」
『そうか……こちらでも少しずつ民達が異変に気付き始めている。渡りの季節にはまだ程遠いのに、数頭が上空を通過するからね』

 魔族の領土の山深くにある、もう一つの巣。渡りの季節にはそこへ向かうドラゴンの群れが、魔族の王都の上を通過していく。
 その時は国をおおう結界を張り、彼らのための道を作ってやる。しかし、今はその時期ではない。いち早く異変に気付いたカルツォーネは、ずっと一人で原因を調べていたのだ。

「人の国では、魔族のせいだって難癖なんくせ付けようとしてるみたい。早いとこ原因を突き止めるべきだよ」

 これは魔族からの攻撃だと声高に唱える者も、いずれは出てくるだろう。そうなれば、また戦争だなんだと面倒な事態になる。それが予想できたからこそ、カルツォーネは対策を急いでいたのだ。

『そうだね……分かった。こちらからも調査隊を出すよ』
「ううん。巣は私が確認するから、カルねえは他の国に連絡するべきだよ。王様なんでしょ?」

 魔王としてドラゴンの異変を各国に説明し、対応を求めるべきだろう。ただ、人族の国々に対してはそれが難しい。だから、ティアはクエストの依頼を受ける事で自分の国に恩を売り、他の人族の国との仲介を頼むつもりだった。

『あぁ……けど、君だけに危険な事をさせるわけには……』

 こんなところも昔と変わらない。優しくて、目端めはしが利いて。気負いすぎるところもあるけれど、王に相応ふさわしいとティアは思った。

「カルねえ……もっと頼ってよ。母様に比べたら頼りないかもしれないけど、昔よりは力になれると思うんだ。もう少ししたら、この国の上層部に働きかける事もできる。それに、生まれ変わったって私は私。カルねえの友達のサティアだよ」
『……君って子は……うん。頼りにさせてもらうよ。力を貸してくれ』
「もちろんっ」

 どれだけ時が経ったとしても、友情は消えない。どれだけ歳が離れていても、友情は結ぶ事ができる。ティアは友人のためならば、国さえ相手にできるのだ。

「カルねえのためなら、ドラゴンなんて手懐てなずけてやるんだからっ」
『ははっ、お手柔らかに頼むよ』

 一頭くらい欲しいと思っていた事は、内緒にしておくティアだった。



   第二章 女神は手を差し伸べる


 その日、ティアは元気いっぱいにギルドへ突撃した。

「見ぃつけた!」
「ひっ」
「わっ」
「うっ」

 それぞれが、それぞれの反応を見せる三人の若者。彼らは昨年、騎士学校を卒業したばかりで、名をチーク、トーイ、ツバンという。
 騎士学校を卒業したからといって、必ず騎士になれるわけではない。騎士になれるのは、主に有力貴族の子息達だった。もちろん、国が無視できないほど優秀で実力のある者は例外だが、そうでもなかったこの三人は騎士になれなかった。
 仕事が決まるまで帰ってくるなと親から言われていたため、どこかの貴族に護衛として雇ってもらおうと、国中を見て回っていたらしい。そして目をつけたのが、この領地を治めるヒュースリー伯爵家だった。
 彼らは、冒険者をバカにしていた。独学で戦い方を覚える冒険者と違い、自分達は素晴らしい剣技を習得している。そんなおごりが、ティアの怒りに触れた。そして、伯爵に実力を示そうと出場した武闘大会で、その伯爵家の家臣達によって、ほぼ一撃でされてしまったのである。更には無謀にもティア本人に挑み、あっさり返り討ちにされたのだ。
 自分達の実力が普通の冒険者にも劣ると知った三人は、同情した周りの人々から、まずは冒険者となる事を勧められた。気は進まないが家に帰る事もできず、冒険者として細々ほそぼそと活動を始めていたのだ。
 そんな彼らの前に立ったティアは、腰に手を当てて言い放った。

「そこの三バカちゃん達。またボコられたくなければ、大人しくついてらっしゃい」
「「「っはいぃぃぃっ」」」

 その情けない声に周りはドン引きだが、ティアは得意げに外へと歩き出した。遅れてはいけないと、慌ててついていく三人。彼らがいなくなった後、誰もが三人の冥福を女神サティアに祈ったという。
 そんな祈りが通じたのか、ティアは何か聞こえたような気がするなと、首を傾げながら歩く。その後ろを、まるで断頭台へと向かう罪人のような表情でついていく三人。それを見た街の人々は、心配そうに声をかける。

「ティ、ティアちゃん。あんまり派手に暴れないようにね」
「お前ら、また怒らせちまったのか? 死ぬんじゃねぇぞ」
「お仕置き? どこでやんのっ?」

 どこか期待する様子の彼らに、ティアは笑みを浮かべた。

「期待されてる? そっかそっか。なら、ここで一発ドカンとっ」
「「「ここでしなくていいから!!」」」
「おぉ、聞こえてたんだ」

 ティアのつぶやきをしっかりと拾い、ツッコミも入れてくる。そんなみんなが大好きだ。

「ほら、ティアちゃん。その三人にもあげるんだよ」
「わぁい。リンゴ。ありがとう」
「なら、こっちも持っていきな。マティちゃんの分もね」
「いいの? ありがとう」

 ティアとマティは大会以来、前にも増して人気者になっていた。その様子を不思議そうに見つめながら、三人は後をついていくのだった。


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